第31号:原子力の開発及び利用
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核エネルギーは中国将来のエネルギー供給に対する重要性

2009年4月16日

呉宗鑫

呉宗鑫(Wu Zong Xin):中国国家原子力安全専門家委員会委員
清華大学核エネルギーと新エネルギー技術研究院
学術委員会主任

1937年12月21日生まれ。

1956~1962年、清華大学工学物理学部原子炉工学専攻、卒業後清華大学に残り就任。1982~1983年、英国サレー大学でエネルギー経済学を研修。1987年、清華大学教授に招聘され、1994年から2001年まで清華大学核エネルギー技術設計研究院院長就任。2001年以降現在まで、清華大学核エネルギーと新エネルギー技術研究院学術委員会主任就任。
1995年以降現在まで、国家原子力安全専門家委員会委員に就任。  高温ガス冷却型原子炉の研究と設計の業務及び国家エネルギー政策と気候変動政策の研究に長期従事。

これまでに発表された主な著作:清華出版社出版「石炭を主とした多元化クリーンエネルギー戦略」、「改良型核エネルギーシステムと高温ガス冷却型原子炉」。

1 中国のエネルギーの現状

 中国の2007年の一次エネルギー総消費量は26.5億トン(標準石炭換算)であり、その内、石炭消費量は18.4億トン(標準石炭換算)で、一次エネルギー総消費量の69.5%、石油消費量は4.86億トン(標準石炭換算)で、18.3%、天然ガス消費量は673億立方メートルで、3.37%である。

 中国の2007年の一次エネルギー総消費量はすでに世界の一次エネルギー消費量の16.8%を占めているが、中国人一人当たり平均のエネルギー消費量はまだ2.0トン(標準石炭換算)にすぎず、世界の一人当たり平均の消費水準である2.5トン(標準石炭換算)を下回っており、OECD諸国の一人当たり平均の消費水準である6.85トン(標準石炭換算)のわずか29%である。

 中国のエネルギー消費構造は石炭を主としており、石炭の消費量は一次エネルギー総消費量の69.5%、世界の大多数の国の一次エネルギー消費構造との差異は極めて大きい。世界の平均的一次エネルギー消費構造において、石炭はわずか28.6%であり、クリーンなエネルギー、例えば天然ガスは23.8%、石油は35.6%である。中国の石炭を主とするエネルギー構造が中国の高い汚染物排出量をもたらしている重要な原因である。

 中国のエネルギー利用効率は比較的低く、国内総生産(GDP)100万ドル当たりのエネルギー消費率は520トンオイル当量で、世界の平均水準である280トンオイル当量の1.86倍で、OECD諸国の平均水準である199トンオイル当量の2.6倍に相当し、日本との差はさらに大きく、日本の108トンオイル当量の4.8倍である。中国のエネルギー消費率が高い原因には技術面の問題もあるが、主要なものではない。主として産業構造が原因であり、マクロ的産業構造から考慮して見ると、エネルギー消費が多い工業分野のGDP総量の中に占める比率はやや高いが、エネルギー消費が少ないサービス業分野のGDP総量の中に占める比率は比較的低い。各産業部門で考慮して見ると、低付加価値製品の比率はやや高いが、高付加価値製品の比率はやや低い。高付加価値製品または低付加価値製品のエネルギー消費量はその差が極めて小さい可能性があるが、単位当たり付加価値のエネルギー消費率は差が数倍となる可能性がある。これが中国の高いGDPエネルギー消費率をもたらしている主な原因であり、また発展途上国の特色でもあり、低付加価値を主とする発展途上国の産業構造から高付加価値を主とする産業構造へのタイプ転換は、かなり長い過程を経ることが必要であり、その後初めて実現が可能となる。

 1980年以降長期にわたり、中国のGDPのエネルギー消費率はずっと低下の傾向を呈しており、1980~2000年の平均GDPエネルギー消費成長弾性係数は0.5を下回っている。即ちエネルギー消費の平均成長率はGDP平均成長率の半分を下回る。しかし近年、中国のエネルギー消費の伸びは極めて速く、2002年から2005年にかけて、エネルギー消費の伸び率は連続3年国内総生産GDPの成長率を上回り、単位当たりGDPのエネルギー消費率は低下することなく反対に上昇した。エネルギー問題はすでに中国経済社会の持続可能な発展が直面する重大な課題となっており、中国政府はすでに省エネを優先的な政策に掲げるとともに、2010年の GDPエネルギー消費率を2005年と比べて20%引き下げるという目標を提出している。

 中国の交通運輸が急速に発展しているため、特に自家用車の保有量が急速に増加しているため、中国の石油消費は急速に増加し、2000年から2007年にかけての中国の石油消費量は2.24億トンから3.68億トンに増加している。しかし生産量は1.63億トンからわずか1.87億トンに増えただけで、石油の輸入量は0.61億トンから1.81億トンに増加し、石油の対外依存度は27%から49%に増加している。これは中国のエネルギー確保の安定性における重大な課題である。

 現在、中国はすでに米国を超えて世界のCO2排出の第一の大国となっている。2007年、中国のCO2排出量は59.4億トンで、米国は58.6億トンであった。中国の一人当たり平均のCO2排出量は4.5トンで、世界の一人当たり平均の排出水準に相当する。中国はCO2排出削減の巨大な国際的圧力に直面している。

2 安定供給と気候変化の厳しい課題に直面している中国のエネルギー開発

 中国はまさに工業化と都市化の進展過程にあり、現在都市人口の比率はわずか45%であるが、今後毎年、大量の人口が農村から都市に入ってくるであろう。これにともない、工業施設、都市と交通運輸インフラストラクチュアの建設はいずれも大量の鉄鋼、セメント、非鉄金属の投入が必要となり、これらの材料はいずれも高エネルギー消費の製品であり、大量のエネルギーを消費する必要がある。例えば、米国の工業化及び都市化の実現において、累計の一人当たり平均の鉄鋼消費量は21トンで、日本は17トンであるが、現在までの中国の累計の一人当たり平均の鉄鋼消費量はわずか3トン前後でしかない。

 世界の大多数の先進国の発展の経験に基づくと、工業化と都市化発展の過程においていずれもエネルギー消費の急速な増加の段階を経ている。一人当たり平均のGDPが1万ドルに達した後、エネルギー消費はさらに増加しているが、増加の速度は比較的緩慢なものとなっている。米国は1960年前後に一人当たり平均のGDPが1万ドルに達し、その一人当たり平均の一次エネルギー消費量は約8トン(標準石炭換算)で、日本は1980年前後に一人当たり平均のGDPが1万ドルに達し、その一人当たり平均の一次エネルギー消費量は約4.25トン(標準石炭換算)で、韓国は1997年に一人当たり平均のGDPが1万ドルに達し、その一人当たり平均の一次エネルギー消費量は約4.07トン(標準石炭換算)であった。この後、これらの国のエネルギー量は引き続き増加している。現在、日本の一人当たり平均のエネルギー消費量はすでに5.78トン(標準石炭換算)に達しており、米国は11.4トン(標準石炭換算)に達している。

 現在中国人一人当たり平均のエネルギー消費量はわずか約2トン(標準石炭換算)で、今後工業化と都市化の進展にともない、中国の一人当たり平均のエネルギー消費量はいっそう増加するであろうし、また人口の増加を考慮すると、中国の現在の人口は13.2億人で、予測では中国の人口は15~16億人に増加する。従って、中国のエネルギー消費量は今後一定期間その勢いからして必ず引き続き増加するであろう。

 中国の将来のエネルギー消費の増加を考慮すると、中国の国土が広大であることがもたらす交通運輸のエネルギー消費の影響の要因も考慮が必要となる。米国の一人当たり平均のエネルギー消費量は日本のおよそ2倍で、その内の一つの重要な要因は米国の国土が広大なために大きな交通運輸のエネルギー消費をもたらし、米国交通運輸のエネルギー消費量は米国エネルギー総消費量の三分の一を占めるが、日本はわずか四分の一を占めるだけである。比較に基づくと、中国、米国、カナダ、オーストラリア等の国土が広大な国のその単位当たりGDPの貨物交通運輸回転量(トン-キロ)に対する必要量はとても高く、日本、欧州等の国の約3~4倍で、これによって大きな交通運輸エネルギー消費量をもたらしており、この要因も勢いからして必ず中国の将来のエネルギー需要に対して影響をもたらすであろう。

 我々は次のような将来分析を行った。2030年前後に、中国人の一人当たり平均の GDPが1万ドルに達し、その一人当たり平均のエネルギー消費量が、先進国が1万ドルに達したときの4トン(標準石炭換算)の水準に達したと仮定すると、そのとき中国の人口は15億に達しており、そうなると中国の一次エネルギー消費総量は60億トン(標準石炭換算)に達することになり、これはかなり大きなエネルギー消費量である。現在全世界の一次エネルギー消費総量は160億トン(標準石炭換算)に達していないのである。

 中国のエネルギー資源の総量はある程度豊富であるが、中国は人口が多いため、一人当たり平均のエネルギー資源保有量は世界の平均水準をはるかに下回っている。しかも、中国のエネルギー資源は石炭を主としており、石炭を主とするエネルギー生産と消費の構造はかなり長い期間根本的な変化は生じないであろう。石炭を主とする構造は中国のエネルギー効率の向上、汚染物排出の低下及び気候変化への対応に対し、厳しい課題に直面することになる。同じ発熱量を発生するには、石炭を消費して発生する二酸化炭素の排出量は石油より20%高く、天然ガスより40%以上も高い。

 この他、中国の石油埋蔵量の制限から中国の石油生産のピークはおよそ2億トンの水準であるが、将来交通運輸量の増加にともない、中国の交通運輸燃料に対するニーズは連続的に増加し、石油輸入の依存度はいっそう高まり、石油安定供給に対する課題はさらに大きくなるであろう。

 要するに、将来の中国エネルギーの発展はエネルギー安定供給と気候変動に対する厳しい課題に直面する。中国は新しいタイプの工業化の道を歩み、節約を優先する政策を維持して、あまり高くないエネルギーの伸びで、経済社会発展の需要を満たすであろう。現在及び今後のかなり長い期間、中国のエネルギー供給は依然として石炭を主とすることになり、石炭のクリーン技術の開発・応用を第一に置かなければならない。中国の将来のさらに長期のエネルギー需要を考慮すると、多元化の戦略を遂行すべきであり、エネルギーの増加分は主として核エネルギーと再生可能エネルギーによるようにすべきである。

3.核エネルギーの役割と地位

 エネルギー多元化、クリーン化遂行の戦略において、核エネルギーは極めて重要な役割を果たすこ。核エネルギーは現在、化石エネルギーを大規模に代替できる最も希望の持てる一次エネルギーであり、中国のエネルギー供給の安定を保障する有効な方法である。

 核エネルギーがクリーンなエネルギーであることは共通の認識となっており、原子力発電所はSO2、NOx、煙塵を発生することがなく、またCO2も発生することがなく、都市の大気環境に有利である。特に、地球の気候変動への対応はすでに世界が直面する重大な課題となっており、核エネルギーはCO2排出減少に対して重大な貢献を果たすことができる。 現在世界全体で30カ国が442基の原子力発電所を擁しており、原子力発電のユニット容量は367GWで、原子力発電のユニット容量は発電総容量の11%を占め、世界の原子力発電量は総発電量の17%を占める。

 原子力発電はすでに安全で、信頼のできる成熟した発電技術となっている。過去数十年来、原子力発電所はすでに膨大な運転の経験を積み重ねており、原子力安全の啓蒙と重大事故に対応する防御体系確立の面ではいずれも極めて大きく改善されている。過去の十数年、原子力発電所の運転率の向上は著しく、約30%向上しており、多くの国の運転率はすでに90%以上に達し、全世界の原子力発電所の運転率はすでに82%前後に達している。

 原子力発電は経済的競争力を有している。2000年の米国原子力発電の平均発電コストはわずか1.74セント/kWhで、すべての発電技術の中で最低のコストであり、英国、フランスの状況も同程度である。これは大多数の運転中の原子力発電所が元金返済利息支払期をすでに過ぎており、この部分のコストが原子力発電所初期発電コストのおよそ60%前後を占めるためである。即ち、現在の原子力発電所のコストは初期のわずか40%前後だけである。

 ウラン資源は国際的に一種の準国内資源であり、国のエネルギー安定供給を保障する有効な方法であると見なされている。原子力発電のコストにおいて天然ウラン燃料の発電コストにおける比率は小さく、価格の影響は小さい。天然ウランはエネルギー密度が高く、100万kW原子力発電所1基の毎年の天然ウラン必要量はわずか180トンであるが、同様規模の石炭燃焼発電所では、石炭の消費量は300万トンである。輸送と貯蔵のための施設の費用と貯蔵管理の費用も極めて低く、国際市場が有利な状況の下においては、天然ウランを大量に購入し、戦略的備蓄に用いることも可能であり、突発事件に対応することも可能である。

 2001年5月にブッシュ米大統領が発表したエネルギー政策、2000年11月にEU委員会が発表したエネルギー安定供給の緑書及び2001年欧州議会の決議は、いずれも核エネルギーの温室効果ガス排出減少、及び国のエネルギー安全保障での重要性を強調している。米国、EU、日本などはいずれも核エネルギーをエネルギー安全保障と温室効果ガス排出減少の重要な選択としている。

4.中国核エネルギー開発の現状と展望

 中国の2007年の電力総ユニット容量は7.13億kW、電力総消費量は32632億kW時、一人当たり平均の電力消費量は2472kW時で、世界の平均水準である3100kW時を下回っており、OECD諸国の平均水準である9400kW時のわずか26%にすぎない。中国の電力生産の一次エネルギー供給源は同じように石炭を主としており、その内、石炭燃焼発電は82.9%を占め、水力発電は15%を占め、原子力発電はわずか1.9%でしかない。これはその他の国と比べて比較的大きな差がある。世界の平均水準では、石炭が46%を占め、石油が7%、天然ガスが20.1%、水力が6.2%、核エネルギーが17%を占めている。

 現在、中国ではすでに11基の原子力発電所が運転に投入されており、総ユニット容量は910万kWで、主として広東、浙江、江蘇等の東部沿海地区に位置し、経済的競争力を有しているが、中国の原子力発電量は全国総発電量のわずか約1.9%を占めるだけで、世界の17%という平均水準と比べてその差は極めて大きい。この他、現在中国には複数の自主設計、自主建造の原子力発電所が建設中である。中国は100万kW原子力発電所を設計、建造する能力をすでに有しており、また核燃料サイクルの整った工業体系も初歩的には確立しており、核エネルギーを大規模に発展させる基礎を有している。同時に、中国はまた米国ウェスティングハウス社が研究開発した非能動安全特性を備えた改良型加圧水型原子炉AP-1000及びフランスAREVA社が研究開発した欧州改良型加圧水型原子炉EPRを含む国外の先進的な第三世代の原子力発電技術を導入し、建造している。AP1000は第三世代の原子力発電技術であり、第三世代の原子力発電技術は第二世代の原子力発電運転の経験と成熟した技術を吸収し、数十年来の科学技術の進歩の成果を十分に採用し、現在の新しい安全法規に従って設計したものである。安全性を高めるため、第三世代の原子力発電技術は重大事故の予防と緩和を設計基準とするとともに、重大事故に対する格納容器を備えている。非能動安全設計の理念を採用し、原子力発電所の安全設計に革命的な変化をもたらしており、さらに安全に、さらに簡略化され、さらに経済的になっている。

 中国政府はかつて、中国の原子力発電所ユニットを2020年までに4000万kWに達するようにする、その時点において、原子力発電は全国電力量の4%を占めるようにするという計画を提出している。しかしここ数年の中国の電力需要増加はかなり急速で、2007年末、中国の電力量はすでに7.13億kWに達しており、2010年には10億kWに達する可能性が極めて大きい。中国は原子力発電所の建設を加速させており、2020年までに中国が完成させる原子力発電所ユニットはそれまでに提出した4000万kWの目標を大きく上回るであろう。もし核エネルギーが中国のエネルギー構成の中で比較的大きな役割を果たすよう我々が希望するのなら、中国は原子力発電開発の規模を大きくすべきで、2050年までに原子力発電量が総発電量の30%以上を占めるようにするよう努力すべきである。原子力発電を増加分に当てるとすると、相当する原子力発電は4億kWを超えることになるが、これは現在の全世界の原子力発電量を超えることになる。

 中国の原子力発電開発の技術は、導入、消化、吸収と新たなイノベーションという発展の過程を歩んでおり、国際的な先進技術を導入し、自主的技術革新を奨励し、原子力発電所の自主設計と自主建造を実現していて、大部分の設備は国産である。現在中国は目下世界で第三世代の原子力発電となっているAP1000技術を導入しているところであり、自主的知的財産権を有する原子力発電技術を最終的に保持しようとしている。

 中国の2020年国家科学技術発展要綱は、「大型の改良型加圧水型原子炉と高温ガス冷却型原子炉」を16項目の重大特別項目の一つに挙げるとともに、実施のための組織作りを開始した。中国はAP1000原子力発電技術の導入とその先進技術を完全に手にすることを基礎として、国家研究開発計画を実施し、次世代の改良型原子炉タイプの自主的技術革新を推進し、出力がさらに大きい大型非能動安全技術を採用して原子力発電所設置技術を改善及び開発し、中国が知的財産権を持つようにしようとする。

 この重大特別項目において、中国はモジュール型高温ガス冷却型原子炉を自主的に研究開発することにしている。モジュール型高温ガス冷却型原子炉は一種の固有の安全特性を有する改良型原子炉タイプで、先進的な被覆顆粒燃料を採用し、優れた高温特性を有し、第四世代超高温ガス冷却型原子炉の基本的特性と技術的基礎を有しており、高い効率で発電できるだけでなく、熱分解で水素を製造することが可能である。 中国はモジュール型高温ガス冷却型実験原子炉1基の建造に成功しており、モジュール型高温ガス冷却型原子炉のかぎとなる技術をマスターしており、これを基礎としてモジュール型高温ガス冷却型原子炉モデル発電所を自主的に研究開発及び設計することにしており、計画では2013年に建造が完成する。

 要するに、中国が将来核エネルギーを大規模に発展させ、それがエネルギー構成で重要な役割を占めるようにすることが、中国のエネルギーの持続可能な発展の重要な礎石となる。