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鉄砒素系新超伝導体の合成手法に関する研究

聞海虎 牟剛,祝熙宇,韓飛,程鵬,沈斌,曾斌共著 (中国科学院物理研究所・超伝導国家重点実験室および北京凝縮態物理国家実験室)  2009年1月27日

聞海虎

聞 海虎(Wen Hai-Hu):中国科学院物理所研究員、
博士学生教師、超伝導国家重点実験室主任

1964年08月生まれ。
1991年3月中国科学院プラズマ研究所を卒業、博士学位を取得 聞海虎研究員は長期に渡り高温超電導体磁束量子動力学とメカニズム問題の研究に従事している。これまで鉄系超伝導材料、酸化物高温超伝導体、二硼化マグネシウム超伝導体方面で多くの重要な作業を行い、約170編もの学術論文を発表。最初の受賞者として中国国家自然科学賞二等賞、北京市科技賞、その他栄誉賞など多くの賞を受賞。また、世界的に重要な学術会議上で招待報告を60回余り行った。
現在、中国国家超伝導材料基礎研究プロジェクトの主席科学者(973)、国際超電導専門雑誌「Physica C」と「中国科学」・「Chinese Physics Letter」・「物理」雑誌の編集委員、カナダ高等研究計画(CIFAR)極東地区代表を担当する。

概要:

本論文は中国科学院物理研究所・超伝導国家重点実験室の聞海虎プロジェクトチームが鉄砒素系物質の合成に関して収めた成果をまとめている。まずホールドープ型の1111系が持つ超伝導性に関する研究成果や今後の発展について紹介する。次いでフッ素ドープ鉄砒素系物質AeFeAsF (Ae=Sr、Ca、Ba and Eu)に関する研究の進展や最新の超伝導転移温度に関する記録について報告する。最後に一種の鉄砒素系物質で面間隔が比較的大きな新しい構成材料である(Sr3Sc2O5)Fe2As2の合成について説明する。

1.序文

 2008年初頭に東京工業大学の研究者はフッ素添加LaFeAsOの臨界温度が26Kに達する超伝導特性[1]を持つことを発見した。これにより20年に及ぶ絶対的な高温超伝導体としての銅酸化物の時代が終了した。その後、添加や代替材の使用といった化学的手法によりFeAs層を導電層とする超伝導体が相次いで発見された。超伝導の際の臨界温度Tcも55K-58Kへと急速に上昇した。例えば以下のものが印象的だ。Ln元素(Ln=Ce、Pr、Nd、 Sm、Gdなど)をLaFeAsO1-xFxのLa元素に置き換え、Tcを急速に高めたもの[2、3、4]。2価のアルカリ土類金属Srを母体であるLnFeAsOにおけるLn (Ln = La、Pr、Nd)の位置に一部添加し、ホールドープ型超伝導体[5、6、7]を得たもの。FeAs層に基づく母体(一般的に122相と呼ばれる)である(Ba、Sr)Fe2Asをベースとし、1価のアルカリ金属であるKなどを添加し最大38Kの超伝導性を得たもの[8、9]。LaFeAsOにおけるLaO層をAeF (Ae = Ca、Sr、BaとEuなど)層に置き換えて得られる新しい1111相母体(一般的にフッ素系1111相と呼ばれる)、La、Pr、Ndといった希土類元素をAeの位置に置き換えたもの、CoなどをFeの位置に置き換えたものも超伝導性が得られ、最高温度は57.4Kに達する[10、11、12、13、14]。また前述したFeAs層に基づく超伝導体の基本特性やメカニズムに関する研究も急速に進んでいる。母体や無添加のサンプルに関する電子構造計算や中性子散乱実験によって反強磁性(AF)の存在が明らかになっている[15、16]。温度可変の構造測定によると、AF相変態温度付近で構造変態が生じる。両者の関連について目下研究が進行中である。同時に多くのアプローチからこのような超伝導体のペア対称性についても研究が行われている。現段階では1111相におけるLnFeAsO1-xFxのペア対称性について異なる見解が存在する[17、18、19、20、21、22、23、24、25]。また122系では拡張のs波対称性が主流となっている[26、27、28]

 本論文は主に聞海虎プロジェクトチームが今年研究してきた新しい超伝導体(または母体)とその作成方法および磁化率、電気抵抗、ホール効果などを含む基本物理特性について説明している。最初に1111系に基づくホールドープ型超伝導体であるLa1-xSrxFeAsOとPr1-xSrxFeAsOに対するホール効果研究を通したキャリアタイプの特定や上部臨界磁場に関する研究について紹介する。次いでフッ素系1111系における母体であるAeFeAsF(Ae=Ca、Sr、Euなど)についてAFや構造変態の温度を確定する。また希土類元素を添加して得られる高い転移温度を持つ超伝導体のCa1-xPrxFeAsF、Ca1-xNdxFeAsFとSr1-xLaxFeAsFなどについて報告する。最後にFeAs層をベースとする超伝導体の母体となりえる(Sr3Sc2O5)Fe2As2について、その物理特性を含めて簡潔に紹介する。

 本論文で示す交流磁化率データは英国Oxford Instruments社製の電磁熱マルチパラメータ測定システム(Maglab-12)によって、直流磁化率はQuantum Design社製の超伝導量子干渉素子計(SQUID、 MPMS7)によって、電気抵抗やホール効果はQuantum Design社製の物理特性測量システムPPMSによって得られた。

2.実験結果とディスカッション

(1) ホールドープ型Ln1-xSrxFeAsO (Ln = La、Pr)

 2段階の固相反応法によってホールドープ型Ln1-xSrxFeAsO (Ln = La、Pr)のサンプルを作成した。まずLnAs(Ln = La、Pr)とSrAsの前駆物質を作成する。高純度のLa顆粒、Pr顆粒、Sr顆粒を個別にAs顆粒と混ぜ合わせ、ウェハを作成し高真空状態の石英管に封入する。それから500℃で12時間処理し、ゆっくりと700℃まで上げて16時間処理する。こうして得られた前駆物質LnAs (La = LaまたはPr)とSrAsを高純度のFeパウダーやFe2O3パウダーと混合し、各元素のモル数が化学式Ln1-xSrxFeAsO(Ln = Laの場合は0.0<x<0.20、Ln = Prの場合は0.0<x<0.25)を満足するようにする。それから十分に研磨した上でウェハを作成し、アルゴンガスを0.2 bar充填した石英管に封入する。得られた混合物を1150℃で40時間焼結し、ゆっくりと常温に戻すとLn1-xSrxFeAsO (Ln = La、Pr)の多結晶サンプルが得られる。原料の計量、混合、研磨は酸素や水分による影響を避けるため高純度のアルゴンガスで保護されたグローブボックス内で行う。

図1 図2

 得られたサンプルの基本的物理特性を測定した。図1(a)はLaFeAsO母体とx = 0.15となるように添加した超伝導体サンプルの温度変化に対する電気抵抗率の変化を示している。母体サンプルの156K付近に顕著な電気抵抗率の異常が認められる。これは構造変態あるいはAF変態の発生であるとされている[15]。 x = 0.15のサンプルでは添加されたキャリアがAFの急変を抑制するため、高温時の電気抵抗率は安定したトレンドを示した。この現象は別のホールドープ型1111系においても観察されている[5、6、7、29]。同現象は鉄をベースとするホールドープ型超伝導体が持つ共通の性質であると考えられる。低温時に急激な超伝導転移が認められる(図3は転移発生付近の拡大図)。95%ρnを判断基準とすると同サンプルの転移開始温度はTc = 25.5 Kとなる。図1(a)の挿入図はx = 0.15となるように添加したサンプルの交流磁化率を示している。交流磁場は0.1 Oe、周波数は333Hzである。サンプル中で超伝導が発生した確率は推定50%を超えており、磁化率曲線の転移開始温度は約19.2Kであり、概ね電気抵抗率曲線のゼロ抵抗の位置に対応する。同様に図1(b)で示した異なる添加濃度のPr1-xSrxFeAsO (x = 0.05、0.25)サンプルにおける電気抵抗率や交流磁化率のデータからもホールドープ型キャリアが160K-170Kの電気抵抗率の急変を抑制していることがわかる。同様の判断基準によるとx = 0.25となるように添加したサンプルの転移開始温度が概ねTc = 16 Kとなる。サンプルにおけるキャリアの伝導特性を研究するため、代表的な超伝導体であるLa0.87Sr0.13FeAsOとPr0.75Sr0.25FeAsOのホール効果を測定した。図1(c)から2つのサンプルのホール係数RHが温度に対して依存性を示しており、中温度域で弓状を呈していることが観察できる。これもホールドープ型1111系共通の特性であると言える。またホール係数RHは幅広い温度範囲において正数となっており、250Kを超えて初めて絶対値がやや小さい負数となっている。これは低温時のサンプルの伝導過程において、ホールドープ型キャリアが主体となっていることを示している。ホール係数の強い温度依存性および高温下における変動といった現象はマルチバンド効果の一種であると考えられる。

図3

 添加サンプルLn1-xSrxFeAsO (Ln = La、Pr)の構造特性を研究するため、常温下においてX線回折による解析を実施した(データは割愛)。X線回折の結果によると、サンプルが純度の高い1111相であり、各ピーク値は周囲のZrCuSiAs構造と合致する。図2はX線回折によって確定したサンプルのa軸やc軸方向の格子定数である。La系やPr系のサンプルにおいて格子定数(a軸およびc軸方向を含む)がSrの添加量の増加に応じてゆっくりと上昇することが分かる。これはSr2+イオンの半径がLa3+やPr3+イオンの半径よりも若干大きいためである。また前記2つの元素における超伝導転移温度TcもSrの添加量の増加に応じて上昇し、次第に飽和に達する。Pr系のサンプルにおける格子定数の増大の程度がLa系のサンプルの場合よりも小さいのは、PrFeAsO中に実際に取り込まれるSrの量が理論上の添加量よりも少ないからである。今後作成条件が改善され、より多くのSrを格子内に取り込ませてPr1-xSrxFeAsOにおいて更に高い超伝導転移温度が得られるかもしれない。

 最後に異なる磁場における電気抵抗率からLa0.85Sr0.15FeAsOとPr0.75Sr0.25FeAsOの上部臨界磁場を算出する。図3(a)と(b)は最大9Tの磁場下の超伝導転移付近における2つのサンプルの電気抵抗率を示している。ゼロ磁場において2つのサンプルの電気抵抗は共に急激に変化しているが、磁場が増大するにつれて変化の幅は抑制されている。特にPr0.75Sr0.25FeAsOが顕著な傾向を示している。転移開始点は一般的に上部臨界磁場の状況を表していることが分かる。同様に95%ρnの判断基準から異なる磁場に対応するTcを採取し、図3(b)の挿入図に示す。Ginzburg-Landau理論の方程式0902wen_siki1 によってデータを近似する。このうちHc2(0)は零度における上部臨界磁場、t = T/Tcは対臨界温度である。近似結果は図3(b)の挿入図に実線で示す。これによりLa0.85Sr0.15FeAsOとPr0.75Sr0.25FeAsOの上部臨界磁場が112Tと52Tであることが分かる。また超伝導体の上部臨界磁場はWerthamer-Helfand-Hohenberg (WHH)と呼ばれる方程式 によっても算出できる。図3(b)の挿入図から2つのサンプルにおける上部臨界磁場の温度に対する変化の傾斜度が0902wen_siki3 -4.6 T/Kと-4.0 T/Kであることが分かる。WHH方程式によって計算すると上部臨界磁場が78Tと45Tとなる。ここで得られた上部臨界磁場と温度に対する変化率の絶対値はTcに近い電子ドープ系のLaFeAsO1-xFxにおける対応値より明らかに高くなっている[30]。このようなホールドープ型の特性は今後応用される余地がある。理論上の推測から同特性は正常状態のフェルミ面における高い状態密度(DOS)によるものであると言うことができる[31]。ダーティリミットの第2種超伝導体の場合、上部臨界磁場の温度に対する変化率は正常状態の比熱係数に正比例する。また後者は正常状態におけるフェルミ面の状態密度(DOS)に正比例する。この推定は122系におけるホールドープ型超伝導体であるBa1-xKxFe2As2に見られる状況と一致する[32、33]

 現時点では1111系においてホールドープ型超伝導体を作成できるかについて異論が存在する。更に多くの研究チームによる徹底した作成実験が必要である。Ca添加を試してみると原因は定かではないが超伝導特性を確認できなかった。1111系におけるホールドープ型超伝導体を得るためには適切な試験方法が不可欠であると考えられる。

(2) フッ素系1111系AeFeAsF(Ae=Ca、Sr、Euなど)の母体といくつかの新しい超伝導体との合成

図4

 同様に2段階の固相反応法によってフッ素系1111系Ae1-xLnxFeAsF(Ae=Ca、Sr、Euなど。Ln = La、Pr、Ndなど)のサンプルを作成した。まずAeAs(Ln = Ca、 Sr、 Euなど)とLnAs (Ln = La、Pr、Ndなど)の前駆物質を作成する。作成方法は前述した詳細内容と同様である。得られた前駆物質AeAs(Ln = Ca、 Sr、 Euなど)とLnAs (Ln = La、 Pr、Ndなど)を高純度のFeパウダーやFeF2パウダーと混ぜ合わせ、各元素のモル数が化学式Ae1-xLnxFeAsF (Ae = Ca、Ln = PrまたはNdの場合はx=0,0.60、Ae = Sr、Ln = Laの場合はx=0,0.40、Ae =Euの場合はx=0)を満足するようにする。それから十分に研磨した上でウェハを作成し、アルゴンガスを0.2-0.4 bar充填した石英管に封入する。得られた混合物を950℃で40時間焼結し、ゆっくりと常温に戻すとAe1-xLnxFeAsF(Ae=Ca、Sr、Euなど、Ln = La、Pr、Ndなど)の多結晶サンプルが得られる。原料の計量、混合、研磨は高純度のアルゴンガスで保護されたグローブボックス内で行う。ボックス内の水や酸素の含有量は0.1 ppm未満とする。

 図4(a)で示されるように、3つの母体サンプルCaFeAsF、SrFeAsF、EuFeAsFのゼロ磁場下における温度に伴う電気抵抗率の変化データを測定した。そこから、低温領域における3つのサンプルの電気抵抗率はすべて弱い半導体の跳ね上がっている動きが見られ、高温領域では、3つのサンプルの電気抵抗率はすべてやや弱い温度依存性を示していることが分かる。中温領域に関しては、3つのサンプルはそれぞれ118K、173K、153Kで著しい電気抵抗率の異常が見られた。これらの動きはその他の鉄系超伝導材料の母体で観察されるものと類似しているが[1、15]、おそらくサンプルにAF或いは構造変態で引き起こされたものだと思われる。図4(b)は、母体サンプルの1つであるSrFeAsFの直流磁化率データで、5000 Oe下でゼロ磁場冷却モデルを用い測定したものである。電気抵抗率データと相互に呼応しているものとしては、173 K付近で著しい異常を検出したが、その温度下でAF或いは構造変態を確認することができた。これ以上の温度になると、磁化率は温度に伴い基本的にリニアに増加する動きを見せるが、一般的に磁気双極子モーメントの短距離秩序の関連効果[34]と解釈されている。

図5

 図5は、3つの超伝導サンプルであるCa0.4Pr0.6FeAsF、Ca0.4Nd0.6FeAsF、Sr0.6La0.4FeAsFの電気抵抗率及びその中の典型的なサンプルであるCa0.4Nd0.6FeAsFの直流磁化率データを示したものである。図5のメインとなる図は、3つのサンプルのゼロ磁場下における温度に伴う電気抵抗率の変化の曲線を示している。そこから、低温領域における3つのサンプルはすべて超伝導の相変態が生じていることが分かる。図5(b)は相変態温度付近の区域を拡大したもので、転移が始まる温度はそれぞれ52.8K、57.4K、29.5Kであることが分かる。超伝導転移温度以上では、電気抵抗率曲線上の異常が完全に抑制されており、比較的良い金属特性が表れている。これは、前の一節のホールドープ型のLn1-xSrxFeAsO(Ln = La、 Pr)超伝導サンプルで見られた状況と異なっている。図5に挿図(a)は超伝導サンプルの1つであるCa0.4Nd0.6FeAsFの磁場冷却とゼロ磁場冷却モデルの直流磁化率データを示している。

 同様にフッ素系1111系の母体と超伝導サンプルのホール効果を研究した。図6は2つの母体CaFeAsF、SrFeAsFと超伝導サンプルCa0.4Nd0.6FeAsFのホール係数RHの温度に伴う変化データを示している。2つの母体を見ると、そのホール係数は低温下ではすべて正数であり、比較的強い温度依存性が表れている。この2つの母体のAFの相変態が生じる温度付近のRHはそれぞれ絶対値がやや小さい負数に変わり、温度が継続的に上昇しており、比較的弱い温度依存を表している。これまでLnFeAsOと(Ba、Sr)Fe2As2の母体のホール係数はすべて負であることが知られていたが、これはすでに得られている鉄系超伝導体の母体の状況と異なっている。これはおそらくフッ素系母体にAFの相変態が生じる際に、フェルミ面上のホールポケットがすべて全部あるいは一部が残っていたからと思われる。図6は、超伝導サンプルの1つであるCa0.4Nd0.6FeAsFのデータであり、正常状態の全温度範囲内においてRHはすべて負数を表しており、温度依存性もやや弱いことが分かる。これはNd3+イオンの進入が、確かに電子型のキャリアをもたらしたことを表している。

図6

(3)一種の新しい可能性、鉄系超伝導体の母体(Sr3Sc2O5)Fe2As2

図7

  銅酸化物高温超伝導体及び鉄系系列で発見した幾種の異なる構造の超伝導体の経験から、その隣り合う2つの導電層(例:CuO2層或いはFeAs層)間の距離と相応する超伝導移転温度には一種の正相関の関係があることを見出した。それで、FeAs層間に距離をもった新材料を探すことが、さらに高いTcの鉄系超伝導材料を追い求める1つの重要な努力の方向性と言える。このように考えると、我々は一種の新しいFeAs層に基づく材料(Sr3Sc2O5)Fe2As2の発見に成功したと言える。この材料の作成方法は前述の2つの節で説明したのと大体同じである。最初にSrAsとScAs前駆体を作成し、その後前駆体と高純度のSc2O3、SrO、Fe2O3及びFeパウダーを化学式(Sr3Sc2O5)Fe2As2の要求する割合で混合・研磨する。それを円形のウェハに圧縮成形した後に0.2 barのアルゴンを封入した石英管中に密封し、1000℃で約40時間焼結する。その後、その温度を室温まで下げると(Sr3Sc2O5)Fe2As2の多結晶サンプルが得られる。

図8

 我々は最初に粉末x線回折を利用し研究で得たサンプルの構造特徴を研究した。図7で示されるように、x線回折図の回折ピークのほとんどすべては空間群I4/mmmの(Sr3Sc2O5)Fe2As2相で終わっており、このサンプルは非常に純粋であることを表している。図7の挿図はこの材料の構造説明図であり、その他の鉄系超伝導材料と類似している。Fe原子とAs原子が準2次元FeAs層を構成し、隣り合うFeAs層の間を(Sr3Sc2O5)の構造ユニットで隔離されている。x線図を近似すると、この材料の格子定数はa = 4.069 A、c = 26.876 Aであることが分かる。明らかにa軸方向の格子定数が前述の1111相及び122相のサンプルより大きく、c軸の格子定数に至っては現在知られているその他すべての構造の鉄系超伝導材料よりはるかに大きい。その上、最も近接しているFeAs層間の距離は13.438 Aで、同様にその他構造の鉄系材料(例:SmFeAsO1-xFx: 8.7 A;Ba1-xKxFe2As2: 6.5 Aなど)よりはるかに大きい。このように、我々はドープキャリアを通しこの新しい(Sr3Sc2O5)Fe2As2材料に進入することで、将来的に比較的高い超電導移転温度を実現させることを期待している。

 図8 (a)は、ゼロ磁場下における(Sr3Sc2O5)Fe2As2サンプルの電気抵抗率の温度に伴う変化データを示している。低温領域では比較的弱い電気抵抗率で跳ね上がっていることが分かる。磁気抵抗データ(ここでは示されていない。詳細は文献[35]を参照)を合わせて見ると、この低温領域での跳ね上がる動きはおそらくサンプルの低温領域における弱い双極子化の効果と考えることができる。興味深いことに、約60 K以上から400 Kになるまで、電気抵抗率はずっと金属型の動きを表しており、その他の鉄系超伝導材料の母体のように電気抵抗率の異常は見られなかった。同様に、図8(b)で示される磁化率曲線上では、明らかな異常は観察されない。(Sr3Sc2O5)Fe2As2サンプルで見られるこの特徴は明らかに前述の鉄系1111系及び122系とは違い、それはこのサンプル中で隣り合うFeAs層間の距離が大き過ぎ、隣り合うFeAs層上の鉄イオン間で反強磁性関係が形成されるのを妨げていることが原因であろうと考えられる。この問題をさらに深く調べるには、おそらく理論学者らによる一歩進んだ研究が必要であろう。

3.結論

 まとめると、2価のアルカリ土類金属Srを部分的に利用しLnFeAsO(Ln = La, Pr)中のLnを代替することで、母体中にホール型のキャリアを導入することに成功し、最高25.5Kに達する超伝導性を獲得することができた。また、その格子定数とTcはすべてSrドープ量の增加に伴い増大することが分かった。この類のホール型1111系の超伝導体の上部臨界磁場は明らかに相応する電子型の超伝導体より高いものとなった。3種の新型のフッ素系1111相の母体AeFeAsF (Ae=Ca、Sr、 Eu等)を得られたが、その電気抵抗率と磁化率データを通し、そのAFあるいは構造変態の温度がそれぞれ118 K、173 K、153 Kであることを確定した。Ae元素の希土類元素への変換により、やや高いTcの超伝導体を得ることができた。Ca0.4Pr0.6FeAsF (Tc = 52.8 K)、Ca0.4Nd0.6FeAsF(Tc = 57.4 K)、Sr0.6La0.4FeAsF (Tc = 29.5 K)などがある。ホール効果の測定はこの類の材料母体のホール係数は低温領域では正数となり、温度に比較的強く依存していることを示している。また、超電導サンプルのホール係数は負数であり、やや弱い温度依存性があることを示している。また、一種の新型のFeAs層を備えている材料(Sr3Sc2O5)Fe2As2を発見した。研究により、その隣り合うFeAs層間の距離がその他の幾類の鉄系超伝導材料よりはるかに大きいことが分かったが、これは将来ドープを通しこの材料中からやや高いTcの超伝導性を誘導できることを予示しているのかも知れない。電気抵抗率の温度に伴う変化の曲線上には何も異常な動きを見ることができない。

 本作業は中国科技部973計画 (Contracts Nos. 2006CB601000、2006CB921802)、中国科学院創新工程計画 (ITSNEM)、国家自然科学基金委員会の経済的な援助を得られた。

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付図の説明
Fig. 1 (a)は LaFeAsO母体とSrドープ量がx = 0.15のサンプルの温度に伴う電気抵抗率の変化の曲線であるが、分かりやすくするため、x = 0.15のサンプルのデータを2.5倍にした。挿図はサンプルLa0.85Sr0.15FeAsOの交流磁化率データであり、測定した交流電場は0.1 Oe、周波数は333 Hzである。(b)は Srドープ量はそれぞれx = 0.05と0.25のPr1-xSrxFeAsOサンプルの温度に伴う電気抵抗率の変化の曲線であるが、分かりやすくするため、x = 0.25のサンプルのデータを2.5倍にした。挿図はサンプルPr0.75Sr0.25FeAsOの交流磁化率データであり、測定した交流電場は0.1 Oe、周波数は333 Hzである。(c)は 2つの超伝導サンプルLa0.87Sr0.13FeAsOとPr0.75Sr0.25FeAsOのホール係数RHの温度に伴う変化の曲線である。

 

Fig. 2 これは2つの系列La1-xSrxFeAsOとPr1-xSrxFeAsOのサンプルの格子定数(a軸方向とc軸方向のもの)及び超伝導移転温度のSrドープ量に伴う変化のデータである。

Fig. 3 これは2つの超伝導サンプルLa0.85Sr0.15FeAsO(a)とPr0.75Sr0.25FeAsO(b)の超伝導移転付近の異なる磁場下における電気抵抗率データである。挿図中の赤色と青色の中空データ点はそれぞれこの2つのサンプルの95%ρnを判断基準にして得られたもので、黒色と赤色の実線は得たデータをギンツブルグ‐ランダウ理論を利用して近似したものである。(原文を参照する)

Fig. 4 (a)は3つのフッ素系1111相の母体CaFeAsF、SrFeAsFとEuFeAsFのゼロ磁場下における温度に伴う電気抵抗率の変化のデータであり、それぞれ118 K、173 K、153 Kで異常な動きが生じたことが分かる。(b) はその中のサンプルの1つであるSrFeAsFの5000 Oeで測定した支流の磁化率データであり、ゼロ磁場冷却モデルを採用した。電気抵抗率と一致しており、約173 Kで異常が現れることが分かる。

Fig. 5 これは3つの超伝導サンプルCa0.4Pr0.6FeAsF、Ca0.4Nd0.6FeAsF、Sr0.6La0.4FeAsFのゼロ磁場における温度に伴う電気抵抗の変化の曲線である。挿図(b)は超伝導移転付近を拡大した図である。この3つのサンプルの移転開始温度はそれぞれ52.8 K、57.4 K、29.5 Kであることが分かる。挿図(a)はその中のサンプルの1つであるCa0.4Nd0.6FeAsFのゼロ磁場冷却と磁場冷却モデルにおける直流磁化率データである。

Fig. 6 これは3つのサンプルCaFeAsF、Ca0.4Nd0.6FeAsF、SrFeAsFの温度に伴うホール係数の変化のデータである。

Fig. 7 これは新型の鉄系母体材料(Sr3Sc2O5)Fe2As2のx線回折図であり、ここからすべての回折ピークが空間群I4/mmmの(Sr3Sc2O5)Fe2As2相に来ていることが分かる。挿図はこの材料の構造説明図であり、隣り合うFeAs層間に大きな間隔があることが分かる。

Fig. 8 これは(Sr3Sc2O5)Fe2As2のゼロ磁場における電気抵抗率(a)と5000 Oe下で測定して得た直流磁化率(冷陰極式電界)(b)の温度に伴う変化のデータである。2つの図の中では明らかに異常な動きが観察されなかった。


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