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【14-003】日本の中国情報の問題を考える

2014年 1月16日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

「中国だからきっと」のきめつけが多い中国情報

 前回、影の銀行がなぜ中国リスクとして語られるのか不思議であると述べた。国と地方の債務を足し、借金漬けを批判して「もしデフォルトすれば」と語られるのが影の銀行リスクだ。

 「中国だからきっと問題」というリスクでもある。その裏に中国リスクを大きくしたいとの情報の出し手の意思も感じる。それはまた日本の中国情報の問題でもある。

 科学技術振興機構のサイエンスポータルチャイナで元自民党幹事長の野中広務氏の公益財団法人新聞通信調査会での講演録が紹介されている。野中氏は劉雲山中国共産党政治局常務委員との会談における氏の尖閣諸島発言が、日本で激しい批判を浴びたことを語った。

 野中氏は田中元総理の言葉を紹介し、領有権棚上げの政府の裏話を語った。それに産経新聞は、「当時、京都の一府議会議員であった野中拡務氏に対して、一国の総理をやった田中さんがそういう中身を言うようなことがあるか。怪しき生き証人だ」ときめつけて批判した。だが、同新聞の元京都支局長の著作で野中氏と田中元総理の長い付き合いが紹介されていたことを知り、野中氏に謝罪の手紙が届いたとのことだ。中国情報は、思い込みやきめつけで流される傾向がつきまとう。

 ちなみに尖閣に関しては、読売新聞が1979年5月31日の社説で「尖閣問題を留保し将来の解決を待つことで日中政府が了解した。政府対政府のれっきとした約束ごとであり、約束した以上は遵守するのが筋道である。尖閣諸島問題は慎重に対処し、決して紛争のタネにしてはならない」と領有権棚上げを支持していることを元外務省国際情報局長の孫崎亨氏が著書で紹介している。この社説は、当時の考え方の明らかな証拠となる。

怪しい情報も「中国だからきっと」で受けとめられる

 昨年中国で、天安門広場の自動車突入事件と江西省の爆破事件があった。そのような事件があれば日本では、実は中国では年に数百、数千の暴動があるとの話が出回る。90年代から続く同じパターンだ。しかし実に怪しい。暴動の公表はなく、数百、数千を確かめられない。

 数百と数千では大きな差だが、聞く人は疑問も持たず「中国だから」で納得する。筆者はこの20数年、中国各地を回ったが暴動は見ていない。暴動とは大掛かりな集団暴力で、現代では携帯のカメラで映像が世界に流れる。暴動が年に数千件も発生すれば、毎日10件程の流血の映像が世界に流れる筈だ。抗議や小競り合いなら、数千どころか無数にある。土地をめぐる抗議や紛争も多い。当然だ。中国の土地は全て国か集体所有で、農村の集体土地は権利も不明確で、農民は権利証もなく使用を認められているだけである。

 集体土地の収用には政府が介在する。農民に相談が持ち込まれるが、公定価格も市場価格もない。腐敗もからみ収用が強引に進むこともある。既に農地を貸して収用を待ち望む農民もいるし、一方で土地から離れたくない農民もいる。また保証のための金銭をめぐり抗議や紛争も起こる。

 中国人の抗議は過激だ。身内や友人に呼びかけ数に頼る。そうしなければ諦めるしかない「没法子」の歴史も影響する。だから職場でトラブルがあれば、家族も来て大声で叫び、単純な労働問題も紛争になることがある。

 管理の乱れで、政府の末端では意味不明の費用徴収も多い。むやみに乱収費を取るなとの政府文書さえある。だから関係に頼るか、役所で大声を張り上げないと理不尽が罷り通る。

 関係に頼れば裏金も必要で、大きな声は我が身を守る手段だ。筆者も先日、ある役所で大声で叫び抗議した。揉め事があっても「ごめんなさい」の言葉が少なく、紛争は長引く。喧嘩になれば人も集まり、数百人が役所に押しかければ暴動のようでもある。

 交通事故も多い。この原稿を書きながらも、高速道路で外を見れば、大きなタンクローリーが横転していた。よく見る光景だ。事故があれば、現場を野次馬が取り囲み輪が拡がる。遠目には交通事故も紛争に見える。

 都会に出た農村の若者が地縁で徒党を組み、刃物を振り回す抗争もある。政治や社会への不満の暴動と言うより、狂気と狭気と凶器の喧嘩だ。

 地方の小さな街の夜の暴動で、政府に不満を持ち集まった農民が数万との報道が日本であった。明かりもない街で誰が数万を数えたのか。隣街から数十キロも離れる農村で、数万人をいかにして輸送したのか。トラックなら何台必要か。素朴な疑問の暴動情報もある。

 疑問を持ち、新聞の写真を見れば、庁舎を囲む群衆に、その日の村祭りに来たと思われる子供を肩車した人もいる。事件現場の政府に連絡し、数万人は本当かと聞いたが、笑われただけだった。多くの怪しい情報が「中国だからきっと」で受け入れられてきた。

嫌中、反中感情の裏には情報の問題がある

 内閣府の世論調査で、中国に親しみを感じない日本人は80.7%である。これに中国情報が影響している。小競り合いが紛争に、紛争が暴動に、数十の暴動が数千に、数百人規模が数万人規模と聞けば、「中国は嫌い」という感情が刷り込まれる。

 暴動の前に、格差の刷り込みがある。中国は格差のある社会になり、豊さに向かえる社会になった。格差の無い市場経済はあり得ない。まして13億人の国だ。市場経済への移行後の数十年は、格差が顕著に現れる。社会保障の充実も、「先に富める者」が増えてはじめて可能となる。

 だが日本では、農村所得の成長に蓋をして格差の刷り込みが続いた。

 今年2月、深圳の最低賃金は1808元になる。残業、寮費、食費、社会保険を含めば、17歳の農民工賃金が7万円時代に突入する。毎年、1兆元を優に超える農民工の故郷への送金が農村経済を支えたが、格差を指摘する報道や本、雑誌でそれは語られない。

 誤った格差と暴動の情報が重なり、年に数千件の暴動も疑問なく受け入れられた。

 影の銀行リスクは経済の問題だ。リスクが誇張されても、聞く人は「中国もいよいよ問題。バブル崩壊ですね」で終わる。しかし暴動や反日デモは違う。好奇心でデモに参加する人も多いが、領事館への投石映像を執拗に流せば、世論は中国嫌いに導かれる。

 世論は一面、単純である。問題情報の刷り込みが続けば、中国の全てを否定する。数年前の毒餃子事件では、中国からの輸入食品の多くが拒否された。“実は”と中国の食品の情報が流されたからだ。確かに中国で食の問題は多い。しかし輸入野菜などは、日本企業が厳格なトレーサビリティを実施し、輸入検疫もある。“実は”中国からの輸入野菜は日本の野菜より安全と話す日本の検疫専門家もいる。

 昨年末、朝日新聞の「紙おむつが消えた」という記事が話題になった。中国人が日本で紙おむつを買い占め、店頭で品薄が続き、日本のお母さんの反感も起きている。

 筆者は新聞社から取材を受け、むしろ喜ぶべきことだとのコメントを寄せた。30年前には最貧国の中国の消費者が、海外の紙おむつを求め、安全や安心にも気を配るようになり、しかもそれを求める先に日本を選んでくれているのであるから。

 中国の闇に読者を引きずり込もうとする情報が、日本人の嫌中感情に影響した。

嫌中、反中感情に日本人の傲慢さも見える

 筆者は、ある日本企業の中国の環境改善業務に関与している。PM2.5対策である。今、中国の大気汚染に、多くの日本人が顔をしかめている。人命軽視との批判も多い。

 美しい日本は中国と違うと言う人さえいる。しかし筆者は中学時代の社会の教科書で、大阪は煙の都と学んだ。昔は日本各地の湖にも油が拡がっていた。公害と二人三脚で歩んだのが日本の高度成長である。北京との違いは、汚染が太平洋に向かったということだ。

 昨年、どこかの餅屋のおやじさんが、伊勢に外国人は来て欲しくないと述べたことが報道された。日本は輸出で成長して国民の所得も上がり、その「御かげ」で餅屋も成長したはずだ。伊勢に外国人が来るのを望まないなら、駅や空港で餅を売ることも止めればいい。

 日本人は、謙譲と相手を思いやる心の優しい民族だと思う。日本が辿った道を思えば、公害も「お互いさま」であるはずだ。しかし嫌中、反中感情にはその心の余裕がなく、傲慢な日本人を見る思いがする。その心に影響を与えたのが、日本での中国情報である。

 嫌中や反中を煽るメデイアや本に共通するのは、「変化の中国」を紹介しないことだ。社会の制度や国民の暮らし、農村でさえこの20年で大きな変化があった。しかし、それを伝えず、中国の闇の部分だけに目を向けさせてきた一部メディアや知識人の罪は大きい。

 それらの記述には、時代錯誤や誤った内容のものも多い。中国に行かず、思い込みだけで書いていると疑う本もある。数十年前の出処不明の革命論文を、無理に今の中国政府への批判に結びつけ、中国農民は現代の奴隷などとの言は、「ちょんまげ」に着物の日本を現代の日本として紹介しているのと同じように見える。

もし、政治が日中対立を利用しているとしたら

 さらに政治の問題がある。尖閣で日中関係は冷えたままだ。首相の靖国参拝でさらに冷え込む。関係に進展がないのは、政治の幼さにもよる。昔の政治家は保守であれ、相手の立場も理解する心の余裕も、複雑な関係を処する手腕もあった。だが、今の政治家にはそれが欠ける。野球なら直球しか投げられない。技量と度量に欠けるからである。

 中国も周恩来や鄧小平の革命世代が姿を消し、やはり直球だ。資本主義と社会主義でお互いの球筋が違い、直球ならすれ違う。どちらかが変化球を投げれば交われるが、面子と意地で歩み寄れない。取り巻くブレーンも直球なら、なお始末が悪い。

 変化球は中国への譲歩と考える人もいる。野中広務氏のように、戦時体験のある政治家が少なく、豊かな時代の二世には真っ直ぐな線路しか進めない人も多く、なおさらだ。

 中国は譲ればきりがないと言う人もいる。だが、中国には譲った歴史はあっても、日本は領土で譲歩の経験はない。政治とビジネスを混同すべきでない。

 靖国で、個人の心も譲歩していると言う人もいる。しかし先ず考えるべきは、戦争の犠牲になり、辛酸をなめた人の心だ。そして侵略先の人の心だ。今を生きる人、戦争を知らない自身の心は最後のはずだ。筆者の父も赤紙1枚で満州に連れて行かれた。もし戦地で死んでいたら「自分の魂は故郷の社にある。あの靖国になんて」の思いだったろう。

 もう一つは仮定だ。安倍政権が誕生して1年が経過し、首脳会談も実現せず、中国を囲みアジア外交が進むのも異常だが、首相の本音が日中対立の肯定だとしたらである。

 昨今の政治の動きから、仮定と言いきれないのも心配だ。肯定でなくとも、靖国参拝の強行を考えれば、関係改善の本気度は低いと言わざるを得ない。

 都の尖閣購入表明は日中対立を煽った。特定秘密保護法、武器輸出三原則、集団的自衛権、憲法、国防軍の政権課題に進むには「中国は怖い」の反中世論は大きな援軍だ。

 世論を味方に、それに向かうシナリオが見え隠れする。靖国参拝で中国の反日感情は高まり、軍の示威行動も活発になる。再び反日デモが吹き荒れれば、日本人の反中感情、ナショナリズムは高まり、課題に突き進む環境は整備される。靖国参拝に米国は失望を表明し、首相の判断の誤りとの意見もあるが、参拝で対立が深刻になれば目的は達する。

 逆に中国が自制して反日デモもなく、日本の右傾化の危険を国際社会に訴える戦略をとれば判断の誤りが明確になる。「大人の中国、幼い日本」という構図が国際社会で際立つからだ。

 一方、消費税で経済失速の可能性がある。対立で中国から日本に工場を移す企業の増加も想定しているかも知れないが、「三本目の矢」が「紙の吹き矢」だったとなれば政権の支持は低下する。そのための駆け込み参拝なのか。そんな思いを持つほど、独善的な参拝に見えたのが年末の靖国参拝である。

 等身大の中国を見ることは非常に難しい。しかし捻じ曲げられた情報で世論が中国嫌いに傾くとしたら残念なことだ。13億人の国が改革、開放を進めている。無理も矛盾も生まれ、豊かさの順番を待つ人もまだ多い。しかし、中国は開かれた国に向かっていることも考え、少しは心のゆとりを持ち、中国情報と接していきたいと思う次第である。


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