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日本の再生可能エネルギーの動向

2009年3月17日

柏木孝夫

柏木 孝夫(かしわぎ たかお):
国立大学法人東京工業大学 統合研究院 教授

1946年12月 東京生まれ。
1970年東京工業大学工学部卒業、1979年博士号取得。1980~1981年米国商務省NBS招聘研究員。1988年東京農工大学教授、2007年より東京工業大学統合研究院教授,大学院理工学研究科教授.経済産業省の総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会長,経済産業省、内閣府の燃料電池評価・助言会議議長ほか、各種審議会委員。日本機械学会フェロー,日本エネルギー学会会長・など

その他、編著書に『2050年への挑戦』、著書に『地球からの贈り物』『エネルギーシステムの法則』『マイクロパワー革命』(平成14年3月エネルギーフォーラム優秀賞受賞)などがある。また、平成15年2月、日本エネルギー学会より学会賞(学術部門)受賞・平成16年5月、「炎で冷やした半世紀」の監修にあたり日本冷凍空調学会より学術賞受賞・平成20年4月文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞など。専門分野はエネルギー・環境システム,エネルギーシステム解析,冷凍・空気調和。

1.低炭素社会の実現に向けた世界の潮流

 21世紀における日本の成長エンジンは低炭素型の経済モデルを逸早く構築することである。科学的、分析的に理論武装された国際世論が必ず低炭素社会の実現を力強く牽引する。この世論はこれまで米国に向けられていたが、オバマ政権誕生に伴い、中国、インド等に向けられ始めた。低炭素社会の実現は加速度的に早まる。

 ポスト京都に対する中期目標に対し活発な議論が成されているが、各国は地球益を全面に出しながら国益をかけた戦略を国情に応じて激しく展開しているのが現状である。地域エネルギー計画を考える際、特に、自然エネルギーの導入目標は地域特性に大きく左右され国家戦略そのものであるため、我国としては省エネルギー、原子力を全国の基盤として最適な新エネルギーをうまくバランスさせた戦略を持ちつつ粘り強い交渉を続けるべきである。

地域特性を考慮した21世紀型エネルギー需給ネットワーク

2.政治決断された 「新エネ・モデル国家日本」

 我国は国際的に「Cool Earth 50」を提唱し、2050年までに二酸化炭素の排出を全世界で現状の半分に低減させようとしている。ここで、重要なことはこれを達成するために、次の3原則を主張していることである。まず、(1)主要排出国が全て参加し、京都議定書を超え、世界全体での排出削減につながること。(2) 各国の事情に配慮した柔軟かつ多様性のある枠組みとすること。(3) 省エネ・新エネなどの技術を活かし、環境保全と経済発展とを両立すること、である。

 さて、地球環境問題の理念とは何であろうか?私は〝衡平性〟であると考えている。IPCCでは〝DES〟Development, Equity, Sustainability 問題について記述されている。すなわち地球環境問題は、人類みな衡平性を保ちながら持続可能な開発・発展をするためには、どのような課題と解決しなければならないか、という難問に取組んでいることになる。国連加盟国192ヶ国が皆手をつなぎ、192人193脚で走れるような環境をどう作るか問われている。

 低炭素型エネルギーシステムに対し、我国では当初、強力に省エネルギーを推進し、供給サイドは原子力のシェア拡大で対応することが、工業国という我国の特性や国民経済上好ましいと考えていた。しかし、現状で着工している新設原子炉が3基であることなどを考えると、再生可能エネルギーを含め低炭素社会が必要とする供給サイドでのエネルギー選択や技術開発など総合的な戦略が極めて重要となっている。

 特に太陽光発電などの新エネルギーをエネルギー政策上明確に位置づけるべき大きな決断の時期であり、私は昨年6月9日に発表された福田ビジョンで新エネルギーに対する政治的決断が成され、麻生政権に引き継がれていると確信している。環境モデル都市の選定をはじめ、今後は新しい技術革新を通して省エネルギー・新エネルギーの一体化政策を強力に推進することがCO2原単位の大幅な低減をもたらし、世界的にみて経済への貢献も極めて大きい。まさに、新しいグリーン公共事業の誕生といっても過言ではない。

 福田ビジョンによる新エネルギー国家としての首相決断を受け、新エネルギー部会では中間とりまとめを緊急提言という形で公表した。以下にその概要を示すが、地域、都市エネルギー計画についても触れられている。

新エネルギー部会緊急提言

 国土が狭く、資源の少ない我が国は、ハイテクやものづくりといった我が国の強みを活かして新エネルギーの導入拡大を図るべきであり、太陽光社会を世界に先駆けて構築し、新エネルギーが生活の中でごくふつうに使われる新エネ生活(新エネ・ライフ)を実現し、新エネ・モデル国家へと変貌を遂げることが低炭素社会構築のための有力な手段である。これらの新エネ技術、新エネ・ライフ等の新エネ文明を日本から世界に向けて提唱し、国際貢献を果たすことが、我が国の産業競争力を維持することになり、産業政策上も大きな意義がある。

 低炭素社会の実現は、省エネルギーの着実な推進とともに、原子力、新エネルギーの導入拡大が期待されているが、国土が狭い我が国においては、新エネルギーの導入には様々な制約がある。例えば風力やバイオマスは、北欧や北米では新エネルギーの主役になりつつあるが、日本の風況や国土(面積)では適地に限界がある。

 そこで、我が国としては、水力、地熱、風力、バイオマス等による発電や熱利用に今後とも最大限取り組みつつ、我が国の強みである太陽電池、蓄電池、燃料電池等に関する材料開発から製品開発まで一貫した高度な技術やものづくりの技術を活かして新エネルギーの導入拡大を図るべきであろう。そのためには、太陽電池、蓄電池、燃料電池等の高度な技術を活かし、世界に先駆けて太陽光社会を実現し、水素社会の構築を目指すべきであろう。

 例えば、太陽光発電は、「低炭素社会・日本」をめざしてと題する6月9日の福田ビジョンにもあるように、2020年に現状の約10倍、2030年には約40倍を目標とする。これは、2020年において新築持家の約7割、2030年には新築戸建4住宅の約8割、産業用・公共用施設全体の約8割に太陽光発電が設置されている状態に相当する。

 「省エネ」は広く国民生活に定着しつつあるが、「新エネ」は生活に定着したとまでは言えない。省エネ・ライフは、燃料費の節約など個人の利益になる面もあるが、新エネは、コストが高い等のハードルが無視できない。新エネ・ライフ定着のためには、コストがかかっても未来の地球のために投資するという国民の意識改革と、産学官の力を結集した技術開発、市場拡大等によって新エネルギーのコストを下げることが必要である。

 このような取組みによって、我が国は新エネ・モデル国家へと変貌を遂げる。そして、これらの新エネ技術、新エネ・ライフ等の新エネ文明を世界に向けて提唱・発信していくことが、我が国の国際貢献、国際競争力の維持の両面から重要である。

 国際貢献に関しては、例えば、太陽光発電をはじめとする新エネルギーは、分散型電源として諸外国の無電化村等におけるエネルギーアクセス向上等に貢献できる。また、今後これらの国で電化が進展し、生活の質が改善することが、電力消費を増大させ、気候変動問題に対する新たな課題となりかねないが、これを防ぐためにも温室効果ガス排出量を抑えられる新エネルギーによる電化が有効である。

 さらに、新エネルギー関連産業は、エネルギーと環境を巡る諸課題の解決に資する産業であり、素材産業から加工組立産業まで産業全体への波及効果も大きく、国際的にも今後高い成長が期待されるため、 産学官の力を結集して、この産業を競争力のある日本の基幹産業へと大きく育てていくことが重要である。 また、電力、ガス、石油等のエネルギー産業においては、エネルギーの安定的な供給を堅持しつつ、これまで培ってきた技術やネットワーク等を活かしながら新エネルギーの導入を最大限推進し、エネルギーの供給構造を低炭素型へと変革させていく必要がある。そのためにも新エネに対し我国が挑戦しうる高い導入目標を設定し、その目標を適切な手段を用いて確実に達成することが重要であると結んだ。まさに、新エネルギーモデル国家日本の幕明けを意味し、新しい時代の始まりである。

3. エネルギー供給構造高度化に向けた新法案と石油プラントの位置付け

 我国が新エネルギー国家としての政治決断を受け現在新しいエネルギー法案が検討されている。この新法では低炭素社会の早期の実現を期し、化石燃料等から非化石系へ、さらに化石燃料の高度利用を含めた包括的な法案となるであろう。太陽電池・燃料電池・高性能蓄電池などの新エネルギー技術には勿論主点が当てられるが、化石燃料の高度利用のポイントとして石油プラントが大きく注目されることになる。

 私は過去10年近く、石油精製の最大の課題の一つである残渣問題に取り組んできたが、今後この問題が更に深刻になり、加速されることが予想される。そこで石油に課された長期的な課題の本質と解決方向について考えてみたい。端的に言えば石油に関わる需要サイドの変化と供給サイドの変化によるギャップの拡大である。 需要サイドの変化とは白油化・軽質化であり、その中でも揮発油とナフサが増大し、一方重油が大幅に減退している。但し、絶対量で考えると、従来石油のみに限定されていた自動車燃料の多様化により、バイオ燃料、クリーン・ディーゼル、電気、水素などの代替燃料が今後増え、また、自動車燃費の一層の改善により揮発油の需要も鈍化する可能性もある。

 供給サイドの変化は重質化・非在来型石油資源の増加である。ピーク・オイルの議論は直ちに枯渇すると言う“量”の問題ではなく、経済性に基づく“質”の問題であると考えられる。使い易い軽質の油、いわゆる”Easy Oil”は先に利用され、これからは経済性が低く重質の原油が多くなる。

 これらの背景を踏まえると、低炭素社会での石油プラントは残渣がすべてガス化され、精製用水素とIGCC,IGFCの燃料になり、国家としてボトムレス型の製油所にしなければならない。さらに、これからはバイオマスをはじめ、石炭など固形燃料の多目的エネルギー変換拠点として機能する事になり、これまでの石油プラントがグリーン精製プラントとして我国の基盤エネルギーインフラとして位置付けられることになる。現在検討中の新しいエネルギー法案で、このコンセプトが明らかになる。

4.低炭素エネルギーシステムのグランドデザイン

 我国はこれまでの経緯から省エネ性、自律性、環境性に富んだエネルギー需給構造のグランドデザインを明確に示す責務がある。地球環境問題はエネルギーと一体化して解くべき国際政治課題であり、技術立国日本として、絶好の機会が与えられたと言える。特にポスト京都議定書の枠組みは世界が共有しうる明確な中長期ビジョンと新しい技術開発無しに、大きな進展はない。

 私は科学的検証から、電力に関して言えば、原子力・石炭・天然ガスなどが全体のベースを担い、そのメガインフラ基盤の上に燃料電池、ヒートポンプなど、省エネルギー性に富んだトップランナー機器群や自立性の高い地域共生型の新エネルギーが適切な規模でクラスターを形成してゆくことになると確信している。

 低炭素社会に向けた都市エネルギーシステムのグランドデザインには、例えば都市内の商業施設などを良質な拠点インフラとして捉え、エネルギーマネージメントシステムなどの導入により、新たな省エネルギーをネットワーク的に達成してゆくことが必要となる。今後、太陽光発電や燃料電池などの分散型電源が住宅内や建築物の屋根などに大量導入されてくると、これらのマネージメントシステムは需要地に導入された分散型発電システムと電力系統内に形成されたスマートグリッドやマイクログリッドと一体化してCO2を削減するアドバンストシステムへと発展させるための基礎となり、低炭素社会の実現には欠かせないものとなる。特に、住宅分野に対しては、将来的に太陽電池・燃料電池あるいはプラグインハイブリッド車や電気自動車等が住宅とセットで導入され、それらのシステム化により、運輸エネルギーも含めゼロエネルギーハウスも夢ではない。また、燃料電池を見据えた水素社会の到来も電力化傾向の高まりと共に必ず訪れる。

住宅コミュニティにおける再生可能エネルギーとPHV/EV

 私は運輸エネルギーを考慮に入れた都市や地域エネルギーの全体最適解を解いてみた。発電効率が45%以上の分散型電源が都市内に導入され、排熱を無駄なく使いつくすことができるようになると、PHVやEVの導入が都市への投入エネルギーを最小とする解が得られた。全体最適化の理論的妥当性を実証したことになる。そのためには、コミュニティ内での電力の面的融通や二次電池による選択貯蔵など車輌に搭載された二次電池との双方向の充放電システムがキーテクノロジーとなる。

 将来的には需要地に知能を備えた各種分散型システム群が大規模送電系統の一端にループ状のネットワークを形成し、系統との調和を図りつつ、既存の空間インフラを高度に活用しながら、電力だけでなく熱や物質(例えば水素)までも併給する統合型インフラ構造を構築することが、究極の省エネルギーを実現すると共に、再生可能エネルギーを最大限とり込める低炭素社会のグランドデザインそのものとなる。我国は愛知万博をはじめとし、すでにマイクログリッドという型で2030年の低炭素社会の姿を世界に先駆け発信している。

 また、熱エネルギーの合理的な需給構造も見逃してはならない。高効率ヒートポンプ、太陽熱・ソーラークーリング、下水、廃棄物などの未利用エネルギーの民生用への高度利用も、都市エネルギー全体最適のための新しいインフラとして必要になるであろう。

 都市エネルギー全体最適化の一環として全国147ヶ所で展開している地域冷暖房システムにおける電源立地の制度化など都市全体の最適化に対するグランドデザインは、インフラも含め新しいコンセプトが必要不可欠となる時代の幕明けであることを強調したい。

5.低炭素型産業都市構造と新たなインフラ整備

 産業部門に目を向けると低炭素型産業エネルギーシステムは化石燃料から非化石系へ、さらに化石燃料の高度利用を可能にする産業基盤が必要となる。太陽電池・燃料電池・高性能蓄電池などの新エネルギー技術は産業政策上現在大きな注目を集めているが、化石燃料の高度利用に対する革新技術も併せて重要となり、工業国家として産民複合型地域エネルギー計画にも目を転ずべきである。例えば、低炭素社会での石油プラントの将来を考えると、残渣がすべてガス化され、精製用水素とIGCC,IGFCの燃料供給拠点にすべきである。そのためには国策としてボトムレス型の製油所として生まれかわる必要があり、これからはバイオマスをはじめ、石炭など固形燃料の多目的エネルギー変換拠点として機能する事になる。これまでの石油プラントがグリーン精製プラントとして我国の基盤エネルギーインフラとして産民複合型地域エネルギーの拠点となる可能性もある。

 一方、低炭素型エネルギー源多様化の一環として非食糧系バイオ燃料の優位性も見逃せない。バイオマス利用は燃料化、ガス化などにより地産地消を促進し、地域の活性化、国土の充実に加え、農林水産のような一次産業の構造改革も可能となるため、期待度は極めて大きい。バイオマス利用施設は低炭素社会における新しい地域エネルギーインフラとして位置づけられるべきであり、法整備を含め新たな局面を迎えたと言える。さらに、沿岸地域では、200カイリ経済水域を考えると我国は世界6位である利点を生かし、産業排ガス中のCO₂を海洋バイオマスにより資源として回収し工業化する新産業の創成計画も重要である。

 最後に、我国は工業国家として、低炭素型産業構造のモデルを世界に示す責務もある。先日、周南コンビナートを視察する機会を得た。日本の産業の基礎となる重化学を主体とする世界有数の生産拠点であり、コンビナート内の企業群の電力需要だけで140万kW以上にも及び、主に石炭火力で対応しているが、低炭素型産業構造への風が強まり木材バイオマスを混焼させるなど最大限の努力を払っており、その精力に対して頭が下がる思いであった。

 今後我国が率先して低炭素産業構造のモデルを世界に示そうとするならば、コンビナート内に国策として産業用原子力発電を立地するくらいの覚悟が必要である。


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