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【14-018】中国の失業率の読み方(その4)

2014年 9月29日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

経済成長と90后世代が中国の雇用環境を大きく変える

その3よりつづき)

 経済成長と90后世代が、中国の雇用環境を変えつつある。

 2008年の世界金融不況以後、農民工、とくに女子農民工の争奪戦がくり広げられ、今も続く。職業学校では企業と学校の立場が逆転した。頭を下げ、年々高騰する募集手数料を収め、なんとか学生をまわしてもらうのが実情である。

 大都市近郊の農民工には半年働き、半年遊ぶ、“デカンショ暮らし”の農民工も増えている。工場の管理部門で働く人を面接しても、実にいろんな理由で職場を変わる人が来る。

 友人と一緒に事業を始めたがうまくいかなかった。気候が温かい南で住みたい。父が病気でしばらく故郷に帰っていた。中には家を買い、その内装のために前の会社を辞めた。恋人がこの街に引っ越したのでという人もいる。

 大都会に憧れる人も多いが、一方では遠距離への就業を望まない若者も増えている。内陸の賃金も上がり、内陸政府が地元就業者を優遇する地域保護もそれに拍車をかける。

 大都会の就業を望む人も、都心から車で3時間も離れれば、管理職のみならず一般工募集も難しくなる。求人への問い合わせで、電話で場所を聞くと、賃金も聞かずに面接を断る人も増えている。

 90后世代には、実家から遠く離れた大都会で厳しい生活をするより、安心できる故郷近くで、穏やかな生活を望む若者が増えている。そのため、既に深圳の人材市場では、外地卒業生の求職登録の顕著な減少が現れている。市は減少をくい止めるために、求職者に1週間、無料で市内の宿舎を提供する「青年宿場」制度を設けている。雇用環境の変化を機に沿海の自由主義と内陸の保護主義との衝突が始まる。

 今、中国では就職してすぐ、衝動的に仕事を辞める人、「裸辞」が話題である。次の職場も決まっていないのに裸で辞職するという意味だ。やはり90后世代に多い。

 上司や同僚と合わない、疲れる、賃金が安い、中には企業の就業規則で大晦日に休めないという理由だけで、頭にきて辞職する人もいるようだ。

 春節後には特に問題が出る。春節の帰郷で、友人や親戚と仕事の話が出る。「ボーナスはいくら?昇進は?」等の会話からコンプレックスが生まれ、落ち込んで、職場に戻っても元気がなく、焦りで会社に行きたくなくなり、春節後の「裸辞」につながる。

 「裸辞」して自分探しの旅に出るのが、今の若者の流行とさえ言われる。

中国は、新しい構造的失業の下での人手不足の時代に入った

 これまでの農民工の早期退職、流動化は主に賃金が原因だった。残業代が減れば、次の工場を探す。都市戸籍と農村戸籍の違いによる、教育や福祉の不公平なども流動化に影響した。しかし今は、そればかりとは言えない。工場の寮では空調を完備し、1部屋の人数も制限して環境を整えても定着が難しい。

 もちろん仕事を求める人はそのような人ばかりでない。民族的な問題で就業の間口が狭められている人、働きたくても職場が見つからない人も多くいる。

 それは中国が対応すべき重要な問題には違いないが、一方では中国の雇用環境が大きく変わり、「裸辞」で象徴されるような環境になっているのも現実である。

 若者が家族に縛られず、自分のことを考える時代になった。自分の将来を考え、単調な機械的な作業から、技能を高め、自己実現できる仕事に就きたいという若者も増える。

 だが、まだ中国という世界の工場は産業構造の転換に至っていない。圧倒的な求人は労働集約の単調な仕事である。望むような仕事はすぐには見つかりそうにもない。また自身の技能もそこまで習熟していない。そこに新たな失業も生まれる。

 前に、日中論壇で大学生の就職問題 を取り上げた。少し意識を変えれば就職先が見つかる大学生も多いが、意識を変えるには時間もかかる。そのため卒業直後、半年後、1年後では大学生の就職率も大きく変わる。そんな状況の一方で、家庭の経済事情が良くなり、大学も入学定員を増加させ、大学生がさらに増加を続けている。

 大学生が夢見る就職の間口は狭い。中国は先進国とは異なり、サービス産業は成長途上である。政府の規制も発展を阻害している。先進国の大学卒業生の受け入れは圧倒的にサービス、第三次産業である。そんなことからも大学生の就職の間口はより狭まっている。

 今中国は、経済成長と90后世代の労働市場への参入により、新たな構造的失業の下での人手不足の時代に入っている。

 もし調査失業率で統計するなら、“デカンショ暮らし”の農民工をどうするのか。クリーン服を着るのが嫌で辞めた人をどうするのか。「裸辞」で離職した人をどうするのか、卒業してもすぐに就職せず、公務員や理想の企業を家族や知人が探してくれるのを待つ人はどう統計するのか。新たな難題が現れる。

ウォール・ストリート・ジャーナルの言は成熟社会の想像のお遊び

 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は、偏見で書かれている。中国だから情報は怪しい。大きな格差社会なので、失業率はもっと深刻という偏見である。筆者はこれを成熟社会で暮らす人、お金持ちの想像のお遊びだと思う。

 もちろん中国には、農民工が都市で生活者として生きられない厳しい現実がある。彼らが働く都市は、ただ労働力の提供場所で、そこは家族揃って生活できる場所ではない。

 世界の工場となり工業化は進んだものの、都市が彼らの生活場所となるには、まだ多くの改革が必要だ。内陸の都市化も進めねばならない。都市化のためには土地改革も進めねばならない。都市生活者となるには戸籍改革も必要である。農村戸籍から都市戸籍への転換は、まだ2%に満たない。

 米国や日本の知識人だけでなく、中国国内でも発展のアンバランスを指摘する声は大きい。中国は「一つの中国、四つの世界」と語る人もいる。第一世界は上海や北京などの高収入世界、第二世界は広東省、浙江省などの中収入世界。第三世界は東北、華北中部の中下収入世界。第四世界は中西部、少数民族の貧しい世界。その区域経済のアンバランス、格差を指摘する声も大きい。そのとおりだとも思う。

 地域別に失業率を見てもグラフのようにバラツキがある。

図1

 しかし一方で筆者には、果たして中国経済が、理想的なバランスのもとに成長するようなことが可能なのか、13億人の国で、現実的に可能なのかという疑問がある。

 最近FRB(米連邦準備理事会)が発表した米国家計純資産保有状況では、2013年における米国上位3%の富裕者の純資産保有割合は54.4%である。つまり3%の人に54.4%の富が集中し、しかも年々拡大している。中国の格差を声高く批判する知識人は、その前にどうして米国の格差を批判しないのだろうか。不思議な思いがする。

 中国の区域経済のバランス、格差縮小は課題である。しかし強く批判するなら、バランスよく成長できる道筋を示さねばならない。しかしそれは誰もできないだろう。

 成長スピードを緩め、長い年月をかけてなら可能かもしれない。しかしそれは、先にお金持ちになった成熟社会の人の戯言だ。もちろん政治腐敗など、社会の闇に対しては強く改革を求めねばならない。しかしそれは別次元の問題である。

 水は格差があるから流れ、方円の器に従うように収まるべきところに収まる。

 経済も同じだ。日中論壇でも述べたが、鄧小平の「先に豊かに」の意味は「後のがまん」でもある。中国はまだ、「後のがまん」の中を進んでいる。

 ウォール・ストリート・ジャーナルの記事のように、成熟社会が中国をとらえる目は、13億という数を忘れていると思う。あまりにも巨大で実感がわかないのかも知れない。

 アンバランスは13億人の国が背負う宿命でもある。今後拡大すると思われる、産業の高度化や工場の自動化過程で起こりうる構造的失業を解決するにも、とてつもない数の労働者の技能教育も必要である。全てが13億という巨大な数との戦いである。区域経済や格差のアンバランスの解消が20年、30年で達成できるはずもない。

 だが、成熟社会の知識人にはそれが見えない。そこに中国だからとの偏見が重なる。そして失業率に見るような、独りよがりの誤解が生まれる。

 北京の指導部も、何が中国の失業率の真実を表わすのか困っているのが実情だろう。

 失業保険の手続きより、次の就職先を探す方が早いと考える人が多い中国の失業率と、月末1時間アルバイトをすれば失業者から除かれる日本の失業率、さてあなたはどちらが真実を表わしていると考えますか。

(おわり)


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