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中国胚性幹細胞研究の発展動向

2008年11月

Pei Duan qing

裴端卿(Pei Duan qing):
中国科学院 広州生物医薬・健康研究院 院長
広州幹細胞・再生医学技術連盟理事長

1965年6月生まれ
1991年 ペンシルバニア大学で分子細胞学および細胞成長を専攻。理学博士
国家自然科学基金および中国科学技術部973プロジェクトの5件のプロジェクトを主宰・参加している。これまでに、Nature、PNAS、JBCなどの学術雑誌に50余編の論文を発表している。国家ハイテク研究発展計画863プロジェクトの生物医薬分野の専門家であり、“生殖と発育”重大科学(基礎研究)計画分野の専門家構成員、アジア太平洋ヒトES細胞ネットワーク執行委員会構成員、『生物化学』雑誌編集委員、『細胞研究』副編集主幹、広州幹細胞・再生医学技術連盟の理事長を務めている。

 胚性幹細胞の基本的特徴はその多能性であるが、それはこれらの細胞には体のあらゆる細胞に分化する潜在能力があるということでもある。幹細胞の多能性研究はまさに生命科学の中でも重要研究分野の1つになりつつあり、その応用は新型の疾病治療モデル―再生医学を生み出そうとしている。我々は、再生医学が人類の医療史上、薬物治療および手術治療の後を受け継ぐ第3の疾病治療手段であり、単純な薬物もしくは手術によっては治癒することができない多くの疾病に希望をもたらすであろうと予言することができるかもしれない。

 近年来、幹細胞と再生医学研究の中心は、地理的に言えばアジア太平洋地域に拡散する動向を見せている。2006年、日本の学者山中伸弥京都大学教授が発明したiPS細胞のリプログラミングは新たな研究分野を切り開いたばかりでなく、アジア太平洋地域が幹細胞と再生医学研究において際立った地位にあることを示すものでもあった。中国における幹細胞研究への着手は比較的遅かったが、政府の強力な支援のもとで次第に国際的となり、既に一定の成績を上げている。しかし、国際的な視点でみると、中国の幹細胞研究は未だに大きく遅れている。中国の初期の研究は応用技術研究を主としたものに集中しており、基礎研究への着手は遅く、投資も少なく、幹細胞研究の規模も小さく、研究者間の協力も比較的少なかった。これらの問題は、政府による投資や、研究者の積極的参加によって、次第に改善されつつある。この他にも、中国は自主的な創造能力の全面的な向上を図る発展段階にあり、基礎研究に対する投資も増加するであろうから、将来的には国際的な幹細胞研究の主力の一端を担える見込みがある。

 2001年には早くも中国科技部の973計画(気候変動対応に関するプロジェクト=農業のバイオテクノロジー)では先行的に2件の幹細胞研究の重要プロジェクトを設定し、国家863計画(ハイテク研究発展計画)でも“幹細胞とヒト組織工学プロジェクト”という重大プロジェクトを設定して、中国における幹細胞研究を促進し、発展のためのしっかりとした基礎を打ち立てることができた。2006年からは、政府が幹細胞と再生医学研究に対する支援を強化し、幹細胞研究は“発育と生殖研究”という重大科学(基礎研究)計画の重要な要素として『国家中長期科学技術発展計画(2006-2020)綱要』に組み込まれ、2006-2007年だけで7件の基礎研究の重大プロジェクトが計画され、この基礎の元に2007-2008年には研究費交付プロジェクトが倍になった。この他に、国家863計画と国家自然基金委員会などもここ2年で一連の幹細胞と再生医学に関するいくつかの重要問題に的を絞った大型研究プロジェクトを設定している。

 現在、中国の幹細胞研究拠点は3カ所で、地理的にも、それぞれ北京、上海および広州を中心として集中して分布している。北京と上海は、中国科学院の多くの科学研究院・研究所が集中しているだけではなく、清華大学北京大学復旦大学上海交通大学など高水準の最高学府もあり、それぞれ幹細胞研究分野では優勢である。広州は後発ながら新鋭の地域で、中国科学院広州生物医薬・健康研究院が2004年に創立されて以来、幹細胞と再生医学研究の発展を積極的に推進している。広州市政府の支援のもと、中国科学院広州生物医薬・健康研究院は12カ所の機関と共同で広州幹細胞と再生医学技術連盟を設立して、知的資源を統合し、新たな研究形式を試行しながら、広州地域における幹細胞事業の発展をさらに推進しようと努めている。

 中国での幹細胞研究に比較的早く取りかかった研究機関においては、その多くは主に成体幹細胞の研究に取り組んでおり、成体幹細胞移植分野、とりわけ造血幹細胞・間充織幹細胞および神経幹細胞などの分野では多くの実験が試みられ、一定の成果も上げている。一方、新たに設立された研究院・研究所では若い留学経験者を導入して、研究の重点を幹細胞のメカニズムおよびリプログラミングなどの方向に置いている。2年前のiPS技術の出現は幹細胞と再生医学研究に新たな1ページを開いた。iPS技術に代表される応用の潜在力は多くの学者によって認められているが、その技術を臨床に応用するにはまだ多くの障害がある。中国では広州生物医薬・健康研究院、上海生物科学院の生物化学と細胞生物学の研究所、北京の生命科学研究所などを含む、いくつかの研究機関が既にiPS研究のプラットフォームを確立している。幹細胞研究の深化および多くの研究分野の交流に伴って、幹細胞の細胞表層遺伝学や化学生物学など、多くの重要な派生研究分野が誕生しているが、これらの新たな研究動向が多くの若い研究者たちを引きつけ、その参画を促している。

中国の科学者が幹細胞を研究する目的の1つは、臨床応用のためである。我々は、目下人々を興奮させている誘導(人工)多能性幹細胞(iPS)のリプログラミング技術こそが将来における研究の焦点の1つであろうと考えている。我々は国際的・国内的な協力を通して、誘導の方法、リプログラミングのメカニズム、iPSの臨床応用などの分野で難関を克服し進展を見ることによって、再生医学の発展ペースを加速し、多くの患者に治癒の希望をもたらすことができるように努めたいと願っている。


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