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【14-012】中国の住宅市場はどうなるか、バブル崩壊は嘘か真か(その1)

2014年 7月25日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

中国経済が厳冬なら、日本経済は極寒地獄か

 「中国は既に不動産バブル崩壊が進行中、その驚愕の内容」「氷山に衝突するタイタニック号、始まった中国経済の厳冬」…最近のWeb Newsの見出しだ。

 Web Newsの中味を見るには、クリックする。見出しだけを見て記事を見ない人も多く、クリックしない人には見出しだけが頭に残るが、それを意識した強烈な見出しが多い。特に一部の新聞の中国を煽る見出しは激烈だ。LINEなどで単語や短文だけで情報交換する人も増えていることもあり、見出しだけで全てを判断する人が増加することも危惧される。

 「驚愕」「厳冬」という見出しの記事を見れば、実際には国家統計局発表の4月の住宅価格動向が紹介されているに過ぎない。全国70都市の新築住宅価格の下落都市が8都市、下落都市数が前月の倍になっただけだが、見出しは「驚愕」「厳冬」となる。

 今年、5月までの5カ月、中国の不動産開発投資は3兆739億元、前年同期に対する名目成長率は14.7%で、4月に比べ1.7%低下した。2009年9月以来の最低の成長率だ。

 5月までの新築住宅販売面積は3億6070万㎡、前年比7.8%低下し、販売額も8.5%の低下である。東部沿海地域の5月までの販売面積は14.4%減、販売額も14.7%減である。

 全国70都市の5月の新築住宅平均価格は、前月比で「下落」が35、「変わらない」が20、「上昇」が15都市。中古住宅も「下落」が35、「変わらない」が16、「上昇」が19都市だった。

 新築、中古共、価格下落の都市数は2012年6月以来最大である。山東省煙台市では新築住宅価格の連続15カ月の対前月上昇は止まった。ただ細部を見れば複雑で、同じ都市でも地区や住宅規模が違えば、上昇もあれば下落もある。広東省では深圳の今年上半年の住宅販売面積は前年比39.43%の低下だが、恵州は僅か1.45%の低下、佛山は15.21%の低下だった。

 不動産業界も厳しい状況に直面している。中原地産市場研究部の報告では、5月中旬までの中国大手20不動産会社の売上額は2414億元、2013年の売上額の28.3%である。招商地産の上期販売額は179億元、前年比10.35%の減少、今季目標の36%だった。

 だが一方では、5月の自動車販売は前年比8.5%の増加、5カ月の合計販売台数は983.81万台で、前年比9%増加している。5月には、上位10社のうち5社が前年比30%を超えた。

 アウディの5月までの販売台数は21万7910台で、2010年の年間売上を5カ月で達成し、5カ月間の販売台数はアウディの世界販売の30.5%にあたる。今年1月の中国ベンツの販売台数は24199台で前年比44.9%増、米国をも超えた。2月から5月の前年同月の販売台数増加率は各、73.6%、34%、38.2%、30.9%だった。

 「房冷車熱(住宅は冷え、車は好調)」で、殊に三四級都市の住宅販売は厳しいが、車は好調である。中国の消費者は先ず住宅、その後で車を購入するという消費パターンが変わってきたという見方もある。

図1

 各種の生産指数も回復傾向にある。製造業PMI(購買担当者景気指数)はここ3カ月上昇し、6月のPMIは50.4となり、前7カ月の最高値である。今後、経済微調整策も影響して中国経済は安定成長が続くと見られる。年率7.5%前後の成長を続ける中国経済が厳冬なら、日本経済は極寒地獄になるのだろうか。

中国の住宅市場は今、一時的調整期にある

 リーマンショック後の4兆元の経済刺激で、2009年から2013年までの5年間、中国の住宅販売は高いレベルで推移した。

 中国指数研究院が発表した100都市の平均住宅価格は、2012年6月から2014年4月まで連続23カ月、前月比でのプラス成長が続いた。ことに昨年は上昇率が高く、10月には前月比1.24%増になった。北京、上海、深圳、広州の4大都市は11月までの連続3カ月、前年同月比での上昇率が20%を超えた。

図2
図3

 現在の住宅市場の勢いの低下は、市場が過熱して、政府が購入制限や金融引き締めなどの制限政策を進め、さらに政府保障の低価格住宅の建設推進の結果である。

 また、後述する農村集体土地での小産権房の乱開発も市場に影響した。加えて経済成長率の低下もある。市場の熱を冷まし、価格上昇を抑える諸要素がボディーブローのように効いている結果だということを認識しなければならない。

 中国の政治は、成長と安定の二つの課題を抱えて進む。豊かさの追求と同時に過熱を抑えることが課題である。成長に重点を置けば、過熱が物価を押し上げ、国民生活の安定を脅かす。

 だから市場の熱を冷ます“限”の政策がつきまとう。中国経済はじゃじゃ馬である。常に手綱を引いていなければ、どこに走り出すかもしれない暴れ馬でもある。13億人の経済の舵取りは生易しいものではない。まじめな国民に率いられる1億人の経済から、中国を捉えても真の姿は見えない。お金をばら撒けばいいという単純な経済でもない。

購入制限と保障性住宅が市場の熱を冷ましている

 住宅市場も経済環境による成長と調整がつきものである。それに加えて中国では、多くの都市が住宅購入制限を実施している。その地に居住しない外地人の購入制限、居住していても二つ目、三つ目の住宅購入制限、ローン規制である。

 市場の低迷で制限を部分的に緩める動きが出ている。5月末に住宅建設部は北京、上海、広州、深圳以外の都市の購入制限の微調整を認めた。広西壮族自治区の南寧市は、同じ自治区内の北部湾経済区の住民に限り南寧市での住宅購入を認めた。

 吉林省瀋陽市では6月10日に2つ目の住宅購入、外地人の購入を認めたが、反響が大きく、購入希望が殺到したため1日だけの制限解除になった。さらに山東省済南市は7月10日より全ての制限を解除すると発表している。

 購入制限が住宅市場に与える影響は大きい。2006年~2010年の北京の住宅販売戸数、54万1595戸のうち、37%が外地の個人、企業の購入である。

 経済適用房と呼ばれる政府保障の低価格住宅の建設も、価格低下につながる。保障性住宅は2011年末まで3000万戸が建設され、さらに2011年から5年で3600万戸が建設予定であり、今年新たに建設に着手する保障性住宅は600万戸である。低価格の政策性住宅が、これほどの規模で建設されるので、当然、市場価格に影響する。

中国には表と裏の二つの住宅市場がある

 中国には二つの住宅市場がある。一つは年間10億㎡に及ぶ一般住宅の販売市場であり、もう一つが小産権房市場である。

 中国の土地は国有か集体土地であるが、小産権房とは、農村の集体土地に建設される住宅である。郷鎮政府や村民委員会などが許可して、農民のために建設されるのが小産権房で、一般住宅のような土地使用権証、房屋産権証(住宅権利証)もなく、不動産登記もできない。だから一般住宅の産権でなく、「一部限定」という意味の“小”産権だ。

 全国で小産権房が大規模に建てられ、村や農民との契約で都市住民にも販売され、その乱開発が社会、政治問題になっている。房屋産権証もなく販売されるので、産権房の一般市場を表の市場とすれば、小産権房の売買は裏の市場でもある。

 1995年~2010年の全国の小産権房建設面積は7.6億㎡を超え、同期間の都市住宅竣工面積の8%を、2010年でも同年の住宅竣工面積の9.6%をそれぞれ占めるとの調査もある。北京、重慶、鄭州など全国に拡がり、中でも北京の小産権房は住宅市場の20%を占めると見られ、規模が大きく、保障性住宅と同様に、一般住宅価格にも影響を与える。

 昨年11月に国土資源部と住宅建設部は、小産権房の違法建築と売買を徹底防止する緊急通知を出した。農村の都市化に伴い、農村集体土地をどう非農用土地に組み入れるか、既に建設され、売買された小産権房をどう扱うか。権利を付与するのか、目にあまる違法住宅を強制撤去するのか、非常に難しい問題を抱えている。

 小産権房の乱開発は、住宅購入制限の反動でもある。小産権房は土地と住宅管理制度の外にあり、購入制限で住宅を取得できない人、価格が高く、市街地の一般住宅を購入できない都市住民が郊外の安い小産権房を購入している。

 筆者が知る深圳のある村も、写真の大規模小産権房を村民向けに開発したが、村の会社の責任者は、村民以外にも分譲すると話す。

image

小産権房写真 深圳某所にて撮影

 制限政策や小産権房に加え、経済成長率も低下している。通貨供給量のM2は2013年末の前年比13.6%増から、3月末には116兆700億元、前年比12.1%に低下し、過去最低の増加率12%に近づいた。不動産業への銀行融資も減っている。さらに国務院は住宅ローン規制を継続している。購入時の頭金比率を高め、2戸目、3戸目の住宅に対してはさらに比率を高めている。そのため、しばらく様子を見るため購入を控える人も増える。

 5月末の新築住宅在庫面積は5億3402万㎡で、最近の年間住宅販売面積の約半分で、不動産会社は在庫圧縮を進めている。価格を下げての在庫処分もしている。このような原因で住宅市場は調整期に入っている。

その2へつづく)


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