本特集に寄せて

黒川 清(内閣特別顧問、政策研究大学院大学教授)  2008年6月20日

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 「Incunabula」とは、ラテン語です。15世紀半ばにGutenbergから始まって1501年までに印刷された書を意味します。グーテ ンベル クが開発した印刷技術は、情報の普及というかたちで世界を変えはじめたといえます。情報の広がりはそれまでも既得権者、権威を疑い、これにチャレンジし、 社会変革を起こす原動力なのです。Gutenbergの聖書の印刷は、みなに聖書を読んでもらいたいという本人の当初の発想とは異なり、100年後には宗 教革命を起こすことになりました。これがルネッサンスへ、近代科学の芽生えへとつながるのです。

 そして、今日、環境問題とインターネットの普及によって、産業革命以来に形成された私たちの社会構造と 制度、価値観、そして世界のパラダイムはまた大きく変わろうとしています。大量工業規格品生産と大量消費に支えられた産業構造の終焉(しゅうえん)といえ ます。ただ、これまでも60年代の公害問題や73年のオイルショックの時にこうした兆しはあったものの、東西冷戦構造の枠組みの存在によって、環境問題は 大きな国際政治的議題にならなかったのです。

 ところが91年に冷戦の構造が崩れ、世界はグローバル市場経済に突入、30億人ちかい人たちからなる新しい市場が生 まれました。さらに翌92年には ワールド・ワイド・ウェブwwwで世界中のコンピューターがつながりはじめ、そのころから、その新しい仕組みを使ってまったく新しいビジネスを立ち上げた 人たちが出てきました。ヤフーやアマゾンなどです。スタンフォード大学の2人の学生がグーグルを創業したのは98年。わずか10年で20兆円産業に成長、 世界でグーグルを知らない人は、相当に恵まれない環境の人たち「デジタルデバイド」の人たちに限られています。

 大きな構想力で新しいものを生み出すのは、みんなその時代では「変わった人」と思われる人たちです。歴史を振り返れば、それぞれの時代の知的レベルの正 規分布で偏差値の良い優秀な人が世の中を大きく変えるのではないのです。むしろ「その枠をはみ出ている人」が社会の変革をもたらすのです。これはどの分野 でも同じようで、多くのデータからクリスマレーも指摘しているところです。

 日本が抱える一番の問題 は、なかなか変われないことです。30数年にわたって経済成長していたのですから、無理もないことです。しかし、このグローバル経済の時代、グローバルに つながった「フラット」な世界では、従来の社会の仕組みや制度が世界の実情に合わなくなっているところが多い。でも、相変わらず同じ思考回路、思考パター ンで考え、行動している。産業構造を変える、社会制度を変える、地方を変える。それには政治の意志も重要ですが、このような変化をチャンスととらえて考 え、グローバル世界の経済活動に参加し、動かしていくのはビジネスです。ビジネスは基本的にグローバルです。

 昨年、シリコンバレーではクリーンエネルギー関係に四千億円のベンチャー資本が投資されました。その前年は一千億円でした。今から、大きな成長市場になるのは環境技術やそれに関するアイデイアとそのような事業です。

 地球の、そして日本の将来を担う人材、人材を育てる教育、そしてその「場」である大学もとても大事です。「一流」大学は将来のリーダーを育成する「場」として、世界から優秀な若者をひきつけます。

 日本は昨年、独ハイリゲンダム・サミットで、2050年までに温暖化ガスの排出を半分にしようと提案しました。私は、それまでにはエネルギーも食料も輸出で きるようにする、というくらいの大きなビジョンで産業構造を転換する発想が必要だと考えています。日本は食料もエネルギー資源も輸入に頼っているが、例え ば米や麦をもっと生産して、食べれない部分をバイオ燃料にすればいい。現に今、その研究も盛んに行われている。森林も長期計画で再生、木くずはエネルギー に利用すれば、地方の産業構造が変わり、農水省の役割も今とは全く違ってくる。シリコンバレーには高いグローバルの目標を持つ「枠をはずれた」人たちがい る。楽しいから一生懸命に仕事をする。しかし、国のお金に頼っているかぎり、だれも責任を取らない、だから本気にはなれない。新しいビジネスモデルをつく る、パートナーを、市場を世界に求めるといった柔軟な発想で活躍する人がどんどん出てくることが、本当に日本が世界の温暖化問題の解決に貢献する第一歩に なるでしょう。いまや、「Think Locally, Act Globally」の精神であれば、新しい大きな事業もできるでしょう。しかし、競争相手はアジアを始め世界中にあふれている。スピードが大事です。

参考: www.kiyoshikurokawa.com


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