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中国における橋梁の構造安全性概要

2008年12月

孫 利民

孫 利民(Sun Limin):同済大学教授

1985年清華大学卒。1988年と1991年、日本の東京大学工学修士及び博士号を取得。1992年から2000年まで、日本の大林組技術研究所に勤務。1997年、アメリカのプロフェッショナル土木エンジニア資格(PE)を取得。1999年に中国教育部長江学者奨励計画」の特別招聘教授として採用。現在は、同済大学特別招聘教授、博士課程指導教官、橋梁工学部橋梁ヘルスモニタリング及び振動制御研究室主任を務める。中国土木学会橋梁及び構造分会理事、中国振動工学会構造耐震制御専門委員会及び国際構造制御学会中国分会副主任委員、国際構造工学会第8作業委員会委員(IABSE、WC8)、構造工学および施工に関する東アジア太平洋会議(EASEC)国際指導委員会委員。主に橋梁工学科の科学研究、教授及び技術開発に従事。研究の方向は、構造振動制御とヘルスモニタリング、構造の耐震性。

1.中国における橋梁建設及び構造安全性の現状

 過去20年にわたり、中国では世界最大規模の社会インフラ設備の建設が進められ、幹線道路と橋梁施工での建設技術は飛躍的な発展を遂げた。関連資料によれば、1990年から2005年までの15年間で、幹線道路は合計91万キロ(高速道路4.1万キロを含む)敷設され、2005年末で全国幹線道路総延長の44%を占めるようになった。橋梁の建設数及び橋梁の開通総延長は、その総量の47%、66%を占める。橋梁建設については、その建設件数の多さ、多岐にわたる種類、径間の大きさ、急速な発展が世間の注目を集めている。政府は今年以降、世界規模に及ぶ金融危機の影響に対処するため、内需活性化の施策を制定し、関連道路と鉄道等を含むインフラ設備建設への資金投入にさらに力を入れている。中国では大規模で、急速なインフラ建設期間が、まだかなりの時期に及び続くものと予測される。

 国内外を問わず、高度経済成長期に建設されるインフラ設備は全て大量で、集中的に分布しているが、品質が悪いという特徴がある。重要なインフラ設備の設計寿命期間を百年以上に及ぶものにし、橋梁等インフラ設備について供用期間の構造安全性を確保することには、重要な経済的、社会的意義があることに疑う余地はない。そのためまず、橋梁構造の合理的な設計と、質的に適切な施工状態を確保しなければならない。次に、供用期間内に橋梁構造の状態について適切なモニタリングと保全管理を行ない、必要性に応じて補修、補強を行うことで、建築構造状態の安全性と使用面での要求事項が満たされなければならない。

 しかしながら、中国における橋梁の構造安全性では楽観視できない。例えば、汶川地震では橋梁構造への被害が深刻であり、強震危険地区における橋梁構造の耐震設計対策基準、設計理念、設計法等の分野での不十分さ、及び施工が質的に保障できない危険性が露見した。また建設中の橋梁でも労災事故が頻発しており、不適切な設計、施工技術の遅れ、原材料の品質問題、施工管理での怠慢等の事例がかなりの程度存在していることが表れている。船舶からの衝突による橋の崩落事故が多発している。そのため船舶衝突防止設計について真摯に考慮し、航行船舶の海上航行管理を強化しなければならない。竣工後の供用年数が長くない橋梁の性能劣化が深刻であり、ひいては突然の崩落事故まで起こり、関係者が死傷し社会にも悪影響をもたらしている。これらの事例については、元の設計と施工品質に欠陥があるほかにも、供用期間において橋梁の保全管理が十分に重視されなかったことも、主な原因である。

 橋梁の構造安全性を保証し、各種の災害を減らすには、設計水準と施工品質を上げるほかに、竣工済み橋梁に対する保全管理も急務である。先進国と同じく、中国では経済発展により、橋梁を含む社会インフラ設備等の社会的財産と資産の価値が急激に膨張し、これらインフラ設備の「年齢」が増してきた。それに伴い、社会資産の保全管理と有效な利用が社会経済活動の重要な要素の一つになってきたのである。しかし現在、中国の橋梁工事では、「建設を重視し、保全管理を軽んじる」という傾向が存在している。

2.荷重超過状態での橋梁の構造安全性

2.1 汶川地震による橋梁被害についての若干の考察

 中国では、長大橋梁構造工事は非常に重視されており、設計と施工面では確固とした保証がなされている。地震、強風、及び船舶からの衝突等による荷重超過に対する抗力設計も充分に考慮されており、特に耐風、耐震設計は比較的整っている。そのため近年竣工した長大橋梁では、関連した構造安全性に関する災害は起こっていない。一方中小橋梁の中には、安全面での危険性が高いものもある。特に経済発展が遅れている地域で建設されている橋梁については、技術的または経済的な原因により、問題が際立っている。2008年5月12日には四川省の汶川大地震(四川大地震)が起こり、痛ましい教訓をもたらした。32年前に起こった唐山大地震の時と比べ、中国の経済水準と規模は同列には語れない。都市化の程度も大幅に高まり、また建築構造の耐震安全性について問題点もさらに際立ってきた。

汶川地震による橋梁被害の特徴:

 汶川地震による橋梁被害で多かったのは、やはり山崩れ、土地構造破壊によるものであった。破壊を引き起こすこの種の外因については、現在ある橋梁の耐震技術で直接防ぎとめるのは困難である。現在国外において、高震度地震危険地域で人工建築構造物を建設する際に講じられる措置も、多くは活断層付近の区域を避けることである。そのため、交通施設の耐震能力レベルをあげるには、やはり最初に合理的な路線、土地選定から始めなければならない。 鉄筋コンクリート梁使用橋の地震被害状況を分析することで、建築構造性の破損現象では、その主な類型が橋脚の切断または曲げ疲労、橋脚間の横梁接続部位の破損、主桁の過度応答での変位による梁の落下等であることが分かる。そのため、耐震設計では橋脚切断への抵抗力と曲がり防止用の延性・変形能力、橋脚間の横梁接続部位接点における耐震能力について、補強を重視しなければならない。また橋脚頂部にある主桁の接合距離を伸ばし、梁の落下防止措置を強化することで、 新しい減震、免震技術を積極的に用いなければならない。

地震観測強化の必要性:

 地震による負荷特性の正確な把握は、橋梁の耐震設計では基本をなす。先進国に比べ、現在の中国では地震の観測地点数がまだ多くない。今回の汶川地震に関する地震波記録をできるだけ早く公表すれば、橋梁の耐震性についての研究に役立つであろう。さらに今後は、我が国の強震発生危険地域の地震動と建築構造の地震応答観測に力を入れなければならない。

耐震軌範の改正を急ぐ:

 耐震軌範の改正は、非常に差し迫り、かつ重要である。国の担当部門は、軌範の重要性を充分に認め、人材と資金をさらに投入し、全国最高水準の技術力を集結して設計軌範の策定と改正を行わなければならない。また設計軌範は最新の設計理念、最新の設計理論・方法、最新の工学技術の成果を反映したものでなければならない。そして軌範の策定と改正過程で、未成熟な部分が若干出てきた場合には、その科学技術面での難問を解決しなければならない。新軌範が公布されてからは、一般の工学技術関係者への普及教育、対応する専用コンピュータ・ソフトウェアツール等の提供も非常に必要な過程になる。また、新軌範改正の完了前には、橋梁の耐震補強暫定手引書を公布し、被害対象橋梁の緊急修復、補強作業の参考資料として提供する必要がある。

耐震対策レベルの向上:

 中国は地震が多い国だが、日本、アメリカのような世界の他の地震多発国に比べ、耐震対策レベルは相対的に低い。これは経済的要因のほかに、国土面積が広く、地震活動分布の地域差が大きいことも1つの原因である。この30年間で、中国の経済水準はすでに大幅に向上した。建築構造の耐震対策レベルもこれに応じて向上させることで、建築構造の安全性レベルを向上させなければならない。また、全国統一の耐震設計軌範では、各地域独自の必要性を十分に満たすことが困難な恐れがあるため、地域性軌範基準の作成作業を十分に重視し、その不足を補わなければならない。

 上述のように、中国は現在高度経済成長期にあり、国では大規模な土木事業で基礎的建設を行う時期にある。橋梁等の交通施設を含む社会インフラ設備の安全性は、以前に比べより重要な社会的、経済的意義を持つようになった。そのため、今回の汶川大地震をきっかけに、耐震面での海外先進国の経験を参考にして、中国の実情を考慮に入れた上で橋梁の耐震理論と技術の研究をさらに積極的に進め、設計軌範を整備しなければならない。それが橋梁の耐震能力を向上させ、国民の生命・財産の安全を保障し、国民経済の順調な発展を保障する上で非常に重要である。

2.2 船舶衝突防止設計

広東省九江大橋:船舶からの衝撃による連続トラスの崩落情況(2007年)

 2007年、広東省にある九江大橋では、橋脚が船舶からの衝突により崩落した。この事件は社会全体に悪い影響を与えたほか、地域経済にも大きな悪影響をもたらした。崩落した橋梁は現在でも修復されておらず、橋両岸の地域道路交通の妨げになっている。また、建設、供用中の橋梁が船舶からの衝突を受ける事故が多発し、程度は異なるものの橋梁の構造安全性が脅かされている。橋梁が船舶から受ける衝突による安全リスクは、地震や強風に比べてさらに高くなることさえある。そのため、比較的長大規模の橋梁工事ではすでに設計段階から、船舶からの衝突荷重を十分に重視している場合もある。しかし、船舶衝突防止設計では技術分野での課題解決が待たれているほか、橋脚の受動的な防護設計が経済的に見合わず、受け入れられにくいことがしばしばである。船舶からの衝突事故の原因を分析してみると、海上で強風、大波により船舶が操舵不能になる場合のほか、河川航行中の船舶が単に規定航路を外れた違法航行等を行った人為的要因も主な原因であることが分かる。そのため、船舶からの衝突を防止するには、橋梁建設にどのような設計概念が必要かについては、現在でも議論が分かれている。また、航行船舶の監視と事前警告措置を強化し、船舶からの衝突リスクを下げることも考慮されている。しかし事故の原因が何であれ、橋梁が船舶からの衝突を受ける問題は現実に存在し、回避できないリスクなのである。

3.橋梁施工時の安全性

 近年、中国において橋梁の建設施工過程で起こった労災事故も、国内外の橋梁施工業界で大きな関心を集めている。2007年に湖南省にある鳳凰多スパン石造アーチ橋が施工過程で崩落事件を起こし、数十人が死亡する惨事が発生した。類似した事故では、設計に不適切な部分があったほか、用いた施工技術の遅れ、施工管理での怠慢、及び若干の汚職違法行為による材料と製造プロセスの質の低下等の問題が主な原因になっていた。たとえ施工期間において橋梁に安全面で重大な問題が起こらなかったとしても、潜在的な危険性は、橋梁竣工後の構造安全性を著しく脅かしているのである。

4.長期的な構造安全性及び保全管理

4.1 供用期間における構造安全性

四川宜賓南門大橋:クレーンブームの稼動停止、亀裂発生による突然の崩落(2001年)

 正常に設計、施工された橋梁は、竣工後の供用期間内に、安全性について主に2種類の外的要因からの影響を受ける。一つは地震、台風、船舶からの衝突、テロ攻撃等による突発的な荷重超過であり、もう一つは構造性能を徐々に退化させる疲労、腐食等の長期的環境要因である。一方、構造安全性に影響を及ぼす内的要因には、主に建築構造の初期設計の性能レベル、施工品質、及び原材料の劣化等がある。これら外的要因と内的要因が合わさって、橋梁の安全性能が決まるのである。

 供用期間に安全性の問題が生じる橋梁には、主に次のいくつかの情况が見られる。(1)設計理論または方法が不完全なため、建築構造の初期性能に先天的な欠陷が存在する。(2)設計した荷重条件に変化が生じ(交通量の增加、車両による荷重超過等)、建築構造が荷重超過状態で使用されるため、使用寿命が短くなる。(3)施工品質の不良により潜在的危険性がある。(4)保全管理が速やかに行われず怠慢がある。

4.2 保全管理

 欧米等の経済先進国では、以前から橋梁構造の「老化」問題に直面し、比較的系統だった橋梁構造アーカイブ、橋梁管理システムの構築ないしは関連軌範手引書の作成が行われ、橋梁の技術的条件についての測定、モニタリング技術も急速に進歩してきた。しかし技術、制度等の分野では現在でも、十分には解決できない難題を多く抱えている。最近、いくつかの新しい先進的センシング技術、ファイバブラッググレーティング技術、GPS技術、ひずみゲージ、磁束(EM)センサー、及びアコースティック・エミッション(AE)技術、並びに無線センサー・ネットワークシステム技術が特に注目されるようになった。そのうち若干の新技術は、すでにその成果が実際のヘルスモニタリングシステムに応用されている。さらに、ヘルスモニタリングシステムの総合集積技術も発展している。これらの新技術は、橋梁の状態をさらに科学的に定量評価するのに、効果的なツールになっている。

 保全管理は総合的な工学技術である。その関連技術または管理人員には、保全管理技術を備えるのみならず、設計と施工技術にもかなり熟知していることが求められ、理論的知識のみならず、実践経験も非常に重要になるのである。建築構造ごとにおかれている環境が異なるため、遭遇する問題は典型例にはなりにくい。そのため理論と経験を弾力的に運用し総合的に判断する能力が必要であり、施策と経済を理解し、意思決定をする能力、そして社会的責任感と使命感が必要になってくるのである。

 中国では近年、すでに40基以上の大型橋で橋梁ヘルスモニタリングシステムが設置された。一般的には、長大橋梁のヘルスモニタリングシステムは、少なくとも50台、最大で500台以上のセンシング観測点で構成され、その経費は橋梁総建設費の0.2~2.0%を占めている。これらモニタリングシステムの設計理念では、橋梁の保全管理を支援する役割が一層重視された。そして橋梁施工主にとっても、モニタリング内容と技術を偏重し、測定試験データ処理と評価を軽視する設計案は、一層受け入れ難くなった。また、ヘルスモニタリングシステム自身の耐久性も十分に重視され、システム設計時にはセンサーと他のハードウェアに交換可能性があることが求められ、かつ交換時にはデータ収集の連続性を妨げてはならなくなっている。橋梁竣工後、建築構造ヘルスモニタリングシステムは施工制御を行うモニタリングシステムと融合し、モニタリングデータの内容を施工段階に遡って応用することを強調する。建築構造状態評価用サブシステムと評価用ソフトの水準もある程度向上しており、対応する専門家チームもまた、橋梁構造ヘルスモニタリングシステムの使用者における重要な構成人員の一部と見なされるようになった。これらのヘルスモニタリングシステムは相次いで構築され、数年間の運用を経て、すでに貴重なデータを大量に蓄積している。これらのデータをどのように効果的に活用するかは、今後研究しなければならない重要な課題であろう。

5.結び

 中国では最近、多くの橋梁が建設されているが、その構造安全性は楽観視できない。災害事故を減らし、建築構造の安全性を高めるため、まず確固とした設計理論と方法の確立、施工品質の保証と保全管理の強化という3方面から行動を始めなければならない。近年では建築構造ヘルスモニタリング技術が比較的急速に発展しているが、これについて中国にはすでに多くの応用事例がある。そのため橋梁構造の性能状態を速やかに把握し、科学的な保全管理を行うのに効果的なツールとなり得るだろう。


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