トップ >第33号:水資源> 中国の流域汚染と水体浄化

中国の流域汚染と水体浄化

2009年6月16日

付 徳剛:
東南大学生物科学医学工程学部博士課程教授
東南大学蘇州研究院蘇州市環境生物安全重点実験室副主任

1967年生。
1994年南京大学配位化学国家重点実験室にて博士の学位を取得。主な研究のひとつとして、環境汚染物の処理におけるナノ材料と光触媒技術の応用研究。責任者であるとともに主要構成員として、“973”と“863”を含む10以上の国家レベルの科学研究プロジェクトに参加し、これを完成。

1. 現状

 中国環境監視総ステーションは2009年1月に、七大水系(珠江・長江・淮河・黄河・海河・遼河・松花江)の183本の河川の376の断面と太湖・滇池・巣湖を含む28の重点湖とダムの水質調査を行った。河川の調査項目は水温・pH値・電導率・溶解酸素・過マンガン酸塩指数・BOD5・アンモニア窒素・水銀・鉛・揮発フェノール・石油類・流量である。湖とダムの調査項目は水温・pH値・電導率・溶解酸素・過マンガン酸塩指数・BOD5・アンモニア窒素・水銀・鉛・揮発フェノール・石油類・全りん・全窒素・透明度・葉緑素a・水位である。

 検査結果から、Ⅰ~Ⅲ類の水面断面は全体の54%、Ⅳ類とⅤ類は全体の25%、劣Ⅴ類は全体の21%を占めることがわかった。全体的には中程度の汚染であるが、主に、アンモニア窒素・過マンガン酸塩指数・BOD5の汚染指数が高い。その中では、長江本流の水質が最もよく、支流も良好であり、三峡ダムの水質はよかった。黄河本流は軽度の汚染、支流は汚染が重度であった。珠江は本流、支流とも水質は良好。松花江は本流が軽度、支流は中度の汚染。淮河は本流は良好、支流は中度の汚染だが、山東省の境界内にある支流は軽度の汚染であった。海河の本流は重度の汚染。遼河本流の中遼河は重度の汚染、支流の中条子河と招蘇台河も重度の汚染であった。

 重点湖とダムのうち、白洋淀・達賚湖・大明湖・滇池・東湖・洪澤湖・澇山ダム・門楼ダム・西湖は劣Ⅴ類の水質であった。巣湖・南四湖・太湖・玄武湖はⅤ類。博斯騰湖・大伙房ダム・丹江口ダム・洞庭湖・昆明湖・鄱陽湖・千島湖はⅣ類。その他はⅢ類の水質要求を満たしていた。すべてのデータがそろった21の湖とダムの中で、最も富栄養化が進んでいるのは滇池であり、巣湖・大明湖・東湖・南四湖・洪澤湖・太湖・玄武湖は軽度の富栄養化、その他はみな中程度であった。

 中国の水汚染の主な原因は以下のとおりである。

  1. 経済の成長モデルが大ざっぱで、いまだ根本的な変革がなされていない。たとえば、淮河流域の製紙業や加工業は、汚染排出効果が明らかに改善されたとはいえ、その産業構造はなんら変わっておらず、汚染排出総量は依然として高いままである。黄河上流域と中流域では重化学工業を主とした工業構造が長期にわたって形成され、石炭や石油などの資源を大量に開発し、利用効率は低く汚染排出を高めたのである。
  2. 都市部に人口が集中するにつれて、生活汚水の排出量は増大したが、都市と町のインフラは社会経済の発展より遅れている。たとえば、黄河全流域の汚水処理率は30%に及ばず、全国の平均レベルをはるかに下回る。
  3. 農業面での汚染源の影響が大きい。たとえば、黄河全流域では1.97億ムー(1ムーは1/15ha)の耕地があり、一人当たりの耕地面積は全国平均の1.5倍である。農薬や化学肥料の使用量が多いため土壌はゆるく、水や土の流失量も大きい。窒素とりんなどの有機物が大量に河川に流入し、そのため流域の水汚染はいっそう激しくなる。
  4. 環境管理能力が不足している。たとえば、淮河流域の重点工業企業は基本的に汚染管理能力を備えているが、汚染監視はほとんどなされず、こっそり排出するか、基準値や規制量以上に排出しても、効果的な規制方法がない状態である。

2. 管理と計画

 わが国の経済社会の発展過程において、水汚染問題は国家と地方政府が非常に重要視している最重要課題のひとつである。2008年2月28日、第10回全国人民代表大会常務委員会第32次会議において、『中華人民共和国水汚染防止法』の改正案が可決され、中華人民共和国第87号主席令として公布され、2008年6月1日より施行されることとなった。現在、わが国の流域管理に関する法律と法規には、そのほかに『環境保護法』・『水法』・『水土保持法』・『洪水防止法』・『漁業法』・『河道管理条例』・『自然保護区管理条例』・『取水許可証制度実施方法』などがある。水法では、“国務院水行政主管部門が、国家が規定した重要河川と湖に流域管理機構を設立し、これらの流域管理機構が管轄範囲内で法律と行政法規を行使し、国務院水行政主管部門から与えられた水資源管理と監督の職責を果たす”と規定している。これらの法律と法規は、水行政主管部門と流域管理機構、および水政監督検査員の法律執行の権利と義務を明らかにするとともに、責任を強化し、違法行為に対しての責任と行政処罰の程度を明確にした。

 国家国民経済と社会発展計画もまた水環境管理に対し明確に要求した。第十一次5カ年計画の綱要6では、資源節約型、環境保全型社会の建設に重きをおき、“三河三湖”などの重点流域/区域の水汚染防止をとくに指示した。飲用水源保護区を科学的に規定し、主要河川と湖の汚染水排出の規制を強化する。飲用水源地の汚染水排出口の取り締まりを強化し、河川や湖への基準値を超えた汚染水排出を厳禁する。都市の汚水処理施設の建設を強化し、汚水処理費を徴収することにより、2010年までに都市の汚水処理率を70%以上にまで高める。また、水資源の統一管理を強化し、生活・生産・生態用水をうまく計画使用し、河川の上流域と下流域、地表水と地下水などをコントロールして、地下水の採掘を抑えることを提案した。取水許可制度と水資源有償使用制度を完備し、基準量管理により総使用量を抑える制度を施行し、流域管理と区域管理を総合的に考慮した健全な水資源管理システムによって、国家初の水権分配制度と水権譲渡制度を確立することも提案した。

 2008年、環境保護部は『淮河・海河・遼河・巣湖・滇池・黄河中上流の重点流域の水汚染防止計画(2006-2010年)』を発令し、2010年までに、淮河・海河・遼河・巣湖・滇池・黄河中上流などの6つの重点流域で集中式飲用水の水源地の整備と保護を行ない、省の境界にある水環境を改善することを発表した。これにより、重点工業企業は排出量を基準値以下に安定して抑えることができ、都市と町の汚水処理レベルは明らかに向上する。また、汚染水の排出量を効果的に抑えることで、流域の水環境の管理と汚染の警報、応急処置能力は明らかに高まる。

 国家中長期科学技術発展計画綱要(2006-2020年)は環境を重点領域としている。わが国の深刻な環境汚染、生態系の激しい退化、汚染物の無害化処理能力が低いこと、などを焦点に、環境技術に対し以下のような構想を提案した。(1)循環経済発展を促し、これを支える。汚染排出企業の清浄生産技術の開発に力を入れ、廃棄物の減量化と資源化利用、安全処理を強化し、循環経済の共通技術研究を高める。(2)区域の環境を総合的に管理する。流域の水環境と区域の大気汚染を総合的に管理するとともに、典型的な生態機能退化区域を総合的に整備する技術を集め、モデルを示すことにより、飲用水の安全保障技術と生態環境の監督技術、警報技術を開発し、環境保全を科学技術面から支える能力を大きく高める。(3)環境保護産業の発展を促す。わが国の国情に合った重大環境保護設備と計器設備を研究し、環境保護製品市場における国産品の占有率を高め、環境保護設備の技術レベルを向上させる。(4)国際的な環境協力に積極的に参加する。地球環境の条約履行対策と気候変化の科学的な不確実さ、およびその影響の研究を強化し、地球環境の変化の監視と温室ガス削減技術を開発し、環境変化への対応力と契約履行能力を高める。

3. 水体汚染の制御と管理

 中長期科学技術発展計画綱要は、重点領域の中で優先テーマを定め、 重要点をとくに明らかにし、いくつかの重要な戦略製品や重要な技術、あるいは重要な工事を優先事項として選んだ。水系汚染の制御と管理は16の重要プロジェクトの一つの水プロジェクトとされた。水プロジェクトは建国以来、最大投資になる水汚染管理の科学技術プロジェクトであり、総経費は概算で三百億元以上になる。水プロジェクトは、わが国の社会経済成長を制約する重大な水汚染の科学技術上のネックを解決することを目標とし、工業汚染源の制御と管理、農業面での汚染源の制御と管理、都市の汚水処理と資源化、水系の水質浄化と生態の修復、飲用水の安全保障、水環境の監督と警鐘発信および管理などの水汚染制御と管理などでの重要な技術を開発し、このネックを解消することを目指す。水プロジェクトの実施では研究目標を3段階に分け、第1段階での主要目標を水系の“汚染源を管理し、排出を減じる”技術の修得とした。第2段階では、主な目標を負担の少ない汚染回復”技術の修得とし、第3段階の主な目標は流域の水環境を“統合制御”する一連の重要な技術の修得とした。水プロジェクトでは6つの大きなテーマを以下のとおりに設定した。 湖の富栄養化の制御と管理技術の総合モデル、河川の水汚染制御の総合整備技術モデル、都市の水汚染制御と水環境の総合整備技術モデル、飲用水の保全技術の総合モデル、流域の水環境の監督と警鐘発信技術と総合管理モデル、水環境管理と政策研究およびモデル。“三河(淮河・海河・遼河)、三湖(太湖・巣湖・滇池)、一江(松花江)、一ダム(三峡ダム)”での水環境保全上の重要なことがらを明らかにし、典型的な流域と湖・河川・都市など異なる汚染類型の水系と重点地区を選び、飲用水の保全技術を集大成し、総合モデルを示すとともに、太湖流域を流域の総合モデル試験地域とした。

 水プロジェクト計画の実施を早めるためには、事前の準備作業を十分に行わなければならない。2008年1月25日、国家水プロジェクト事務室は北京市・天津市・遼寧省・江蘇省など18の水プロジェクトモデル省/市の水プロジェクト事務室から40名以上の代表者を組織し、準備作業実施会議を招集した。2008年5月、国家水プロジェクト管理事務室が正式に発足した。管理事務室は環境保護部・住宅都市農村建設部・科学技術部・発展改革委員会・財政部・水利部・農業部・教育部・中国科学院・工程院の10部からなる。2008年には32事業の225のテーマが国家水プロジェクトによって検討された。

 2008年、国家環境保護部は太湖流域の応急監視の法規を制定した。太湖流域の汚染防止に対し、省エネ排出削減に関した要求と太湖流域の産業構造と汚染の特徴を総合的に考慮し、国家環境保護部は、パルプや製紙、製薬、羽毛、製糖、電気めっき、合成皮革業など13の業界が特別排出制限値を率先して守ることを公布し、2008年9月1日から執行した。特別排出制限値は、特に全窒素と全りん、化学的酸素要求量などの汚染物の制御要求に重きを置いており、最も厳しい制限値は現行基準値の10分の1以下になる。太湖流域で特別排出制限値が執行される行政範囲は江蘇省・浙江省・上海市である。

 2008年、環境保護部は当年度の『国家先進汚染防止モデル技術リスト』と『国家環境保護進展奨励技術リスト』を発表した。排出削減重点技術を70以上選び出し、30の国家生態工業パークを建設することに合意した。

 2009年は“第十一次5カ年計画”の環境保護目標を実現する重要な一年であり、2009年2月には“水プロジェクト”の実施が正式に発表された。現在は、汚染排出の削減目標の達成が厳しい状況にあるが、汚染源の抑制、総量の削減、基準値を守った排出、生態環境の改善などの技術開発を進め、わが国は2009年からかなり完備した汚染排出削減環境保護科学技術システム―特に窒素酸化物の排出基準の削減と汚染防止技術政策―を一歩一歩確立している。環境基準面では、環境保護部が現行の水質基準システムを整え、環境基準の研究を強化している。鉄鋼・非鉄金属・製紙・電力などの重点業界に対しては、現行の国家汚染物排出基準を改訂し、排出抑制技術のレベルを高め、重点業種の新たな汚染物排出基準を定めている。環境基準の実施と汚染物排出基準の必要性を核として、汚染物の分析方法の基準を改定し、汚染排出削減に緊急に必要とする汚染源と排出監視技術規範、情報の伝達、モニター計器設備などの基準の制定などの作業を重点的に進めている。環境技術システムの確立に関しては、環境保護部は『国家先進汚染防止モデル技術リスト』と『国家環境保護進展奨励技術リスト』を継続して発表した。これによれば今後、汚染防止技術レベルの調査と技術評価を実施し、系統的な科学技術評価システムを確立する。また、若干の重大な省エネ排出削減技術を定め、関係企業に使用を勧め、汚染排出削減を効果的に行うための技術的サポートを提供する。消費の持続と環境に配慮した政府の購入事業措置を研究し、環境保護製品の購入を拡大し、購入リストを更新する。各種の工業パークと工業集中地区、生態モデル地区を建設する。

4. 終わりに

 “第十次5カ年計画”と“第十一次5カ年計画”の期間、国家と地方は政策・法規・工程・科学技術・教育などの方面で一連の措置をとり、水環境の悪化を抑えるため重要な役割を果たしてきた。 今後は、以下の方面での作業を継続して強化し、完備していく。

  1. 廃水管理を強化し、汚染水排出基準を高め、総排出量を効果的に削減する。
  2. 都市と町、農村地区の環境インフラを整備し、村と町の生活汚染を管理するために、生活ごみ収集処理システムを確立する。村落の生活汚水は河川や湖に直接排出せず、条件が整う村落であれば、小型の集中式汚水処理施設を建設する。
  3. 農業科学技術を推し進め、化学肥料や農薬を科学的且つ合理的に使用し、生態農業と有機農業を発展させる。家畜と漁業養殖の構造を調整し、養殖モデルを改良する。
  4. 生態の修復事業を展開する。重点湖とダム、湖とダムに流入する重点河川に生態湖畔エリアや前置ダムを設置するなど、生態修復工事を行い、適当な地区を選んで生態障壁を建造する。水質浄化に有利な植物を栽培し、水質の自浄能力を高める。流域の水源が水を十分に蓄えられるように整備し、水土の保持と自然資源保護などの活動を行い、湿地の保護と修復事業を展開する。実情に基づき、耕作地・住居・養殖池を林・湖・湿地に戻す試験事業を行う。
  5. 水質監視能力を強化し、水汚染の応急対策と汚染源の制御能力を高める。
  6. 流域水環境の容量を深く掘り下げて研究し、水汚染物総量の分配技術と管理システムを確立する。水を科学的に調達し、水門を合理的に設置するなどの措置をとり、湖水の流動性を促す。制度の改革と刷新により、流域の水質の効果的な管理を実現する。

さくらサイエンスプランウェブサイト

さくらサイエンスプランウェブサイト

 

中国関連ニュース 関連リンク

オリジナルコンテンツ

柯隆が読み解く

2014/2/18更新
「中国の歴史問題」

富坂聰が斬る!

2013/12/27更新
「中国賃金事情」

和中清の日中論壇

2014/2/3更新
「失望」に潜む米国のメッセージと日本の「積み木崩し」

田中修の中国経済分析

2014/2/7 新コーナー開設
「中央経済工作会議のポイント」

服部健治の追跡!中国動向

2014/2/27 新コーナー開設 「安倍総理の靖国神社参拝に想う(上)」

川島真の歴史と現在

気鋭の研究者が日中関係を歴史から説き起こす。幅広い視点から新しい時代の関係を探る。

科学技術トピック

New

2014/3/5更新
「赤外線カメラと簡牘資料の日中共同研究」
工藤 元男

取材リポート

New

日中関連、科学技術関連のシンポジウム・講演等を取材し、新鮮なリポートをお伝えします。

中国の法律事情

New

2014/3/7更新
「百度(バイドウ)の著作権侵害をめぐる攻防の結末」朱根全

日中交流の過去・現在・未来

日中交流のこれまでの歩みとこれから

日中の教育最前線

日中の教育現場の今をレポート

中国国家重点大学一覧

 

中国関連書籍紹介

New

2014/3/12 書評追加掲載

文化の交差点

New

2014/3/18更新
「日本における中国古代絵画」朱新林

中国実感

日本人が実感した中国をレポート

印象日本

中国が日本に滞在して感じたことをレポート

CRCC研究会

過去の講演資料、講演レポート

CRCC中国研究サロン

過去の講演資料、講演レポート

最新イベント情報

アクセス数:31043468