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【13-004】中国の変化を見る目を養う(その2)

2013年 6月18日

和中 清

和中 清: ㈱インフォームを設立、代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業。
大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年3月に㈱インフォームを設立、代表取締役就任。
国内企業の経営コンサルティングと共に、1991年より中国投資のコンサルティングに取り組む。
中国と投資における顧問先は関西を中心に関東・甲信越・北陸から中国・四国と多くの中小企業に及ぶ。

主な著書・監修

  • 経営実践講座(ビデオ・テキスト全12巻) 制作・著作:PHP研究所
  • 自立型人間のすすめ(ビデオ全6巻)  制作・著作:PHP研究所
  • ある青年社長の物語~経営理念を考える~ (全国法人会総連合発行)
  • 経営コンサルティングノウハウ(ビデオ全4巻+マニュアル1冊) 制作・著作:PHP研究所
  • 上海投資ビデオシリーズ全4巻 (協力;上海市外国投資工作委員会)
  • 中国市場の読み方~13億の巨大マーケット(明日香出版)
  • 中国マーケットに日本を売り込め(明日香出版)
  • 中国が日本を救う(長崎出版)

内陸は成長の階段から幸福の階段に移ることができるか

 (その1よりつづき)北京や上海はGDPも高く、所得も高い。北京には中央政府、金融機関や中央企業の本社、世界企業の本部も多く、研究機関や第三次産業も集積している。

 表は中央企業115社の本社所在地である。

中央企業本社所在地
国資委のHPより作成
都市 企業数(社)
北京 92
上海 4
武漢 3
香港 3
広州 2
深圳 2
長春 1
斉斉哈爾 1
徳陽 1
成都 1
哈爾濱 1
鞍山 1
大連 1
西安 1
マカオ 1

 その中央企業の賃金調査では、2011年の都市私営企業の年平均賃金、2万4556元(約37万円)に対し、中央企業の株式上場企業が10万2965元(約155万円)、広東省の中央企業が21万9917元(約330万円)である。北京に本社を構える中央企業は92社ある。当然、北京の可処分所得は高くなる。

図1

 しかしGDPは高くなったが可処分所得が伸び悩む地域もある。bの地域である。そこは中央企業や大手国有企業の本社でなく、工場が存在する生産加工基地で、遼寧省がそこに位置する。今はcにある吉林省もそんな地域である。天津は国家プロジェクトの濱海開発を進めてGDPを高め、駆け足で幸福の階段を昇ろうとしている。そのため天津の人件費が急ピッチで上昇している。

 また内蒙古自治区のように石炭、天然ガス、レア・アースが豊富に産出されてGDPが高い地域もある。生産力は高いが、特定企業や個人に富が集中して、住民の幸福まで及ばずbに位置する。経済成長で忙しいが、生活にも追われる地域である。石炭富豪で話題の江西省もdに位置するがそれに近い。

 2012年の地域別GDP成長率に見るように、dに位置する貴州省など内陸の成長率が高くなっている。

図2

 それは取り残された地域が成長の階段を駆け昇っている姿でもある。

 成長の階段から幸福の階段に移るには時間もかかるが、農民工が内陸で夢を叶えるには必要条件である。

 2011年と2002年を比較すれば、dからb、cからaに向かう地域も増えているが製造業の問題、地方の債務問題の中で、内陸地域が幸福の階段を昇ることができるのか、今後の中国の変化を読む上で重要なポイントだ。

変化を読むことは中国を知る重要なポイント

 一方、幸福への階段は所得だけではないということも考えねばならない。

 最近、広西壮(チワン)族自治区で社会意識調査があった。広西壮族自治区はdに位置する。自治区の2012年の一人平均GDPは2万8054元で全国27位、都市住民平均可処分所得は2万1243元、全国14位である。

 だが、その調査では56.4%の人が自分の生活水準が高まり、生活に不満を持っていないという結果が出ている。それは近年、アセアン貿易などでの経済成長で住民の所得も上がり、生活の変化を感じているからだ。可処分所得が1位の上海と比べれば自治区のそれは上海の52.9%である。日本の成熟社会から見れば、それは格差となる。しかし調査に答えた人は、自分の生活の変化を判断基準にしている。10年前の自治区の平均可処分所得は全国29位で、2012年には前年比12.7%増加している。

 さらに、北京第二外国語学院が実施した中国の都市幸福感調査がある。住民の幸福感が高い都市の上位は拉薩(ラサ)、太原、合肥の順である。いずれも西部、中部の内陸である。幸福感に強く影響しているのは、所得ではなく自由時間が多いか少ないかである。だから所得が高い上海の幸福度は低い。上海人は、所得が高くても時間に追われ、隣の青い芝にも目が行くからだ。

 だから格差も単純な都市と農村の所得比較だけで捉えず、農村の所得や生活全般の変化も見なければならない。変化が見えれば、そこにもう一つの異なる中国が見える

図3

変化が見えなければ問題だけに目が向き、そこから何も生まれない

 今、尖閣問題に端を発して、日本と中国が難しい状況にある。

 中国と関わる企業にとっては、悶々とした中で「どうすればいいの」が偽らざる心境だろう。その「どうすればいいの」の答えを見つけるにも、変化を読むことが大切だ。変化が読めねば、問題ばかりに目が向き極論に走りやすい。

 反中、嫌中論が極論に走るのは、変化の中国に目を背けているからでもある。

それはまた、日本人の思考停止を誘う。日本では中国の問題はそのまま問題で終わることが多く、批判の対象にこそなれ、そこから何も生まれない。

 成長社会の格差はエネルギ一でもあり、隣国の日本には、大きな市場のチャンスでもあるが、問題のみに目を奪われてしまう。

 しかし、歴史的にも問題や困難にもまれてきた中国人は逆である。問題すらもチャンスに変え、したたかである。

 一例で示そう。中国の浄水器の市場規模は近く1800億元になると見られる。

 この3年は、年30%の成長であるが、国の合格を得た企業が1500社もあり競争も厳しい。

 しかし中国人はまだ市場が拡大すると読む。中国の水問題が深刻なのと、「地下問題」があるからだ。中国では地上の発展に比べ、地下や見えない部分に問題が潜み、近い将来に問題が顕在化する。

 中国のこの20年の状況を考えれば、それも当然である。インフラ整備も、先ず地上の整備が進む。財政の余裕もない中で、とても地下の整備に手がまわらない。だから急成長の地上と地下のギャップが起きる。下水管は地上の人口、経済量と容量が合わない。住宅の排水管の老朽化問題も噴出する。

 住宅の水には錆が出て、その時に浄水器市場は拡大する。このように中国人は問題すらもチャンスに変える。

 しかし、大方の日本人には、大雨が降れば大都市でも道路が河になるところも多い中国の光景は、嘲笑の対象にすぎない。

 中国と対話をするにも、関係改善を進めるにも、市場に対応するにも中国の変化を見て、問題の裏を読み、冷静に対処していくことが重要と考える。(おわり)