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原子力プラントの安全性を向上させるための研究

2009年4月20日

若林 利男(わかばやし としお)

若林 利男(わかばやし としお):東北大学大学院工学研究科 教授

1947年 生まれ。東北大学大学院工学研究科 教授 1973年 東北大学工学研究科原子核工学専攻修士課程修了 工学博士 1973年4月 動力炉・核燃料開発事業団 入社 2001年4月 核燃料サイクル開発機構 国際・核物質管理部長 2005年4月 現職 原子力分野では、熱中性子炉から高速炉まで幅広い原子炉に関する研究、核燃料サイクル全体の研究、核不拡散、保 障措置の研究等に従事。原子力分野以外では、大規模システム(医療、交通等)のリスク評価・管理に関する研究に従事。 2009年1月まで原子力安全委員会 原子炉安全審査会委員

1.はじめに

 日本に原子力発電が導入されてから約40年が経過し、現在、55基(4958万KW)の軽水炉が稼働している。これまで、原子力の安全研究、国内外の原子力プラントの事故・トラブル等の経験を踏まえ、原 子力プラントに対して多くの改善が行われてきた。

 今まで、原子力プラントに係る安全研究としては、軽水炉で想定される事故の発生防止と拡大防止のための、あるいは万一の事故が発生した際の影響緩和のための安全研究として、冷 却材喪失事故の研究や反応度事故の安全研究等が実施されてきた。

 さらに、近年、軽水炉の長期利用・高度利用や核燃料サイクルの進展等に対応した研究、国内外の原子力プラントの運転経験を踏まえた原子力施設の確率論的安全評価(PSA:Probabilistic Safety Assessment)技術やその他のリスク情報の活用に関する研究、運転経験に基づく情報を活用した施設・設備の安全基準等の充実・強化のために必要な研究、様々な事故・故障に潜む人間・組 織要因の解析評価技術の研究等が進められてきている。

 今回は、日本の原子力プラントの安全研究の概要と、トピックスとして、近年注目されている原子力プラントの保守技術の高度化のための研究について紹介する。

2.日本の原子力プラント安全研究の概要 (1)

 日本では、現在、原子力プラントの安全研究として、

  1. リスク情報の活用
  2. 事故・故障要因等の解析評価技術
  3. 軽水炉の安全評価技術
  4. 軽水炉の材料劣化・高経年化対策技術
  5. 耐震安全性技術等

が重点的に実施されている。それぞれの概要を以下に示す。

2.1 リスク情報の活用

 リスク情報の活用に関しては、①原子力施設毎の性能目標の策定・検証・安全規制への適用等に向けた研究、②リスク情報を活用した安全規制の運転管理への適用に関する研究、③ PSA手法の高度化やデータの整備、適用範囲の拡大等に関する研究が進められている。これらの成果は、軽水炉を対象とした性能目標の策定や新たな検査制度の検討等に活用されており、着実に研究が進められている。& amp; amp; amp; amp; amp; amp; amp; lt; /p>

2.2 事故・故障要因等の解析評価技術

 事故・故障要因等の解析評価技術に関しては、①運転経験に基づく事故・故障に関する情報の収集・分析整備、②トラブル事象等に係る人間・組織要因の調査分析に基づく知見・教 訓の蓄積等の研究が進められている。具体的には、国内外で発生した原子力事故・故障等に係る情報の収集・分析を行い、インターネットで公開が行われている。また、運転管理、保守保全等における人間・組 織的な要因を分析し、安全規制の高度化に反映させるため、ヒューマンエラーが関連する国内外のトラブル事例についての知見・教訓に関するデータの蓄積や人間信頼性データ等の整備が行われている。

2.3 軽水炉の安全評価技術

 軽水炉の安全評価技術に関しては、①軽水炉の事故事象をできるだけ忠実に解析するための最適安全評価手法の開発、②ウラン燃料・M OX燃料の高い燃焼度範囲における事故時挙動を高い精度で評価する技術の開発等が重要であるとして、これを踏まえた研究が進められている。

 軽水炉の高度利用に関しては、高精度な最適評価(BE)手法の開発に必要な熱水力詳細実験データを得るため、OECD/NEA/ROSA計画のもとで、大型非定常試験装置(LSTF: Large Scale Transient Facility)を用いた実験を行い、得られたLSTF実験データとBE解析コード(RELAP5等)を用いて、解析上・実機の原子炉適用上の課題を抽出している。また、3 次元二相流コード(ACE-3D)をRELAP5と熱的に結合したコードを用いて、PWR蒸気発生器の二次冷却水側で生じる3次元的沸騰流動を解析・評価するとともに、3次元解析モデルの整備を進めている。こ れらの実験等に基づく軽水炉の熱水力学的な最適安全評価手法の開発は、今後の安全審査への活用や安全審査指針類への反映が期待されている。 反応度事故時燃料挙動を確認するため、Z r-Nb二元系合金を被覆管材料として用いた高燃焼度燃料を対象とする水冷却条件下での実験、商用炉照射済MOX燃料を対象とした水冷却条件下での実験等を原子炉安全性研究炉(NSRR:Nuclear Safety Research Reactor)で行い、燃料破損しきい値に関するデータの範囲を燃焼度61MWd/kgから77 MWd/kgまで拡大し、高 燃焼度化に向けた安全審査のためのデータを蓄積している。

2.4 軽水炉の材料劣化・高経年化対策技術

 材料劣化・高経年化対策技術に関して、①き裂進展評価法やき裂のサイジング技術等に関する最新の知見の整備、②経年変化現象の解明とその予測評価手法の整備、③き裂や劣化の検出・測定法の開発整備、④ 構造信頼性評価手法の整備等の研究が進められている。

 原子炉機器・配管等の材料の炉水環境中における加速疲労試験を実施し、炉水環境中での疲労強度データを体系的に取得しデータベース化しており、これらのデータは日本機械学会の発電用原子力設備規格「 環境疲労評価手法」の策定に活用されている。

 低炭素ステンレス鋼(SUS316L系)を用いた炉心シュラウド及び原子炉再循環系(PLR)配管に発生した応力腐食割れに着目して、超音波探傷試験及び渦電流探傷試験を実施し、こ れらの探傷試験による検出性及びサイジング精度に関するデータを収集している。この研究では各種非破壊検査技術の精度の確認、適用性等の実証が進められており、これらの成果は、日 本電気協会の各種探傷試験の技術指針へ反映されている。非破壊検査による欠陥の検出精度やサイジング技術の高度化は、き裂の進展を高い精度で予測し維持基準の適確な運用を図る上で重要であり、合 理的な保全に資するものである。

2.5 耐震安全性技術

 耐震安全技術に関しては、①耐震安全解析コードの改良に関する研究、②耐震信頼性の実証に関する研究、③原子力プラントの安全設計上考慮する地震について、最 新の科学的知見に基づき想定すべき地震動特性に関する研究、④様々な地震動による原子力プラントの健全性に関する研究(安全機能の健全性・反応特性、システムとしての健全性等)等が進められている。具 体的な研究としては、活断層調査手法の整備、地震動特性の検討、耐震解析手法の高度化やコードの整備等が実施されている。これらの成果は、耐震設計審査指針の改訂検討に活用されている。

3.保守技術の高度化のための研究 (2)(トピックス)

3.1 背景、目的

 保守保全活動は、原子力プラントの安全性を維持するために重要な役割を担っている。しかしながら、機器トラブルや事故の中で、その根本原因が保守保全にかかわっていると推測される割合は、他 の作業すなわち設計や運転などに関連する根本原因より明らかに多いことが認められている。特に、ヒューマンエラーが根本原因であったものは、原子力プラントで起こった事故やトラブルのうち60%が 保守保全作業に関するものという報告がなされている。

 保守保全活動に携わる保守作業員のニーズ、行動分析の結果、「現場での情報提供」、「因果関係に基づく異常原因の推定に対する支援」、「過去の事例の参照する支援」が、保守作業員の負担を軽減し、安 全な保守保全活動が行えるようにするために効果的であることが分かってきた。本研究では、これらの検討結果を基にプラント保守支援システムの構築を目的とした。

3.2 プラント保守支援システム

 保守作業員の情報獲得活動を効率的に行うためには、現場における情報提供が重要である。現場において詳細な保守保全関連の情報(過去のパラメータの履歴、過去のトラブル事例等)を参照したい場合、現 在では管理棟までとりに行かなくてはならない。現場においてプラントパラメータや事例に関する情報にアクセスできると同時に、現場で機器の状態を把握し、異常原因の推定を行いたいとニーズがある。そこで、携 帯型情報端末による現場での保守作業員への関連情報の提供が有効である。

図1 プラント保守支援システムの概要

 このため、図1に示すようなプラント保守支援システムを構築した。本システムは、複数のプラントがネットワークを介して互いに接続され、分 散データベースによって情報が分散して蓄積されている状況を想定している。保守作業員は携帯型の情報端末を携行して、情報の取得や入力を行う。携 帯型情報端末には持ち運び可能なモバイルセンサを装着することで現場での情報収集が可能となる。各監視対象機器は、計測用のUCD(Ubiquitous Computing Device)により監視を行う。U CDで計測された情報はLDB(Local Database)へ保存される。LDBはUCDとネットワークで接続されUCDで計測された情報の蓄積を行う。MDB(Main Database)はプラント全体を統括するデータベースサーバであるが、必ずしもプラント全ての計測情報を保持している訳ではなく、主要なパラメータ以外の計測データは、現 場に設置されているLDBが保持することとしている。MDBはどのLDBに何の情報が存在するかという情報を保持している。

 因果関係に基づく異常原因の推定に対する支援のためには、プラント診断手法としてベイジアンネットワーク(Bayesian Network: BNN)を採用した。ベイジアンネットワークは観測値( 結果)、異常仮説(原因)間の因果関係を条件付確率によって記述したネットワークで、べイズの定理により入力された情報に応じて異常仮説の確率の評価を行うことができる手法である。

 過去事例の参照に対する支援のためには、過去の類似事例の検索手法として、指数分布に基づく類似度検索定義(Exponential Distribution-based Similarity : EDS)を用いた。この手法は、沸騰水型原子力発電所において実際に計測されたAPRM信号などを用いて、その基本的な有効性を検証している。 本システムの基本的な有効性は確認されたが、今後、実 際の原子力プラントに適用するためには、保守作業員による使用実績の積み重ねと評価を加え、さらなるプラント保守支援システムの改良を図っていく必要がある。

4.まとめ

 日本では、軽水炉の安全研究については、軽水炉が導入された時代に必要とされた安全性を確保するための安全研究から、既存の軽水炉の安全性をより高いレベルで維持・向 上するための安全研究へとシフトしてきている。一方、新型炉分野では、高速増殖炉の安全評価技術に関する研究も積極的に進められてきている。

 日本の安全研究に関する国際協力は、二国間協力の枠組みや、国際原子力機関(IAEA)や経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、国連科学委員会(UNSCEAR)、国際放射線防護委員会( ICRP)、世界保健機関(WHO)等における多国間の協力により実施してきている。日本は原子力先進国として国際的な貢献が求められているところであり、今後とも、二国間協力の枠組みに基づく安全研究や、国 際機関が実施する安全研究について積極的に参画することが重要である。

参考文献

  1. 平成18年度版「原子力安全白書」、平成19年7月、原子力安全委員会
  2. 佐藤寿、伊藤洋、高橋信、北村正晴、大井忠、Wu Wei、「携帯端末とモバイルエージェントによる保守支援システムに関する研究」、保全学、3(3),(2004),11-19.

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