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【15-007】中国の成長率低下をどう読むか(その1)

2015年12月 3日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

何かおかしい昨今の中国経済論

 何かがおかしい、昨今の中国経済のとらえかたである。

 「なりふり構わず人民元安に誘導して輸出競争力を高めなければならないほど中国経済は悪いのか」ある経済誌の報道だった。

 今年の夏、中国に端を発する世界的な株価下落の連鎖で中国経済の問題が盛んに報じられた。その報道では多くのメディアが、表面的な数字だけで中国経済を停滞からリスク、バブル崩壊に追い込んでいったように見えた。

 9月にトルコで開催された主要20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で中国経済が取り上げられ、世界の金融市場動揺の震源地の中国に構造改革を求める声が相次いだ。メデイアも同調して懸念を論じ、中国経済の悪化が世界経済の成長を阻むとして危機に対処すべきと論じた。冷静に考えればおかしな意見でもある。

 懸念されるように中国の各種の経済指標は低下している。だが、欧州連合と中国を除くG20、18カ国の2014年の実質成長率の平均は2.14%である。7月から9月までの日本の実質成長率は年率換算で-0.8%、2期連続のマイナス、個人消費も低調である。2期連続マイナス成長の理由には“中国経済の低迷で輸出が減速”との説明がつけられる。

 中国経済の悪化を懸念し、危機への対処を求める前に、各国は自らの脚下を見つめるべきであるが、中国に不安を抱き対処を求めた。

 10月23日に李克強総理は中央党校で中国経済について1時間半以上に及ぶ講義を行っている。経済学博士の学位を持つ総理の三回目の講義である。

 授業で総理は第三四半期に6.9%になった経済成長への不安に対し次のように語った。

 「7%の成長も守れないとかでなく、6.9%の成長率を達成することも生易しいことではない。我々はどんな環境下にあるかを考えねばならない。2007年の金融危機の時より世界の貿易市場は衰退し、成長スピードは2%しかない。主要経済体の成長スピードは遅く、そんな中で、中国は7%の成長でも主要経済体の先頭にたっている。成長スピードは遅くなったが、雇用の創出、所得増加で民生は改善されている。就職や収入、環境などはGDPより重要な指標である」

 今回の日中論壇は、成長率の低下と株式市場の動揺とともに語られた中国経済の問題指摘について考える。そこには二つの疑問がある。

 「中国の経済成長率は偽りであるとする論」と「成長率が7%を割った中国のリスクを強調する論」の二つである。

今の7%の成長は10年前の18%の成長に相当する

 先ず、成長率が偽りとする論についてである。ある週刊誌には「中国では政府が発表する成長率など誰も信じていません。経済指標を都合よく改ざんする国です。すでに5%を切っているという話もあります」「正しい情報が出てこないのが中国。7%成長というのもウソでしょう」などと評論家の言が載る。中には、真の成長率は5%程度、-3%との論すらある。

 その指摘に共通するのは、先進国との単純比較やうわべの数値で中国経済をとらえ、問題を指摘することである。指摘の誤りについて論ずる前に、中国の成長率の基本的な読み方について少し触れたい。

 GDP(国内総生産)の計算には生産、所得、支出の三つの計算アプローチがある。その増加率(成長率)は計算年度の直前の経済活動の大きさ(国内総生産)を分母とする額と期間の増加額を分子とする額の比率である。仮に増加額が同じでも分母が小さければ成長率は高い。中国の90年代はそのような時代であった。

 だが今や中国のGDPは世界の2位になった。分母には、一部で先進国の顔も持つ中国経済が少なからず入り込む。しかし、後進国の経済も混在する。両者が混じり合い全体の中国は中進国である。90年代は、分母の殆どが後進国で、少しの刺激で成長率は敏感に反応した。だが、分母が大きくなれば、よほど高い経済成長をしない限り、成長率は低下する。

 ゆえに、現在の7%を切る成長率は当然の事でもある。G20には日本やイタリアのようにマイナス成長の国もあるのだから。李総理が上述の講義で、「中国が現在の規模で1%の成長をしたら5年前の1.5%の成長に相当し、10年前の2.6%に相当する。そう考えれば今の7%は10年前の18%に相当する」と語ったのも、そのようなことを言わんとしたためと思う。

電力消費や鉄道貨物で成長率を推計することはできない

 GDP統計は各政府機関の連携で、膨大なデータの集積により算出される。そのため“おかしい”という根拠も説明はできない。中国の成長率を怪しいと考える人は推測、つまり雰囲気に頼る。もちろん日本でも内閣府が行う景気ウォッチャー調査があり、タクシー運転手などに街角の景況を聞く。だから雰囲気による判断が悪いとは言い切れない。

 だが、工場閉鎖のニュースや街角情報でわかるのは景況感で、中国政府が発表する成長率が偽りとの断定はできない。しかも日本と異なり中国は広い。沿海部、内陸で経済の様相も異なる。一部の地域の景況だけで全体を語ることもできない。しかし、今回も多くのメディアが成長率に異を唱えた。その根拠に持ち出されたのが電力消費や鉄道貨物輸送である(これに銀行貸出を加えたものがいわゆる「李克強指数」である)。

 電力消費や鉄道貨物輸送で成長率が推測できるのは、変化の少ない社会である。社会に大きな変化がなければ、それらで推測が可能かも知れない。だが中国はそんな社会の対極に位置する。90年代の初め、1992年、93年、94年の経済成長率は各14.2%、14.0%、13.1%であった。

 さらに2005年、06年、07年の成長率は11.3%、12.7%、14.2%だった。そんな高成長時代は終わったが、先進国に比べれば、中国は依然高い成長を続ける。つまり変化が続いている。そんな社会では電力消費や鉄道貨物だけで成長率を推定することはできない。

経済成長率と電力消費量は比例しないケースも

 今年の上半期、中国の経済成長率は7%、電力消費の伸び率は1.3%で昨年より4%下落した。実は、電力消費は伸びてないので中国の成長率が偽りであるとは、90年代の高成長の時にも一部の識者により言われたことである。90年代の成長は加工貿易が牽引した。農民工を大量に集め、加工と組み立てを行い、製品を輸出した。当時の中国の工場のコストダウンは機械化でなく人手をかけて対応することだった。ゆえにその時代も成長率と電力消費は比例しなかった。

 中国の成長率はごまかしであるとの言への反論を述べる前に、経済成長と電力消費が比例すると考える単純な誤りについて指摘しなければならない。

 通常、経済が成長すると電力消費の増加はGDPの増加に先行する。経済活動は経済の先行きを読みながら進むからである。また後に述べるように、ある国の経済がどの水準にあるのか、経済のサービス化が進んでいるかによっても異なる。工業生産も生産量の高低が敏感に電力消費に反映し、電力消費の弾性が高い分野もあれば、労働集約で生産する分野もあり、成長率と電力消費の増加率は必ずしも比例するものではない。

 筆者自身も、生産量が増えれば生産性が高まり、電力消費の効率が上がるケースを経験している。企業も工場従業員のシフトを考えるなど、効率を高める工夫もする。また、生産量が低下しても電力消費は比例して降下しない。この原稿を書くにあたり、筆者が協力する工場の今年の生産量と電力消費量を調べたが、やはり生産の伸び率と電力消費の伸び率にかなりの差が見られた。

図1

電力消費の低下は建設資材の生産低下と第三次産業の成長が影響している

 中国の電力消費が高くなるのは、住宅建設で鋼材や建材などの電力消費が大きい産業が活発に動きだす2000年に入ってからである。それらの生産が増えると電力消費は経済成長率を上回り増加した。

図2

 「電力消費が伸びないので、現在の経済成長率は偽り」であると述べる人は、2000年初頭の電力消費の増加率が経済成長率を大きく上回った時代をどう説明するのか。

 さらに、社会が工業化に向かっているのか、年々第三次産業の比重が高まっている社会なのかでも電力消費と経済成長率の動きには差が現れる。

 2012年の中国の電力消費量の産業別内訳は、農林水産業2.03%、工業72.81%、建築・サービス業12.66%、生活消費が12.5%だった。その年のGDPは第一次産業10.08%、第二次産業45.27%、第三次産業44.65%である。GDPへの貢献と電力消費を考えれば、第三次産業は第二次産業よりGDPを生み出す電力効率ははるかに高い。

 今の中国のように、毎年、第三次産業の比重が高まれば、電力消費の増加率が経済成長率に一致しないことも当然である。

図3
図4

 さらに電力消費増加率と経済成長率の相関を問題とするなら、昨年から今年にかけての中国経済を正確に捉える必要がある。昨年、建設投資、住宅建設が冷え込むと、過剰生産も影響して鋼材やセメントの生産が下降した。2014年1~9月の累計では鉄鋼石、原油、有色金属、石炭など七つの重要物資の生産は前年比4%の増加に過ぎない。石炭は-0.4%だった[1]。これらの物資の生産は電力弾性値が高く、生産量が低下すれば電力消費量はさらに低下する。

 今年の1月から9月までの電力消費量は建材生産分野で前年比6.4%、冶金生産分野で7.8%下落した[2]。これらの物資の全社会電力消費に占める比率は、その生産が生み出すGDPの比率より大きい。そのため生産が減少すれば、経済成長率の落ち込みよりさらに電力消費量は低下する。

鉄道輸送で経済成長率を疑問視するのは「ケチをつける」ための論

 次に鉄道輸送で経済成長率を計ることの問題である。今年の上半期の鉄道貨物輸送量は前年比-10.1%である。2014年における中国の全貨物輸送に占める鉄道輸送の割合は9%に過ぎない。しかも鉄道で運ばれる多くは石炭、鋼鉄、有色金属、石油、鉱石、セメント、木材、化学肥料などである。

図5

 鉄道輸送の増加率が高かった2001年から2006年までの鉄道貨物の平均伸び率は8.32%、その間の鋼材生産の平均伸び率は22.9%、セメント生産の平均伸び率は12.3%だった。これらの物資の生産が低下すれば鉄道輸送も減少する。

 また、中国の圧倒的な貨物輸送手段は高速道路の整備とともにトラック輸送に移っている。しかも国の真ん中には長江もあり水運も重要な輸送手段である。トラック輸送も日本と異なり多くが自社物流である。闇営業の白トラックもよく使われる。運送業者も零細業者が多く、トラック輸送の貨物量の正確な統計も困難である。

 さらに航空貨物輸送も年々増えている。例えば深圳空港の貨物取扱量は今年100万トンに達すると見られるが、9月までの三四半期では前年比5.3%の増加である。

 もちろん鉄道輸送量の増加率が貨物輸送量全体の増加率に対して正比例する場合もあるだろうが、貨物輸送の9%にしか過ぎない鉄道輸送だけを取り上げ、しかも輸送される物資の中身を分析することなく、鉄道貨物が伸びていないので経済成長率も偽りとの論は、いかにも荒っぽい「成長率にケチをつけるための論」にも見える。

 筆者は中国の特性から地方政府がGDP統計を過大に統計することもあると思ってはいる。だがその水増しされた数字よりもGDPに現れない経済の方がはるかに大きいと考えている。

その2へつづく)


[1] 陳克新(2014年)「2014年中国大宗商品市場分析及新一年展望」、『2015年中国経済形勢分析与預測―経済藍皮書』、李揚 主編、社会科学文献出版社。

[2] 『南方日報』2015年10月16日。


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