田中修の中国経済分析
トップ  > コラム&リポート 田中修の中国経済分析 >  【16-02】2015年の主要経済指標

【16-02】2015年の主要経済指標

2016年 2月 2日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学) 

主な著書

  • 「スミス、ケインズからピケティまで 世界を読み解く経済思想の授業」(日本実業出版社)
  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

 2015年の主要経済指標がほぼ出そろった。本稿では、その概要を解説する。

1.GDP

 2015年のGDPは67兆6708億元であり、実質6.9%(目標7.0%前後、2013年は7.3%)の成長となった。2015年1-3月期は7.0%、4-6月期は7.0%、7-9月期は6.9%、10-12月期6.8%である。しかし、これは前年同期比であり、先進国が採用している前期比の試算では、2015年1-3月期1.3%、4-6月期1.9%、7-9月期1.8%、10-12月期1.6%の成長である。これでみると、一番経済が悪化していたのは1-3月期であり、その後やや持ち直したあと、10-12月期に再び減速傾向にあることが分かる。10-12月期を4倍し年率換算しても6.4%程度であり、実際の経済はかなり減速している。

 これを構成比でみると、第1次産業は6兆863億元、3.9%増、第2次産業は27兆4278億元、6.0%増、第3次産業は34兆1567億元、8.3%増である。付加価値に占める第3次産業のウエイトは50.5%(前年より2.4ポイント上昇)、第2次産業は40.5%、第1次産業は9.0%である。すでに第3次産業のウエイトは50%を超えているのである。

 これを寄与率でみると、最終消費は66.4%(前年より15.4ポイント上昇)である。投資のウエイトは依然大きいものの、成長に対する貢献は消費の方が強くなっているのである。

2.物価

(1)消費者物価

 2015年は、前年比1.4%上昇した。上昇率は目標の3%以内におさまった。食品価格は2.3%の上昇、うち豚肉9.3%、生鮮野菜7.4%、水産品1.8%の上昇であった。非食品価格は1.0%の上昇であった。

 直近3ヵ月では、10月1.3%→11月1.5%→12月1.6%とやや上昇しているが、これは一部地域で気温低下・雨雪の影響を受け、生鮮野菜・果物の価格が上昇したためである。

(2)工業生産者出荷価格

 2015年は原油価格の下落と工業の不振を反映して、5.2%下落した。しかし、直近3ヵ月をみると、10月-5.9%→11月-5.9%→12月-5.9%と、下落率は横ばいとなっている。

(3)住宅価格

 12月の全国70大中都市の新築分譲住宅販売価格は前月比27都市が低下(11月は27)し、4都市が同水準(11月は10)であった。上昇は39であり(11月は33)、最下落は丹東-0.9%(11月は錦州-0.4%)、最上昇は深圳3.2%(11月は深圳2.9%)となっている。

 前年同月比では、価格が下落したのは49都市(11月は49)であった。同水準は0(11月は0)、上昇は21(11月は21)である。最下落は丹東-5.3%(11月は湛江-5.6%)、最上昇は深圳47.5%(11月は深圳44.6%)となっている。

 前月比でみると、都市間の住宅価格分化現象はなお非常に顕著であり、一線都市と一部の二線都市の住宅価格の上昇率はかなり速く、その他の都市より明らかに高い。その他の二線都市は比較的平穏であり、大部分の三線都市は依然在庫消化段階にあり、なお下落している。

3.工業

 2015年は前年比実質6.1%増と、2014年は8.3%増より鈍化した。10月に排気量の少ない自動車への優遇政策が実施されたこともあり、10月5.6%→11月6.2%と伸びが持ち直していたが、12月は5.9%と再び鈍化した。これが10-12月の成長率を押し下げたとみられる。

4.消費

 2015年の社会消費品小売総額は30兆931億元、前年比10.7%増(2014年は12.0%増)である。直近3ヵ月は、10月11.0%→11月11.2%→12月11.1%と11%台の伸びを示しており、特に2015年、全国インターネット商品・サービス小売額は3兆8773億元で、前年比33.3%増となった。インターネットが消費を支えているのである。

5.投資

(1)都市固定資産投資

 2015年の都市固定資産投資は55兆1590億元で、前年比10%増と、2014年15.7%増よりさらに鈍化した。しかし、インフラ投資(電力以外)は10兆1271億元、同17.2%増である。うち、道路輸送は16.7%増、水利21%増、公共施設20.2%増となっており、不動産開発投資の落込みをインフラ投資が支えている。

(2)不動産開発投資

 2015年の不動産開発投資は9兆5979億元で前年比1.0%増と、2014年10.5%増から大きく落ち込んだ。しかし、住宅市場の回復を受けて、2015年の分譲建物販売面積は前年比6.5%増、分譲建物販売額は前年比14.4%増となっている。

6.対外経済

(1)輸出入

 2015年の輸出は2兆2765.74億ドル、前年比-2.8%(2014年6.1%増)、輸入は1兆6820.70億ドル、同-14.1%(2014年0.4%増)となった。ただ、輸入のマイナスが大きいため、貿易黒字は5945.04億ドルであった。輸入の減少要因としては、①輸入原油価格の値下がり、②加工貿易の不振による原材料輸入の減少、③内需の弱さ、が考えられる。

 輸出入総額の伸びを国別にみると、対EU-8.2%、対米0.6%増、対日-10.8%、対アセアン-1.7%であり、対日貿易が大きく縮小している。

(2)外資利用

  2015年は1262.7億ドルであり、前年比6.4%増(2014年1.7%増)である。国別では、日本は前年比-25.2%、米国は同-14.1%、EUは同4.6%増、アセアンは同22.1%増である。 日本の落込みは依然大きいが、2014年の-38.8%よりは縮小している。

(3)外貨準備

 12月末、外貨準備は3兆3303億ドルであった。2014年末に比べ5126.56億ドルの減少である。これは、①その他準備通貨のドルに対する目減り、②資金の流出、③8月以降のドル売り・元買い介入、の3要因が重なったためとみられる。

7.金融

 12月末のM2の伸びは前年同期比13.3%増と、前年末より1.1ポイント加速した。当初の目標は12%以下であったが、7月の株式市場の混乱以降、人民銀行は流動性の供給を強めており、伸びは13%台で推移している。

 2015年の社会資金調達規模は、構成比では、実体経済への人民元銀行貸出は73.1%(前年比11.7ポイント増)、委託貸付は10.3%(同3.4ポイント減)、信託貸付は0.3%(同3.0ポイント減)、企業債券による純資金調達は19.1%(同3.8ポイント増)、非金融企業の株式による資金調達は4.9%(同2.2ポイント増)である。委託貸付・信託貸付はシャドーバンキングの主要な構成要素とされており、このウエイトが下がり銀行貸出のウエイトが上昇したことは、シャドーバンキングから銀行に資金が戻っていることを示している。

8.社会電力使用量

 2015年は前年比0.5%増(2014年3.8%増)である。うち、第1次産業は2.5%増、第2次産業は-1.4%、第3次産業は7.5%増、都市・農村住民生活用は5.0%増であった。

  重厚長大産業の不振を受け、第2次産業はマイナスであるが、第3次産業はかなりのプラスとなっている。

9.輸送

 2015年の鉄道貨物輸送量は33.6億トン、前年同期比-11.9%で、四半期では、1-3月期-9.4%、4-6月期-10.8%、7-9月期-13.9%、10-12月期-13.4%であった。

 道路輸送量は354.5億トン、同6.4%増で、四半期では、1-3月期6.4%増、4-6月期6.0%増、7-9月期5.7%増、10-12月期7.5%増であった。

 日本では鉄道貨物のマイナスばかりが強調されるが、道路貨物輸送は鉄道の10倍であり、かつ伸びもプラスであることに注意する必要がある。

10.所得

 2015年の都市住民1人当たり平均可処分所得は3万1195元であり、前年比実質6.6%増加した。農民1人当たり可処分所得は1万1422元であり、同実質7.5%増加した。農民の収入の伸びが都市住民の収入の伸びを上回り、都市・農村1人当たりの可処分所得格差は、2.73:1と、前年より0.02ポイント縮小した。

 全国住民1人当りの可処分所得は2万1966元、実質7.4%増であり、成長率を上回った。

11.雇用

 2015年の新規就業者増は1312万人で、年間目標1000万人以上を超過達成した。12月末の都市登録失業率は4.05%であり、年間目標4.5%以内におさまった。

 このように、経済が減速しても雇用が安定していることもあり、指導部は大型景気刺激策を発動していないのである。

12.人口構成

 年齢構成では、

①60歳以上:2億2200万人、全人口の16.1%(2014年末は15.5%)

②65歳以上:1億4386万人、全人口の10.5%(2014年末は10.1%)

③16-59歳(労働年齢人口):9億1096万人、2014年末より487万人減少(2014年は371万人減少)、全人口の66.3%(2014年末は67.0%)

 となっている。高齢者の人口ウエイトが急速に高まるとともに、労働人口が急激に減少している。これが中国の潜在成長率の押し下げ要因となっており、1人っ子政策の廃止の理由ともなっているのである。

 なお、都市常住人口の比率(都市化率)は、56.10%(2014年末54.77%)であった。