中国と地球温暖化問題

明日香 壽川(東北大学東北アジア研究センター) 2008年6月20日

はじめに

 数年前、ある中国政府指導部の高官が、「中国社会に とって地球温暖化問題というのは、世界貿易機関(WTO)参加と同じようなインパクトがある」という趣旨の発言をした。温暖化問題は、それほど中国政府に とって判断が難しい問題なのである。本稿では、なるべく中国側かつ現実的な視点に立ちながら、この難しさの中身について考えてみたい。そのために、1で は、中国における温室効果ガス排出および対策の現状を明らかにする。2では、2013年以降の温暖化対策国際枠組みへの具体的な「参加のかたち」を考え る。3では、温暖化問題という文脈で国際社会が理解すべき中国特有の事情を紹介する。4では、それまでの議論を踏まえた上で、中国政府が「参加のかたち」 を決断する際に考慮すべき点について述べる。

1. 中国における温室効果ガス排出および対策の現状

 ここでは、中国における温室効果ガス排出量の推移および温暖化対策の現状について簡述する。温暖化対策としては、主なものとして省エネ対策と新エネ対策の二つを取り上げる。

1.1 温室効果ガス排出の現状

 これから数年後、あるいは10数年後に、中国全体の温室効果ガス排出量が米国を抜いて世界一になるのは確実だと思われる(すでに世界第一位になったと報告 する研究機関もある)。しかし、中国における過去の排出量は相対的に低く、かつ1人当たりの排出量は終始一貫して世界平均水準を下回っていたことも事実で ある。以下では、中国政府が2007年に発表した中国気候変動行動計画(NDRC 2007)の中の数字をいくつか紹介する(数値自体は、大部分が米国の研究機関であるWRIのデータに基づいている)。

 1950年における中国の化石燃料由来二酸化炭素排出量は7,900万トンで、当時の世界の排出総量のわずか1.31%に過ぎない。また、1950〜 2002年における中国の化石燃料由来二酸化炭素の累計排出量は世界の同時期の排出量の9.33%を占め、1人当たりの二酸化炭素排出量は累計61.7ト ンで世界92位である。2004年における中国の化石燃料由来1人当たり二酸化炭素排出量は3.65トンであり、これは世界の平均水準よりも若干低く、 OECD加盟国平均の約三分の一である。

 また、経済・社会の着実な発展と同時に、中国の単位GDP(国内総生産)当たりの二酸化炭素排出強度も全体的に下降傾向を呈している。1990年、中国 の単位GDP当たりの化石燃料の燃焼による二酸化炭素排出強度は5.47kgCO2であったが、 2004年には、2.76kgC02に下がっており、これは49.5%という大きな減少となっている(ちなみに、同時期における世界の平均水準は 12.6%減で、OECD加盟国は16.1%減)。

1.2. 省エネ対策

 中国における省エネは、日本の多くの人が考える以上に進展しており、しばしば日本の新聞で見られる「中国が資源を浪費」という言葉は、少なくとも 中国に住む一人一人の生活実感からは適切ではない。これは、先進国に住む人々には感覚的にはわかりにくいものの、可処分所得が小さく、かつ、そのなかでの エネルギーコストの占める割合が高いというほとんどの途上国の現状をよく考えれば当然のことであり、実際に中国に数日間暮らしてみれば、いかに一般市民の エネルギー消費量が小さく、かつ節約しているかわかるはずである。

 しかし、中国ではエネルギーの7割以上が産業部門で消費されており、産業部門の効率が先進国と比べて低いのも確かである。中国の場合、70年代まで、実 質的には、現在の北朝鮮のように「鎖国」状態とも言える状況にあり、海外からの技術流入は少なく、自力更生政策のもと、効率とは関係なくフルセットの産業 を持たざるをえなかった。また、社会主義経済のもと、生産量だけを重視すれば良い多くの国有企業は、まさに何をやっても倒産しない存在であった。しかし、 現在は状況が大きく変わっており、グローバリゼーションが席巻しエネルギーコストが高騰する中、各企業は生き残りをかけて、必死に生産性やエネルギー利用 効率を向上させようとしている。

 中国政府も、省エネに関しては明確な「数値目標」をもち、少なからぬ予算を費やし、多くの施策を実施している。たとえば、2004年11月には、 ①GDP1万元当たりのエネルギー消費量 (2002年時点で2.68トン、 標準炭換算、以下同じ)を、2010年には2.25 トン(16%削減)、2020年には、1. 54トン (43%削減)、②再生可能エネルギーの比率を2020年には10%に引き上げる、という大胆な国家目標が中長期エネルギー計画のなかの目標として発表さ れている。直近の第11次五カ年計画 (2005年〜2010年)では、「GDP1万元当たりの、エネルギー消費量を2005年レベルよりも20%削減」という非常に野心的な数値目標が組み込 まれており、この数値目標に対しては世界中が注目している。

 このような数値目標を中国政府が掲げた理由としては、なんと言ってもエネルギー価格の高騰である。石炭、天然ガス、石油をめぐる国内および国際社会の状 況は大きく変わっており、需給関係は非常にタイトな時期がつづいている。すなわち、経済成長の阻害要因となりうるエネルギー高騰およびエネルギー安全保障 に対してより真剣に取り組まざるをえない状況になり、そのことを大胆な目標値を打ち出すことによって国民全体に知らしめる必要があったと考えられる。

1.3. 新エネ対策

 中国では、主にエネルギー安全保障と環境保全の二つの目的から、大型水力、天然ガス、再生可能エネルギー(風力、バイオマス、小型水力、太陽光、地熱、潮力)、原子力、石炭液化/ガス化、ジメチルエーテルなどのエネルギー源としての利用が積極的に進められてきており、今後は、より早いスピードで研究開発および普及が進むと思われる。すでに2006年1月からは再生可能エネルギー法が施行されており、中国政府は、価格(政府指導価格および政府定価)、補助 金、税制面などにおける具体的な支援策も明らかにした。再生可能エネルギーの目標としては、「エネルギー消費全体に占める比率が2010年に10%、 2020年に16%」が掲げられており(現在の比率は約7%)、目標値(2020年総発電容量)の内訳は、風力3000万キロワット、バイオマス発電 3000万キロワット、太陽光発電180万キロワット、メタンガス440億立方メートル、固形燃料5000万トン、エタノール1000万トン、バイオマス ディーゼル2000万トンとかなり意欲的な数字となっている。現在、再生可能エネルギーに対する政府や企業の注目度が高くブームあるいはバブルとも言える 状況になっている。

 風力に関しては、すでに大小あわせれば20万台の風力発電機が稼働しており、風力タービンのよりいっそうの大型化も進んでいる。2006年までの導入量 (総発電容量)は約200万キロワットであり、第11次5カ年計画(2006年〜2010年)では、2010年までに500万キロワット、2020年末に は3000万キロワットに増やすことになっている。2005 年に世界全体で導入された風力発電設備の総発電容量が 5900万キロワットだったことを考えると、今後の中国における風力発電導入計画がいかに巨大なものかがわかる(ちなみに日本の目標値は2010年に 300万キロワット)。

 2005 年の太陽電池の市場規模は世界全体で150万キロワット に過ぎなかったのに対し、2006 年には中国での太陽電池の生産能力だけで100万キロワットに達した(生産量は大きいものの、輸出が多いという点は日本も同じ)。

 あまり知られてはいないが、中国は太陽熱利用大国であり、太陽熱温水器の利用量と生産量が世界一となっている。すでに、3500万棟の世帯が太陽熱温水 器による給湯であり、中国で使われる温水の10%は太陽熱によるものである。太陽熱竈(かまど)も30万台以上が農村で利用されており、石炭などの化石燃 料を代替している。

 再生可能エネルギー利用は、中国政府にとって農民支援という側面を持っている。しかし、とくに農村では、上記のような資金・技術・人材の不足は構造的な 問題であり、一朝一夕に改善されるようなものではない。そうは言っても、中国政府が掲げている和諧社会構築のために農村振興は必要不可欠である。そのた め、中国政府は今後とも、エネルギー安全保障や環境対策という側面だけではなく、民生の安定という意味でも、エネルギー源の多様化や再生可能エネルギーの 利用拡大を積極的に推し進めていくと考えられる。

2.国際枠組みへの「参加」

2.1. そもそも「参加」とは?

 今でも、しばしば「2013年以降の国際枠組みに中国やインドは参加すべき」という論調の新聞記事などを見かける。しかし、すこし考えればわかるように、この「参加」という言葉自体にはほとんど意味がない。この言葉は、もともとは「途上国の意味のある参加が必要」という米政権が使い始めた言葉に由来する。しかし、「意味のある」を定義できる人間などいるはずもなく、結局は、途上国へ責任を押し付けるための戦略的な言葉として使われた。そのような曖昧な言葉 が、日本では「参加」というより曖昧な短い言葉に変わってしまって、マスコミだけでなく政府関係者も使うようになっている。確かに便利な言葉なのだが、2013年以降の国際枠組みに関して、具体的な交渉が始まる前から「参加しない」、などと言う国はいないし(実際にいない)、「参加する」、と言っても、その中身がまだ何も決まっていなければ、それ自体には意味がない(現時点で自分たちの具体的な削減目標などを明らかにしているのはEU諸国だけである)。 また、甘すぎる数値目標を持っての「参加」は、国家間の排出量取引制度導入を前提として考えた場合、温暖化防止という意味では逆にマイナス効果となる。

 すなわち、「参加する」「参加しない」という単純な議論は全く意味がなく、現実の国際交渉においては、どの国がどのような基準(これが一番大事!)で、 どのような具体的なコミットメントをするかが最重要な問題なのである。したがって、いまだにマスコミや識者(?)のコメントなどで「参加」という言葉を聞 くのは、残念ながら日本における議論のレベルがまだ低いことの証左だとも言える。もちろん、背景にあるのは、物事を二項対立的にとらえやすい大衆心理と、 それに迎合する政治やマスコミの貧困がある。また、様々な問題の原因や責任を他国に転嫁したいという気持ちと、途上国、特に新興国の経済発展に対する警戒 感も深層心理として存在しているようにも思われる。

2.2. セクター別アプローチ

 冷静かつ客観的に考えれば、ここ数年で、中国が温暖化対策で排出削減数値目標を掲げる可能性は非常に小さい。考え得る最善のシナリオは、ブッシュ 後の米政権が、気候変動枠組み条約下での交渉で意欲的な排出削減を自らに課すことを決めた場合であろう。そうは言っても、中国に対する国際社会からの圧力 は強まっており、さまざまなオプションの中で、中国政府が採用する可能性があるものとして、特定セクターの原単位目標がある(セクター別アプローチ)。これは、ある特定セクターでの原単位(例:鉄鋼業における単位粗鋼生産量あたりのエネルギー消費量あるいは温室効果ガス排出量)目標を決めるもので、途上国 に対しては目標未達成のペナルティはなしとする。しかし、一応、セクター全体がキャップを受け入れることになるため、これまでのコミットメントに比べるとかなり厳しいものになる。一方、先進国のエネルギー多消費産業で国際競争力問題を抱える産業セクター(例:鉄鋼産業)にとっては大きな便益がある。

 ちなみに、2007年6月に筆者が中国政府関係者数人に、このセクター別アプローチのメリットとデメリットに関して集中的にインタビューしたところ、 1)途上国、特に中国においては、一つの産業セクターにも多様な規模や種類の企業が存在するので同じセクターでも複数のベンチマークが必要となる、2)セ クターのみだとしてもキャップがかかることは受け入れられない、3)原単位目標なので排出量が増えるけど(先進国側は)それでもよいのか?などが主な反応 であった。ただし、すでに中国においては、中国の省エネ国家プランの細かい実施戦略策定のために、セクターや個別の企業にブレークダウンしたデータを用いて、実際に省エネ目標実現の戦略シナリオが書かれつつある。したがって、少なくとも一部のセクターに関しては、データなどの問題は他の途上国よりは小さいと考えられる。

2.3. 中国政府の最近の動き

 筆者は、中国政府が、国内にコミットしているエネルギー効率の数字を、国際的に、気候変動枠組み条約の下でのコミットとすればよいのでは、と中国 政府関係者に会うたびに質問してきた。しかし、彼らの返事は、肯定的なものではなかった。彼らの意見を総合すると、すでに国内でコミットした数字だとしても、それを国際的にコミットすることへ反発する理由としては、1)米国がコミットしないのに中国がコミットするのは不公平、2)一度コミットしたら、さらに厳しいコミットが待っている可能性がある、3)技術/資金移転の全体的なパッケージの内容がわからないうちにコミットするのは戦略的に良くない、4)中 国政府自体が、GDPをはじめ自らの統計数字に信用できないと考えている、などが考えられる。

 「日本と米国は、言うけどやらない。中国は、言わないけどやる」という皮肉を、かつて私は中国政府の交渉担当者に言われた。しかし、数値目標のコミットメントに対しては慎重ではあるものの、中国もこの「言わないけどやる」スタンスから「言って、かつやる」というスタンスに変わろうとしている。例えば、2007年12月にインドネシアで開催された気候変動枠組み条約締約国会議(COP13)では、中国政府のブースがあり、すでに行われている中国での温暖 化対策活動や省エネ活動の具体的な内容を英文のパンフレットにして配布していた。このような活動は、これまでのCOP では見られなかったことである。すなわち、国際社会からの認知の重要性を中国が強く意識するようになり、より積極的に中国が国際社会とコミュニケーション をとり始めたと言える。

3.国際社会が理解すべき点

3.1. 公平性

 2013年以降の温暖化対策の国際枠組みの議論においてもっとも重要な問題の一つは、中国やインドなどの 「参加」問題であることは間違いない。しかし、「現時点で途上国、とくに中国やインドにも温室効果ガスの排出削減を義務づけるべき」というのは、以下の三 つの理由でかなりアンフェアな要求だという認識を持つべきだと思う。

 第1は、人口の大きさの無視である。たしかに、多くの排出量予測モデル計算が、途上国全体の排出量は2030年〜2050年のあいだには先進国全体の排 出量を超えるとしている。しかし、これをもって、とくに米国や日本が中国やインドを名指しで批判するのは、たとえば、仙台に住む人びとが東京に住む人々に 対して、「東京は仙台の10倍もの排出をしていてけしからん」と言っているのと同じである。言うまでもないだろうが、人口が10倍あれば、アウトプットが 10倍あってもなんらおかしくないはずである。

 第2は、1人当たりの排出量の大きさの無視である。実際には、途上国は人口が10倍でもアウトプットはもっと小さい。なぜならば、1人当たりでは、先進国に住む人々は途上国に住む人々の数倍の温室効果ガスを出しているからである。たとえば、米国は中国の約6倍、インドの約10倍を排出している。すなわ ち、加害者責任(汚染者負担)という原則のもとでは、先進国の人々は数倍の責任を負っている。一方の途上国では、中国だけで数千万人、全体では約16億人がまだ無電化地域に住んでいるとされる。すなわち、人口増加中の途上国の人々に対して現時点で削減義務を課するのは、「電気を使ってない人間は永遠に電気を使うな」と命令することに等しいのである。

 第3は、加害と被害の関係の無視である。米国で起きたハリケーン・カトリーナによる被害が端的に示していたように、洪水や干ばつなど、温暖化によってよ り大きな被害を直接的に受けるのは、南に位置し、頑強なインフラ、災害保険、他の地域へ逃げる術、そして食料価格上昇に対応できる経済的余裕のすべてをも たない貧しい人びとである。

 前記の3点は、中国やインドが絶対に譲れない論点であり、これらを無視したような先進国の言動は、両国にとって理不尽なものとしか映らない。したがって、先進国側は、前記の3点に十分な理解を示しながら、「それでも中国やインドの参加が地球環境保全にとっては必要不可欠」というスタンスで両国との交渉 に臨むことが最低限必要となってくる。

3.2. 環境対策としての人口抑制策と世界の工場としての中国

 温暖化問題の文脈で中国を語るときに、特に中国特有の事情として忘れてはならないことが、さらに二つある。

 第一は、中国政府による人口抑制政策(計画出産)である。もちろん、その是非に関しては様々な議論が可能であり、人権という観点から批判することは非常 に容易である。しかし、実際問題として、中国の人口抑制策が、国際社会が直面している環境問題やエネルギー問題のリスクを低減していることは確かであり、それについて国際社会は一定の理解を示す必要があると思われる。実際に、1970年代以降、計画出産を通じて、2005年までに、中国は出生人口を累計3億人余り減らしている。これを、国際エネルギー機関の統計による世界の1人当たり排出水準に基づいて推算すると、2005年1年間の減少だけで、約13億 トンの二酸化炭素の排出減少に相当する、と中国政府は主張している(NDRC 2007)。

 第二は、中国が「世界の工場」になっていることによる排出である。現在の温室効果ガス排出量の計算においては、貿易財の製造過程に伴う温室効果ガス排出 は、生産国(輸出国)の排出としてカウントされる方式となっている。すなわち、エネルギー多消費の製品の輸入が多ければ多いほど、また輸出が小さければ小さいほど、国全体の排出量は相対的に小さくなる。ご存知のように、現在、世界中の企業が中国に工場を作って、そこで作った製品を世界中に販売している。し たがって、ある意味では、中国製品を買う、あるいは使用する世界中の人々の排出を中国が肩代わりしているとも言える。実は、その量もすでに計算されており、中国全体の排出のうち、2割から3割の排出がこのような輸出によるものとされている(Lee 2008)。

4.中国政府が決断する際に考慮すべきこと

 以上、本稿では、かなり中国側の視点にたって温暖化問題について述べてきた。最後に、このような少々アンフェアかつ無理解な国際社会の状況はそう 簡単には変わらないという前提のもとで、中国、特に中国政府指導者が何らかの決断をする際に考慮すべき点として以下を挙げたい。

 第一は、温暖化が中国の生態系や社会に及ぼす負の影響である(以下のデータは、前出のNDRC 2007などに基づく)。中国でもここ100年間で気候が明らかに変化した。過去100年間、中国の年間平均気温は0.5〜0.8℃上昇、同時期における 世界の気温上昇幅の平均値をやや上回り、ここ50年間の温暖化が特に顕著である。1986〜2005年、中国は20年連続で全国的な暖冬となった。ここ 50年間、中国における主な極端な天候と気候事件の頻度と強度に顕著な変化がみられる。特に、1990年以降、ほとんどの年で全国の年間降水量が例年を上 回り、南部は水害、北部は干ばつという降水パターンが現れ、干ばつ、洪水などの災害が頻繁に発生している。過去50年間における中国の沿海地域の海水面の 年間平均上昇率は2.5mmで、世界の平均水準をやや上回っている。山地の氷河が急速に後退するとともに、加速傾向にある。中国の科学者の予測によると、 中国では将来、気候温暖化の傾向がさらに進む。2020年には、中国の年間平均気温が2000年と比べて1.3〜2.1℃上昇、2050年には2.3〜 3.3℃上昇するものとみられる。

 第二は、大国としての国際社会におけるリーダーシップである。少なくとも短中期的には、一人あたりの排出量の大きさの違いを強調すると同時に、中国国内 での自主的な取り組みの進展を大いに喧伝すれば、気候変動枠組みの元での数値目標コミットを拒否しつづけることに対する国際社会から「一定の」理解は得ら れると思われる。しかし、国際社会においては、このような中国の国情や過去の努力を理解できない、あるいはわざと理解しようとしない人々が少なからず存在 することも確かである。また、アフリカや小島嶼国は、頭では理解できても、感情的には納得しない国もあるはずで、そのような国が中国から離れていくこと は、途上国のリーダーを自任する中国としても得策ではないであろう。すなわち、大国としての大局的な見地が中国に求められている。

 第三は、数値目標という外圧による国内の構造改革の推進である。すでに述べたように、気候変動枠組み条約下での数値目標コミットとは関係なく、中国にお いて省エネや再生可能エネルギーの推進の必要性はますます高まっている。しかし、量的にも質的にも、そしてスピードという面からも、対策をさらに進めてい くべきことは自明であり、中国政府としては、そのために有効なものであれば何でも使いたい、というのが本心であろう。もちろん、国際交渉において簡単に妥 協するのは得策ではなく、先進国からの技術資金移転という見返りの大きさが判断基準となる。しかし、いずれにしろ、外圧をうまく利用することができれば、 中国社会全体にとってメリットがデメリットを上回る可能性はある。

 中国政府は、以上で述べたような本当にさまざまな点をはかりにかけながら最終的な判断をすると思われる。舵取りは容易ではなく、その意味で、冒頭でも書 いたように、中国にとって地球温暖化問題は、世界貿易機構(WTO)参加問題に匹敵するくらい判断が難しい問題である。また、筆者は、温暖化問題を巡る状 況は、日中の歴史を顧みると、毛沢東による対日戦争賠償放棄を判断した状況にも似ているように思う。筆者の認識では、当時、中国政府(中国共産党指導部) は、ソ連というリスクを考えて、戦争賠償放棄という国民感情としては非常にアンフェアな判断をした。すなわち、温暖化問題においても、アンフェアな状況の もと、様々なリスクを考慮した大局的な判断が中国政府に求められている。

 言うまでもなく、当時も今も、賠償放棄という判断に対しては、中国の国内外で様々な議論がある。戦争をめぐるわだかまりも、まだ日中両国には残っている。 したがって、温暖化問題において中国政府が何らかの決断をしたとしても、その判断の評価は、数十年後になっても定まらないようと予想される。また、中国政府による英断自体が、国際社会全体のこれからの行動や判断に大きく依存していることも忘れてはならないと思う。

参考文献

  1. 明日香壽川・堀井伸浩・小島道一・吉田綾, 2007. 「中国と日本:エネルギー・資源・環境をめぐる対立と協調」中国環境問題研究会編『中国環境ハンドブック2007-2008』, p.61-102, 蒼蒼社.
  2. 明日香壽川, 2007.「豊かさと公平性をめぐる攻防−国際社会は『ポスト京都』にたどり着けるのか」岩波書店『世界』2007年9月号, p121-132, 岩波書店.
  3. NDRC (National Development and Reform Commission People’s Republic of China), 2007. “China’s National Climate Change Programme”, June 2007.
  4. Lee Bernice, 2008. “The China Factor: Major EU Trade Partners’ Policies to Address Leakage”, Presentation at the workshop “Tackling the international leakage” at the Chatham House UK, Feb. 4th, 2008.

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