【15-11】準備預金制度変更と金利自由化

2015年11月16日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 中国人民銀行は、9月15日から準備預金の積み立て方法を変更した。従来、銀行は積み期間の毎日の営業時間終了時に法定準備預金額以上の準備預金を人民銀行に預入していなければならなかったが、積み期間の平均残高で法定準備預金額以上となればよいこととなった。また、10月24日には、銀行の預金・貸出基準金利の引下げと預金準備率の引下げが行われたが、同時にそれまで残っていた預金金利の上限規制が撤廃された。今回は、この2つの施策について考えてみたい。

準備預金の積み立て方法変更

 従来の中国の準備預金制度は、一ヶ月を上旬(1日~10日)、中旬(11日~20日)、下旬(21日~月末)に分け、都市商業銀行を除く主な商業銀行については、ある旬の5日(例えば15日)から次の旬の4日(例えば24日)の積み期間について、毎日の営業時間終了時の準備預金額が、前旬末(例えば10日)のその銀行の一般預金の残高に準備率をかけた金額(法定準備預金額)以上でなくてはならないというものであった。これを、本年9月15日以降は、積み期間中の各日の営業終了時の準備預金残高の平均残高が法定準備預金額以上であればよいという計算方法に変更された。従来の方法では、毎日、法定準備預金額を割り込むと罰金を課せられたが、今後は日々の残高が法定準備預金額を割り込んでも、積み期間中の平均残高で上回っていれば問題ないこととなった。

 先進国では、このような平均残高による準備預金のチェック方法が一般的である。例えば、日本の場合はある月の月初から月末までの銀行預金の日々の残高の平均に準備率をかけたものが法定準備預金額となり、その月の16日から翌月の15日までの間の準備預金の平均残高がこれを上回ることが要求されている。法定準備預金額を計算する元となる預金の残高も平均残高で、準備預金額をチェックする場合も平均残高となっている。アメリカのFRBも両者について平均残高方式を採用しており、欧州中央銀行は計算の元となる預金は末残を採用し、準備預金額を計算する場合は平均残高を採用している。今回、中国は欧州中央銀行と同じパターンを採用した。

 準備預金額を平均残高で計算することによって、突発的に資金が引き出されたり、受け取るべき資金が受け取れなかったりして、ある一日に準備預金が法定準備金額を下回っても、急いで資金調達を行う必要がなくなった。但し、当面の間、準備預金が法定準備預金額を下回ることができる比率は1%以内とされ、下限が設定されている。中国人民銀行は、「平均残高で計算する方法は、金融機関にとってより便利である一方、流動性管理はより複雑となる。金融改革の進展や決済システムの発展、金融機関の内部管理水準の向上などによって今回の変更の条件が成熟した」と述べている。また、「金融機関が突然の資金需要に備えるため保有する超過準備預金に対する需要が減少する。短期金融市場金利の変動を平準化し、金融政策の伝達経路を改善することができるし、金融政策の操作手段の転換にも役立つ」としている。

 法定準備金額以上に保有する準備預金の比率を示す超過準備率は、6月末には2.5%だったが、今回変更実施後の9月末には1.9%に低下した。また、短期金融市場の金利の変動も今回の変更以降、以前より安定した推移を示している。

預金金利の上限撤廃

 人民銀行は、10月25日から銀行の預金・貸出基準金利の引下げと預金準備率の引下げを行った。1年物預金基準金利は1.75%から1.5%に、1年物貸出金利は4.6%から4.35%に引下げられ、大手銀行の預金準備率は18%から17.5%に0.5%引下げられた。同時に、預金・貸出基準金利の上限規制や下限規制のうち最後まで残っていた1年以下の期間の預金金利の上限規制を撤廃した。これによって貸出金利も預金金利も上限・下限の規制は完全に存在しなくなった。

 しかしながら、これで完全に金利が自由になったかというと、そうではない。なぜなら預金、貸出とも基準金利の公表は続けられているからである。人民銀行の公表文では、「当分の間、預金・貸出基準金利の公表を継続する。市場の需給で決定される金利形成メカニズムが完成するまでは、人民銀行が公表する預金・貸出金利が依然として金融機関が金利を決定する際の重要な参考となる」としている。さらに同公表文は「金融機関の金利設定行為をマクロプルーデンスの枠組みに組み入れ、差別的預金準備率や再貸出、再割引、差別的預金保険料率などの手段を通じて金融機関が合理的な金利形成を行うよう導く」と述べている。

 これは金融機関経営の健全性の観点から、預金獲得競争のために高すぎる預金金利を設定したり、貸出競争のために低すぎる貸出金利を設定したりすることのないよう、そういうことを行う金融機関を預金準備率などの設定で不利に扱うことによって金融機関を指導するということを意味している。

 従って、当分の間、金融機関は公表される基準金利の周辺で預金金利も貸出金利も設定するであろう。さらに期間毎の基準金利が公表されるため、イールドカーブも人為的に決定される。このような状況では金利自由化が完全に実施されたとは言いがたく、依然として規制金利の状態が継続していると見るべきであろう。これは、急激な利鞘の縮小による金融機関の経営環境の激変を緩和するための措置と考えられる。そうだとすると、銀行の貸出量を管理する「窓口指導」などによって数量指標をコントロールする金融政策もしばらくの間は継続されるものと考えられる。

短期市場金利の提示による金融政策へ

 以上のような状況について、人民銀行の易綱副行長は今回の措置の後に行われた講演で「数量的金融政策手段も重要であるが、価格を利用した金融政策手段、すなわち金利政策がますます重要となってきた」と表現し、移行過程と位置づけている。金利による金融政策を行う場合、短期金融市場金利の一つを政策金利として選んでそれをコントロールすることが一般的である。例えば日本ではインターバンク市場の無担保オーバーナイトコールレートが政策金利である。同じ講演の中で易綱副行長は、最も重要な短期金利として中国の銀行間市場のオーバーナイト金利と7日物レポ金利を挙げている。今後、中国もこのような金利の中から一つの金利を政策金利として選択し、その金利をコントロールすることによって金融政策を行う体制に徐々に移行していくものと思われる。準備預金額を平均残高でチェックする方法へ移行したことも、短期市場金利の変動を安定させ、政策金利として利用しやすくすることが主たる目的と見られる。しかし、易綱副行長は「中国では、人々は預金・貸出基準金利に慣れている。従って今後も当分の間預金・貸出基準金利の公表を続け市場と商業銀行の参考に供する」と述べており、しばらくの間は人民銀行の金融政策意図を市場に伝達する手段としても預金・貸出基準金利を利用し続けることを明らかにしている。それと同時に数量的手法で銀行貸出をコントロールするという金融政策手法が継続されることとなる。

 今後、預金・貸出金利の実際の運用状況を観察し、金利の自由化の実質的な進展状況をチェックしていくことが重要であろう。

(了)


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