富坂聰が斬る!
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【13-05】中国賃金事情

2013年12月27日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):ジャーナリスト

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 習近平政権にとって、いま最も大きな社会問題が何かと問われれば、それはやはり格差の問題と答えざるを得ないのではないだろうか。では、現在の中国社会における賃金格差とは、どのようなものなのだろうか。

 その実態を垣間見ることのできる興味深いデータが公表された。

 北京師範大学公司治理企業発展研究中心がまとめた『2013 中国上場企業幹部収入指数報告』(以下、『報告』)である。

 今回の『報告』によれば、調査対象となった全2310の上場企業の幹部社員の収入の平均は、63.61万元(約1081万3700円)で、2008年の調査から約20%の上昇となった。

 気になる格差については、全国都市住民の可処分所得平均(約2.56万元=約43万5200円)との比較で、約25倍という数字を算出している。2008年に行った調査では、これが33倍であったというデータもあるので、格差は幾分縮まったという見方もできるのだが、いずれにしても依然大きな差があることに違いない。

 上場企業における個別の業界での報酬の高さという意味では、相変わらず金融業界と不動産業界がツートップである実態も明らかにされた。

 ちなみに全上場企業中、幹部の年収の平均値が最も高かった企業は不動産最大手の万科だった。その額は1458万3300元(約2億4791万6100円)という途方もない水準である。

 ただ不動産業界がおしなべて高額報酬を実現しているかといえばそうではなく、業界内の格差も凄まじい。

 万科の報酬に対して不動産業界で最低水準であった江蘇省の如意集団の幹部の年収平均は、3.4万元(約57万8000円)と、全上場企業の20分の1程度でしかないことも明らかになった。中国の経済界がいかに凄まじい競争社会であるかを示す数字といえるのだろう。

 だが、この不動産業界とて現在の金融界の高報酬体質に比べればまだかわいいものだというのが、今回の『報告』に対する大半の受け止め方である。

 金融業界だけで見た幹部の年収平均は、232万9500元(約3960万1500円)と業界別で第1位なのは当然として、第2位の不動産業界(101万7500元=約1729万7500円)を2倍以上引き離しているという状況なのだ。この数字は、非金融系全上場企業の平均値の約3.85倍にもなるというから驚きだ。

 金融業界を構成する銀行、証券、保険のうち、突出して年収が高いのが銀行で、平均で253万5300元(約4310万100円)だった。

 前述した都市住民の可処分所得との比較では、全金融業界の平均値は、90倍にもなるというから中国国内で金融業界に対する風当たりが強まるのも無理からぬところというべきだろう。

 そもそも銀行はこれまで、貸出金利3.5%に対して預金者の利子は3%と決められており、黙っていても儲かる仕組みに守られていて、さらにリスクをとって中小企業に貸し出すなどの社会的な責任も放棄し続けてきたとの批判があった。

 その過保護体質ぶりは数字にもきっちりと表れている。例えば、非金融の上場企業の平均利益率が10.35%なのに対して、金融業界に限るとこれが81.83%にまで一気に跳ね上がるのである。

 こうして見てみると、「格差」というものが単純に国有企業社員と出稼ぎ労働者という対立の構造の中だけにあるわけではない実態が浮かび上がってくるのである。