【18-06】米中経済戦争の行方

2018年12月27日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 本連載でも何度も取り上げてきたテーマだが、2018年が暮れようとする年末の原稿だけに、やはり米中という超大国と大国の相克について触れておきたい。

 現状を見る限り、米中軋轢の根本にあるのは、アメリカの中国に対する不満や警戒である。その分野を大別すれば主に貿易不均衡が議論となる経済問題、さらに安全保障、そしてイデオロギーの違いに根差した相互不信となろう。

 西側メディアを中心に「新冷戦」という言葉が躍ったのは、世界史的なパワーシフトが起きることを想定した、やや大げさな反応だと思われるが、ここにある種のアメリカが抱いている危機感が反映されたとみて間違いないだろう。

 背景にあるのは、国際社会における中国の存在感の高まりだ。

 中国の存在感を高めた最大の要因は、いうまでもなく経済力である。「世界の工場」と形容された製造基地の集中で、中国にはあらゆる産業が競って集まった。

 中国には膨大な資金と仕事が流れ込み、富の蓄積が始まった。

 中国に進出した企業の目的は、当初、安価で良質な労働力であった。これを利用することで企業は従来では考えられないコストダウンを実現し、ライバルを蹴落とした。また国レベルで見れば「メイド・イン・チャイナ」の安さは消費を刺激した。

 まさにウインウインの関係だった。その良好な関係は中国が「世界の工場」から「市場」に変貌してゆく過程でも維持されたが、各産業分野での中国企業のシェアの拡大や技術の底上げの後にさらなるテイクオフを目指すという段階に入ると、先進国側の警戒が強まってゆく。

 中国では、2000年代後半から生産年齢人口の減少、労働賃金の上昇や不動産価格の暴騰、公害の深刻化による人々の不満の高まりなど、経済の構造転換への欲求が急速に高まり、これまで高速発展を支えた重厚長大型の産業の行き詰まりも顕著となった。

 発展を次の段階へと導くための突破口として中央政府が力を入れたのが高付加価値産業の育成とIT、そして中国の外に発展エンジンを造り出す「一帯一路」であった。

 だが、これらの動きのことごとくがアメリカを刺激し、両国関係を損なうことになってしまったことは、米中の今後に暗い影を落としている。

 アメリカが中国からの輸入品に関税をかけたのに対抗して中国がかけ返すという応酬の果てに華為技術をターゲットに包囲網的な排除を仕掛けたアメリカの動きは、その一つの結末である。

 だがそれは、米中対立のほんの一断面でしかなく、今後は通貨の決済を巡る攻防、ビッグデータの扱いをめぐる衝突など、通信分野以上に大きな問題となりかねないテーマに両国の関心が移ってゆく可能性も指摘されているのだ。

 この両国の対立をどう予測していったらよいのだろうか。

 簡単なことではないが、あえていくつかの視点を提供したい。

 その一つが、アメリカが中国に向けて繰り出す攻撃が、一定の範囲にとどまるか否かという視点だ。換言すれば、対立に一定のルールを持ち込めるか否か、である。

 では、ルールとは何か。それは中国共産党が合理的な判断を維持できる範囲を逸脱しないことだ。

 例えば、台湾問題などで決定的な対立に入り込めば、習政権は、たとえどれほど大きな経済的なダメージを被っても対決姿勢を崩さないだろう。この場合、アメリカとの対立で経済が氷点下まで冷え込んでも国民の理解は得られるということで、むしろそれをしなければ政権にとどまる資格がなくなるのだから、習近平には選択の余地はないのだ。

 逆にもし、類似する問題にアメリカが踏み込まなければどうなるだろうか。

 中国は間違いなく思い切った妥協策を矢継ぎ早に出してくるはずだ。なぜなら、この段階で中国がアメリカに対抗できるとは中国も考えていないからである。むしろ差は大きいとの認識だろう。

 この前提でもう一度今年の米中対立を振り返ってみたとき、やはり最も興味深いのは10月にハドソン研究所で行われたペンス副大統領の演説である。

 かなり刺激的な内容で、アメリカの中国に対する不満のすべてがあの中に込められていて、一部メディアでは「宣戦布告」とまで表現されたのだが、一方で「今後もアメリカは一つの中国政策を尊重し続ける」という、いわゆるルールを逸脱していないことを示す一文がきちんと盛り込まれていることは注目すべきだ。

 これが11月1日のトランプ大統領と習近平国家主席の電話会談へとつながり、アルゼンチンで開催されたG20での首脳会談実現を可能にしたことは明らかだ。

 つまり来年以降の米中対立が、このルールを維持できるか否かは大きな焦点ということだ。

 そして気になるのが、ペンス副大統領の演説にこの一文言をいれた米側の動機だ。

 かつて中国が〝毒食品〟問題で揺れたとき、アメリカで流行ったのが「チャイナ・フリー」という言葉だった。このときすでにアメリカ人の生活はメイド・イン・チャイナを抜きに回らないことを実感したのだが、このことはいまや世界経済における構造にも反映されている。

 つまり、いくら中国が気に入らなくても無理やり排除しようとすれば、経済的には生木を裂くような痛みが世界を包むことになりかねないのである。


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