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中国における高温超伝導技術応用の将来

2009年1月28日

韓征和

韓 征和(Han Zhenghe):
清華大学応用超伝導研究センター長

1948年生まれ
1982年 清華大学学士。
1985年 北京鋼鉄研究院総院修士。
1996年 デンマークコペンハーゲン大学博士。
1985~1986 鋼鉄研究院総院精密合金室、研究工程師、快速冷凍軟磁性合金を研究。
1986~1990 スウェーデン王立工学研究所、固体物理学部、訪問学者、快速冷凍軟磁性合金、高温超伝導在を研究。
1990~1993 スウェーデン、Linkoping大学技術センター、研究工程師、高温超伝導フィルムを用いたマイクロウェイブを研究。
1993~1997 デンマーク、NKT研究所、研究工程師、高級工程師、高温超伝導導線を研究
1997~1998 デンマーク、NST社、高級工程師、高温超伝導導線の発展と生産ラインの確立を担当。
1998~2000 デンマーク、NST 社、高級工程師、長線技術と応用の開発を担当。
2002-2005 国家“第十次5カ年計画”863計画の新材料技術分野の“超伝導材と技術”グループでグループ長を務める。
2000-2005 教育部長江特別招聘教授。
2000~ 清華大学物理学部応用超伝導研究センター主任。北京英納超伝導技術有限公司取締役会長。北京雲電英納超伝導ケーブル技術有限公司名誉会長。
表彰: 2006年 「国家科学技術進歩二等賞第一完成人」に表彰される。

 近年、中国経済の急速な発展により、エネルギー源と電力の需要が年々高まっている。2008年末には、中国の発電能力は800GWに達するだろうが、今年度の発電能力は100GW増加したに過ぎず、中国の一人当たりの平均エネルギー消費量は先進国家のそれよりはるかに低い。このため、エネルギーと電力に対する需要が将来中国にとって大きな圧力となることが予想される。しかも、このような大きな需要を国家のエネルギー政策の改革のみに頼り、国外の供給に頼ることを考えにくい。また現在中国のエネルギー構造は不合理である。たとえば、発電の70%以上は石炭発電であり、環境に与えた深刻な影響に対してはますます中国政府に重視されつつある。エネルギーの利用効率の向上とクリーンエネルギーの開発は中国経済の発展を持続させる方法でもある。一方、中国の大都市は近年急速に発展しているが、これらの急激な発展は多くの場合、良い計画があってのものではない。このため、電力供給・交通・住宅・環境問題は日を追って大きくなっている。高温超伝導技術は省エネや環境保護などのさまざまな面で優れており、これらの問題に解決策を提供するだろう。中国における高温超伝導技術の前途は明るい。以下に、エネルギー・電力・交通面での高温超伝導技術の大規模な応用例を紹介したい。

高温超伝導ケーブル

 高温超伝導ケーブルを応用するひとつの可能性は、大都市中心部に向けての送電である。現在中国の都市住民は主に、照明・テレビ・コンピューター・冷蔵庫・洗濯機などに電気を使用しており、夏にはエアコン、冬には電気ストーブを使い始めた。電動自転車も歩行手段に代わる道具となっている。エアコン・電気ストーブ・電動自転車は普及しており、都市の電力消費量はまだ倍増するかもしれない。将来中国ではハイブリッド車は主流にはならず、大都市では電気自動車が普及するだろうという一部の研究もある。これが事実となれば、大都市の電気需要は更に増大する。北京を例にとると、現在の使用電力は10GW前後、すでに1600万を超える常住人口と数百万の流動人口を有している。一人当たりの平均消費電力を1kWとすると、電力需要は近い将来2倍になり、20GWレベルに達する。市内では建築密度が高く、市政計画が不備で建設に追いつかない。送電規模を大幅に拡大する必要があるが、通常の手段では巨額のインフラ資金を消費することになり、社会と環境に深刻な影響をもたらす。高温超伝導ケーブルは電気エネルギー密度が高く、通常のケーブルと同じ断面積で3~5倍の電気を送ることができ、現行の地下送電設備を使用することもできるので、銅ケーブルを超伝導ケーブルに代えれば、送電量増加の目的を達することができる。

 また、高温超伝導ケーブルは通常のケーブルと同じ断面積で多量の電流を送ることができるので、同じ量の電気を比較的低い電圧で送ることが可能である。つまり、配電回路の電圧を用いて、送電回路の電気を送るのである。高温超伝導ケーブルのこの特徴は大都市送電で大きなメリットがある。都市の中心部に変電所を建設することはむずかしい。たとえ地下であっても、建築費は高くなるであろうし、変電所に適した場所を探すことは困難である。また、実際問題として、変電所の大型設備、特に大型の変圧器を市の中心部に搬入することはできないかもしれない。そこで、市の中心以外に変電所を建設すれば、高温超伝導ケーブルを使うことで、大型変圧器でなくても比較的低い電圧で市の中心部に送電することができる。現在、中国の大都市ではすでにこのような要求があり、高温超伝導ケーブルがもたらす総合経済効果も軽視できない。高温超伝導ケーブルが都市で応用されない主な原因は、政策決定者がその信頼性と安全性を全面的に信頼していないことにある。国外での成功経験とデータが、高温超伝導ケーブルが中国で広く応用される助けとなることを期待する。

 長い視点に立てば、高温超伝導ケーブルの最終的な用途は長距離送電である。中国ではエネルギー源が西部で豊富であり、東部は人口密度が高く、経済が発展している。西部の大量なエネルギーをさまざまな方法で東部に長距離輸送しなければならない。現在山西省では一本の鉄道路線と高速道路で、大量の石炭を北京や天津、唐山一帯の発電所に輸送し、東部大都市の電力需要をまかなっている。汽車や自動車での石炭輸送はエネルギーの消費量が非常に大きいだけでなく、沿道は石炭粉末のため黒くなり、環境への影響も大きい。山西省の石炭鉱付近に発電所があり、高温超伝導ケーブルで送電できれば、省エネにもなるし、環境汚染を改善することもできる。近い将来、高温超伝導ケーブルが中国の長距離送電の分野で必ずや大きな効果を持つものと確信する。

 中国では、北京雲電英納超伝導ケーブル技術有限公司などが2004年に3相、35キロボルト、2キロアンペア、33.5メートルの高温超伝導ケーブルを開発し、雲南省昆明の普吉発電所で発電の送電回路を送電ネットワークに接続する“並網運行”を実現した。このケーブルは現在世界最長の運行時間を誇っている。また、この年、中国科学院電工所などの機関は3相、10キロボルト、1キロアンペア、75メートルの高温超伝導ケーブルの開発に成功した。

高温超伝導限流器

 近年、中国では高圧配電ネットワークの建設が盛んだが、条件の問題や短時間での建設により、安全性や安定性に欠ける。高圧配電ネットワークは、地方によっては故障が非常に大きく、通常の方法では処理できない。高温超伝導限流器を使用することができれば、安全性と安定性は大幅に向上し、同時に高圧配電ネットワークの効率も高められる。

 中国科学院電工所などの機関は2005年に10.5キロボルト、1500アンペアの改良橋路型高温超伝導限流器の初期モデルを製造し、湖南婁底高溪変電所では発電した送電回路を送電ネットに接続する“並網運行”を実現した。北京雲電英納超伝導ケーブル技術有限公司は2007年に35キロボルト、1200アンペアの飽和鉄芯式高温超伝導限流器を開発し、雲南省昆明の普吉発電所は発電した送電回路を送電ネットに接続する“並網運行”を実現した。現在、同社は2009年中の実現を目指して、220キロボルトの高温超伝導限流器を研究している。その他の国が限流器を主に配電システムに応用しているのと異なり、中国の高圧配電ネットワーク会社の関心は限流器の送電ネットワークシステムでの応用である。これもまた、近年高温超伝導限流器の開発プロジェクトの電圧指数が年々高まっている原因であろう。

高温超伝導変圧器

 高温超伝導変圧器は通常の変圧器に比べ、損耗が少ない。中国では省エネがまだ主要な応用目的ではないが、サイズも小さく環境にもやさしいという特徴がある。たとえば、大都市では多くの場合、変圧器を室内か地下に設置するが、将来配電ネットワークの拡大のため大容量に交換する場合、大きな変圧器では場所の制限を受けることになる。もし、大容量だが大きさはそれほど変らない高温超伝導変圧器を使用すれば、この問題は比較的容易に解決できる。しかも、高温超伝導変圧器は値段は多少高いが、土地やスペース、増築などの出費を節約できるので、総合的な経済効果はかなり良いといえる。また、前述したとおり、大型変圧器は場所をとり、道路や橋、排水路などの大きさによっては使えないことがあり、都市の中心部に送電することができないかもしれない。サイズが小さい高温超伝導変圧器を使用すれば、このような問題は解決する。現在中国では水力発電工事が急速に進められているが、大型水力発電所の多くは交通不便な山岳部に作られている。水力発電所の最大型設備は変圧器なので、変圧器があまりに大きければ、そのために道路を広げなければならないということもある。サイズが小さい高温超伝導変圧器を使用すれば、水力発電所の投資額を減らすことができる。

 中国科学院電工所と新疆特変電工株式有限公司は、2005年に630キロアンペアの3相高温超伝導変圧器を共同で開発し、高圧配電ネットワークの試運転を行った。この超伝導変圧器にはエネルギーの損耗をさらに抑えるため、非結晶体の鉄芯が使用されている。中国南車集団などの企業は、同年、高温超伝導変圧器を用いて300キロアンペアの電気自動車を開発した。

高温超伝導風力発電機

 風力発電機はパワーが大きくなれば、発電パワーもそれに比例して大きくなる。現在世界最大の風力発電機は5兆ワット前後である。大型風力発電機は、重量があり、サイズも非常に大きいので、通常の技術を用いて、さらにパワーのある発電機を作ることは難しい。高温超伝導発電機を使用すれば、重量とサイズを通常の1/5-1/3に小さくしても、さらに大きなパワーを生む風力発電機を製造できる。中国が10兆ワットの高温超伝導発電機を4万台(現在の発電能力の半分)製造できるなら、中国のエネルギー需要問題は根本的に解決するだろう。当面の金融危機を解決するため、政府が資金投入を計画していることを考えれば、多くの高温超伝導発電機を建造することは決して夢物語ではない(2008年末中国政府は金融危機解決のため、4兆人民元を投資したが、10兆ワットの高温超伝導発電機を1台製造する価格は1億人民元以下である)。

 中国政府はエネルギーのリサイクルを重視し、これに力を入れている。中国の風力発電能力は2003年には500兆ワット前後であったに過ぎないが、2006年には2300兆ワットに増加し、2010年には5000兆ワットに達すると予測している。しかし、現在の勢いでは2010年には10000兆ワットにまで達するだろう。したがって、高温超伝導風力発電技術の前途は明るく、将来性がある。現在、中国はすでに100キロワットの高温超伝導発電機を開発し、1兆ワットを計画中であるが、いまのところ、まだ大型高温超伝導風力発電機プロジェクトが主流ではない。

高温超伝導リニアモーターカー

 リニアモーターカーと言うと、高速長距離軌道交通が思い浮かぶ。中国の都市では高温超伝導低速リニアモーターカーを用いた軌道交通を率先して取り入れている。中国の大都市の大部分は深刻な交通問題を抱えており、道路建設が需要に追いついていない。地下交通も発展しておらず、道路や建築物の計画も合理的ではない。将来、さらに多くの道路や軌道交通を計画しても、さまざまな制限を受けることだろう。高温超伝導低速リニアモーターカーは運行中の騒音や振動がなく、ビル群を走っても周囲に影響を及ぼすことはないので、路線計画が制限を受けることもない。出勤時や帰宅時の疲労感も減少するかもしれない。低速軌道交通はそれほど高度な技術がいらず、安全に対する信頼性の問題も起こりにくいので、研究開発や製造コストが高くはなく、一般の企業が製造できる。さらに重要なのは、低速軌道交通のプロジェクトは比較的推進しやすいという点である。ひとつの都市で通りさえすればそれでいい。このため、高温超伝導低速リニアモーターカーの交通システムは中国で急速に発展する可能性が大きい。中国西南交通大学では高温超伝導材を用いたリニアモーターカーの技術を長年にわたって研究し、リニアモーターカーの有人試験に成功した。北京清華大学でも高温超伝導材を用いたリニアモーターカーの試験装置を研究している。

終わりに

 筆者の能力とスペースの関係上、以上の文章では高温超伝導技術の中国における応用の可能性の一部のみを述べた。中国では、過去国民経済がさまざまな分野で発展し、ひとびとの基本的な要求を解決してきた。将来さらに発展して、人々の生活の質や省エネ意識が向上し、環境に対する関心がたかまることと思う。経済と技術の発展、人々の意識の高まりに伴い、高温超伝導技術の応用が中国でますます普及するものと確信する。中国の科学技術と経済実力のレベルは先進国に比べひらきがあり、特に、高温超伝導のようなハイテク技術の応用は、今後まだ一定期間は国外の先進国の技術と成果に頼らざるを得ないが、製品の購入や技術の導入、あるいは外国の会社からの直接投資などによって、中国の高温超伝導技術の応用は大きく発展するだろう。これまでの経験から見ても成功した協力例は多い。高温超伝導が中国で広範に応用され、国際協力の良好なモデルとなることを期待する。


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