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【19-02】大学メシからみえてくる中国の大学の強み:孤独的美食家上海版

2019年1月28日

服部素之

服部 素之: 復旦大学生命科学学院 教授

略歴

愛知県出身。2009年東京工業大学博士課程修了後、米国オレゴン健康科学大学、東京大学を経て、2015年より現職、同年に千人計画(青年人材)に採択される。イ オンチャネルを中心とした構造生物学に取り組んでいる。

 私は上海への異動前まで、東京大学理学系研究科の濡木理教授のもとで特任助教をしていました。大学院時代の恩師でもある濡木教授の研究室は非常に恵まれた研究環境にありましたが、ア メリカでポスドクを経験して以来、当時のポスドク同僚たちが自分の研究室を立ち上げていくのをみるにつれ、私も同様にPI(研究室主宰者)として研究をすすめたいとも考えるようになりました。その一方、日 本では30歳前後の若手研究者がPIとして研究室を運営する機会が極めて乏しいこと、また上海出身の私の妻が中国へ帰国を希望していたこともあり、上海近郊を中心にPIポジションにいくつかアプライし、最 終的に復旦大学からのオファーを受けることとしました。

 私の研究テーマとしては、細胞膜を介したイオン輸送をつかさどるタンパク質であるイオンチャネルを中心として、その立体構造解析やそれに基づく作動原理の解明を行ってきました。イ オンチャネルを含む膜タンパク質は、様々な疾患に対する創薬ターゲットとなっており、その構造解析や立体構造に基づく機能制御分子の同定を介して、基 礎科学およびその医学応用の両面から膜タンパク質の構造生物学を推進していきたいと考えています。

 さて、中国の大学の研究環境や日本との制度的な違いは、他の先生方がすでに様々な視点から執筆されているので、本稿ではちょっと違った視点、特にその「食」に 対するこだわりについて紹介させていただければと思います。

 上海に異動して既に三、四年となり、これまでに日本の大学等からの様々なお客様をホストしてまいりました。その方々の中国の大学に対する印象は様々ですが、多くの方々が口にする点の1つとして「 中国の大学の食堂はメニューが多い!」「食堂の数も多い!」「おいしい!」というものがあります。これについては全くもって同意見です。うちの大学に限らず。中国の大学の多くは、日 本と比較して食堂が非常に充実しています。

 それでは、なぜそんなに充実しているのかというと、私の推測ですが、中国の大学の多くでは基本的に学生が学内の寮で生活していることに起因するのではないかと考えています。つまり、場 合によっては数万人の人間が住み、その中で生活が完結するようないわゆる一つの「街」としてキャンパスが存在しているということです。実際、食堂以外にも、例えば、映 画館などの娯楽施設が学内にあることもあります。私の妻も、学生時代に一学期間、学内から一度も出ないで生活したことがあるとのことです。学生さんたちがそこに住み、基本的に学内で食事をするのであれば、そ こでの食事は充実しているべきである、というのがあるのではないかと私は考えています。つまり、腹が減っては戦ができぬ、ということです。

 以下はある日の食堂での私の食事の例です。

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ある日の食堂での朝食: 焼き小龍包、肉まん、もち米シュウマイ、ゴマ団子、豆乳。合計5.2元(約80円)

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食堂での昼食の1例: マーボ豆腐、トマトと卵の炒め物、青梗菜炒め、白飯。合計7.6元(約120円)

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学内食堂夕食の1例: 牛モツ火鍋、白飯。18元(約290円)

 いかがでしょうか。これらをみて「安い!」「おいしそう!」と思われる方も多いのではないかと思います。実際、昨今の物価高騰の影響を受ける学外と比べてもかなり安く、学 内で生活するのであれば1日あたり300-500円程度で食費を済ますことも難しくありません。安さの秘密のとしては、学内食堂には上海市から補助が出ていることが挙げられます。その分、学 生証や職員証を持たない外部の人は学内の食堂で食事ができないようになっています。また、学内の食堂はやはり中華料理がメインですが、日本人は中華料理に馴染みが深く、学 内の食堂内メニューの多くは日本人の口に合うものが多いのではないかとも思います。

 上記に紹介した食堂のメニューはメニューの中でもごく一部で、たとえば私の大学のメインキャンパスでは、他国の料理のコーナー(パスタ、ピザ、ハンバーガー、日本風ラーメン等)もあります。また、よ そからお客様の訪問時の接待用の高級レストランもあり、日本をはじめとする海外からのゲストをお連れしたこともありますが、いずれも好評でした。さらに重要な点として、食 堂の基本的な営業時間は朝7時過ぎから夜9時過ぎと学生さんたちの1日をカバーする時間帯となっており、土日ももちろん営業しています。また、食堂のすべてではありませんが、その一部は、祝日や夏休み、冬 休み中も休まず営業しており、日々学生さんたちの生活を支えています。

 このように大学内部ですべて完結するかのような「食」へのこだわりが中国の大学の大きな特徴であり、学生さんたちの力の源泉とも考えています。さらに、食堂への補助に加え、た とえば大学院生の寮の家賃は年約千元(約一万六千円)という格安設定となっており、住居の面でも中国の学生は恵まれた環境にあります。大学院生には基本的に給与があることなどと加えて、こ れら衣食住にわたる学生へのサポートが発展を続ける中国の大学の強みの一つだといえるのではないでしょうか。

 最後に「食」の話題とは変わりますが、中国でのPIポジションに興味のある日本の若手研究者へのアドバイスとしては「アプライするのであれば必ず40歳になる前に」ということが挙げられます。これは、中 国の海外人材リクルートプログラムである「青年千人計画」への応募条件が40歳以下となっているからです。若手研究者採用の場合、青年千人計画への採択がオファーの条件となっているケースが昨今増えています。ま た、そうでない場合でも青年千人計画への採択の有無でスタートアップや給与の額が大きく変動するので、アプライするのであれば40歳以下が望ましいです。具体的にいうと、青年千人への採択がない場合、ス タートアップが多くの場合300万元(約5000万円)ダウンするため、研究室の立ち上げに高額の資金が必要な分野の人にとっては特に留意すべき点だと思います。


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