露口洋介の金融から見る中国経済
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【16-12】外貨準備の減少要因

2016年12月26日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 中国では11月末の公的外貨準備が3兆1410億ドルとなり10月末と比べて751億ドル減少した。この減少の要因について、12月7日に国家外貨管理局のウエブサイトに説明が掲載された。それによると、11月中の減少の要因は①市場の外貨需給のバランスを調節するため人民銀行が外貨資金を提供したこと、②アメリカの大統領選挙以降、米ドルに対し他の通貨が相対的に減価したこと、③債券価格の調整が生じたこととされている。①は人民元の為替レートが安くなりすぎないように人民銀行が外貨売り、人民元買いの市場介入を行ったということであり、②は外貨準備に含まれるユーロや円などドル以外の通貨がドルに対して安くなったため、ドル表示の外貨準備が減少したということである。また③はアメリカを始めとする各国の長期金利の上昇によって、外貨準備として保有する債券の価格が低下したということである。

 ところで、同説明文では11月の減少要因に限らず、一般的な外貨準備の変動要因として、上記の3点に当たる①人民銀行の外為市場におけるオペレーション、②米ドル以外の通貨の対米ドル為替レートの変動、③外貨準備の投資資産の価格変動を挙げた後に、④IMFによる外貨準備の定義に従い、外貨準備が「走出去」(対外直接投資促進策)などを支持する方面の資金運用に使用された際、外貨準備の対象外へと調整されること、という記載がある。この④はどういう意味であろうか。

IMFによる外貨準備の定義

 まず、IMFによる外貨準備の定義についてみてみよう。IMFの国際収支マニュアル第6版と、IMFに対する外貨準備統計の報告フォームの解説を見ると、「外貨準備」とは「国際収支の不均衡を是正するためのファイナンスニーズや、為替レートに影響を与えるための為替市場介入などを目的として、通貨当局がコントロールし、直ちに使用可能な対外資産」である。また、「外貨準備」は「外貨建て資産であり、現に存在する資産でなければならない」とも書かれている。「通貨当局がコントロール」するという意味は、必ずしも通貨当局の所有でなくともよく、他の機関が所有していてもよいが、通貨当局の定めた条件や事前の承認がある場合にのみ処分できる場合に限るとされている。「通貨当局が直ちに使用可能」であるということは、外貨準備資産は流動性が高く、短時間で過度に価格に影響を与えることなく売買できるものでなければならないということを意味する。例えば、海外不動産への投資は流動性が低いから外貨準備とはならない。また、「対外資産」でなければならないから、国内機関に対する債権は除かれる。さらに外貨準備資産は外貨建てでなければならないが、この外貨は兌換性のある通貨(Convertible Currency)でなければならない。

外貨準備を利用した資本注入など

 中国では、外貨準備を使用して銀行に資本注入を行ったり、投資会社を設立したりということが行われてきた。例えば、2003年末には外貨準備を使って、中央匯金投資有限責任公司という投資会社が設立され、それを通して中国銀行と中国建設銀行にそれぞれ225億ドル、合計450億ドルの資本注入が行われた。2005年4月には中国工商銀行に150億ドル、2008年11月には中国農業銀行に190億ドルの資本注入が行われた。これらの銀行に対する資本注入は不良債権処理のために行われた。また、2007年9月には外貨準備2000億ドルを使ってソブリンウエルスファンドである中国投資有限公司が設立された。

 これらに使用された外貨準備は、前述の外貨準備の定義に照らすと、通貨当局の国内機関に対する債権となるし、流動性も失われるため、外貨準備とは認められなくなる。従って、外貨準備の統計から差し引かれなければならない。

 例えば、2003年末に2つの銀行に対して450億ドルの資本注入を行った際の人民銀行のバランスシートの変化を見ると、外貨準備が趨勢的に増加し続ける中で資産サイドの「外貨」が11月末の3兆2576億元から12月末の3兆1141億元に減少した一方、人民銀行の子会社として中央匯金投資有限責任公司を設立したため、同公司に対する出資が「その他投資」に計上され、同項目は11月末の5148億元から12月末の8516億元に増加している。

最近の変動要因

 最近、外貨準備を類似のケースで使用した例としては、2014年末のシルクロード基金の設立と、2015年7月の政策性銀行2行に対する資本注入が挙げられる。シルクロード基金は「一帯一路」政策を支持するために、2国間や多国間の経済貿易協力案件に対する投融資を行う基金として設立された。資本金は400億ドルであるが、当初資本金は100億ドルであり、そのうち65億ドルが外貨準備から出資された。新たに人民銀行が梧桐樹投資平台有限責任公司を設立し、これを通して出資が行われている。2015年7月には国家開発銀行と中国輸出入銀行に、同じく梧桐樹投資平台有限責任公司を通してそれぞれ480億ドル、450億ドルの外貨準備を利用した資本注入が行われた。中国の報道では、この資本注入の目的は、両行が主に「一帯一路」政策と企業の対外直接投資(「走出去」)を支持する投融資を拡張しやすくするためと説明されている。

 最初に述べた国家外貨管理局の12月7日付の説明の中で、外貨準備の変動要因の④として説明されているのは、これらの最近の外貨準備を利用した資本注入や基金の組成を指している。このために使用された外貨準備資産は外貨準備統計から削除されるのである。

 中国の公的外貨準備は2014年6月末の4兆558億ドルから2015年末の3兆4061億ドルまで6497億ドル減少した。このうち約1000億ドル分の減少は、以上の銀行への資本注入などが要因である。公的外貨準備は、その後も2016年11月末の3兆1410億ドルまでさらに2651億ドル減少しているが、減少ペースは鈍化している。中国の外貨準備の変動には本稿で説明した銀行に対する資本注入などが大きく影響することに注意する必要がある。(了)