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【14-014】中国の住宅市場はどうなるか、バブル崩壊は嘘か真か(その3)

2014年 7月30日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

その2よりつづき)

夜に灯りのない空き室の裏に潜む中国事情

 大都市で夜間に灯りの点かない建物を見て、中国バブル崩壊を連想する人も多い。灯りの点かない建物には、不動産会社が抱える在庫と購入者が空き家で放置している部屋の2種類がある。西南財経大学による調査で明らかになった、2013年の都市部における空き室率22.4%という数字は後者である。グラフは主要都市の個人住宅空き室率である。

図1

 中国の政府統計には不動産業の在庫統計はあるが、個人の空き室統計はないので、それを知るにはこれらの調査に頼らざるを得ない。だが、その結果を単純に受け入れ、判断することは問題だ。そこに中国ならではの住宅事情が潜んでいるため、22.4%という数値だけで市場の飽和、バブル崩壊を考えるのは早計である。

 中国人の住宅取得には、投資のように見えるが、実は実需と言うべき住宅購入も多い。

 例えば中国の戸籍制度だ。都会で暮らす農村出身者は、例外もあるが都市戸籍がない。子供の教育にも影響する。彼らは都会の住宅には手が出ないが、故郷の住宅なら買える。将来、故郷に帰る時に備えて、故郷近くの街で住宅を買う人も多い。故郷には農業を営む両親がいるが、いずれ農業をやめる時が来る。その時に備えて、都会で働く子供が、両親のために故郷の街で住宅を買う。

 他にも以下のような事例がある。北方の寒い地域に住む夫婦は、老後に備えて温暖な南の街で住宅を購入したり、まだ学生の息子が結婚する時に備え、2つめの住宅を買う人もいる。それらの多くが空き室にもなる。

 22.4%という空き室率には、現代中国の人間模様、夫婦関係も垣間見える。中国の結婚事情は厳しい。親も巻き込んだ婚活がエスカレートしている。住宅所有は婚約の条件で、本人同士が結婚を望んでも、住宅を持たねば、親が娘の結婚を許さないこともある。だが若い男性にとって都心の住宅の取得はむずかしい。結婚のために郊外に住宅を買ったものの、通勤には不便で、また料理も洗濯も出来ないので、結局は親の家に住んで職場に通う。やはり空き室となってしまう。

 結婚した夫婦も同じだ。双方の親の家に交互に行けるように、実家に1部屋ずつ確保する若い夫婦が多い。郊外に家があるが、若い奥さんは料理もしないので、親の家で生活して、郊外の住宅は空き室のままだ。

 住宅を所有する人でも、市街地の古い住宅の権利も持つ人が多い。古い住宅が市街地開発の対象になれば、登録された戸籍人数と面積で保障金が支払われる。数千万円の保障金を得る家族も多い。両親夫々が旧住宅の保障金を得れば、家族で複数の住宅も余裕で持てる。二つ目の住宅は子供が成長するまで空き室になる。

なぜ中国の住宅バブルは崩壊しないのか

 これらの空き室は、投資でなく実需だ。購入制限は、投機の抑制を狙ったものであるが、実需までも抑え込んでいる側面がある。そのため荒っぽい購入制限から、対象をより細分化した制限策に移行すべきでもある。

 そのような中国の社会事情が背景にある多くの空き室は、内装もせずに放置される。電気と内装工事がなければ資金負担は少ない。部屋は建設時のコンクリートのままだ。だから、少々の価格下落であたふたすることもない。影の銀行のゴーストタウンと同じだ。土地と住宅の値上がりで含み益がある空き室、幽霊建物も多い。

 ある調査では、自身が住む住宅購入の銀行ローン比率は16.6%である。他人に賃貸している住宅でも24.3%である。利息が高いことや購入制限で購入時の頭金が大きいなどという理由で、ローンの利用は少ない。中国の商業銀行は住宅ローンに対して優遇レートを適用するどころか、逆に一般融資より高いレートを設定しさえする。日本のように30年などの長期の住宅ローンを組む人も少ない。

 加えて複数の住宅を持つ人には、資金的なゆとりのある人が多い。表のポケットの他に裏のポケットも持つからだ。そんな人は住宅購入が預金代わりでもある。

 中国では公人、私人の別なく仕事の特権で、お正月や国慶節の紅包、つけ届けを半端な額でなく関係先からもらえる人も多い。そんな人は紅包の買い物カードで生活費を賄い、給料は預金や理財購入、住宅ローンの返済に回る。

 内装もせず、ローンが無ければ、価格変動に右往左往する必要もない。

 一方、不動産会社も銀行借入はそれほど高くない。興業証券研究所の調査では2013年1月~11月期間での不動産業への銀行融資比率は16%である。中国の不動産会社の資金調達は多様化し、自己資金も40%近くを占める。銀行融資も厳しくなり、今後はさらに多様化していく。銀行買収やネット関連企業との提携、信託、国内や外資私募基金からの資金調達も増える。資金調達が多様化すれば、経済環境の変化にも柔軟に対処できる。

 影の銀行から不動産業への資金流入を見ても、2013年末での10兆9000億元の信託資産残高に占める不動産信託比率は10.03%で、証券信託より少ない。このあたりも銀行、ノンバンクから怒涛のごとく不動産業に資金が流れた日本のバブルとは違う。

図2

 このような住宅市場の背景を考えると、現在の市場の勢いの低下が、住宅市場の総崩れを誘発することはなく、急激な価格低下もない。土地開発が抑制され、在庫調整が進めば、価格は反転、上昇する。

今後20年間で、新たに3.5億人が都市住民になる

 中国の住宅市場はさらに拡大する。その二つの理由がある。一つは都市化だ。バブル崩壊論は、成熟社会の日本のバブルと発展途上の中国の違いが理解できていない。

 日本のバブル時と今の中国は、経済成長率そのものが違い、賃金上昇率も違う。

 また中国には、これからの都市化がある。都市化が進み、東京集中が進み、実体経済は低成長の中で、どっと不動産にお金が流れて起きたのが日本のバブルだ。土地が雪だるまのように転がされて膨らんだのが日本のバブルである。中国は土地を転がしているものでもない。中国の都市化はこれからである。都市化とは、言い換えれば、新たな都市住民の実需であり、空洞、泡ではない。

 中国は将来、農村人口を3億にする。つまりこれから3.5億人が農村から都市に移る。2020年の都市化率は60%、この7年間だけでも約1億人が都市に移る。大都市の都市化はさらに進む。広東省の2020年の都市化率は73%、1300万人が都市の新住民になる。そこで新たに住宅が必要となることは言うまでもない。

 第6次人口調査では、2014年の24歳~28歳人口、すなわち中国の第三次ベビーブームの真っただ中に生まれた人口は1.2億人、うち8000万人が都市住民だ。住宅は大事な結婚の条件である。彼らもこれから住宅取得に向かう。中国の住宅市場には、まだまだ実需が満ちている。

図3

老住宅問題を控え、市場はさらに膨らむ

 さらに中国には先進諸国では少なくなった二つの住宅問題がある。一つは建築後まだ年月の浅い老住宅、欠陥住宅問題である。

 日本では20年前に新築で購入した住宅に住む人は、この先10年、20年は買い替え需要の対象にはなりにくい。住宅は一生の買い物でもある。だが中国はそうではない。

80年代、90年代に建てられた住宅には、配管問題や海砂による鉄筋腐食、レンガの壁の耐性問題、高度をごまかすための半地下階などの違法建築問題を抱える。

 1992年、93年の国の住宅壁面の空洞調査合格率は17.9%、28%である。本来50年~100年の耐久年数の建物が20年~30年で寿命を迎える。大きな問題だが、市場にとっては、老住宅に住む人も、近い将来の市場への参加者でもある。

 今一つは“棚戸”と呼ばれる、農村から都市に出てきた人が、無秩序に小屋を建て暮らす貧民地区の大改造である。既に遼寧省では住民に新しい住居を保障し、大規模な再開発が始まっている。政府が支援して棚戸の改造が進めば、街も活性化され、将来そこから新しい住宅需要も生まれる。中国の都市一人当たりの住宅面積は2002年には22.79㎡だった。それが2010年には31.6㎡になった。棚戸の住民もいつかより良い住宅を求める住宅市場への参加者になる。

 日本でも中国でも、中国バブル崩壊を伝える報道が増えている。だが、中国人は案外、平然と構えている。その理由は、自身の体験で市場を捉え、市場の背後の事情を知り、中国の住宅市場はそんなものではないと思っているからだろう。たびたび囁かれてきたバブル崩壊の言葉も狼少年と思っているからだろう。

 筆者は2010年に書いた本で、中国の新築住宅市場は年間8億~10億㎡の販売が続くと言及したが、今もこの考えは変わっていない。既に述べたように住宅購入制限の見直しが始まり、厦門、昆明、福州、南昌、西安、杭州などの都市が制限緩和を始めている。7月10日から全ての制限を解除した山東省済南では、その日から1週間の新築住宅契約戸数が3307戸になり、1週間で5月の月間契約数を超えた。今後、さらに各都市は税額補助や住宅を購入した外地人への戸籍付与などの優遇政策も打ち出すので、住宅市場は再び上向きに転ずると思われる。

 都市の1億4900万の家庭が住宅を取得できていない、または古い住宅に居住しているなら、年間10億㎡の販売を続けても、全ての需要を満たすには12年かかる。加えて中国の住宅市場には、新たに市場に加わる大きな塊が控えている。

(おわり)


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