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細胞膜タンパク質制御の研究及び臨床応用の見込み

2008年11月

jijj

汲 娟娟:中国科学院生物物理研究所
脳・認知科学国家重点実験室 研究員

1984年 中国東北師範大学物理学部理学学士の学位を取得
1989~1990年 東北大学医学部において研修
1998~2001年 秋田大学医学部において共同研究に従事、医学博士の学位を取得
2001~現在 中国科学院百人計画の支持を獲得、生物物理研究所研究員に招聘される
2004~2005年 秋田大学医学部において共同研究に従事

研究要旨

 我々は、異なった状況のイオンチャネルとレセプタータンパク質の相互作用を研究し、これらのタンパク質の保護ニューロンおよび神経系機能を制御する方法を探っている。すなわち、①膜タンパク質を制御することによって神経細胞の機能をコントロールするメカニズムを解析している。②生理代謝の動態平衡における膜タンパク質は神経信号に対する働きのメカニズムを考察している。③イオンチャネル等の膜タンパク質の保護神経系の機能を制御する方法を開発している。④分子構造が解明されたイオンチャネル等の膜タンパク質の機能を明らかにする。

 生命現象はタンパク質機能の系統的な表現であり、従ってタンパク質制御機構の解析は基礎医学の中の臨床医学研究における意義は言うまでもない。細胞膜タンパク質は主にNa+ 、K+ 、ATPアーゼ等の物質を能動的に輸送する担体および受動輸送に利用される興奮性と抑制性のイオンチャネル型受容体等である。細胞膜タンパク質は細胞内外の情報を感受及び応答する中枢であり、最も早く臨床薬物の制御ターゲットに用いられたタンパク質である。本文は細胞膜タンパク質の制御機構の解析について議論し、タンパク質制御研究の将来への示唆となることを期待する。
タンパク質制御は、概ねタンパク質機能に対する制御と理解すればよい。制御源については、内因性と外因性に分けることができる。制御機構についてはタンパク質のものと非タンパク質のものに分けられる。制御の方法では遺伝性(遺伝子経由)のものと非遺伝性(非遺伝子経由)のものがある。また、制御するターゲットは、シグナル伝達チャネル、セカンドメッセンジャーチャネルや、細胞膜タンパク質がある。

細胞膜タンパク質研究の現状

 1970年代にErwin NeherとBert Sakmannの2名の研究者が開発した電気生理学的手法・パッチクランプ法(nobel_prizes/medicine/laureates/1991)によって、細胞膜にある単一イオンチャネルに流れる電流を見ることができ、その透過性及び制御特性の解析を初めた。その後この手法を利用するとともに、細胞膜両側の物質を勝手に変えることが可能になり、ついに細胞膜全体の電位特性の記録ができた。そこで、Na+チャネル、K+チャネル、Ca2+チャネル、Cl-チャネル等さまざまな細胞膜イオンチャネルの輸送メカニズムおよびレセプターの機能発現と特徴などが次々と報告された。これらは膜タンパク質の機能制御研究の重要なより所となり、当時の膜タンパク質研究における機能研究を牽引していた。

 1983年、MullisはPolymerase chain reaction (PCR)原理(ノーベル化学賞1993)を提出した。その後、遺伝子とタンパク質の解析に広く用いられるPCR実験法を開発した。これと同時に緑色蛍光タンパク、遺伝子トランスフェクション、分子プローブ等の分子生物学的技術も相次いで開発されてきた。こうして大量の膜タンパク質分子の一次配列および機能する場所が次々に解明され、遺伝性チャネルを経由する膜タンパク質の機能解析研究は盛んに行われるようになった。細胞膜イオンチャネルおよびレセプタータンパク質の研究も分子構造の解明と機能解析を同時に行うことが可能になった。
Peter AgreとRoderick MacKinnonは、水チャネルと大コンダクタンスCa(2+)活性化K(+)チャネルの三次元構造及び主な機能する場所(ノーベル化学賞/2003)を突き止めることに成功し、細胞膜タンパク質の三次元構造解析の研究が始まった。

 現在我々は実験室で膜タンパク質の機能解析、分子配列および構造究明などの研究が可能になり、細胞膜タンパク質の精製も可能となった。従って、膜タンパク質の発現および細胞内外信号の制御が実現できた。膜タンパク質の機能制御によって生命活動をコントロールするという期待を高めた。現在、ATP感受性カリウム(KATP)チャネルはすでに糖尿病治療薬のスルホニル尿素 (sulfonylurea)製剤と血管拡張剤のジアゾキサイド(diazoxide)等の制御ターゲットなり、ドーパミンレセプター、グルタミン酸レセプターは中枢神経系の疾病治療の薬物ターゲットとなっている。

 細胞膜イオンチャネルとレセプタータンパク質に関する研究論文数の統計データ(表)から見ても膜タンパク質特に膜タンパク質制御に関する研究が大いに関心と期待を集めていることが分かる。

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 この表が1968年から1987年の間に細胞膜イオンチャネルとレセプタータンパク質に関する研究論文数の5年単位での統計データである。A:関係論文の総数を示している(検索ワードはmembrane/channelsまたはmembrane/receptors)。B:関係論文は米国国立生物工学情報センターが一般公開している医学関係文献データベース(PubMed)に統計した論文総数に占める割合である。C:タンパク質制御の論文はタンパク質関連論文に占める割合である(検索ワードはmembrane/channels/regulationまたはmembrane/receptors/regulation)。D:タンパク質制御の論文はPubMedの論文総数に占める割合である。細胞膜イオンチャネルと細胞膜レセプタータンパク質の統計論文数は変化の傾向が近い、1973年以来直線的に上昇(A)するとともに、PubMedに収録された論文総数の割合も持続的に上昇していることが分かる。近年はその割合がやや低下している(B)。イオンチャネル制御の論文数はチャネルに関する論文総数およびPubMedの総数に占める割合及びレセプタータンパク質に占める割合、いずれも急速に上昇している。

中国の膜タンパク質制御の研究

 新しい研究基盤として、科学技術省と教育省、衛生省、中国科学院は「中国科学院タンパク質科学研究プラットフォーム」や「国家生物医学分析センタータンパク質グループ学術プラットフォーム」などの機構を相次いで設置している。国家科学技術省直属の220の国家重点実験室には「タンパク質」と「生物大分子」、「遺伝子」をキーワードとして命名された実験室が8つある。また、「脳・認知科学国家重点実験室」において、タンパク質制御の研究を従事している研究者が大勢いる。

 研究費においては、科学技術省の863と973プロジェクト及び国家自然科学基金委員会中国科学院の知識イノベーションプロジェクトが主な出所となっている。例えば、国家自然科学基金だけの大まかな統計では、2007年資金を出したプロジェクトの中、「膜タンパク質制御」をキーワードとしたプロジェクトの研究費は約8,600万中国元であり、タンパク質研究に出された研究費の4.9%、研究費総額の0.26%を占めている。2008年では、1.38億元にのぼり、占める割合はそれぞれ4.3%と0.66%である。

タンパク質制御研究における今後の課題

非遺伝性制御

 非遺伝性制御においては、例えば神経伝達物質(前駆体)、ホルモン、イオンチャネル活性剤と遮断剤等のリガンド物質は、大体定向性が欠けている、ターゲット場所の外に大きな副作用をもたらし、ターゲット場所にたどり着いてもその効き目が徐々に減衰する。

遺伝性制御

 遺伝性制御は、生体内で実施される効率が低く、ターゲット細胞によって比較的容易に排除されるのみならず、コントロールするのも難しい。現状は、遺伝子治療をリードしているアメリカさえ、糖尿病や老年性痴呆症等の退行性疾病、肝炎、そして重大な伝染病等にタンパク質制御の研究プロジェクトが数千あるが、臨床治験に確認された治療方法はまだ極めて少ない。

タンパク質発現の多様性と位置的特異性

 これらが標的のタンパク質の制御に利便性を提供すると同時にタンパク質の制御に相応な設計が必須であることを示した。我々はヒトの遺伝子がラットとさほど差がないのにヒトはヒトであってラットではないように、ヒト相互のDNAの違いについてもきちんと考慮しなければならない(Kennedy-D. Science. 318, 1183, 2007)。

試験管の膜タンパク質と生体内にある時との違い

 我々の大量のデータは決まった条件下でのインビトロウ実験から得られたものである。実験室において、多種の実験装置やタンパク質消化用の分解酵素などのような実験材料は、試験の便宜を考えて設計されている。これらが常に変化している膜タンパク質に対してどのような影響があるかについては度々無視されている。

膜タンパク質の機能解明に残されている問題は山積している

1970年代から、細胞膜タンパク質の研究は大いに発展して、現在でも生命科学の研究論文は増え続けている。PubMedに収録された細胞膜タンパク質に関する研究論文数だけで約25万であった(検索ワードはmembrane/channelsまたはmembrane/receptors)、その中約4万はタイトルまたは要旨中にmembrane/channels/regulationまたはmembrane/receptors/regulationのキーワードが含まれている。データの多さは整理できないほどになっている(Pennisi-E. Science. 309, 94, 2005)。だが、こういう状況にもかかわらず、我々は解明できないことがまだ山積している。我々は依然として制御位置が点在しているイオンチャネルの通過性の多種の調節変数による多次元関数を得ていない。仮に糖あるいは酸素が奪われたような簡単な条件を設定しても、細胞膜のイオン輸送メカニズムや、例え単純なK+イオンチャネルの時間経過による機能変化の様子さえ定かにすることはできていない。

 これらの問題は、我々が標的とするタンパク質に対するリアルタイムで、正確にかつ適切な手法による制御を妨げており、現在の方法では解決できないことは明らかである。今後研究を続ける上で、新しい解決法を探るように務める。


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