【16-08】銀行部門の改革と人民元の国際化

2016年 8月30日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 前回の当コラム で、中国では金利は依然として規制されており、銀行部門の改革が、全ての金融改革の前提であると述べた。今回は、この点についてもう少し詳しく述べ、銀行部門の改革が人民元の国際化にとっても必要である点を指摘することとしたい。

銀行部門の改革と金利自由化

 現在、銀行業金融機関の総資産の約半分は5行の大型商業銀行(中国工商銀行、中国農業銀行、中国銀行、中国建設銀行、交通銀行)と3行の政策性銀行(国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行)で占めている。大型商業銀行のうち旧4大国有商業銀行は上場後も株式の60%以上が国有であり、交通銀行も約40%が国有である。政策性銀行は100%国有である。また、それ以外の株式制銀行や都市商業銀行なども地方政府や国有企業が株主である場合が大部分である。2014年末から2015年にかけて5行の「民営銀行」が設立されたが、2015年末でこれら5行の総資産が銀行業金融機関の総資産に占める比率は0.1%にも満たない。従って、現在中国の銀行部門は、基本的に公的部門に所有されているものと考えてよい。新設された5行について当局が「民営銀行」と名づけて分類していることからも従来の銀行が「民営」でないことを示している。

 中国政府は、2003年以降、5大銀行に資本注入を行って不良債権を処理し、香港や上海に上場して民間資本の導入を進めてきた。それによって自立したリスクと収益のバランスを図る真の商業銀行への移行を進めてきた。しかし、現状はいまだ道半ばに止まっている。

金利自由化と人民元の国際化

 現状、依然として銀行の貸出・預金金利は人民銀行の基準金利によって定められている。これによって銀行の利鞘を確保し経営を安定させている。貸出・預金の基準金利は期間毎に定められており、金利のイールドカーブを人民銀行が人為的に決定している。そうすると、市場で資金の需給が一致する保証はなく、人民銀行は別途資金の量をコントロールせざるを得ない。従って、人民銀行の金融政策は銀行の貸出量を直接コントロールする「窓口指導」が主たる政策手段となっている。

 このような金融政策は、海外との間の資本取引が基本的に規制されていることによって有効性を保っている。また、人民元の為替レートについてもバスケット通貨に緩やかに連動する管理された変動相場制であり、自由な変動相場ではない。為替レートがより弾力化すると、銀行部門の直面する為替変動リスクが増大する。

 人民元の国際化を今以上に進めるためには資本取引の自由化を進めなければならない。資本取引の自由化が進むと、海外との間で資金の移動が自由になるので、現在のように貸出量のコントロールを主な手段とする金融政策は有効性を失う。貸出量をコントロールしようとしても海外から自由に借りられるし、海外に自由に貸し出せることになるからである。資本取引を自由にするのであれば、金融政策の操作目標として短期の政策金利を一つ選択してその水準を操作し、イールドカーブは市場で自由に形成されるという形に移行する必要がある。そのためには金利を完全に自由化しなければならない。

 一方、資本取引が自由な状況で金利を操作目標とした金融政策を行う場合、海外、特にアメリカの金融政策と異なった金融政策を行うためには、人民元の為替レートが自由に変動しなければならない。金融政策でアメリカと異なった金利水準を設定した場合に為替レートが固定的であれば、無限に資本移動が生じてアメリカと異なる金利水準を維持することは不可能だからである。

 貸出・預金金利が完全に自由になった状態で、銀行部門が基本的に公的部門に所有されており、公的に部門による救済が期待されるというモラルハザードに陥った状況にあると、過当競争を行って急激に利鞘を縮小させ過度のリスクを取り、経営危機を招き、金融システムが著しく不安定化するおそれがある。従って、銀行部門の改革を進め、国有比率を引下げたり、民営銀行を発展させたりすることによって、自立した収益とリスクのバランスを取ることのできる商業銀行に移行することが、金利の完全自由化の前提となる。金利の完全自由化は貸出量をコントロールする金融政策から金利を操作目標とする金融政策に移行するために必要であり、金利を操作目標とする金融政策に移行できなければ資本取引を自由化することはできない。資本取引の自由化が進まなければ、人民元の国際化が進展することも期待できない。人民元為替レートの変動相場制への移行も、資本取引が自由化されないのであれば、銀行の直面するリスクを増加させるだけである。

 以上のように、自立した商業銀行への銀行部門の経営改革は金利自由化、金利を操作目標とする金融政策への移行、資本取引の自由化、人民元の国際化、人民元為替レートの変動相場制への移行など、今後予想される様々な金融改革全てにとっての前提条件であるということができる。

 前回 述べたように、金利自由化が結局のところ実現していないのも、銀行部門の改革が依然として道半ばに止まっており、政府による救済期待というモラルハザードに陥った状況から脱却できていないからである。

国有企業改革との関係

 銀行部門の経営改革は国有企業改革の一環でもある。2015年9月に公表された「国有企業改革を深化させることに関する中共中央、国務院の指導意見」では、民間資本を加えた混合所有制を進めるとする一方で、「党の指導を強化する」として、企業内の共産党委員会の権限強化が示されている。また、人民日報の論評などを見ると、「混合所有制は所有構造の多様化であり、私有化ではない」と主張されている。銀行部門の改革の進展状況にもこのような国有企業改革全体の方針が影響を与えていると見るべきであろう。

 銀行部門の改革が進まなければ、資本取引の自由化が大きく進展することは期待できない。そして、資本取引の自由化が進展しなければ人民元の国際化がさらに拡大することは困難である。今後、銀行部門の改革は着実に進むものと考えられるが、そのテンポは定かでない。人民元の国際化を進めるためにも銀行部門改革は進めざるをえない。しかしその改革のテンポは国有企業改革の方針と関連しているのである。

(了)


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