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【13-007】影の銀行問題を考える(その1)

2013年10月15日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

安直にバブル崩壊に結び付けられる影の銀行問題

 複数回に分けて、中国の影の銀行問題を考える。

 ある評論家は「中国バブル崩壊」をテーマとした著書の中で、中国の影の銀行の問題を指摘し、要約すると次のように述べている。

 「地方政府が農民から農地を取り上げてマンション、ショッピングモールを造成したが多くが成功していない。無理やり農地を取り上げ、農民への補償はわずか。10倍ほどでデベロッパーに売却し、そのほとんどが地方政府幹部の懐に入った。責任不明の第三セクターをつくり、地方政府が銀行に融資させた。担保も取らずに貸し付け、焦げ付くのは火を見るよりも明らか。取り上げられた農地は米、ウエストバージニア州の面積と同じである。」

 地方政府の開発には無駄な開発も多い。しかしそれを全てのように語り、資金のほとんどが政府幹部の懐に入ったと述べる無責任さにはあきれる。ウエストバージニア州の面積は62755㎢なので、東京23区の100倍の面積、つまり全国の開発区をはるかに超える面積が取り上げられ、売却資金の殆どが地方政府幹部の懐に入ったことになる。そうなれば中国の財政も何もあったものではない。もっともこの人は二十年前から中国バブルの崩壊が始まると語り狼少年を続けているが。

 また、別の雑誌には、ある記者が次のように述べている。

 「中国の不動産投資は、2009年の段階でGDPの10%を占めている。日本はバブル末期ですら不動産投資はGDPの9%を超えていなかった。米国では6%を超えたことがない。中国の不動産バブルは崩壊寸前であることは間違いない」

 筆者は8月に10年ぶりに山東省の煙台経済技術開発区に行き、開発区の元副主任と旧交を温め、開発区を視察した。黄海に面する開発区は、40万人が暮らす新しい都市に変わっていた。約230㎢の開発区の土地のほとんどが、先の評論家が言う「農民から取り上げた」土地である。もちろん広い開発区の中には問題となる開発もある。投資で別荘を買った人が住まずにスラム化しつつある団地もある。

 筆者が長い時間を過ごす深圳市龍岡区にはウォルマートも進出し、現代的な高層アパートが立ち並ぶ。市の郊外で特区外にあり90年代は、その殆どが農地だった。しかし今は、市内には農地は殆ど見られない。1990年の上海の農村人口比率は32.3%であったが、2011年のその比率は10.7%である。

 ウォルマートに高級車で買い物に行く人には「土地を取り上げられた農民」も多く、元農民の多くが貸し工場や工場の寮の賃貸収入で暮らしている。この欄でも紹介した河南省の新農村の暖房付きアパートの農民も「土地を取り上げられた」人で、政府から保証金と住宅を与えられた農民を知る近くの街の住民には、農村戸籍が欲しいと語る人もいる。農地が工業園に変わり、農地が「取り上げられる」のを、期待をこめて待つ農民も多い。当然である。子供たちは全員、都会で働き、年老いた夫婦が農業を続けられる時間も限られている。そのために今、中国は新農村建設を進めている。

 内陸の経済開発区はもちろん、上海浦東新区、話題の自由貿易区も蘇州新区も天津濱海開発区も90年代は農地だった。「取り上げられた土地」が浦東新区や濱海開発区になり、工場が建ち、泥の家が高層アパートになり、国民一人当たりのGDPも1990年に比べて23.3倍となった。

図

 上述の中国バブル崩壊の文章は、いずれも中国の影の銀行の問題指摘の中で述べられている。この例のように、日本では影の銀行を十分な検証もなく、ゴーストタウンやバブル崩壊に結び付け、リーマンショックを想起させて金融不安に導く論が多い。中国の不動産投資が日本と比べてGDP比で高いために問題であると述べ、バブル崩壊へと論を導く人に13億人を超える国の経済と国民生活、住宅事情への見識がどの程度あるのかも疑いたくなる。中国の社会、経済の冷静な分析が欠落すれば、多くの識者は「バブル崩壊」の言葉にすがりたくなるようにも見える。

小額貸付会社も影の銀行の誤解の中で語られている

 中国の影の銀行問題の指摘を見ていると、その実態が整理されず全てを一絡げに問題とされ、強引にバブル崩壊、「中国は怖い」に結び付けられているようにも見える。影の銀行が問題となる原因の一つは、中国の金融制度の遅れである。問題の一つの小額貸付会社は、中国の中小企業金融制度の未熟さの下に発展してきたものだが、ローン地獄などの影の部分だけが強調されやすい。

 2013年6月末、全国の小額貸付会社は7086社、貸金残高は7043.39億元、今年に入り貸金は1121億元増加した。昨年同期比では小額貸付会社数は34.5%、貸金残高は44%増加している。中国は大型国有企業主体に経済が動き、中小企業は国の政策から取り残された。その問題は既にこの欄でも述べた。小額貸付会社は、その制度の遅れを補完し、実体経済の潤滑油の側面も持つ。

 2012年、深圳の工商登録企業44万社のうち、小額貸付会社から融資を受けた中小企業は7万社に及ぶ。個人企業では56万戸のうち30%に達した。2013年第一四半期に営業を開始した小額貸付会社71社の資本合計は101億元であるが、既に現在まで600億元ほどの融資を実行したと見られる。

 不動産の抵当、担保の問題で銀行融資が受けられず事業に支障のある中小企業は全体の70%に及ぶ。小企業融資は全国銀行融資の5%に満たないのである。

 もともと中国では中小企業が切実な資金問題に直面する風土がある。大手企業との取引では資金回収が手形期日も入れると1年近くに及ぶことも珍しくなく、それが企業の三角債(複数の企業相互間の焦げ付き債務)問題に結びつく。その一方で、大手企業には資金の余裕が生まれ、その資金が影の銀行にも回る。

 今年(2013年)の7月、中国人民銀行は銀行貸出利率の下限の取り消しを発表した。しかし、その政策の主な受益者は大企業で、中小企業の融資難は解決できない。資本市場から直接資金を取り入れることがほぼ不可能である中小企業の融資難の背景にあるのは、銀行の貸出利率でなく、担保や保証の貸出条件であるためだ。

 一方、地方経済の発展のため、地方金融の安定化を図ることは地方政府の重要課題である。深圳市では中小企業は、「5.6.7.8.9」で概括できると言われている。つまり50%の税金を納め、60%のGDPを生み出し、70%の輸出を担い、80%の雇用をつくる、市内全企業数の99.6%というわけである。

 自ずと地方政府の意思からも小額貸付会社は増加し、中でも大きな資金を動かすことができる国有企業が地方政府と手を組み、その分野に参入している。2013年上期に広州で設立された19社の小額貸付会社のうち、7社の株主は国有企業であり、14.5億元(約220億円)の国の資金がそこに投下されている。そのうち広永小額貸付会社の株主は、広州国际控股集团有限公司傘下の広州市広永国有資産経営有限公司で、広州銀行、広州農村商業銀行もグル-プ企業である。

 また広建小額貸付会社の株主は、その名のとおり広州市建築集団有限公司であり、広州市国有資産監督管理委員会(広州市国資委)管理下の国有企業である。さらに、越秀小額貸付会社の株主は広州軽工工貿集団、広州港集団など広東省で大きな影響力を持つ大型国有企業5社である。

 これらを見てもわかるように、国有企業が有利な投資先、より大きな収益が得られる小額貸付分野に参入しているとともに、地方政府が地方経済の維持のために設立している融資平台(融資受け皿、窓口)が小額貸付会社でもある。

 現在、小額貸付会社設立に必要な最低登録資本金は、有限責任会社で2000万元(約3.2億円)、株式会社が4000万元(約6.4億円)である。

 今年の8月13日には江蘇省呉江市鱸郷農村小額貸款股份有限公司が米ナスダックに上場して890.5万㌦の資金を得ている。同社の株主は全て民営企業である。

 違法な利息をとる無届けの闇金融、ローン地獄の問題もあるにせよ、小額貸付会社は、地方経済の潤滑油、日本に例えれば信用金庫、信用組合の機能も有している。だが、そこには表の顔と裏の顔があることも考えねばならない。裏の顔を見れば、そこに影の銀行問題が浮かぶ。前述のように国有企業の余裕資金には中小企業との取引から生まれた資金も多い。その資金を使い国有企業が小額貸付会社をつくり中小企業に高利で資金を貸し付けるとなると、中小企業相手に二重に利益を得ていることになり、中国の中小企業政策、金融制度の遅れと、国有企業のあり方の問題になる。社会主義市場経済とは何者か、ということにもなる。

 さらに月の利息が18%を超える闇金融も影の銀行の一つであり、「地下銭庄」と呼ばれる闇の世界にも影の銀行の資金は向かう。しかし、それらの問題はあるにせよ、影の銀行による金融リスク、国のリスクに論を絞れば、信用金庫としての小額貸付会社の貸付先の多くが、不健全、不良債権化しているとはとても言えない。(その2へつづく)


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