【16-05】銀行間債券市場と外為市場の対外開放

2016年 5月13日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 中国では、このところの外貨準備の減少や資本流出の動きを受けて、当局が個人の外貨両替規制の厳格な適用、企業の外貨買いやオフショアへの資金移動の指導による制限など、資本取引規制の運用上の強化を行っているようである。しかし、一方で銀行間債券市場や銀行間外為市場の対外開放が進展し、資本取引の自由化が着実に行われている。

海外中央銀行等に対する開放

 銀行間債券市場で取引される国債や企業債などの人民元建て債券に対する海外からの投資については、まず、2003年から開始された適格外国機関投資家制度(QFII)によって、中国に外貨で送金した後人民元に交換して人民元建て証券に投資する制度があった。当初は証券取引所で取引される証券のみが対象であったが、2012年7月から銀行間債券市場で取引される債券も対象となった。また、人民元クロスボーダー決済が認められた後の2010年8月には海外の中央銀行、人民元クリアリング銀行、クロスボーダー人民元業務参加行の3種類の機関に人民元送金で銀行間債券市場への投資が認められた。さらに2011年12月には人民元適格外国機関投資家制度(RQFII)が導入され、海外の機関投資家に人民元送金で人民元建て証券に投資することが認められた。RQFIIは、導入当初から証券取引所と銀行間債券市場両方が投資対象とされた。以上の制度については、当局の厳しい審査の下、それぞれの機関毎の投資額上限が定められていた。

 昨年の人民元のSDR構成通貨入りに際して、IMFはSDR利用者がリスクヘッジなどの外貨準備管理ニーズから中国国内の外国為替市場と人民元建て資産へのアクセスができるようにすることを求めた。

 これに応えるため、中国は2015年7月14日に、海外の中央銀行・通貨当局、国際金融機関、ソブリンウエルスファンド(政府が出資する投資ファンド)について、人民銀行に届出を行った後、銀行間債券市場で投資を行うことを認めた。投資金額については投資者が自主的に決定できると規定されている。これらの海外機関は、人民銀行か銀行間市場決済代理人を通じて投資を行う。

 さらに、2015年9月30日、海外の中央銀行・通貨当局、その他公的準備管理機関、国際金融機関、ソブリンウエルスファンドについて、銀行間外為市場の取引に参加することを認めた。この措置のポイントは次のとおりである。①現物、先物、スワップなど各種取引を行うことが可能である。②海外機関は人民銀行を代理人とする方式、銀行間外為市場の会員を代理人とする方式、直接銀行間外為市場の海外会員となる方式の3つの方式で取引できる。③取引金額に限度は設けられていない。

 以上の措置は、依然として資本取引が厳しく制限されている中で人民元のSDR構成通貨入りを実現するために、海外の主なSDR利用者に限って銀行間債券市場と銀行間外為市場へのアクセスを開放する措置であったと見ることができる。

海外金融機関への開放

 銀行間外為市場の海外への開放については上記のとおり、海外中央銀行等SDRの主な利用者に限られていたが、2015年12月21日付で海外の人民元売買業務参加行の銀行間外為市場への参入を認めた。

 これら海外参加行は、中国外貨交易センターに申請を行い、銀行間外為市場の会員となった後、銀行間外為市場において取引される全ての取引種類(直物、先物、スワップ、オプションなど)の取引を行うことができる。海外人民元売買業務参加行は従来どおり、国内代理銀行と人民元売買を行う方式と、銀行間外為市場の会員となって中国外貨交易センターの取引システムを通じて人民元売買を行う方式のどちらかを選択できる。銀行間外為市場の会員は人民元売買業務についての法令の遵守が求められ、裏付けとなる取引の存在が必要であること(実需原則)などが適用される。2016年5月9日現在の銀行間外為市場会員リストによると、中国銀行や中国工商銀行など中国系銀行の海外現地法人、海外支店が海外参加行として会員となっている。

 次に2016年2月17日付けで、海外の商業銀行、保険会社、証券会社、ファンド管理会社などの金融機関が銀行間債券市場で投資を行うことが認められた。

 その直前の2月3日付で、QFIIの投資枠申請に一定の数式で計算される基礎限度額という概念が導入され、それ以下の投資枠申請については届出のみ、審査不要で認めるという簡素化が実施されたところであった。QFIIは証券取引所と銀行間債券市場で取引される証券が投資対象であるが、2月17日付の施策では、このうち銀行間債券市場で取引される証券について中国人民銀行の許可を得た海外機関投資家が投資することを認め、投資規模については限度額を設けないこととなった。一方、中国人民銀行は海外機関投資家の投資行動に対してマクロプルーデンス管理を実行するとされている。海外機関投資家は、銀行間市場決済代理人に委託して取引と決済を行う。

 中国の全国銀行間コール取引センター(銀行間債券市場を運営)の人民元取引参加者統計を見ると5月9日現在でRQFIIの136先、QFIIの46先と並んで海外中央銀行40先、海外銀行85先、海外保険会社16先などとなっており、これらの海外機関投資家が銀行間債券市場で取引を行っているものと見られる。

 マクロプルーデンス管理の実態などを注視する必要があるが、国内債券市場を投資規模について限度を設けずに海外機関投資家に開放したことは、資本取引の自由化において大きな一歩となる可能性がある。

 銀行間外為市場の海外銀行への開放はオンショアとオフショアの人民元為替レートの乖離解消を促進するためのものであると人民銀行の公表文に明記されており、売買双方向の自由化である。また、銀行間債券市場の海外機関投資家への開放は当面海外資金の流入を促すものであろうが、流入した資金はまた流出しうる。結局のところこれらの措置は中国の為替管理規制や資本取引規制を双方向で自由化していることになる。

 今後の推移を見守る必要があるが、海外から流入していた短期資金の逆流出に備えた資本取引規制の強化が提起されている中、基層的な部分での資本取引の自由化は徐々にではあるが着実に進んでいると見るべきであろう。

日本の直接投資統計の改訂

 前々回の本コラムで、2016年2月8日公表の国際収支統計を元に日本の対中直接投資と直接投資収益の増加について述べたが、4月8日付で大幅な統計改訂が行われた。2015年の日本の対中直接投資額は10,685億円から10,727億円に上方改訂され、2014年の同統計も7,194億円から10,940億円に大幅に上方改訂された。この結果、2015年の前年比増加率は48.5%の増加から1.9%の減少に転じた。ただし、これは日本の対中直接投資の大幅な増加が2015年ではなく、既に2014年に起こっていた可能性を意味する。直接投資収益については同じく4月8日に2015年第4四半期の統計が公表されるとともに2015年の年次改訂統計が公表されたが、2014年の統計は改訂されておらず、2015年の日本の対中直接投資から生じた収益が前年比大幅に増加したという姿は維持されている。

(了)


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