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中国原子力の概況

窪田 秀雄 (日本テピア㈱ テピア総合研究所・副所長)  2009年4月3日

窪田 秀雄

窪田 秀雄(くぼた ひでお):

1953年 神奈川県出身。
東海大学大学院工学研究科修士課程卒。日本原子力産業会議を経て、現在、日本テピア株式会社テピア総合研究所・副所長。「月刊エネルギー」(日本工業新聞社)に「世界のエネルギー」を執筆中。同誌編集委員。サーチナ・中国情報局(http://searchina.ne.jp)に中国のエネルギー・原子力をテーマにコラム執筆中。

 中国の原子力発電開発が加速度を増してきた。中国では2008年末現在、11基、合計設備容量では906万8000kWの原子力発電所が稼働している。世界的に見れば、スウェーデンに次いで11位に過ぎないが、建設中、計画中は他の国を圧倒しており、過熱状態とも言える原子力発電開発のスピードに警鐘を鳴らす向きもある。一方で、原子力発電の一層の拡大に向けて、これまでの開発体制の変革を求める声もあがるなど、中国の原子力界は大きな転換期にさしかかっている。

2008年の原子力発電シェアは1.99%

 中国電力企業連合会によると、中国では2008年に新たに9051万kWの発電所が運転を開始したことから総発電設備容量は7億9253万kWに達した。中国では、2006年、2007年と2年続けて1億kWを超える発電所が新規に運転を開始していたが、2008年は1億kW台には届かなかった。なお、中国政府の方針に従い、2008年には老朽化した小型石炭火力発電所が合計で1669万kW閉鎖されている。

 2008年末時点の火力発電所の合計設備容量は6億132万kWに達し、総発電設備容量に占める割合は75.87%となり、前年の77.73%からわずかながら低下した。火力発電のうち、石油火力と天然ガス火力の占める割合は合計しても数%であり、ほとんどを石炭火力が占めている。水力発電は1億7152万kWで、総発電設備容量に占める割合は前年の20.36%から21.64%に上昇した。とくに伸びが大きかったのは風力発電で、466万kWが新たに運転を開始したことから設備容量は894万kWに達した。

 2008年の総発電電力量は3兆4334億kWhを記録し、前年に比べ5.18%増加した。内訳は、火力発電が2兆7793億kWhとなり全体の80.95%を占め、前年の82.86%から1.91ポイント低下した。火力以外では、水力発電5663億kWh(16.41%)、原子力発電684億kWh(1.99%)、風力発電128億kWh(0.37%)となった。このうち原子力発電は、前年実績と比べると、発電電力量では9.3%増加したものの、総発電電力量に占める割合(シェア)では0.07ポイントの上昇にとどまった。

2009年に建設中の原発規模が2000万kWへ

 中国政府は、こうした石炭への過剰依存を是正し電源のベストミックスをめざす一方で、供給能力を拡大する方針を打ち出している。その柱として位置付けられているのが原子力発電と再生可能エネルギーである。

 このうち再生可能エネルギーについては、2007年8月に公布された「再生可能エネルギー中長期発展規画」の中で、全体の電力消費に占める再生可能エネルギーの割合を2010年までに10%、2020年までに15%に高めるとの目標を掲げている。

 原子力発電開発の拠り所となっているのは、国務院が2006年3月に原則的に承認し、国家発展改革委員会が2007年11月に正式に公表した「原子力発電中長期発展規画(2006~2020年)」である。同規画は、「第11次5ヵ年」期間(2006~2010年)、「第12次5ヵ年」期間(2011~2015年)、「第13次5ヵ年」期間(2016~2020年)の3期にわたる原子力開発の方向を示している。

 具体的には、2020年までに稼働中の原子力発電所の設備容量を4000万kWに拡大するとともに、建設段階にある原子力発電所の設備容量を2020年時点で1800万kWにするとの目標を掲げている。同規画によると、建設が終了した分と建設中のユニットを除いて、着工前のすべての作業が含まれる前期作業が開始された原子力発電所の立地点は沿海部だけで5000万kWに達する。

 国家発展改革委員会は、こうした進捗状況を踏まえ、2020年までに運転中4000万kW、建設中1800万kWの目標を達成することができると自信を示していたが、「原子力発電中長期発展規画」公表後、中国政府の予想を上回るスピードで計画が進んだ。

 中国政府として、まだ正式に原子力発電目標の(上方)修正を明らかにしていないものの、7000万kWという新たな目標が浮上してきている。国家エネルギー局省エネ・科技装備司の黄鵬・副司長は2008年11月、当初の目標である4000万kWを7000万kWに引き上げる見通しを示した。

 一方、原子力発電推進の中心人物と見られ、国家エネルギー局長を務める張国宝・国家発展改革委員会副主任は今のところ、(2020年時点の)総発電設備容量の5%以上の原子力発電所を稼働させることが可能と述べるにとどめ、具体的な目標を明らかにしていないが、上方修正された目標の公表は時間の問題となってきている。

 そうした強気の発言が出るほど、原子力発電所の建設計画は順調に進んでいる。2月18日の福建省・寧徳Ⅰ期原子力発電所1号機(加圧水型炉=PWR、111万kW)の着工を皮切りに、2008年には遼寧省・紅沿河Ⅰ期・2号機(同、3月)、寧徳Ⅰ期・2号機(同、11月)、福建省・福清Ⅰ期・1号機(100万kW、11月)、広東省・陽江Ⅰ期・1号機(同、12月)、方家山1号機(秦山Ⅰ期拡張、同、12月)の6基が正式に着工した。

 11月から12月にかけての2ヵ月間で4基の原子力発電所が着工した背景には、もちろん時期的なこともあったが、中国政府が国際的な金融危機に対応するための内需拡大・経済安定促進策の一環として原子力発電プロジェクトを位置付けたことを内外に示すねらいがあった。

 2009年に入っても、勢いは衰えを見せていない。3月7日、遼寧省の紅沿河Ⅰ期・3号機が正式に着工したことによって、中国国内で建設中の原子力発電所は12基、合計設備容量は1201万kWとなった。

 2009年には、米国ウェスチングハウス社が開発した第3世代炉「AP1000型炉」を世界で初めて採用する浙江省の三門原子力発電所のほか、同じく「AP1000型炉」を採用する山東省の海陽、中国初の高温ガス炉(HTGR)実証炉である華能山東石島湾(栄成)Ⅰ期(20万kW)、フランスAreva社の第3世代炉である「EPR」を採用する台山Ⅰ期、海南省の海南昌江、湖南省の桃花江など、840万kWが新たに着工すると見られている。2009年2月に開催された全国エネルギー工作会議では、これから毎年、平均して7~9基の原子力発電所が着工される見通しが明らかにされた。

 計画通りに進めば、2009年末時点において中国で建設中の原子力発電所の設備容量は2000万kWを超す。これ以外にも、紅沿河Ⅰ期・4号機のように、国家核安全局から建設許可の発給を受け、まもなく着工するユニットもあることから、建設中の基数はさらに増加する。

計画中ユニットは169基・1億7400万kWに

 国際原子力機関(IAEA)によると、2008年末時点で建設中の原子力発電所は中国の10基も含めて世界全体で44基となっている。“原子力ルネサンス”と称されるほど、世界的な原子力発電回帰が鮮明になっているが、中国において2008年から2009年にかけて着工される基数・規模だけを見ても、中国の計画は突出している。

 しかし、これは中国の原子力発電計画のほんの一端に過ぎない。筆者の調査によると、中国では169基、合計設備容量では1億7442万kWの原子力発電所が計画されている。現在、運転中と建設中のユニットを合計すると、192基、1億9549万8000kWに達する。図に原子力発電所の主な立地点を示す。

,中国の原子力発電所立地点

 各プロジェクトにも、それぞれ温度差があり、現在計画されている原子力発電所がすべて建設されるということではないが、まだ出力規模が決まっていないプロジェクトも続々と発表されており、計画がさらに拡大することは間違いない情勢となっている。

 そうした背景には、地元政府による積極的な原子力発電所の誘致がある。中央政府が原子力発電開発に強力に肩入れしていることもあり、地方政府も省や市、県といったレベルで原子力発電事業者に立地を働きかけている。

 遼寧省の紅沿河原子力発電所は、Ⅰ期プロジェクトで100万kW級のユニットが4基建設されることになっており、総投資額は500億元に達すると見積られている。すべてが地元に落ちる訳ではないが、雇用や税金も含めて、建設期間だけでなく40年以上の運転期間にわたって地元には相当の経済効果がもたらされる。

 もちろん、事業者側にとっても原子力発電所は有利な資産であることは間違いない。中国産業の利潤率が平均で10%程度であるのに対して、原子力発電産業の利潤率は30%を超えている。中国の原子力発電プロジェクトが地元政府と事業者の二人三脚で行われている理由もこんなところにある。

原子力発電投資主体の多元化

 こうした中国国内での原子力発電開発において1つの大きな特徴がある。すべてのプロジェクトに、中国核工業集団公司、中国広東核電集団有限公司、中国電力投資集団公司の3社のうち必ず1社が50%を超えて出資していることである。この3社以外に、50%を超えて出資している事業者は1社もない。

 具体的に規定されている訳ではないが、“原子力発電投資主体資格”という指針がある。中国政府は、原子力発電プロジェクトの重要性を踏まえ、当初、実績のある事業者だけが原子力発電所の投資主体になることを認め、これ以外の事業者が投資主体となることを認めなかった。現在も、そうした方針は変わっていない。

 中国電力投資集団公司以外の5大発電事業者も例外ではなかった。5大発電所事業者の1つ、中国華電集団公司は河南省の洛陽市に100万kW級のユニットを4基建設することを計画し、2008年1月3日、洛陽市政府との間で合意に達した。市政府側も原子力発電所建設に向けて最大限の努力を払う意向を表明したが、河南省・発展改革委員会は中央政府の方針にならい、中国華電集団公司の実績不足を理由に同プロジェクトを支持しない考えを示した。仮に、このプロジェクトを進めるということであれば、中国華電集団公司としては、“原子力発電投資主体主格”を持つ3事業者のいずれかと組むしか方法はない。

 そうしたなかで、投資主体として3社以外にも原子力発電プロジェクトに参入させる必要があるとの論調が現れてきた。全国政治協商会議の委員を務める邵秉仁・元国家電監会副主席は、2009年3月の「両会」(全人代と全国政協会議)で、3社以外が投資主体となることは、市場の要求と一致しているとしたうえで、投資の多元化によって市場の独占が阻止されると発言した。

 同氏は、原子力発電プロジェクトは投資主体が必ず建設して経営しなければならないということではないと指摘するとともに、投資・建設と経営管理を分けることも可能であるとの見解を示した。

 同じく全国政治協商会議の委員を務める5大発電事業者の1つ、中国大唐集団公司の翟若愚・総経理も2009年3月、中国の原子力発電の発展を制約している要因の1つとして投資主体の制限をあげ、投資主体の多元化を実現する必要性に言及した。

PWR-高速炉路線を堅持

 中国は、「原子力発電中長期発展規画」の中で、原子力発電開発を進めるにあたっての技術路線を明確にしている。具体的には、「熱中性子炉(PWR)-高速中性子炉-制御核融合炉」である。

 一方で、「数十年先の原子力の発展に着目すれば、沸騰水型炉(BWR)を視野の外に追いやることはできない」(「2007年中国核電行業分析及投資資詢報告」、中国投資資詢網)といった指摘もある。しかし、BWRの採用については今のところ、公式の発表は全くない。 中国で稼働中、建設中、計画中の商用原子力発電所で採用、あるいは採用が予定されている炉型は、秦山Ⅲ期で採用されているCANDU炉(カナダ型重水炉)を除いてすべてPWRであるが、フランス製、ロシア製、米国製、そしてフランスの技術をベースに独自に設計した中国製(CNP600型炉、CPR1000型炉)が混在している。

 中国政府は、同じPWRでも基準や規格の異なった炉が採用されていることを問題視している。国防科学技術工業委員会(当時)は2007年9月、原子力発電基準・規格が原子力安全を確保するための有効な手段であると同時に、原子力発電技術の進歩と原子力産業の健全な発展を導くための重要な基礎であると位置付け、「加圧水型原子力発電所の基準体系構築に関する『第11次5ヵ年』規画」を公布した。

 同規画は、現行の基準・規格が系統的でない実態を明らかにした。また、原子力安全面での重要な設備の設計・製造基準や規格、原子力発電プロジェクトの経済基準などで不足している部分がかなりあるとの見方も示した。

 そのうえで同規画は、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)の目標について、原子力発電基準・規格体系構築の全体設計作業を完了するとともに、さらに完璧で詳細な基準・規格体系の構築プランおよび路線を確定するとの方針を打ち出した。

 なお、中国政府が現在のPWRに次ぐ重要な炉として位置付けている高速炉の研究開発を担当している中国原子能科学研究院は2009年2月27日、熱出力65MW(電気出力20MW)の高速炉実験炉「CEFR」が9月に初臨界を達し、2010年には発電を開始する見通しであることを明らかにした。

内陸原子力発電所に「AP1000型炉」採用

 中国で稼働中、建設中の原子力発電所はすべて沿海部に立地しており、内陸部には1基もない。そうしたなかで、技術路線統一の新しい方向性が示された。

 国務院はすでに内陸部に建設する原子力発電所において採用する炉型を「AP1000型炉」に決めていたが、建設の前提となる内陸向けの標準化設計が完成していなかった。このため、内陸部での計画も進展していなかった。しかし、2008年末、「AP1000型炉」を内陸部に建設する際の全体設計、中核系統ならびに設備の全体設計が完了した。

 同型炉をはじめとした第3世代炉の国産化の任務を負っている国家核電技術公司は、2009年末までには「AP1000型炉」を採用する内陸原子力発電所の初期安全分析報告を完成させるとしている。

 江西省に建設が計画されている彭澤原子力発電所は、内陸初となる原子力発電所の参考プラントの有力候補にあげられている。同発電所では125万kWの「AP1000型炉」が4基建設されることになっており、1期工事として2基が建設される。国家核電技術公司は、沿海部の原子力発電所にはない冷却塔の研究開発に関して国際協力を進める意向を示している。

 中国では2008年1月の大雪・寒波によって、石炭火力発電所に過度に依存する体質の脆弱さが浮き彫りになった。鉄道による石炭輸送が寸断されたことが最大の理由だが、通常、年1回の定期点検時に炉心燃料の一部を交換するだけで済む原子力発電所に対するニーズはむしろ内陸部で強まってきている。

 なお、国家エネルギー局の孫勤・副局長は2009年3月、「AP1000型炉」の国産化・自主化という方針に従い、今後新規に着工される原子力発電所は内陸部だけでなく沿海部も含めて「AP1000型炉」が主流になるとの考えを明らかにした。

国産化の成果採り入れに問題も

 中国政府は「原子力発電中長期発展規画」の中で、技術路線を統一するとともに、原子力発電の安全性と経済性を重視したうえで「中国を主体として外国と協力することを堅持し、海外の先進的な技術を導入し、国内の組織を統一して消化・吸収する」という自主化の原則を示した。

 そうした一環として進められているのが“自主化依託”(自主化の拠り所となる)プロジェクトで、「AP1000型炉」を採用する三門Ⅰ期・1号機と海陽Ⅰ期・1号機、「EPR」を採用する台山Ⅰ期・1号機が対象となっている。

 同プロジェクトでは具体的に、設計作業は外国との共同設計からスタートし、国内企業による自主的な設計が完了するまで段階的に進め、中国独自の先進的なPWRのブランドと設計能力を確立することを目指している。

 中国が自主化にこだわる大きな理由は建設コストの削減にある。国家核電技術公司の王炳華・薫事長は2009年3月5日、三門Ⅰ期原子力発電所の2基の平均建設単価についてkWあたり1940米ドルになるとしたうえで、後続の2基については自主化・国産化によって1650米ドル程度まで引き下げることができるとの見通しを示した。

 現在、建設中の各原子力発電所で採用されている100万kW級の「CPR1000型炉」については、1kWあたりの建設単価を1300米ドル以下に抑えることができると見込まれている。同型炉を採用する紅沿河発電所は、中国政府が掲げる「自主設計、自主製造、自主建設」という3つの原則を具体化する初の原子力発電所と位置付けられており、国産化率は1号機と2号機が70%、3号機と4号機が80%に達すると見られている。また、このうちの重要設備については85%の国産化を達成することが期待されている。

 国家エネルギー局の李冶・省エネ科技装備司長は、建設中の原子力発電所に関して総合国産化率が福清75%、方家山80%、陽江83%になるとの見通しを示している。また同氏は、kWあたりで見た建設単価が嶺澳の1700~1800米ドルから、紅沿河1500米ドル、寧徳1450米ドル、福清1400米ドル、陽江1300米ドルへと着実に低下していることを明らかにした。

 張国宝・国家エネルギー局長は2009年3月3日、国産設備は外国の設備と比べて3分の1以上低いとしたうえで、原子力発電所の建設を制約している最大の要因が設備の供給能力にあることを認めた。同局長は、外国からの調達の可能性に言及しながらも、世界的に見ても供給能力に制約があるため、国内において供給体制を確立することが重要であるとの認識を示した。

 国家エネルギー局が2009年2月に主催した「原子力発電技術装備自主化会議」では、主要設備の国産化が順調に進んでいる状況が紹介された。それによると、原子炉圧力容器と蒸気発生器の要(かなめ)となる鍛造品についてはすべて国産化が実現している。また主蒸気隔離弁についても、福清と方家山発電所向けでは国産化を達成することが有望としている。

 一方で、同会議では問題点も指摘された。中国広東核電集団有限公司の鄭東山・副総経理は、こうした国産化の成果を有効に実施することが難しい状況にあると指摘するとともに、原子力設備と原材料の設計、設計検証、モデル部品を鑑定・評価する基準体系が確立されていない現状を問題視した。

 また、中国機械工業連合会を代表して出席した隋永濱氏は、原子力発電技術設備の研究開発・製造を制約している最大の問題は資金不足にあると強調し、政府が一定の資金援助をするよう求めた。

過熱気味の開発と人材不足に警鐘

 過熱気味の原子力発電開発に警鐘を鳴らす向きもある。中国の原子力規制当局である国家核安全局の李干傑・局長は2008年6月、内外の原子力関係者が一堂に会した中国原子力産業協会の年次会合で、野放図の原子力発電拡大は人材の確保や国産化戦略の推進、原子力安全管理といった点で深刻な矛盾を引き起こし、原子力発電所の建設における品質保証や運転面での安全確保にとって大きな脅威になるとの懸念を表明した。

 また李局長は、原子力発電所の建設要員が不足しているだけでなく、研究開発や設計能力も十分とは言えない状況にあるとしたうえで、原子力設備の製造・据付や原子力安全面での監督・管理能力にも問題があると指摘した。

 全国政治協商会議の委員を務める元国家環境保護総局副局長の王玉慶氏も2009年3月、中国電力新聞網のインタビューに答え、原子力発電開発に過熱現象が起きているため安全リスクが高まっているとの見方を示し、まず安全面での監督・管理を強化する必要があると強調した。

 同氏はさらに、急速な発展によって多くの問題が露呈してきていると述べ、具体的には人材の不足や技術の未成熟、設備製造技術の低下、原子力安全の監督・管理の弱体化をあげた。中国大唐集団公司の翟若愚・総経理も人材が不足していることを認めている。

 中国科学院院士で全国政治協商会議委員を務める何祚庥氏は、現在、中国が確保している天然ウランは2500万kW相当の原子力発電所を40年間運転する量しかないとしたうえで、さらに2500万kW分については国内で供給が可能なものの、輸入では1000万kW程度をまかなうのが現実的なことから、原子力発電開発規模としては6000万kW程度が上限ではないかとの見方を示した。また、現在の原子力発電計画において、放射性廃棄物の処分が具体的に検討されていないことも問題点であると指摘した。

市場拡大見据え新規参入の動き

 そうした一方で、原子力発電市場の拡大をにらみ、新たに市場参入をはかる動きも出てきている。中国の大手重機械メーカーである三一重工股份有限公司の向文波・総裁は2009年3月、原子力発電事業への参入を検討していることを明らかにした。同社は最近、風力発電事業にも参入しており、向総裁は、原子力発電市場への参入は戦略計画の一環だと説明している。

 中国政府は、原子力発電事業をはじめとした中核事業への民間企業の参入を許可していないが、向総裁は政府に対して参入の許可を働きかける意向を表明しており、将来的には“中国のゼネラル・エレクトリック(GE)”をめざす考えを示した。重機械メーカーは、世界的な金融危機の影響を受けている。同社も例外ではない。このため、今後、大幅な拡大が見込める国内の原子力発電市場に照準をあてたとの見方が強まっている。

 現在、1億kWの原子力発電所が稼働中のほか、30基を超える新規ユニットが計画中の米国さえも近い将来には追い越すほどの勢いを見せている中国の原子力発電市場に外国企業も高い関心を寄せている。

 国家核安全局は2009年3月3日までに、日本の4社を含む11カ国・66社が申請していた中国国内での原子力事業登記を承認した。外国企業の原子力事業登記は、国務院が2007年7月に公布した「民用核安全設備監督管理条例」と、同条例をもとに国家環境保護総局(当時)が同年12月に公布(施行はいずれも2008年1月)した「輸入民用核安全設備監督管理規定」が根拠になっている。

 このうち「民用核安全設備監督管理条例」は、「中国国内の民生用原子力施設に対して原子力安全設備の設計、製造、据付、非破壊検査活動を行う外国企業は、事前に原子力安全監督管理部門に対して登記手続をしなければならない」と規定している。

 これまでに登記した企業数が最も多いのはフランスで28社、以下、ドイツ10社、米国9社、日本4社と続いている。日本の4社は、日本製鋼所、三菱重工業、三菱電機、富士電機システムズである。

外国への原子力輸出も視野に

 中国は、外国の原子力発電市場参入でも積極的な動きを展開している。パキスタンに対してはすでに30万kWユニットを1基輸出しており、2基目のチャシュマ原子力発電所2号機向けの蒸気発生器(SG)がハルビン・ボイラで2008年6月に製造が完了している。また、国家核電技術公司は2009年3月、傘下の上海核工程研究設計院がチャシュマ原子力発電所3・4号機の設計作業を開始したことを明らかにした。

 プラントメーカーではないが、中国を代表する原子力発電事業者である中国広東核電集団有限公司は2009年2月、ハノイでベトナム電力公社と原子力分野での協力意向書に調印したと発表した。また、ベトナムが計画している同国初の原子力発電所の協力についても協議したことを明らかにした。ベトナムは、2021年頃までに400万kW程度の原子力発電所を建設する計画を持っており、すでに初期実行可能性調査が終了し、近く国の承認を得る手はずになっている。

 中国広東核電集団有限公司は、ベラルーシが計画している同国初の原子力発電所の建設に参加する意向も表明している。ベラルーシのミハジューク・エネルギー副大臣が明らかにしたもので、機器や役務の提供だけでなく、中国側からの融資も話題にのぼっているという。

 原子力発電事業だけでなく核燃料サイクル事業を手がける中国核工業集団公司の康日新・総経理とヨルダン原子力委員会のトゥカン委員長は2008年9月、胡錦濤・中国国家主席とアブドラ・ヨルダン国王出席のもと、原子力平和利用協力議定書に調印した。議定書によると、中国核工業集団公司とヨルダン原子力委員会は、ウラン資源開発や原子力研究設備、人材養成、原子力発電所の建設等で協力する。

燃料サイクル開発にも積極姿勢

 中国は原子力開発の早い段階から、将来の原子力発電の拡大を見据え、使用済み燃料を再処理してプルトニウムをリサイクルすることを決めた。この方針にブレはなく、「原子力発電中長期発展規画」でも、リサイクル路線を堅持することが改めて確認された。

 リサイクルの要(かなめ)である再処理パイロットプラントについては、甘粛省の蘭州で1998年に着工し、すでに試験・調整段階に入っている。同プラントの処理能力は年間50トンHM(重金属)でスタートし、次のステップとして100トンHMまで拡張されることになっている。パイロットプラントに続く商業用再処理プラント(800トンHM)については、まもなく立地点の準備作業が開始されると見られている。

 また、核電秦山聯営公司の杜銘海氏が2009年3月に明らかにしたところによると、MOX(混合酸化物)燃料については、ペレット製造技術を初歩的に掌握した段階に達しており、年間0.5トンの製造能力を持つ燃料要素試験生産施設の建設が行われている。

 中国では、原子力発電の拡大に向けて、濃縮能力の拡大も計画されている。現在、1000トンSWU(分離作業単位)規模の濃縮プラントが稼働中のほか、ロシアの協力を得てさらに500トンSWU規模の濃縮プラントの建設が計画されている。

 中国核工業集団公司の邱建剛・副総経理は、2010年から2020年にかけて新規の濃縮プラントを続々と建設・操業させ、国内の濃縮能力を飛躍的に拡大したうえで、余剰能力を外国のユーザーに対して提供し、中国がアジアのウラン濃縮センターをめざす考えを明らかにしている。

 中国は、先進的核燃料サイクル研究も積極的に取り組む姿勢を示している。科学技術部が2008年12月に公表した「核燃料サイクルと原子力安全技術」に関する重点プロジェクトの公募申請案内によると、4つの目標と6件の課題をあげ、それぞれ3~4年をかけて実施するとしている。

 具体的には、「先進的核燃料サイクル技術モデル研究」については、核燃料サイクル技術のモデル研究を推進し、「PWR-高速炉」路線と整合性をはかる技術プランを提示するとともに、「分離-消滅処理」技術路線を確定することを目標として掲げている。

 2番目の目標は、「先進的使用済み燃料再処理プロセスと分離設備の中核技術の研究」で、このうちの「高速炉使用済み燃料再処理の中核工程技術研究」と題する課題には、高速炉使用済み燃料の溶解技術、PUREXプロセスのU、Pu共除染技術の改良等が盛り込まれている。もう1つの課題である「高効率の廃液分離、処理プロセスと中核設備の技術研究」では、動力炉の高放射性廃液の分離、固化処理および原子力用遠心抽出器等の先進的な再処理中核プロセスや設備の技術研究が盛り込まれた。

 3番目の目標は、「長寿命核種の消滅処理研究」で、「高速炉を利用した長寿命核種の消滅処理技術研究」と「熱中性子炉を利用した長寿命核種の消滅処理技術研究」が課題としてあげられている。最後の目標は、「核燃料サイクルの安全技術研究」で、臨界事故分析と測定技術、放射線防護・モニタリング等の技術研究を推進し、核燃料サイクルの安全を確保するとしている。

広東の大亜湾原子力発電所と浙江省の秦山原子力発電所が商業運転を開始してから15年が経った。中国の原子力開発は、揺籃期を過ぎ、試行錯誤を重ねながら、独自の路線を踏み出そうとしている。

参考資料

  1. 「中国原子力ハンドブック2008」(テピア総合研究所、2008年1月
  2. 「国家核電発展前景与安全文化」(杜銘海、核電秦山聯営公司、2009年3月4日

関連ウェブサイト:

  1. 国家原子能機構 (http://www.caea.gov.cn)
  2. 中国広東核電集団有限公司(http://www.cgnpc.com.cn
  3. 国家核安全局(http://www.sepa.gov.cn/info/gw/haqwj
  4. 中国科学院http://www.cas.cn
  5. 中央人民政府(http://www.gov.cn
  6. 環境保護部(http://www.sepa.gov.cn
  7. 国家発展改革委員会http://www.ndrc.gov.cn
  8. 国家エネルギー(能源)局(http://nyj.ndrc.gov.cn
  9. 中国電力企業連合会(http://www.cec.org.cn
  10. 中国核工業集団公司(http://www/cnnc.com.cn
  11. 国家核電技術公司(http://www.snptc.com.cn
  12. 中国核能行業協会(http://www.china-nea.cn
  13. 中国原子能科学研究院(http://www.ciae.ac.cn
  14. 中国核学会(http://www.ns.org.cn
  15. 中国国電集団公司(http://www.chinapower.com.cn
  16. 中国華能集団公司(http://www.chng.com.cn
  17. 中国華電集団公司(http://www.chd.com.cn
  18. 中国電力投資集団公司(http://www.zdt.com.cn
  19. 中国大唐集団公司(http://www.china-cdt.com.cn
  20. 中国能源網(http://www.china5e.com

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2014/2/7 新コーナー開設
「中央経済工作会議のポイント」

服部健治の追跡!中国動向

2014/2/27 新コーナー開設 「安倍総理の靖国神社参拝に想う(上)」

川島真の歴史と現在

気鋭の研究者が日中関係を歴史から説き起こす。幅広い視点から新しい時代の関係を探る。

科学技術トピック

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2014/3/5更新
「赤外線カメラと簡牘資料の日中共同研究」
工藤 元男

取材リポート

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日中関連、科学技術関連のシンポジウム・講演等を取材し、新鮮なリポートをお伝えします。

中国の法律事情

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2014/3/7更新
「百度(バイドウ)の著作権侵害をめぐる攻防の結末」朱根全

日中交流の過去・現在・未来

日中交流のこれまでの歩みとこれから

日中の教育最前線

日中の教育現場の今をレポート

中国国家重点大学一覧

 

中国関連書籍紹介

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2014/3/12 書評追加掲載

文化の交差点

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2014/3/18更新
「日本における中国古代絵画」朱新林

中国実感

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