第31号:原子力の開発及び利用
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高速炉技術の開発と原子力の持続可能な成長の促進

2009年4月28日

周志偉

名前:周培徳(ZHOU Peide)
中国原子能科学研究院高速炉工程部副総工程師、研究員

1968年生まれ。
2001年中国原子能科学研究院卒業、原子力科学・工程専攻、工学博士。

発表論文

  1. MOX燃料モジュール高速炉の変異特性、「核科学と工程」、2002年
  2. モンテカルロ法に基づく三次元燃料消費計算の研究、「核科学と工程」、2004年
  3. 中国の高速実験炉応用方法の研究、新炉と研究炉に関する第6回学術報告会特集、 2006年
  4. 「空冷式高速炉」、「中国電気工程大典」第8巻第6編第4章、2007年
  5. 「鉛冷却高速炉」、「中国電気工程大典」第8巻第6編第6章、2007年
  6. 高速炉技術の発展と原子力発電の持続可能な発展の促進、第三世代原子力発電技術報告会文集、2007年

概要

 高速炉技術は第4世代原子力システムの開発目標に合致しており、原子力の持続可能な成長を促進するための重要な技術である。中国の高速炉事業は3段階の成長方法をとることが予定されている。これにより、2030年頃には高速炉を第4世代原子力発電の中心として商業利用を拡大するという目標の実現を図る。中国の高速実験炉はすでに調整段階に入っており、2009年9月には臨界に達する計画である。中国の関係部門は現在、高速炉事業技術の次の開発目標について検討を進めており、成長を加速するための手段を研究し、高速炉による原子力システムの技術研究及び開発に対する投資を増大するよう提案している。

1. 第4世代原子力システムの開発目標に合致した高速炉技術

 中国にとって原子力発電産業を積極的に成長させることは、エネルギー資源を多様化し、エネルギー構造を最適化し、環境保護を進め、さらにエネルギーの安全を保障するための現実的で実行可能な手段である。2008年末までのデータによると、中国が稼動している原子力発電所の出力は約9.1GWe、すでに建設を始めている原発の出力は約11.3GWe、建設を承認されている原発の出力は約23.9GWe、初段階の業務開始を承認されている原発の出力は約19.3GWeで、合計約63.6GWeになる。現在の成長状況から見ると、中国における原子力発電の中長期発展計画に提示された、2020年時点での建設済み原発出力40GWe、建設中の原発出力18GWeという目標は必ず上回って達成されよう。中国工程院が2005年に出した予測では、2050年の中国の発電総出力は約1650GWeになり、原子力発電による出力は250GWeで、原子力発電は約16%を占めるようになる。中国の原子力発電には大きな将来性がある。原子力発電の大規模な成長には、ウラン資源の確保と長寿命の放射性廃棄物の安全な処理といった問題が生じるが、高速炉技術とクローズド核燃料サイクル技術は、この2つの主要問題を解決するために最も現実的で実行可能な手段である。

 中国のウラン資源の探査と開発を強化し、外国からの一部ウラン資源輸入を補助手段とし、加圧水型原子炉と高速炉を組み合わせて発展させたクローズド核燃料サイクル方式を採用することにより、中国は原発の出力規模を2050年には250GWeに到達させるという目標を実現できるだろう。したがって、高速炉技術の開発は、原子力の持続可能な成長にとって非常に重要な戦略的意義をもつ。

 現在、国際的に高速炉の開発は先進的原子力システムに組み入れられている。第4世代原子力システム(Generation Ⅳ Nuclear Energy Systems、略称Gen-IV)の概念は、1999年6月に開催されたアメリカ原子力学会年会で初めて提出されたものである。またアメリカ、フランス、日本、イギリス等各国は、2000年に第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(Generation Ⅳ Nuclear Energy Systems International Forum、略称GIF)を設立している。第4世代原子力システムの研究開発における総目標は、経済性と安全性に優れ、廃棄物の管理と処理がしやすく、核拡散防止の特性を持つ先進的な原子力システムを2030年以降に市場に提供することである。2000年5月に、第4世代原子力システム国際フォーラムの加盟国は、第4世代原子力システムの目標に基づき、さらなる研究・開発の候補として6つのシステムを対象として選んだ。システムの種類についていうと、これらに用いられている基本技術はそれぞれ異なり、うち最も技術が成熟しているのはナトリウム冷却高速炉(SFR)である。アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、日本、ドイツ、インド等の国ではすでに出力10MWt~1200MWeのものを建設しており、実験炉、原型炉、商用実証炉など合わせて18基のナトリウム高速冷却炉があり、約300炉/年の運転実績がある。またBN-350、フェニックス、PFR、BN-600等の原型炉と実証炉スーパーフェニックスは、商用試運転を始めている。

 革新的原子炉・核燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)は、国際原子力機関(IAEA)により2000年に発足したもので、次世代の先進的原子力システムに関するもう1つの国際的研究開発プロジェクトである。これまでに20ヶ国以上が加盟しており、中国もその一員である。このプロジェクトは、現段階では高速炉とそのクローズド核燃料サイクルの結合に基づく評価・研究を主にしており、特に高速炉と高速炉に基づく燃料サイクルが、原子力の持続可能な成長に対して及ぼす作用と効能について評価している。さらに今後は、高速炉技術を主とした研究協力を行う予定である。

 30近くの国がINPROとGIFの協力プロジェクトの枠組みの下で、次世代の原子力システムについて数年間を費やして共同研究を進めているが、これまでに第4世代原子炉の完全な設計は実現していない。しかし、第4世代に対する比較的明確な目標設定、開発すべき技術内容、枠組みの下での研究開発提案等はされている。先進的原子力システムについて、持続可能性、経済性、安全性、信頼性、核拡散抑制と防護システム等の面で、GIFは具体的な目標8ヶ条を提示している。

 中国は現在、ナトリウム冷却高速炉の技術を開発中である。中国のナトリウム冷却高速炉という技術選択と戦略目標は、第4世代の先進的原子力システムについての目標と一致するものである。

2. 成長戦略の策定と次期事業目標の明確化

 技術面から見ると、世界の高速炉はすでに実験炉、原型炉、実証炉という全ステップを経てきている。初期段階で求められた高速炉技術の開発目標は、高速炉の増殖能力、システム技術の実施可能性、運転の確実性、安全性や競争力など、主に検証面であった。1990年代中期までに、国際的に見て高速炉と燃料サイクル設備の発展と運転結果は、十分満足のいくものであった。つまり高速炉の技術開発は、初期段階で求められた目標をすでに大幅に達成している。

 国際的には、高速炉技術はすでにほぼ成熟しており、今後の技術開発の目標は、第4世代原子力システムの条件を満たし、原子力の持続可能な成長を実現することである。高速炉は、先進的原子力システムの中で主要な原子力発電所として、2035年前後に一定規模での応用を開始する予定である。

 中国の高速炉の開発戦略と技術に関する研究は、1970年代以降数多く行われてきた。1985年8月には「1985-2000年と第7次五ヵ年計画における高速炉発展計画」を策定し、1986年7月には元の原子力工業部計画司の指導の下、「高速中性子増殖炉2000年計画の制定」を完成し、1989年6月には国家863高技術計画のエネルギー分野専門家委員会の指導の下、「中国の高速炉発展戦略と技術路線」を編成した。近年、関係部門と専門家は、国外の高速炉技術の開発動向に非常に注目しており、中国の高速炉開発戦略と技術に対して、いっそうの研究と修正を進めている。国外の高速炉開発戦略と技術を参考にしたうえで、現在、中国の高速炉事業の発展には、下の表2のとおり3段階の戦略を採用している。

表2 中国高速炉事業技術の三段階戦略

段階

炉名

出力(MWe)

完成予定時期

第一段階
第二段階
第三段階

中国の高速実験炉(CEFR)
中国の高速原型炉(CPFR)、中国の高速実証炉(CDFR)
中国の高速商用炉(CCFR)

20
600~900
≥900

2009
2020
2030年ころ

 2006年に発表された中国工程院の調査プロジェクト「先進的大型加圧水型原子炉と先進的原子力システムの戦略研究報告」の中では、高速炉技術の開発について以下のように開発の加速が提案されている。「…高速実験炉の運転と研究に基づき、長年国際的に蓄積されてきた高速炉の技術研究開発と商用炉建設の成功例を十分に参考にし、広範な国際協力を展開し、必要な技術と設備を導入し、それによって、中国が高速炉商用化実現に必要とする期間を短縮する。」中国国内の研究開発条件、技術レベル、経験の蓄積等の各要素、また中国の高速炉について各段階で選択される主要技術の適合性、特に中国の高速実験炉とロシアのBN-600原型炉との技術的適合性を考慮すると、中国の高速炉事業の第2段階では、直接実証炉を建設するという実行可能性もある。

 国際的な開発の趨勢から見ると、高速炉技術に関する国際交流が増えていることと、高速炉技術に対する認識の向上と経験の蓄積によって、国際的には高速原型炉と高速実証炉の境界線が徐々に薄れてきている、あるいは原型炉の機能と実証炉の機能が1つの炉によって実現可能といえる。例えば、インドが現在建設中の50万kWの高速原型炉は、完成後には実証炉として直接普及・応用されることになる。

 中国が次の段階として原型炉と実証炉のどちらを建設するのかについては、全面的論証が必要である。技術面から簡単に分析すると、中国の高速実験炉の建造後に直接実証炉を建設することには実行可能性がある。熱効率65MW、実験発電効率20MWの中国の高速実験炉は、技術パラメータと方法選択の時点で、次段階の高速炉発電所への移行もすでに考慮されている。その主な技術である原子炉本体の構造、燃料操作システム、メインとなる熱伝導システム技術、重要な補助システム技術、主要設備と原子炉建屋構造等はすべて、20年以上の運転実績をもつロシアの高速原型炉(BN-600)に近いもので、中国の高速実験炉のメインとなる熱伝導システムの熱効率パラメータは、すでに実証炉原発のレベルにも近い。中国の高速実験炉はBN-600原型炉の縮小版で、CEFRは一定程度において原型炉の特性を備えている。

 中国には、高速炉技術の成長を加速させるという切迫した必要性がある。この必要性は、中国原子力発電の成長のため、ウラン資源の総合的需要・供給の条件によって、またクローズド核燃料サイクルシステムの協調的成長の要求などによって決まる。中国の加圧水型原子炉から出る、使用済原子燃料の商用再処理工場は2025年ごろ完成予定で、これによって中国では、加圧水型原発―加圧水型原子炉の使用済原子燃料商用再処理工場―MOX燃料工場―高速炉原発等により構成される、一定の工業規模を持つ燃料サイクルシステムが、2020年から2030年の間に構築されることになり、工業規模のクローズド核燃料サイクルシステムがまずは形成されることになる。

3. 高速炉原子力システム研究の強化

 高速炉の事業技術を全面的かつ自主的に掌握するため、中国では、中国の高速実験炉の設計、建造、運転、メンテナンスの経験を少しずつまとめ、中国の高速実験炉というプラットフォームを活用して、高速炉の安全研究、物理、熱工学・水力研究、運転稼動状況研究、燃料・材料と設備の検証等を幅広く展開する。

 中国では飛躍的発展方法を採用し、高速炉技術の研究開発についての国際協力という趨勢と背景の下、外国とも協力し、高速炉の技術開発での次期の目標を実現し、工業規模のクローズド核燃料サイクルシステムを建設していく。

 中国の高速炉技術の開発目標に基づき、中国の高速炉事業の開発計画を実現するために、投資を増大し、各方面にわたる技術の研究開発を進める必要がある。

 高速炉事業技術の研究開発を進めるには、ソフト面、ハード面のさまざまな設備が必要である。中国はすでに、高速炉技術の基礎研究、設計、高速炉重要設備の設計と検証、高速炉設計の実験検証等については、一定の条件を備えている。高速炉の運転、メンテナンス条件、実験炉応用研究条件などを完備させていく計画である。

 高速炉のクローズド核燃料サイクルには、熱中性子炉の使用済燃料の処理、高速炉の燃料製造と高速炉使用済燃料の処理等の技術部分が含まれる。燃料サイクルに関する技術には、加圧水型原子炉の使用済み燃料処理技術、MOX燃料製造技術、高速炉使用済燃料の処理技術、アクチニウム系放射性核種と長寿命核分裂物質の分離と核変換技術、高レベル放射性廃棄物の処分技術がある。すでに展開されている研究開発プロジェクトに対しては投資が増大される予定で、高速炉の使用済燃料の処理技術、アクチニウム系放射性核種と長寿命核分裂物質の分離と核変換技術等の研究開発はできるだけ早期に開始する。

 高速炉原発の基準規格、高速炉運転データベース、運転・メンテナンス技術、設計ソフトと検証、熱工学・水力と安全、炉心組み立て、高速炉先進構造の材料、先進的探査・制御技術、ナトリウム利用の先進的技術、ナトリウム燃焼と高速炉重要設備等についての研究投資が増大される予定である。

 各国が高速炉を発展させる目的と高速炉に対する需要は必ずしも一致せず、そのことが技術路線、用途設定、開発予定規模等の違いとして現れる。中国は自国の必要性と利用目標に基づいて高速炉技術を発展させ、高速炉の中長期的開発計画と高速炉技術の研究開発計画を策定、強化していく。中国は既定の発展路線を堅持すると同時にINPRO、GIF等の国際協力プロジェクトにも積極的に参加し、ナトリウム冷却高速炉を開発している他国とも、互いに参考にし合い共同研究をすることで、2030年ころまでには、高速炉を第4世代原発の重要なタイプとして応用するという目標が実現可能となろう。

中国の高速実験炉