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【18-04】中国での研究スタートアップとラボからみた中国の研究力

2018年12月14日

松尾豊

松尾 豊:中国科学技術大学 化学及び材料科学部・教授

略歴

大阪府出身。2001年大阪大学大学院博士課程修了後、東京大学で助手、科学技術振興機構ERATOグループリーダー、特任教授を経て、2016年より現職。有機材料を駆使した新型太陽電池の創製を目指している。

 私は,研究の幅,価値観や経験の幅,人脈の幅を広げるために,中国での研究活動に挑戦しました.また,自分に足りないもの,あるいはもっていないものを,新しい場所で埋めよう,得ようとの思いもありました.共同研究を通じてお世話になっていた中国科学院化学研究所の万立駿教授が中国科学技術大学の学長になられ,お誘いを受けていたこと,千人計画の機会,それに東京大学での恩師である中村栄一教授のどんどん外に打って出るべしという考え方に共感していたこともあり,中国に行くことを決断しました.ただ,その時点で日本でもラボや人員などそれなりの風呂敷を広げておりましたので,日本にも非常勤の形で別の所属に職を得て,日本の研究チームを残しました.以前に,万先生が所長を務める中国科学院化学研究所で半年間客員教授を務めた経験があり,中国滞在が初めてではありませんでした.また,東京大学でも多くの優秀な中国人ポスドクや学生と研究をし,私自身の研究も大きく進展したこともあって,その彼らの源流に乗り込んでみようという思いもありました.不安もありましたが,なんとかなると,比較的ポジティブに考えて中国に来ました.

 中国科学技術大学(USTC)は安徽省合肥市に位置します.最新のTimes Higher Education Rankingでは前年の134位から93位に順位を上げた,勢いのある大学です.科学技術で国に報いるというようなスローガンから,大学に所属する者の本気度を感じます.USTCに化学のラボを立ち上げ,有機材料化学の基礎研究を行っています.同時に,東京のラボでは,有機太陽電池デバイスの開発研究を行っています.2016年4月にUSTCに着任しましたが,USTCでは2年半で既に博士課程学生が5名,修士課程学生3名が在籍し,共に研究に打ち込んでいます.USTCが中国の地方都市に位置するためか,学生は概ね素直で真面目で,努力家です.そのため学生の成長の度合いは大きく感じられ,私自身嬉しく感じています.この印象は大学院生(中国では,研究生)の印象で,学部生(本科生)は鼻っ柱が強く,優秀で,半分以上は日本の大学院も含めた海外の大学院に出ます.教員や親もそれをサポートします.日本の大学生も,そのようにもう少しは海外の大学院に行ったほうがよく,教員もそれをサポートすべきでは,と考えさせられます.

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中国のメンバー,日本のメンバー合同の食事会

 中国で研究室をもつというと,ふんだんな研究費で設備もすごいという印象を持たれることもあります.先日,国の研究予算は日本の6倍ほどという記事を見ました.しかし,その分人数も多いので,研究設備に関しては,目玉を除いては日本と同等か,まだ日本のほうが進んでいるかなというのが正直な感想です.最近,中国では論文数や引用数が劇的に増えていて,日本は大丈夫かという議論を目にします.日本の先生がたは,オリジナリティのある面白い研究をされているのに,これはなぜだろうと思っていました.中国に来てみて感じたことは,研究資金がそれを可能にしているというよりも,「人」であるということです.若手千人計画で中国に戻ってきた中国人教員は概して優秀で,論文作成の技術も意欲も高いです.学生の定員の数は厳密ですが,教員の数に関してはおおらか(?)で,千人計画で学部に毎年受け入れる若手教員分,増えているように感じます.ここで学部は候補者を選考する権利はなく,中央で一括して業績など客観的指標でもってしがらみなく選考されます.受け入れる側にもメリットがあり,それで予算が下りてきますし,組織の評価にも繋がるようです.既に在籍している教員にとっては学生の配分数が減るわけですが,全体でみると,論文の書き手が増えています.若手千人計画では手厚い予算や報酬を施しており,そういった意味では元をたどると研究予算に行き着くわけですが,装置や設備よりも「人」に対する投資を現場では感じます.

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工事を終えたばかりの時のラボ

 中国で研究グループを作って研究活動を始める場合,もちろんスタートアップ資金が必要です.これは最初の契約に必ず書かれていると思います.空港について,翌日講演を控えてDeanなどと夕食があり,まだ講演をしていないのにお給料はいくら,スタートアップ資金はいくら,と中国らしくいきなりお金の話になったりします.しかし,これは中国では大事なことと思われ,日本のようになあなあでは進んでいきません.スタートアップ資金は当初3年などで,それの次は自分で面上項目や重点項目などの中国の研究予算を取りにいかないといけなくなります.応募の仕方に慣れるためにも,スタートアップ資金があるうちから,そういった予算に応募することがおすすめのようです.また,交渉次第でスタートアップ資金を3年以降に繰り越しできる可能性もあるようです.

 私はホテル暮らしではなく,キャンパス内のアパートを選択しました.やはり自分の家があり,簡単な日本食を料理でき,洗濯機で洗濯できる環境は心休まりますし,経験にもなります.最初,大学の資産であるアパートを見た時,日本の大学の官舎よりもひどいその外観に,こんなところに住めるのか,と思ったものですが,中は意外に綺麗で3ベッドルーム,2バスルーム(120平米)を一人で広々と使えて満足しています.また,せっかく中国に来られたなら,着任した町にとどまるのではなく,たまには時期をみて旅行することをおすすめしたいと思います.しかし,広い中国,どこまで行っても中国だったりもするので,思いっきり遠くへ行くことを提案したいと思います.私は雲南省の大理や麗江,内モンゴル自治区のハイラルや満洲里に行きました.大理や麗江はテーマパークのように半ば作られた観光地なのですが,それをわかっていても楽しめましたし,何より気候が良くて空気が綺麗です.ハイラルは歴史的に興味深い場所なのですが,近郊には中国人の誰もが憧れる緑の草原と青い空があります.満洲里はロシアとの国境の町で,ロシア料理や欧州の雰囲気があり,8月中旬,私は暑さを避けてここで「沈没」していました.町の人の多さに疲れたら,離れてリフレッシュするのもよいと思います.

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ハイラル近郊の草原


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