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先進超伝導線材の開発とその応用

2009年1月16日

熊倉浩明

熊倉 浩明(くまくら ひろあき):
独立行政法人物質・材料研究機構超伝導材料センター長

1952年5月27日生まれ。
1976年3月、東京大学工学部金属材料学専攻卒業。1978年物質・材料研究機構(旧金属材料技術研究所)に入所以来、超伝導材料の合成、構造解析、特性評価ならびに線材化の研究に従事。
2007年5月より筑波大学大学院数理物質科学研究科教授(兼任)工学博士。現在、独立行政法人物質・材料研究機構超伝導材料センター長。

1.緒言

 現在線材化研究が進められている超伝導材料は金属系超伝導材料と酸化物系超伝導材料に大別される。すでに実用化されている超伝導材料は、金属系のNb-TiとNb3Snの二つであり、これらについては別項の太刀川氏の解説に詳しく述べられている。一方、高温酸化物超伝導体については、発見以来数多くの研究者が線材化に取り組んできたが、最近になってようやく高性能な長尺線材が得られるようになり、実用化が真剣に議論されるようになってきた。実用化の観点から有望な高温酸化物超伝導体はビスマス系酸化物とイットリウム系酸化物である。また、2001年に発見されたMgB2は金属系の超伝導材料であるにも関わらずTcが約40Kと金属系超伝導材料としては非常に高いので線材化の研究が盛んになされている。ここでは、これらの超伝導材料の日本における線材化の現状を紹介し、将来展望について考えたい。

2.ビスマス系超伝導線材

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 酸化物超伝導体においては、結晶粒のいわゆる弱結合の問題があり、これを避けるためには、酸化物超伝導体の結晶粒の方位を揃えてやること(配向化)が必要となる。この配向化によって結晶粒同士の結合性が大幅に改善され、大きな超伝導電流を流せるようになる。ビスマス系酸化物にはBi2Sr2CaCu2Ox(Bi-2212)とBi2Sr2Ca2Cu3Oy(Bi-2223)とがあり、線材化法としては、どちらも原料粉末を金属管に充填して加工・熱処理を行うパウダー・イン・チューブ(PIT)法が最も一般的である。金属管としては銀が用いられている。最近では、ある程度加工をした線材を束ねてさらに銀管に挿入し、これをさらに加工して得られる、より実用に適した多芯線材が主流である。ビスマス系酸化物は系の異方性(二次元性)が強いために、結晶粒の配向化が比較的容易である。しかしながら配向化の手法はBi-2212とBi-2223では異なっており、Bi-2212線材では、熱処理において温度をBi-2212の融点の少し上まで上げ、その後ゆっくりと冷却をする、いわゆる部分溶融―徐冷熱処理が適用される[1]。図2.1には一例としてBi-2212多芯丸線材の断面構造を示す[2]

 一方のBi-2223では部分溶融―徐冷熱処理法が適用できず、機械加工と熱処理とを組み合わせることにより配向させている[3]。 このようにBi-2223線材では溶融法が適用できないために、Bi-2223線材における超伝導体の充填率はBi-2212線材に比べてかなり低かったが、その後加圧熱処理法が開発されて超伝導体の充填率が上がり、優れた臨界電流特性が得られるようになってきており、DI-BSCCO(Dynamically Innovative Bi-Sr-Ca-Cu-O)と呼ばれている[4]

図2.2. Bi-2223線材を用いて試作した超伝導送電ケーブル。

 このようにして作製したビスマス系線材は、~20K以下の低温ではその高い上部臨界磁界Bc2(あるいは不可逆磁界Birr)を反映して、30テスラ以上の極めて高い磁界まで臨界電流密度Jcの劣化がほとんどなく、金属系の線材を大幅に凌ぐ優れた特性を示す。したがってビスマス系線材の応用の一つは、低温で使用する高磁界マグネットである。また最近では冷凍機の進歩が目覚しく、~20K程度の温度は簡単に得られるようになってきている。20K近傍でマグネットを運転するメリットは、液体ヘリウム冷却に比べて冷却コストを抑制できるだけでなく、線材の比熱が桁違いに大きくなるので、マグネットの安定性が大きく向上することである。このようにして、液体ヘリウム不要の冷凍機冷却マグネットがビスマス系線材のもう一つの有望な応用である。一方でさらに温度が上がると、ビスマス系線材では磁界中のJcが急激に低下するという難点がある。しかしながら磁界が十分に低い場合は、液体窒素温度(77K)でも相当大きな超伝導電流が流れるために磁界の影響の少ない送電ケーブルなどの応用が真剣に検討されている。図2.2には住友電工がBi-2223線材を用いて試作した送電ケーブルを示す。この送電ケーブルは、米国、ニューヨーク州のAlbany市における超伝導送電プロジェクトに使用され、1年以上にわたって7万家庭に電力を供給した実績を有する[4]

3.イットリウム系超伝導線材

 図3.1  IBAD法によるY-123テープの基本構造。

 イットリウム系酸化物超伝導体であるYBa2Cu3Oy(Y-123)では、ビスマス系よりも二次元性がはるかに小さく、77Kでの磁界中のJc特性は、Bi-系酸化物よりもはるかに優れている。しかしながら結晶粒間の大きな超伝導電流を得るためには、一軸配向(c軸配向)だけでは不十分であって二軸配向化が必要である[5]。このため、主に気相法を適用して金属基板テープ上にY-123の厚膜を形成させる研究が進められており、通常コーテッドコンダクタ(Coated Conductor)と呼ばれている。
現在のところ日本で最も長尺テープの作製が進んでいるのがIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法と呼ばれる方法である。図3.1にIBAD法テープの基本的な構造を示す。ハステロイなどの無配向金属基板テープ上に、Gd2Zr2O7(GZO)などの中間層を二軸配向させた状態で成膜させるのがポイントであり、二軸配向Y-123膜は、この配向した中間層の上にPulsed Laser Deposition(PLD)法などによってエピタキシャル成長させて得られる。また、このIBAD法による中間層の上に、更にCeO2膜をPLD法で蒸着すると(キャップ層)、中間層の配向度よりもさらに配向性の優れたCeO2層が得られ(自己配向化)、このCeO2層の上にY-123層を形成するとさらに高い配向性を持ったY-123膜が得られる[6]

図3.2 長尺テープ作製のための繰り返し蒸着法[7]。

 このIBAD法では、これまで中間層ならびにY-123層の生成速度が遅いという難点があったが、最近では大出力レーザーの適用や、図3.2に示すような、中間層、Y-123層ともに繰り返して蒸着を行う方法[7]によって成膜速度が向上してきており、長尺テープも試作されつつある。最近では、このIBAD-PLD法でYをGdで置き換えた500m級のGd-123長尺テープが作製されている[8]。このようなIBAD-PLD法により液体窒素温度(77K)、ゼロ磁界では、3×106A/cm2を越える非常に高いJcが報告されている。

 一方、上記のPLD法によってY-123層を形成させる方法に対して、より簡便な塗布法を適用する方法も研究されている。この方法は真空チャンバーが不用なため、大型化、工業化が容易でより安価に線材作製が可能である点に特長がある。具体的には、IBAD法などで中間層を形成させたハステロイ基板テープ上に、原料金属のトリフルオロ酢酸塩などの金属有機酸塩を塗布し、熱処理を行うものである。実際、最近では図3.3に示すように高い臨界電流特性を有する500m級の長尺テープがこの方法によって得られるようになってきている[9]

図3.3 塗布法により作製した500m級Y-123テープの臨界電流特性[9]。

4.MgB2線材

 MgB2はTcが高いにも関わらず、高温酸化物超伝導体で問題となる結晶粒間の弱結合が存在せず、この点で実用上有利であると考えられる。また、原料の価格が低いことや比較的簡便な線材作製法が適用できるため、低コスト化が可能なこと、などもMgB2の利点である。MgB2の線材化法に関しては、上のビスマス系線材のところで述べたPIT法が主流である。金属管としては、熱処理温度において、MgやBと反応しない金属でなければならず、Fe、Nb、Ta、ステンレスなどが用いられる。

図4.1  MgB2テープの上部臨界磁界。

 図4.1には、無添加ならびにSiC添加したMgB2テープのBc2の温度依存性を、Nb-TiならびにNb3Sn実用線材の値と共に示す[10]。SiC添加した線材においては、4.2Kに外挿したBc2は~30テスラに達し、この値は実用線材であるNb3Sn線材のBc2と同等あるいはそれ以上の値である。また20Kに外挿したテープ線材のBc2(20K)は~11テスラであり、これは、現在最も広く使用されているNb-Ti実用線材の4.2KにおけるBc2に匹敵する値である。このことは、現在4.2Kで実用されているNb-Ti線材をMgB2線材で置き換え、20Kで運転できる可能性があることを示している。このようにMgB2線材では20Kの温度においてもかなり高いBc2が得られることから、MgB2線材の応用の一つとして、液体ヘリウム不要の、冷凍機などで冷却する超伝導機器が考えられる。

図4.2 Mg拡散法により作成したMgB2ワイヤー(熱処理前)[11]。

 PIT法テープにおいては、20Kにおいて2テスラの磁界中で実用レベルの目安とされる100kA/cm2越える値が得られており、比較的低い磁界での応用は現状のJcレベルでも可能であると考えられるが、Jcは磁界と共に急激に低下し、5テスラでは12kA/cm2にまで低下してしまう。PIT法ではMgB2コアの充填率が50%程度と低く、高いJcを得るのが中々困難であるが、最近筆者らのグループでは、図4.2に示すようにボロン粉末層に層の外からMgを拡散によって供給するMg拡散法で線材を試作しており、3テスラで100kA/cm2を越える高いJcを得るのに成功している[11]

 MgB2線材を用いてマグネットの試作が世界中で行われているが、筆者らのグループでは、PIT法線材を巻き線後に熱処理をするいわゆるWind & React 法でソレノイドコイルを試作し、種々の温度で励磁試験を行っている。外径50mmの小型コイルで20Kの温度、1テスラのバイアス磁界において1テスラを越える磁界の発生に成功しており、MgB2線材は冷凍機冷却や液体水素冷却による超伝導マグネットに有望と考えられる[12]

5.今後の課題と展望

 ビスマス系酸化物線材ではJc特性の向上が最も重要である。結晶粒の配向化の改善や不純物の低減がカギとなろう。また、一般に酸化物線材は作製プロセスが複雑でコストが高くなりがちであり、コストの低減が非常に重要である。このためには、線材製造行程の合理化など、検討すべき項目は多いと考えられる。
Y(RE)-123(RE: Rare Earth metal)ではJc自体は高い値が得られるようになったが、基板や中間層なども入れた線材全断面積当たりのJc(Je)はまだそれほど高くはない。今後は更なる組織制御による配向化の改善や、Y-123層の厚膜化、積層化なども視野に入れる必要があろう。また、コストの面では、成膜速度が重要であり、さらに高速化を達成して線材製造速度を上げる必要がある。この点では、上で述べた塗布法などの非真空プロセスが有望と考えられる。

 MgB2線材においてもJcが実用レベルに達しておらず、高Jc化が最大の課題である。PIT法によるMgB2線材の場合は、MgB2の充填率が50%程度とかなり低く、充填率の向上でJcが大幅に改善する可能性があり、またMg拡散法も有望であろう。また、MgOなどの不純物の低減も重要であろう。
以上述べたように、いずれの線材にしても、様々なレベルにおける材料組織の制御が実用化のカギを握ると考えられ、材料科学に立脚した息の長い研究の積み重ねが、これからも強く望まれる。

主要参考文献:

  1. H. Kumakura, Bismuth-based High-Temperature Superconductors, Ed. By H. Maeda and K. Togano, Marcel Dekker, Inc., New York (1996) p. 451.
  2. A. Matsumoto, et al., Supercond. Sci. Technol., 17 (2004) 989.
  3. Y. Yamada, Bismuth-based High-Temperature Superconductors, Ed. By H. Maeda and K. Togano, Marcel Dekker, Inc., New York (1996) p.289.
  4. K. Sato, SEI TECHNICAL REVIEW, 66 (2008) 55
  5. Dimos, D., et al., Orientation Dependence of Grain-Boundary Critical Currents in YBa2Cu3O7-5 Bicrystals, Phys. Rev. Lett., 61 (1988) 219.
  6. 室賀岳海他、低温工学、39 (2004) 529.
  7. 国際超電導産業技術研究センターホームページ、http://www.istec.or.jp/index-J.html
  8. 富士 広他、第77回低温工学超電導学会講演概要集、(2007) p. 198.
  9. 小泉勉他、第79回低温工学超電導学会講演概要集、(2008) p. 115.
  10. H. Kumakura, et al., Physica C456 (2007) 196.
  11. 戸叶一正他、第79回低温工学超電導学会講演概要集、(2008) p. 195.
  12. K. Tanaka, et al., Supercond. Sci. Technol., 18 (2005) 678.

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