【15-04】預金保険制度の設立と金利自由化

2015年 4月21日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 3月12日に行われた全人代の記者会見において、中国人民銀行の周小川行長は中国の金融改革、特に預金保険制度の設立と金利自由化について踏み込んだ発言を行った。

 金利の自由化、資本取引の自由化、為替レートの弾力化と預金保険制度の関係については昨年11月の本コラム「人民元の国際化」 で簡単に述べたことがあるが、今回はもう少し詳しく論じてみたい。

預金保険制度の設立

 預金保険制度について、周行長は「個人的には今年上半期中に設立することができると思っている」と発言した。その後、3月31日に預金保険条例が公表され(条例の公布日付は2月17日)、同条例は5月1日から施行される。

 同条例では、「預金保険基金管理機構」(以下「管理機構」)と言う名称の機関を設立し、商業銀行など預金金融機関が破綻した場合、個人貯蓄預金と企業・単位の預金について同一預金者の同一金融機関における元本と利息を合算して50万元(約960万円)まで払い戻し、50万元を超える部分は破綻金融機関の清算財産から払い戻しが行われると定めている。人民銀行のホームページによると、50万元の払い戻しによって99.63%の預金者に全額保護が提供できるとのことである。また預金金融機関が管理機構に支払う預金保険料率は基準料率とリスク差別料率で構成され、各預金金融機関の経営状況とリスクの状況に応じて管理機構が料率を決定する。さらに、預金金融機関が損失等の原因で資本充足率の大幅な低下を引き起こした場合、資本の補充やレバレッジ率の引下げなどを求める早期是正措置についても管理機構の職責として規定されている。

 以上のような措置によって、金融機関のモラルハザードを防止しつつ、金融機関破綻時に預金者を保護することが可能となる。

金利自由化

 周行長は、同じ記者会見で金利の自由化について「今年チャンスがあれば預金金利の上限を開放することができるだろう。これは皆さんが期待する最後の一歩が実現するということだ。それが実現する可能性は非常に高い」と述べ、金利規制の中で最後に残った預金金利の上限規制を今年中に撤廃する見通しを示した。周行長は、3月29日のボアオフォーラムでも記者からの質問に対し「私は2014年の全人代の記者会見で金利自由化は2年程度の見通しであると述べた」と答えて2015年中の金利自由化実現を重ねて示唆した。

 中国では従来銀行の貸出金利と預金金利の基準金利を人民銀行が決定し、貸出金利は下限が、預金金利は上限が設定されていた。これによって銀行の利鞘が確保されており、銀行は容易に収益を挙げることができた。貸出金利の下限は2013年7月に撤廃され、預金金利については上限が2014年11月に基準金利の1.1倍から1.2倍に、2015年3月には1.3倍に拡大された。

 人民銀行が定める貸出基準金利の1年物は2000年代に入ってから最高が7.47%で、ここ数年は6%前後で推移していた(2014年11月と2015年3月の利下げで、現在は5.35%)。その間、中国の名目GDP成長率は、2000年代に入って2009年を除きほぼ10%以上の成長を示している。これと比べると6%の貸出金利水準は十分低い水準といえる。しかし、貸出金利の上限規制が2004年に撤廃されてからも、銀行の貸出総量の7-8割は貸出基準金利の1.3倍以内に集中してきた。同時期に1年物預金基準金利は3%台に定められていたから、同じ1年で見ると貸出と預金の利鞘は2~3%確保されてきたことになる。

預金保険制度設立と金利の自由化の関係

 貸出金利水準の低さは、人民銀行が基本的に窓口指導という銀行貸出量を規制する手法によって金融政策を行っていることと裏腹の関係にある。貸出量が規制されていることによって大手国有企業など信用力の高い企業に基準金利周辺の貸出が集中するからである。各種金利の自由化も進んでいるが、窓口指導が撤廃されない限り、貸出量のコントロールが金融政策の主要手段という状態は変わらないと見るべきである。中国は資本取引を厳しく規制し、海外との間の資金の流出入を制約しながら国内の銀行貸出量をコントロールすることによって金融政策を行っている。しかし資本取引規制の一部は緩和されており、中国経済の規模が拡大するにつれて、規制しきれない資金の流出入が活発化している。また、資金の効率的な利用や、人民元の国際化を進めるためにも今後資本取引のさらなる自由化は避けられない。資金の流出入が拡大すると、国内の貸出量をコントロールする現状の金融政策の有効性は失われるであろう。これを避けるためには、窓口指導を撤廃し、金利機能を利用した金融政策を行うシステムに移行する必要がある。そのためには金利を自由化し現在のように満期毎に基準金利を定めている方法を廃止しなければならない。人為的なイールドカーブでは市場がバランスする保証がないからである。人民銀行はオーバーナイト金利など単一の金利をコントロールし、イールドカーブは市場で自由に決まるようにしなくてはならない。

 もとより、金利の自由化は、このような金融政策上の要請だけでなく資金のより効率的で有効な利用のためにも求められている。人為的に金利が定められ、貸出量が規制されていると、より高い金利を支払って資金調達したい企業に資金が行き渡らないおそれがあるからである。

 金利自由化と金利機能を利用した金融政策は、資本取引自由化の前提条件である。そして資本取引が自由な状況で、中国の金融政策が海外から独立して決定されるためには、人民元為替レートが変動相場制に移行していなくてはならない。

 このところ中国の名目GDP成長率も低下してきているので、金利が自由化されても全体的な金利水準の引き上げは生じないかもしれないが、銀行間の競争によって貸出と預金の利鞘は縮小する可能性が高い。一方、金利が自由に変動するようになると銀行が直面する金利変動リスクが高まる。さらに人民元為替レートが変動相場制に移行すると為替変動リスクも増大する。銀行収益が減少する一方、各種リスクは高まるため、銀行の経営破たんの可能性は高まる。それに備えるために預金保険制度の設立が必要であった。

 預金保険制度の設立により、金利自由化の条件が整う。預金金利の上限が撤廃される日も近い。しかし、これで金利の自由化が完成するかどうかは今後の運用による。貸出金利については下限が撤廃され、上下双方向に規制がなくなったにもかかわらず、人民銀行は依然として貸出基準金利を公表している。基準金利周辺に貸出量が集中する状況も変わっていない。預金金利についても、人民銀行は同様に基準金利を公表し続け、しばらくの間は現状とほとんど変わらない運用が続く可能性もある。

 とはいえ今回の預金保険制度の設立と今後予定される預金金利の上限撤廃は、中国の金融改革のプロセスの中で非常に大きな一歩である。今後の実態面の運用に注目したい。

(了)


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