【19-01】中国映画『芳華』

2019年3月4日

富坂聰

富坂聰(とみさか さとし):拓殖大学海外事情研究所 教授

略歴

1964年、愛知県生まれ。
北京大学中文系中退。
「週刊ポスト」(小学館)「週刊文春」(文芸春秋)記者。
1994年「龍の『伝人』たち」で第一回21世紀国際ノンフィクション大賞受賞。
2014年より現職。

著書

  • 「中国人民解放軍の内幕」(2012 文春新書)
  • 「中国マネーの正体」(2011 PHPビジネス新書)
  • 「平成海防論 国難は海からやってくる」(2009 新潮社) ほか多数

 中国で、最も遅れて発展する業界は何か?

 製造業の生産基地として「世界の工場」の名をほしいままにした中国は、その「工場」の質を着実に高め、いまや先端技術でアメリカの不興を買うまでに台頭した。

 なかでもIT分野で見せた長足の進歩は、次世代の技術での中国のさらなる台頭を世界に予感させるに十分な役割を果たしたといえるだろう。

 もともとインターネットと中国人の相性は抜群で、アメリカで生まれるニュービジネスへの対応力の高さも際立っていた。

 Uber(ウーバー)がちっとも定着しない日本との差は、その典型だともいえるだろう。

 そんな中国で、最も発展が遅れるのは何だろうか?

 中国を知るさまざまな日本人と議論するなかで、いつも最終的にたどりのが、「ファッションやデザイン、そして芸術ではないか」という結論だった。

 ファッションでは、進取の精神に富んだ中国女性のファッションを指して「遅れる」というのではなく、ここでいうのは男性のファッションだ。

 デザインは、家電製品――とくに白物家電――などで日本がアドバンテージを維持できるのはセンスの分野であり、なかでもデザインだという意味だ。中国人がデザインに関心が薄いという意味ではない。むしろ個性的なものを目指し過ぎて、機能との整合性を失うのではないかとの懸念があった。

 こうした予見が当たっていたのか、否かは読者の判断に任せたいが、加えて芸術に関しては、中国の場合どうしても政治的な要因が発展を阻害するという問題があった。

 社会問題を正面からとらえて作品にすることが難しいのだから当然だろう。

 実際、ファンドを組んで映画製作するスタイルが多い中国では、冒険して宣伝部の審査が通らず「お蔵入り」なんてことがないように、無難な――一時期それは抗日戦争ばかりとなっていた――テーマばかりを扱う傾向が顕著であったのだ。

 だが、そんななかでも映画業界は膨張をつづけ、いまや興行収入は日本の四倍以上という巨大なマーケットに成長した。

 そして莫大な収益を上げるヒット作も続々と生まれている。

 少し前では『戦狼』シリーズがそうであり、今年は何といっても『流浪地球』である。なかでも『流浪地球』は、アメリカで公開され、わずか11日間で興行収入が382万ドルに達したとしてメディアが一斉に大騒ぎしたのである。

 同作の中国国内での成績は、すでに40億元を突破しているというから、凄まじいヒットだ。

 残念ながら筆者は、この作品をまだ観ていないので、中身について評価することはできないが、その前の『戦狼』シリーズは、こういっては何だが、予見した範囲を超えるものではなかった。

 作品の国威発揚の臭さは鼻についたが、『ランボー』なんかと比較すれば許容範囲でもあった。しかし娯楽作品としてそこそこ楽しめたと思ったエンドロールの直前で、「中華人民共和国のパスポートを持った国民は……」とやり始めたときには、思わずのけぞってしまった。

 今の時代、こんなことを真面目にやる人々がいるのかっていうのがそのときの感想だった。

 だが、一方で中国映画にはとんでもない秘めたパワーがあり、実は宝の山だと実感させられることもある。

 先日、訪れた試写会で観た『芳華』である。

 作品のもつ重厚感とみずみずしさに、両面から圧倒されてしまったのだ。

 時代は文化大革命の始まる1966年から現代までを描いていて、まさに半世紀の中国を生きた人々の群像劇となっている。

 歴史をテーマにした作品では、しばしば時代の特徴が主役になって描かれる場合があるが、この作品はあくまで主人公やその友人たちの個性が柱となっている。

 感受性の鋭い登場人物たちの放つ光が、文革という悲惨な時代の中でこそ輝き、そして物質に恵まれてゆく時代の中で、かえって消失してゆくさまは、筆者が見てきたそのままの中国であった。

 この映画に潜む中国映画の力量は、まだまだ発展余地のあることを知らしめたのではないだろうか。


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