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【08-007】政治体制改革の成果とその趨勢~「中国における政治体制改革の方向性」講演録~

李 君如(中国共産党中央党学校副学長、教授)  2008年6月20日

 本稿は、中国共産党中央党学校・李君如副学長が2008年5月19日、政策研究大学院大学(GRIPS)主催・科学技術振興機構 中国総合研究センター後援の「中国における政治体制改革の方向性」に関する講演会での講演録をまとめたものです。

ご来賓の皆様。先ほど議長は私に、皆さんが中国の改革開放、特に政治体制の改革と民主政治の整備に大きな関心を抱いていると話されました。それは当然のことだと思われま す。と申しますのは、政治体制改革はわが国の全面的な改革の重要な一環として、経済と社会の発展に伴って絶えず深化し、人民大衆の政治参画意欲の向上に 伴って絶えず推進されなければならないものだからであります。実際に、中国共産党はこの問題を非常に重視しております。昔のことはさておき、去年開かれた 中国共産党第十七回大会においても「人民民主は社会主義の生命である」ということが強調されました。この前開かれた中国共産党第十七期中央委員会第二回全 体会議では、人民民主の旗印をより高く掲げることが一歩進んでうち出されました。

 したがいまして、私は今日、「政治体制改革の成果とその趨勢」という題目で講演したいと思っております。

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 多年来、中国の改革は経済体制の改革に端を発し、中国の改革は主として経済体制の改革であるという説がつねに唱えられてきました。中国ではこれまで政治体 制の改革が行われなかったかのようにいわれます。しかしこれは大きな誤りです。その説を唱える人々は、ある基本的な事実を見落としています。その基本的な 事実とは、当時、行われた真理の基準問題をめぐる討論こそが、思想を解放する雰囲気作りに一役買い、民主政治の発展を促す地ならしをし、中国共産党第十一 期中央委員会第三回全体会議における改革の提起につながったというものです。鄧小平先生の名著——『思想を解放し、「実事求是」(事実に基づいて真実を求める)の態度をとり、一致団結して前向きの姿勢をとろう』を 読んでいただければ、中国の改革が当初から、民主政治の推進の下でスタートしていたことがおわかりいただけるでしょう。わが国は十数億の人口を有する大国 であり、わが党は数千万人の党員を有する大きな党であるため、多様な意見が存在しています。それゆえ、中国で改革開放と近代化を進めるには、民主を離れる わけにはいかないし、民主を秩序正しく推進しなければならないのです。

 なぜあれだけ多くの人が中国の政治体制の改革に対し誤解を抱いたのかという点について、その重要な原因の一つと考えられるのは、これまでわれわれが鄧小平 先生の思想を研究する際に、戦略的な思想の研究に多くの注意を払い、その改革を指導する戦術的な思想を十分に研究してこなかったという理由が挙げられます。この30年にわたる中国の改革開放の実践をみれば、中国共産党は鄧小平先生の時代から、政治体制の改革を推進する過程において、戦略を立て、同時に戦 術も練ってきたことがわかっていただけるでしょう。戦略と戦術を結びつける観点からみると、少なくとも次の八つの特徴に留意し、またそれを重視すべきです。

 一、政治体制の改革と経済体制の 改革を結びつけ、経済体制改革の名目で推進していること。実例としては、世帯単位の生産量連動請負制を実施した際、かつて中国の「3枚の赤旗」の一つとさ れていた人民公社制度を撤廃し、郷政権と県人民代表大会常務委員会を設立するとともに、県または県クラス以下の人民代表を直接選挙によって選出することに なったという点が挙げられます。実は、この30年来、中国の政治体制の改革は経済体制の改革に合わせて進められ、一度も停止したことはありませんでした。 当面、実施されている行政管理体制の改革にも同じ特徴が見受けられます。「大部制」改革と呼ばれているこの国務院機構の改革は、行政管理体制改革を深化さ せる重要な措置でありますが、これは社会主義の市場経済を発展させる必然的な要請であり、政治体制改革を推進する重要な一環であるとともに、社会主義の民 主を発展させる重要な内容でもあります。とりわけ、今回の改革は政府機能の転換を軸に、サービス型政府・責任政府・法治政府・廉潔政府の整備に努め、権力 制約の原則に則って政策決定権、執行権と監督権の相互制約・協調メカニズムの形成に取り組むことになっておりますが、こうしたことは社会主義の民主を充実 させるうえで極めて大きな意義をもっています。

 二、民 主の発展と法秩序の整備を結びつけ、民主の制度化と法律化を強調し、法による治国を堅持していること。「文化大革命」時期に現れた、民主イコール無政府主 義と見なす状況や、中国の社会に長期にわたって存在している国粋主義の暗流に対して、鄧小平先生は改革開放の実施当初から、民主の制度化と法律化を強調し ていました。この30年来、われわれは憲法の改正と整備に取り組み、憲法と民主の精神に合致しない条文と法規を撤廃し、刑法、民法、刑事訴訟法、民事訴訟 法など一連の法律・法規を制定したほか、弁護士制度をつくり、また公正・高効率・権威ある司法制度の確立や、裁判機関と検察機関が法に基づき裁判権と検察 権を独立・公正に行使することを確保するための司法制度改革を行いました。数千年にわたって形成されてきた人治社会は、法治社会へ転換しつつあります。

 三、政 治体制の改革と人権の尊重や保障を結びつけ、法に基づいて社会構成員全体の平等な参与、平等な発展の権利を保証していること。中国共産党第十一期中央委員 会第三回全体会議以来、われわれは混乱を収拾し、正常な状態に戻すことによって、これまでの政治運動で生じた人権蹂躙現象を徹底的に是正し、冤罪・でっち 上げ・誤審事件に対して大規模な再審査を行い、名誉回復に努めてきました。改革開放以来、経済を発展させ、公民の生存権と発展権の保障に努めてきただけで なく、公民が多形態の非公有制経済事業を創立することを許可し、これを支持するとともに、新たな社会階層の政治的身分を「中国の特色ある社会主義事業の建 設者」と定めています。また、身分証明書制度を導入し、公民が他市においても自由に職業選択をすることを許可しています。さらに、法に依拠した出入国制度 を実施し、公民が海外へ留学や旅行することを許可しました。ここ数年、民主制度をさらに健全化し、民主の形態を充実させ、民主のルートを広げ、法に基づい て民主的選挙、民主的政策決定、民主的管理、民主的監督を推進することにより、公民の知る権利、参画権、意思表示権、監督権を保障するよう努めてきまし た。これらの変革は公民の人権を保障すると同時に、中国社会を内側から活力づける働きをしています。

 四、民 主・法制の発展を末端における大衆自治制度の整備や民生改善と結びつけ、人民大衆が改革を通じ、直接的な実益を手にするようになったこと。郷・村、コミュ ニティーや、企業では村民委員会、住民委員会、職員代表委員会など大衆自治組織を幅広く設立することが中国の政治体制の大きな特徴であります。改革開放以 来、われわれは広範な農村において、村民委員会の村民による直接選挙制度及び郷鎮改革テストを実施しただけでなく、政務の公開、村務の公開などの制度を遍 く実施しました。コミュニティー整備にも著しい進展が見られました。さらに、末端の民主づくりは、民生改善を重点とする和諧社会作りとも有機的な結合を深 めており、広範な大衆がこれを擁護しています。

 五、執 政党の法による執政と参政党の法による政治参加とを結び付け、中国の特色ある政党政治を完備させていること。皆さんの中には、中国の民主党派の政治参加が どういった意味をもつのか、よく理解しておられない方も多いことでしょう。私どもの政治枠組みにおいては、中国の八つの民主党派と全国工商業連合会は執政 党ではありませんが、参政党にあたります。参政の基本点は次の四つに集約されます。

  1. 国家政権に参加し、国家と政府の指導的職務や検察、裁判機関の指導的職務を担当すること。
  2. 国の重要な政策・方針や国家指導者立候補の人選の協商に参与すること。
  3. 国家事務の管理に参与すること。
  4. 国家の方針、政策、法律、法規の制定や執行に参与し、特に人民代表大会、人民代表大会常務委員会及び人民代表大会専門委員会における民主党派と無党派の人民代表大会代表の割合を規定すること。

 こうしたことはすでに中国共産党中央委員会の一九八九年度文書の中で定められております。ここ数年、執政党の支持のもとで、中国の民主政治における参政党の役割はますます大きくなってきました。

 六、共 産党の党内民主を人民民主と結び付け、党内民主によって人民民主を促進していること。中国共産党は大きな党であり、七三〇〇万人余りの党員を有し、ヨー ロッパの多くの国の人口数を上回っています。党は先進性を保ちながら、社会全体の民主政治の発展を導く過程において、その先進性を具現するために、党内民 主を積極的に推進しなければならなりません。中国共産党はすでにこの問題の重要性と緊迫性を十分に認識しております。中国共産党第十七回全国代表大会で は、党員の民主権利の保障、党代表大会制度の充実化、民主集中制の厳格な実行、党内の選挙制度の改革などの面で一連の革新的な構想や措置が提出されまし た。特に幹部の選抜任用の面において、終身制を撤廃し、民主を原則とする幹部任免制度を充実させ、品性と才能を兼ね備えた多くの公務員に対し、競争による 昇格のチャンスを与えたなどが挙げられます。こうした党内民主に関する諸措置によって、広範な人民大衆にも民主的な知る権利、参画権と監督権が提供されま した。

 七、党 内監督、行政監督、法律監督と公民の直接監督を結び付け、公民による世論監督と投書・陳情訪問受理制度を確立し、充実させたこと。中国共産党第十一期三中 総会の大きな功績の一つは、中央紀律検査委員会を再建したことです。ここ数年、党内監督面において、一連の制度上の改革が行われ、党内監督と大衆による摘 発が結び付けられて、著しい効果をあげました。とりわけ、マスメディアが監督の一翼を担うようになったことは、中国の民主政治の発展に大きく寄与していま す。

 八、選 挙票決民主と協商民主を結び付け、公民の秩序整然とした政治参画形態を充実させたこと。人民は選挙、投票を通じて権利を行使し、人民内部の各方面が重要な 意思決定を下す前に十分な協義を行い、共通の問題について、できる限り合意に達するようにすることが、わが国のめざす社会主義民主の二つの重要な形態であ ります。改革開放以来30年間、中国の選挙票決民主は絶えず整備され、発展しつつあり、公民自治組織内における直接選挙制を実現させただけでなく、その他 間接選挙を実行している分野においても、差額選挙を拡大し、立候補者の指名方式を充実させました。とりわけ党内民主の発展のプロセスにおいて、末端党組織 の指導グループのメンバーの直接選挙と中央、地方の党委員会の差額選挙の範囲を拡大し、無記名投票によって立候補者を推薦するなどの民主形態を実施しまし た。それと同時に、中国の協商民主もさらに充実し、発展しています。とりわけ中国人民政治協商会議という中国特有の

 重要な民主政治形態は、政治協商、民主的監督、国政への参加と審議という三つの機能にもとづき、中国の各党派、各業界、各民族の政治協商委員が党と政府の 重大な政策決定以前及び政策執行過程において、民主的協商、民主的監督に積極的に参加することを推進、組織し、顕著な成果をあげました。各級政府も民主的 懇談会、公聴会などの制度をすすんで実施しています。各人民団体は民主的協商においても、積極的な役割を果たしております。

 ただいま申し上げました民主政治のこうした八つの特徴は、今なお発展のただ中にあるというべきで、すべてがうまくいっているとは言えませんが、この八つの 方面、あるいは少なくともこの八つの方面には、確かに中国政治体制改革の具体的なやり方や重要な特徴が見られます。また、こうしたやり方と特徴は、すでに 30年にわたって中国社会を大きく変えております。中国が経済体制改革しか行わず、政治体制改革に取り組まなかったと考えている人は、これらの基本的な事 実を見落としているばかりか、自ら論理矛盾に陥っているといわざるをえません。なぜなら、彼らが決め付けてきた「高度集権による専制社会」において、なぜ 公民が市場経済の中で自由に発展することが許され、あれほどまでに成功した市場体系と経済発展を実現し得たのか、その理由を彼らは説明することができない からです。したがって、中国政治体制改革の特徴と趨勢を観察、研究する際に、中国の現実に立脚し、中国の改革実践を客観的、全面的に認識しなければなりま せん。

 ここで、私はもう一点強調したいことがあります。われわれが中国の問題、中国の政治改革を観察する際、何をしてきたかということだけでなく、こうした既成 の事実の中に、中国の政治体制改革と民主政治発展の趨勢をつっこんで観察しなければならないということです。

ここで、私は中国問題のウオッチャー兼研究者として、改革開放以来、中国が政治文明を建設、発展する過程において、三つの注視すべき趨勢が現れているこ とを、皆さんに知っていただきたいと思っています。つまり、公民の秩序ある政治参画、民主の制度化、法律化が、中国民主政治発展の第一の大きな趨勢であり ます。そして、党内民主によって、人民民主を連動させることが、中国民主政治発展の第二の大きな趨勢です。さらに、中国共産党が憲法と法律の範囲内で活動 し、法律と憲法に則って国を治めることを堅持することが、中国民主政治発展の第三の大きな趨勢です。この三つの趨勢の目指すところは明確であり、最終的に 中国において、中国共産党の指導を堅持し、人民の主人公としての位置づけと法に基づいて国を治めることを有機的に統一させた社会主義民主政治体制を打ち立 てることです。

 以上のことは、私がこの数年間、中国政治の発展を観察、研究して得た一部の考えです。私は、中国が民主政治発展の面で、すでにうまくいっているとは思って おらず、逆に、中国の民主政治はスタートしたばかりであり、中国の政治改革はこれからも深化し続けるべきだと考えております。しかしながら、中国でなされ るいかなる改革も、中国の実際に根差してこそ、はじめて健全な、秩序立った発展を遂げることができるといえます。中国の歴史と中国の今日の国情に合わせ、 われわれが力を入れて模索すべきは、真に中国人民に安定と幸福をもたらす政治体制と民主政治形態にほかなりません。民主政治の問題について、われわれは他 人に学びながらも、みだりに自らを卑下することなく、また積極的に推し進めながらも、盲目的な発展を求めたり、功をあせったりすることはしません。われわ れ中国人は、経済の面で世界の耳目を集める奇跡を創ることができたのですから、政治の面においても、時代の発展の進歩的潮流に沿って、鮮明な中国の特色を もつ民主政治体制を創出することができると、私は確信しております。

 ご静聴どうもありがとうございました。

李君如

李君如:中国共産党中央党学校副学長

略歴

1947年5月、浙江省に生まれる。 
上海師範大学政史学部卒業。 
中国共産党中央党史研究室室員、副主任、中国共産党中央宣伝部理論局副局長、上海社会科学院院長補佐などを経て、現在、全国鄧小平理論研究会副会長、中国国際交流センター理事、中 国改革開放フォーラム副理事長、中国人権研究会副会長、中国共産党中央党学校副学長、教授。 
03年3月-07年12月、第10回中国人民政治協商会議委員。


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