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【15-008】中国の成長率低下をどう読むか(その2)

2015年12月 4日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)
  • 『仕組まれた中国との対立 日本人の83%が中国を嫌いになる理由』(クロスメディア・パブリッシング、2015年8月)

その1よりつづき)

中国の消費は決して低いものではない

 中国の成長率の鈍化と株価下落で、「輸出と投資依存の経済」「供給過剰の経済」「中間所得層の形成の遅れ」「中所得国の罠」「企業債務問題」「銀行の不良債権」などの問題が指摘され、チャイナリスクが叫ばれた。次にその反論を述べる。

 多くのメディア識者は中国経済の問題は労働分配率が低く、それが消費の伸びない原因であると指摘する。ある都市銀行の中国経済情報には下記の記述がある。

 「所得分配制度の問題は個人消費の増加を制約している。中国の輸出と固定資産投資の対名目GDP比を見ると1978年の5%と18%から2014年の23%と81%へそれぞれ急上昇しており、経済の外需と投資への依存度が非常に高い。また、日米中の個人消費のGDPに占める比率で見ると、2014年に中国が38%と日本の61%や米国の69%に比べて中国の内需、個人消費による経済牽引力不足が目立っている」

 中国の消費を問題とする多くの論に共通するのは、中国の国土と社会環境、投資の意義、その将来の消費への影響など、動的に投資と消費を捉えず、その比率だけで先進国と比較し、過剰投資と過少消費を指摘することである。この誤りは、都市所得に対する農村所得を統計の比率だけでとらえ、格差を指摘する誤りと共通している。

 ちなみに、今年の1月から9月までの社会消費品小売総額は21.6兆元、前年比では10.5%の増加である。新車販売が昨年同期の6.9%増から0.3%増に低下するなど低迷している分野もあるが、一方で映画館の売上は50%増、一定規模以上企業の携帯電話等の通信機器売上は34.7%増、インターネットでの商品小売額は34.7%増など旺盛な消費も見られる。また住宅市場の回復とともに建材、家具、家電の売上も徐々に回復し、9月までの三四半期の一定規模以上企業の販売伸び率は前年比各、18.6%、16.7%、10.8%である[3]

 GDP増加への貢献率では投資が43.4%、純輸出が-1.8%に対し、消費は58.4%であり、前年同期に比し9.3%増加している。

 また、農村所得のとらえ方、そこでの消費のとらえ方にも多くの誤解がある。

 消費への誤解は、格差や富裕層にとらわれ過ぎて、中国をお金持ちと底辺で苦しむ人の二極構造でとらえること、社会と経済の実像が理解されずに指摘されること、の二つから生じている。中産階級が育っていないとの指摘にも、大きな誤解がある。筆者は中国の消費は決して問題とされるような低い水準ではないと考えている。

 中国の投資と消費の問題には多面的な考察が必要なので、次回の日中論壇で述べるが、一つだけヒントを語るなら、日本への旅行で免税店やドラッグストアで大量の買い物をする中国人の大半はまぎれもない中産階級である。

輸出減少の中身をとらえることが重要

 今年の1月から10月までの中国の輸出入総額は19兆9300億元、前年比-8.1%、輸出は-2%となった。輸入が大きく減少しているので、中国は経済成長率を偽っていると語る人もいる。だが、市況と生産の低迷で、原油や鋼鉄、大豆などの価格も低下し、輸入量が変わらなくても貿易額は減少する。2014年9月の重要物資の価格は国際市況の低迷もあり、前年比でゴムが25.9%、砂糖が25.2%、鉱物が15.8%、鋼鉄が14.3%の下落である[4]

 さらに減少した輸出の中身を考えねばならない。労働分配率、所得の家計への分配の低さが問題とされるが、それに対処すべく中国は所得分配改革を継続中である。改革が進めば賃金が上がる。そのコストアップの影響が大きいのが加工貿易である。

 中国は課税の取り扱いから貿易を加工貿易と一般貿易に区分している。加工貿易とは材料、原料を輸入し、加工や組み立てを行い輸出する貿易形態で、輸入原材料の免税措置が受けられる。

 2013年の中国の輸出入に占める比率は国有企業が18.4%、外資投資企業が47.3%、その他が34.3%である。外資企業には、多くの日系企業のように加工生産で進出する企業も多い。コスト面で加工貿易が成り立たず、多くの企業が撤退すれば、輸出は減少する。

 だから労働分配率の問題を指摘し、同時に輸出低下でチャイナリスクを危惧するのは矛盾でもある。

 大切なことは、加工貿易に代わる一般貿易の輸出がどうなのか、輸出の中身である。1月から7月までの税関統計では貿易額は前年比7.3%減少し、輸出は0.9%増、輸入は14.6%減である。同期間の加工貿易の輸出は8.6%減、一般貿易の輸出は3.9%の増加である。

 自動車部品や鋼鉄、機械の輸出は増加し、織物、服装、雑貨の輸出が低下している。

 加工貿易の減少を一般貿易が補うまでには至っていないが、中国は経済の構造改革で輸出構成の調整途上であることを考えれば、大きな問題ととらえることでもない。

 WTOも2015年の世界貿易の伸び率を2.8%に下方修正している。G20の中にはブラジルのように今年の上期の輸出の伸び率が-14.7%の国もある。日本の輸出は円安の影響で金額ベースでは7.9%の伸びであるが、数量ベースでは1.6%の増加にすぎない。

ひとまとめでのチャイナリスクはナンセンス

 中国経済をひとまとめでチャイナリスクを語ることも問題である。各地域を丁寧に分析することが肝要である。この日中論壇でも述べたように、西部の重慶は産業構造の転換が進み、経済は活況を呈している。重慶と成都を結ぶ高速鉄道も完成し、長江経済地帯と一帯一路の各地域との中継都市の役割も高まる。既に自動車やパソコンの生産台数では中国一の都市になった。

 昨年の第三四半期までの重慶市、四川省、江西省、広西チワン族自治区、湖南省の輸出の前年増加率は各、45.5%、11%、13.8%、21.4%、28.6%だった[5]

 また広東省の今年9月までの三四半期の経済成長率は7.9%である。第一四半期は7.2%、第二四半期が8.1%、第三四半期が8.3%で中国の全体とは逆に、成長率は四半期ごとに高くなっている。省の中でも地域により異なる。珠海市の三四半期の成長率は9.3%で、深圳市は8.7%である。中国経済は一極集中の日本とは異なることも理解すべきである。

 李総理も「中国経済の柱は一本でなく、いくつかの柱に支えられているので粘り強い」と語っている。

中国経済の“伸びしろ”に注目すべき

 冒頭述べた経済誌のように中国経済は「なりふり構わず」という状況でもない。経済成長率の低下にも関わらず中国は財政出動に慎重だ。

 中国の財政と金融政策には、日本など先進諸国に比べてまだ政策拡大のスペースがある。先進諸国と比べて財政赤字も低いレベルである。利子率と預金準備率の引き下げは今後も持続する。

 中央党校での講義でも、李総理は積極的な財政政策と通貨政策の実施を強調した。また、債務問題についても中国は56%、米国が100%、日本が250%で、中国は中央に限定すれば債務比率は18%しかなく、地方債務は大きいがコントロールできる程度であると語った。

 人民銀行が利下げと預金準備率引き下げを発表したのはその講義当日である。

 成長率が下降しても、北京も上海も広州も住宅購入制限を続けている。ちなみに広州の2軒目の住宅購入の頭金は7割である。

 チャイナリスクを強く語る人たちには誤解も多い。今回の株価低下を機に囁かれたリスク論でも農村所得の捉え方の誤解や地方政府の債務も一般企業債務と合算し、日本のバブル期との比較で債務リスクを語る論もあった。

 中国経済にはまだ大きな成長のタネ、“伸びしろ”が残されているが、リスク強調論は、その“伸びしろ”に背を向けている。中国社会に残された「後進国」の経済そのものが“伸びしろ”である。二十年や三十年で皆が同時に豊かになれないなら、これから豊かになる部分があるからこそ、中国は何十年も高く息の長い経済成長を維持できる。

 2024年に中国の都市化率は63.5%になる予想がある。これは、これから住宅や車を取得しようとする人たちの莫大な消費が存在することでもある。その年には、新車生産台数は年3000万台、自動車の保有は人口千人当たり、251台の予測である。

 人口の高齢化が指摘されるが、中国人口・発展研究センターの予測では、まだ中国は毎年0.53%の割合で人口は増え続け、2020年には14.2億の人口になり2030年にピークとなる。高齢化も経済にとり問題ばかりではない。次回の日中論壇で述べるが旅行市場の拡大など消費に貢献する一面もあることも考えねばならない。さらに、戸籍制度改革も都市消費を促進する。

 経済構造改革成功の条件は、工業分野の技術革新とサービス産業の成長である。工業分野の革新を進めるのが、李総理が発表した“中国製造2025”である。製造の創新、革新で、中国の産業革命のようなものである。だがその成功には、先端技術の取り込みだけでなく、技術を生かす社会風土の改革も必要である。腐敗対策も社会改革の一つである。

 創新と革新を可能にするのは開放政策の深化である。それは胡錦濤政権時代を引き継ぐものであり、日本では権力闘争ばかりが語られるが、中国の発展戦略に関して、習近平国家主席と胡錦濤前国家主席は互いに手を結んでいる。

中国は戦略が巧み、大胆な政策を打ち出せる国である

 80年代以降、中国は巧みな戦略と大胆な開放政策で成果を上げた国であることを忘れてはならない。既得権益にがんじがらめになり、中途半端な政策しか打ち出しえない国とは違う。今年の10月末の中国の外貨準備は35255.07億ドルで、9月末から113.87億ドル増加した。中国はこの外貨準備をもとに対外協力、合作、中国企業の対外進出を進め、さらに海外技術やノウハウの吸収を図る。

 中国は産業と資金、投資の連携を意味する「国際産能提携」で中国企業の海外進出、海外市場開拓を支援する。他国のインフラ整備、企業の工場建設を豊富な資金力で支援し投資と起業、製品や人材のまるごと輸出を狙う。すでに鋼鉄、冶金、造船、鉄道など12の産業で産能提携が進み、参加企業への融資も進んでいる。

 今年の10月の習近平国家主席の英国訪問では、ロンドン市場で50億元の人民元建て国債発行や英国の原子力発電、高速鉄道、通信、住宅への投資とともに医療分野での協力が発表された。

 貿易などの資金決済で人民元は米ドル、ユーロ、英ポンドに次ぐ通貨となった。今年の上半期までの中国企業の英国投資は金融、電信、インフラ、電力、自動車やその他の分野で500社を超えた。

 今後、サービス分野の開放や海外との協力を通じて中国はサービス産業の質を高める。その向うには海外消費を国内に取り込む戦略もある。

 2014年の中国の社会消費品小売総額は26.2兆元であるが、海外旅行者数が1億人を超え、海外の消費額は1兆元に達すると推計されている。サービスの向上と技術革新による品質向上は困難な道程であるが、それが果たされればその取り込みも可能となる。

 中央党校の講義で李総理は経済成長のダブルエンジンを強調した。伝統的な公共事業と創業支援による新事業と雇用創出である。公共事業では中西部にまだ残る交通インフラ投資の空間や棚戸区(バラック地区)改造、農村の都市化と道路や水道、電気の基盤整備、今後の農村消費の拡大に向けてのインターネット環境の整備なども“伸びしろ”である。また中国は留学生創業園への財政補助や産学連携での創業支援など思い切った政策実施を進めてきた。中国人の気質にもそれが合い私営企業の成長に繋がった。今後もロボット工業団地での起業への補助など創業支援を強化する。

 さらには自由貿易の拡大と一帯一路でアセアンとの関係強化が進む。アジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金はアセアンの鉄道や道路のインフラ整備を通じて、中国とアセアンとの結びつきを強固にする。中国の高速鉄道がシンガポールまで繋がるのも夢物語ではない。また、ネット社会で育った90后世代は、来るべき中国の大消費社会の“伸びしろ”でもある。チャイナリスクの言にとらわれ過ぎてはこれからの中国の歩みを見失うことになりかねない。

(おわり)


[3] 『南方日報』2015年10月21日。

[4] 陳克新(2014年)「2014年中国大宗商品市場分析及新一年展望」、『2015年中国経済形勢分析与預測―経済藍皮書』、李揚 主編、社会科学文献出版社。

[5] 金栢松 劉建穎(2014)「2014年中国対外貿易形勢分析及2015年展望——兼論転型時期対外発展重点」、『2015年中国経済形勢分析与預測―経済藍皮書』、李揚 主編、社会科学文献出版社。(増加率は人民元換算による計算)


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