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【08-006】バイオミメティックスに学ぶ機能材料―第7回CRCC研究会基調講演

江 雷(中国科学院化学研究所教授)  2008年5月20日

藤嶋昭: JST中国総合研究センターは去る2月26日(火)開催の第7回研究会における3人の中国の先生方の講演録を3回に亘ってウェブ上でご紹介しております。

 前々回の中国科学院理化技術研究所・只金芳教授の「光触媒の中国での現状とダイヤモンド電極の新しい応用」、と前回の東南大学・顧忠沢教授の「医学にも応用できるナノマテリアルの最新情報」に続き、最終回の今回は中国科学院化学研究所の江雷教授の講演録「バイオミメティックスに学ぶ機能材料」をお届けします。

 江雷先生はアメンボがなぜ水面をすいすい泳げるかということを研究して、今から3年ぐらい前Natureにその成果を出しています。アメンボの足がすばら しいのです。水をはじくわけです。実際どんな構造になっているのかということを電子顕微鏡あるいはAFMで調べたりされるのが1つの代表的なものです。

今日は特に生物に学ぶ、生物が持っているいろんな機能を実際に詳しく調べてそれをまねてつくるという話ですけれども、もう1つ江雷君の有名な話は光触媒 で汚れないネクタイをつくったということです。アメリカの大統領が訪中して江沢民さんと一緒に食事をした時に、江沢民さんのネクタイは中華料理がついても 汚れないということで話題になった人でもあります。

日本でも東大で素晴らしい研究成果を挙げてくれました。今から8年前に中国科学院化学研究所の教授で戻り、今は中国を代表するナノテクノロジーの研究者として非常に活発に研究をしております。では江雷君、お願いします。

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 江雷: ただいま御紹介いただきました江雷でございます。今日は、藤嶋先生からご紹介がありましたように、生物に学ぶ、特殊な撥水性と親水性を持つ物質の表面についてお話したいと思います。

 今日の講演は4つの部分に分かれています。先ず最初に簡単なイントロダクション、次に自然の中にある特殊な濡れ性物質の発見、それから生物が持ついろん な機能からアイディアをもらって新しい物質を作りだすことについて、最後に濡れ性を変えることによって、もっとスマートな物質の表面を作るシステムについ てお話します。即ち、自然から何か特殊な性質のものを見つけ、それから機能材料を発明し、さらに新しいものを創出していく、という3つのレベルの話です。

 自然に学ぶことには、2つの概念があります。1つはBiomimetic Systemといい、自然と全く同じものをまねて作るという概念であり、もう1つはBio-inspired Systemといい、自然の特殊な機能からアイディアをもらって、そのアイディアから別のものを作りだすという概念です。

 人類は自然に学んで飛行機とか船とか潜水艦などを発明したほか、生物学や分子化学といった分野でも多くの研究を行ってきした。そして80年代以降、ナノ テクノロジーや観察装置などが発達したため、原子顕微鏡、走査顕微鏡あるいはAFM(原子間力顕微鏡)などが開発され、こうした装置を用いた研究が行われ た結果、マイクロとかナノ構造を持つ新しい機能材料が作れるようになりました。

 例えばクジャクとかチョウなどの羽がきれいな色を持っているのは、小さなナノ構造がもたらした光の反射効果によるものです。

 先ほど藤嶋先生も触れられましたが、アメンボの足はマイクロ構造とナノ構造の両方を持っています。

 サメが水中を速く泳げるのはサメの皮膚の表面構造に関係していることが研究で分りました。衣服や水着あるいは飛行機の表面をサメの皮膚の表面構造と同じようにすることができたら、より速いスピードが出せるのではないでしょうか。

 蚊の目はこのようなマイクロ構造とナノ構造を持っているので、曇り防止効果があるということが、最近のわれわれの研究で分かりました。

 ヤモリが壁の上を歩くことができるのは、その足にマイクロ構造とナノ構造を持っていて、controllable adhesion(制御可能な付着)機能を持っているからです。

 ネズミの耳はこういうふうなマイクロアレイにナノの繊維がつながっている構造を持っているので、非常に小さい音も聞こえる機能を持っています。

 北極グマが極寒の地に生息できるのは、クマの毛が多チャネル構造になっているためです。最近こういう多チャネル構造を持つ人工繊維の研究開発も進められて います。これはクマの毛のIR(赤外線)のイメージです。多チャネル構造によって、熱が外に逃げず、幾ら外部が寒くても自分の熱エネルギーを温存すること ができるわけです。このクマがこういうふうに寝たらIRのイメージで見えないことになります。

 これはハスの表面ですが、水を流すと汚れが自動的に取れてきれいになります。ハスの表面はマイクロ構造とナノ構造になっていると同時に、トランスワークスという化合物そのものです。ハスはその特殊な物質と構造によってセルフクリーニングの効果を高めています。

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 これからは主題に入ります。皆さん、ご存じのように、ハスの表面には超撥水性があります。Youngの方程式というのがありますが、基本的に接触角度が 90度より大きいか小さいかで親水性と撥水性とに分かれています。撥水性によって、水は表面を滑らかに流れます。その角度が、スライディングアングルで す。

 超撥水性の場合は、接触角度が150度より大きいときです。そのときのスライディングアングルは10度より小さくなります。このことが非常に重要です。表 面構造はまっ平らなのではなく、でこぼこになっており、そのでこぼこの表面には液体と気体と固体の酸素があり、表面そのものは低い表面エネルギーを持つ材 料でできていることが分かっています。

 これは実際ハスの表面を原子顕微鏡で観察したものです。その表面には、6μmと9μmの壺があります。液体と固体という2つの層があるでこぼこの表面の場 合は、Youngの方程式は使えず、かわりにWenzelの方程式が使われます。また、液体と気体と固体という3つの層がある場合はCassieの方程式 が用いられます。一般にはこの2つの状態が混ざっています。

 初めてこのロータスの表面を観察したのはドイツ人生物学者です。彼はマイクロ構造は非常に重要だと結論付けています。彼は観察に普通の原子顕微鏡でも非 常に真空度の高い原子顕微鏡を使いました。従って、観察された構造と自然の状態とはかなり異なっています。われわれは Wenzel方程式とCassie方程式を組み合わせて計算した結果、実験結果とかなり差があることが分かりました。そこでわれわれは環境走査型電子顕微 鏡(Environmental SEM)を使って再観察を行いました。この電子顕微鏡は普通の大気圧とほぼ同じ真空状態で観察できるので、ほぼ自然状態のままの構造を観察できます。その 結果、マイクロ構造に加えてナノ構造も見つかりました。また平らなところにこのようなナノファイバーも観察できました。

 これは全部ハスの表面のトランスワークスという化合物でできたものです。その構造を究明するため、われわれはKoch曲線を用いて構造計算をしました。 そして100ナノ位の構造ができれば、実験結果を説明できることが分かりました。そこでわれわれは100nmのカーボンナノチューブを使って、表面にフッ 素ポリマーをコーティングして超撥水性と撥油性の両方の特性を持つ表面を人工的に作りました。皆さんは多分こういう質問をされるでしょう。100ナノメー ターには物理化学的にどういう意味があるでしょうか。

 ちょうど同じ1999年頃に、アメリカ人科学者は水の水素バンドがどのように1つの固体を回すか、あるいは2つの撥水性の固体の間にどの位の間隔があれば 水が入り込めるかについて研究していました。彼はこのような式を使って計算しました。室温で1大気圧の場合はこういうカーブになります。このカーブでは、 2つの撥水性の固体の間の距離が110nm、つまり1100Åくらいなら水が入れないということが分かりました。これがなぜハスがこういう構造を持つかと いう科学的なバックグラウンドです。

 自然はマイクロ構造とナノ構造を併せ持っています。われわれは初めはナノ構造だけのものを作ろうとしました。なぜ自然は2つの構造を併せ持つのか。それ を解明するためにハスに似たようなカーボンナノチューブの薄膜を作ることにしました。マイクロ構造の中にたくさんのカーボンナノチューブがあるので、その 表面をもう1度フッ素ポリマーでコーティングし、側面をパルスレーザーで削り、非常に大きい面積のハスに似たような超撥水性のある薄膜ができました。

 単なるナノ構造とマイクロ構造・ナノ構造が組み合わさった構造はどう違うか、そのスライディングアングルを比較すれば、違いが分かります。マイクロ構造と ナノ構造が組み合わさった表面では水が流れやすく、ハスの表面の汚れやほこりを全部水できれいに流すことができます。スライディングアングルが3度くらい になったら、水滴は流れ始めるのです。

 つまり、ハスのセルフクリーニングのメカニズムはマイクロ構造とナノ構造及びトランスワークスという表面化合物の相乗効果によって解明されました。

 超撥水性の論文は毎年増えています。去年は1日1本の割合で論文が出ています。われわれのほか全世界の何十カ国のグループがこのような研究をしています。

 これは前にも触れた蚊の例です。植物のハスの例だけでなく、昆虫の例も見てみましょう。これは偶然の話ですが、われわれは偶然血を吸うときの蚊の目を見ま した。蚊の目は直径が16μmで、たくさんの個眼から構成される分割不能の複眼である上にナノ構造を持っています。このナノ構造のScale Barは100nmです。ここでもまた100nmが出てきました。

 自然のルールは厳密なものであり、きちんと守られているのがそのナノ構造であり、100nmです。それはどういう機能を持っているでしょうか。われわれは 水が溜まりそうで曇っていて霧のかかっているようなところにいる蚊を調べてみましたが、目には滴一滴も溜まっていないのです。これはなぜか。蚊は水辺や湿 気の多いところに生息しているので、ほかの昆虫に食べられてしまわないために、目を曇らせないようにしているのではないでしょうか。

 われわれは似たような構造のものを作りました。やはり超撥水性を持っています。その研究論文は「Advanced Materials」に掲載されました。「Nature」の Materials Highlightにもなりました。

 次に米の表面についてお話します。おもしろいことに米の表面の水滴はまん丸の形ではなく、楕円形です。米の表面のマイクロ構造を観察しますと、水平方向と 垂直方向ではそのマイクロ構造の並び方が異なっています。一方は整然としており、もう一方はランダムになっています。水は整列された水平方向に流れやす く、整列されていない垂直方向に流れにくくなっており、また垂直角度も異なります。これに似たようなものをカーボンナノチューブで作成して調べたら、垂直 と平行の垂直角度の差が9度であることが分かりました。ハスの表面の場合も同様、マイクロ構造の並び方によって、水の流れる方向が決まることが分かりまし た。

 ほかにも自然からいろいろ学ぶことができます。これはアメンボです。彼らは水の上を走ることができます。その足の持つ特殊 な構造を観察したところ、なんと足の上に何十万本のマイクロ針が付いており、それぞれの針はらせん状のナノ構造になっています。その構造の半分の幅がまた 100nmぐらいです。

 アメンボがいつも口で足に油を塗りつけているのは表面エネルギーを小さくするためです。この2つの特殊な構造の働きによって、アメンボは水の上を走ることができることが分かりました。

 これはSEMで撮影した写真です。こちらはAFMで観察した映像です。非常にきれいならせん構造が見えます。足が水の中に入っているにもかかわらず、体 は水面に浮いていることが分かります。実は足が水面にすごく大きいな穴をつくっています、その重さはほぼ昆虫自身の体重の15倍以上になります。

 この話はまだ続きます。こんどはハスの新しい結果をお見せします。ハスのこの部分には周りの水を入り込ませない機能があります。それはその表面にマイクロナノ構造があるからです。端の部分は米と似た構造です。この構造では水はその中に入れません。

 これをわれわれがどのように応用するかについてですが、たとえばわれわれがお酒やお茶やビールなどを飲むときに、たまに口からこぼしたりします。もし唇がこのような構造であれば、飲み物はこぼさないかも知れません。

 自然界からの発見はまだあります。つぎの例はチョウです。チョウの体の表面も同じ超撥水性構造になっています。この構造によって水滴は決まった方向へしか 流れません。ほかの方向には水滴は動かないのです。この効果はまたマイクロ構造とナノ構造との組み合わせによるものです。この表面には長方形のマイクロ構 造があります、このマイクロ構造の上に、AFMのイメージ写真で示したように、針のようなナノ構造があります。これらはすべて同じ方向に並んでいて、水は この方向に流れやすいのです。違う方向には流れにくいのです。この構造があるからです。

 水がある決まった方向に流れて、それ以外の方向には流れない現象を異方性流体系と呼び、人工的にも作成できます。作成された構造の方向によって超撥水性が変わります。

 多くの観察によって2つのことが分かりました。一つはマイクロ構造とナノ構造および低表面エネルギー材料が超撥水性にとって重要であるということです。 もう一つはマイクロ構造とナノ構造の並び方の形状とその方向によって、親水性あるいは超撥水性の状態を変えることができるということです。

 これまで話したことはすべて自然からの発見です。そこからわれわれが何を発明したかについてですが、作成ではカーボンナノチューブを用いるのがもっともよ いのですが高価です。かわりに普通の高分子を用いることも可能です。同じマイクロ構造とナノ構造を持つ撥水性高分子を作れば超撥水性構造ができます。低親 水性の高分子を用いても同じことができます。この方が安価です。たとえば多くの接触角度65度以上の高分子をたくさん使ったら完全に超撥水性の物質を作る ことができます。

 安価なものを大量につくることができるか。たとえばElectrospunとFree Separation One-step Coatingの2つのテクニックを使えば大量にフィルムを作ることができます。

 もう一つおもしろいことは、ヤモリの足の強い粘着力についての研究です。ヤモリの場合は固体と固体の粘着力ですが、われわれは固体と液体の間の強い粘着力 をどのように作成できるかについて研究しました。粘着力はまだ弱いのですが、これまでにわれわれはこのようなキューブ状のポリマーのPSナノチューブを作 成しました。キューブに超撥水性を持たせました。逆さまでも水滴が落ちないような粘着力は超撥水性による効果です。この論文はAdvanced Material誌で発表しましたが、Nature誌のMaterials Scienceでもハイライトされました。これは粘着力についての研究結果です。

 このような特殊表面に付着した非常に小さな水滴を別の表面に落とすようにコントロールできます。磁場あるいは電場で制御します。フィルムの中に磁気を 持ったナノ粒子を入れて磁場をかけるとその水滴は簡単に浮きます。しかも表面には何も付着しないことが分かります。No Lost Transportationといいます。

 ほかにもいろいろな機能があります。全pH範囲で安定した超撥水性あるいは導電性の表面、および磁性と導電性を同時に持つ表面を作成できます。

 これまで分かったことは、マイクロナノ構造では親水性と撥水性を同時に増大させることができるということです。組み合わせによって、撥水性と親水性を切り 替えることができます。また撥油性と親油性を組み合わせると新しい超親油性や抗親油性を持つ物質ができます。

 作成上4種に分類しました。超撥水性と超撥油性、超親水性と超親油性です。超撥水性と超親油性をSuper Amphiphilicityといい、その反対の超撥油性と超親水性がSuper Amphiphobicityです。これらの作成システムは切り替えることができます。このシステムをコーティングで構築しました。化合物の表面エネル ギーにより表面の超親油性、超撥油性、超親水性と超撥水性が変わります。異なる化合物を用いて全種の表面を作りました。

 たとえばこのような超撥水性と超親油性を併せ持つ表面はジーゼルオイルを用いて溶かすことができます。ジーゼルオイルと水を一緒にこのフィルターに垂らすと、水は上、ジーゼルオイルは下に簡単に分離します。

 同じものでも、なにか刺激があると性質が変わります。たとえば温度により、高分子の性質が変わるので、当然超撥水性と超親水性はともに変わります。マイ クロナノ構造の上にこのような高分子をコーティングしているので、温度によって超親水性と超撥水性を簡単に何回も切り替えることができます。

 この論文が発表された週にScience誌ではSuper Switcherという言葉を作りました。この論文はJACSの表紙を飾りました。このようなシンボルを用いました。太陽は超撥水性、月は超親水性という シンボルです。編集者はこのシンボルの意味を理解しまして、「The yin and the yang represent the two opposing fundamentally properties of nature and the universe in ancient Taiji Chinese philosophy」と説明しています。反対の性質をもつ陰と陽は1つの表面で作成できます。超撥水性と超親水性は反対の性質ですが、表面の粗さと化合 物の修飾によって同時に一つの表面上に作成できます。

 この発想は画家も用いています。ピカソの有名な絵はそうなっています。反対側の見えない顔を表に見えるように描いています。つまり顔の両方が見えます。 それがピカソのアイディアです。裏側と表側の面を同時に見ます。この絵を見るとダイナミックな立体感を感じさせます。ではピカソはどこから習ったのかとい いますと、それは世界地図から学んだのです。地図を書くときの地理学者と同じ発想です。世界地図の書き方はオレンジを食べるときの皮の剥き方からヒントを 得たと言われています。

 他分野からアイディアを得るのはとても大切です。これまで話したように、科学分野にもいろいろな材料があります。pHや温度を変化させたり、あるいは光や 電気的な性質を変えたりして、いろいろ自然界にないものを作成できます。たとえば前に述べた高分子を用いて、pHに左右される表面や温度とpHの両方に同 時に左右される表面をつくることができます。また温度とpHとグルコースに同時に左右される表面も作成できます。

 今後は、自然界からもっと重要なことを学びたいと思っています。自然界をモデルにして、材料だけではなく、材料システムや物質システム、無機と有機のハ イブリッドの研究です。ナノ、マイクロ、ミリ、センチというマルチスケールあるいは多次元の分子から液体、気体、固体が同時に存在する材料の研究です。

 今まで話した親水性と撥水性および2つの対立する物性の研究はすべて私が中国に帰国した後の研究です。対立する物質はいろいろあります。こうした研究がまたつぎの物性研究に役立つことを期待しています。

 以上の結果は私の学生や大勢の共同研究者が中国科学院およびNSFC、MOSTの科研費を受けながら行った研究です。以上です。ありがとうございました。


藤嶋: クマの毛があのような構造になっていて、どうして防寒服なのですか。

江雷: この写真はあまり鮮明ではありません。私はこの分野の専門家ではないので、簡単に質問を答えられませ んが、おそらく反射ですね。マイクロからナノまでいろいろな直径の体毛があって、その反射によって熱を外に出さないようにしているのではないかと思いま す。また、体毛の中には脂肪があります。その脂肪が熱に転換したり熱を遮断することもできます。

 あくまでこれらはわれわれが人工的に作成したものです。いろいろなサンプルがあります。かなり反射しているものもあります。細かい研究はまだしていません。

 これからも研究は続きます。あさって学生が日本にきます。藤嶋先生が研究なさった酸化チタンを使って実験する予定です。

藤嶋: ほかにいかがでしょうか。

松浦: 非常におもしろい話でした。先ほど60度の材料が微細構造から超撥水性になるという話がありました。そのメカニズムは何ですか。

江雷: Youngの方程式によれば90度が親水性と撥水性の分かれ目ですが、実際にはこの角度が大きすぎるのではないか、間違いかも知れないと思っています。では、なぜ90度なのかといえば、cosθがゼロになればYoungの方程式は物理的に意味がなくなるからです。

 実際に分子間の引力や水の表面張力、応力を測定すると、水中の角度はちょうど65度前後がいいようです。多分これから教科書が訂正され、親水性は65度以 下、撥水性は65度以上になるでしょう。これはわれわれのグループのみで出した結論ではなく、他の3つのグループも同様の結論を得ています。Youngの 方程式がなぜ意味のないcosθを用いるのかは分かりません。それは数学の問題で、物理ではありません。

藤嶋: ほかにいかがでしょうか。長岡から来ていただいた古谷先生、どうぞ。

古谷: 大変におもしろい話をありがとうございました。水滴の大きさとそれから100nmのマイクロ構造との関係はどうですか。ある程度の大きさがないとああいうことは起きないのですか。

江雷: 接触角度を測るとき、水滴が小さいほど垂直度が高くなります。一般的にわれわれは5μl±1μlを標 準としています。ただし、大きな水滴、重くて水玉が水の表面より深く入った場合は、この100nmの構造はもう通用しません。実際100nmの構造は、大 気圧より大きい場合にはこの位置がこちらに動きます。また温度が高くなる場合には、こちらに変わります。常温常圧ではこの100nmの構造を保てますが、 そうでないときには原理が変わります。たとえば高い温度の水につければすぐ濡れますし、また高い圧力をかけるとすぐ濡れます。

古谷: その辺の構造との関係はいかがですか。

江雷: それはこれから詳しい研究が必要ですね。

藤嶋: 非常におもしろい研究をずっと続けていて、今日発表した論文はこれも本当に世界の超一流の論文誌に ずっと出し続けているということで、そのアイディアはすごく豊富だと驚くわけです。しかも実際のものにも応用していこうということで、今後ますますいろん な研究をやってもらえばいいなと。まだ43歳ということですから期待したいと思っています。

江 雷

江 雷:中国科学院化学研究所教授

略歴

65年、吉林省に生まれる。 
83年、吉林大学物理学部固体物理学科入学。 
90年、吉林大学修士。 
92年、東京大学藤嶋昭研究室に国費留学。 
94年、東京大学博士。同年から東京大学ポストドクトラル。 
96年から神奈川科学技術アカデミー専任研究員。 
99年4月、 中国科学院百人計画」 に選ばれ、同年から現職。現 在、国 家科技部 「863計画」(ハイテク研究発展計画) ナノ科学技術専門家グループリーダー、国 家ナノ科学技術センター首席科学者、分子科学センター学術委員会副主任、中国科学院ナノ科学センター副センター長、 吉林大学客員教授、北 京市科学技術委員会ナノ材料専門家グループリーダー、中 国光触媒製品標準化委員会委員長などを兼務。
専門分野は機能界面材料、有機・無機ナノ複合材料、光電子変換材料、SPM材料。 
「中国化学会青年化学賞」、「中国科学院10大傑出青年」、「国家自然科学基金委員会傑出青年」、「中国科学院百人計画優秀賞」、「中国化学会青年知識イノベーション賞」、「中国青年科学技術賞」等 受賞。


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