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銀川平原における主な水環境問題およびその原因と対策

2009年6月30日

銭 会: 長安大学水文学・水資源工学部主任

1963年5月生まれ。理学博士。1995年に西安地質学院を卒業し水文地質工学の博士学位を取得。2001年4月から2002年3月にかけて教育部から助成金を受けカナダのトロント大学環境科学部で学ぶ。o o o e e 2002.11に教授に就任。2004.3には博士課程の担当教員。現在は長安大学水文・水資源工学部で学科長。これまでに20を超える科学研究プロジェクトを担当した。現 在は国家自然科学基金プロジェクトである「地下水の混合作用に関する水文・地球化学効果の研究」を含む5つのプロジェクトを進行中。また本科課程や大学院課程における13教科を担当。著 作や教材など合わせて4冊を出版。70以上の学術論文を発表。2000年に第7回霍英東教育基金会において青年教師賞3等賞(73098)を授与。また2005年9月には「 陜西の高等教育機関における優秀青年教師」の称号を授与。

概要:

 面積7295km2の銀川平原は中国北西部に位置しており、中国有数の商品化食糧の生産地である。銀川平原の水資源は主に黄河の水を引いて灌漑することにより賄われている。同 平原の水資源に対する開発や利用が不適切であるため、水環境問題が数多く発生している。本論文では銀川平原における水文地質環境および水資源の利用状況の概要を紹介するとともに、同平原における土壌塩性化、湿 地の縮小、地下水の高塩濃度化、地下水位の円錐状低下といった水環境問題を徹底的に分析している。またリモートセンシングや実測データに基づき前述した諸問題の現状、原因、変化の傾向について分析し、土 壌塩性化や地下水の高塩濃度化の主な原因として地下水面が浅く蒸発が著しいという点を指摘している。さらに論文の最終部分では前述した水環境問題に関する対策や提案を列挙している。

 銀川平原は寧夏回族自治区の北部に位置している。黄河の中・上流沿いで南の青銅峡から北の石嘴山まで、西の賀蘭山から東のオルドス高原西側まで広がっている。南北は165km、東 西は42~60kmであり、総面積は7295km2 となる。平原地域の海抜は1100~1400m、地理的座標は東経105°00′~107°00′、北緯37°20′~39°23′となる。人 口は244万4400人で自治区総人口の45%を占める。同平原には2000年近くにわたる開拓の歴史があり、用水路、耕地、湖沼が至るところに見られる。灌漑面積は399.64万ムー( 1ムーは約6.667アール)に達しており、農業、林業、畜産業、漁業、その他の産業にとって重要な拠点となっている。同平原中部にある区都の銀川市は同自治区で最も工業や農業が発達した地域である。

 銀川平原は中間温帯に位置し乾燥した大陸性気候が特徴となっている。長い冬、熱く短い夏、少ない降水量、十分な日照量といった特色がある。年間平均気温は8~9℃、最 近の年平均降水量は約183.59mmである。降水は6~9月に集中しており12月が最も少ない。年間平均蒸発度は1662.33mmである。

 銀川平原の生態環境は浅層地下水に依存している。水資源の不適切な開発や利用により大規模な土壌塩性化が発生している。地下水の高塩濃度化や水質の悪化が深刻であり、湿地の縮小が続いている。一 部の地区では地下水の過剰な汲み上げにより地下水の円錐状低下が発生している。以上の問題は銀川平原における社会経済の発展を著しく妨げている。

1. 水文地質環境

 銀川平原は新生代の断層運動により生じた盆地に河川、湖、洪水などによる作用が加わり形成された堆積平原である。山麓の洪積台地、沖・洪積平野、湖に土砂が堆積してできた平野で構成されている。地 形は広大かつ平坦であり、南西から北東に向かい傾斜している。粗い粒子と細かい粒子が交互に堆積しており、単一層と多層構造が共存している。不圧地下水と被圧地下水が共に存在する。

 銀川平原における第4軟岩類間隙水は地域的に単一地下水域と多層構造域に分けることができる。単一地下水域は主に西部や南部の一部に分布している。その他の場所は多層構造域である。地下250 m以上の部分において多層構造域は三つの帯水岩層がある。上から順に第一帯水岩層、第二帯水岩層、第三帯水岩層である。このうち第一帯水岩層は不圧地下水、第二および第三含水岩層は被圧地下水となっている。各 帯水岩層の間には通常比較的連続した低透水層がある。

 銀川平原の地下水は主に用水路浸出、灌漑水の浸透による涵養、大気や降水による涵養、平原周辺からの地下水流入による涵養、洪水による涵養、黄河による涵養などに依存している。地 下水の排出には排水溝による排出、蒸発、人為的な汲み上げなどが含まれる。2003.7~2004.6における水収支計算結果(表1)によると、銀川平原における地下水の総涵養量は23.4138×108 m3/a、総排出量は25.9749×108 m3/aであった。

 平原内におけるほとんどの場所では地下水面が浅く概ね3 m以内となっている(図1)。地下水の表面流水量は地形、岩石特性、水の特性、用水路といった自然および人為的要素の影響を受ける。地 下水などの水位線(図2)によると、平原の周辺から中央に向けての流れは勾配が大きく流水条件が良好であることが分かる。また平原南部から黄河に向けての流れも勾配が大きく流水条件が良い。平 原中央から東北に向けての流れは勾配が著しく緩くなり、流水条件が悪い。平原北部の地下水は全体的に東北に向けて流れているが勾配は緩く流水条件が悪い。

表1 銀川平原における水収支計算結果

収支の種類

涵養量

収支の種類

排出量

(108m3) (%) (108m3) (%)
用水路や灌漑用水 19.8958 84.97 排水溝 8.0121 30.846
降水 1.6504 7.05 蒸発 11.8838 45.75
周辺の地下水 1.0006 4.27 井戸 4.873 18.76
黄河 0.46 1.96 黄河への流入 1.206 4.64
洪水 0.407 1.74      
総涵養量 23.4138 100 総排出量 25.9749 100

2. 水資源の利用状況

図1

(左)図1 銀川平原における地下水面等深度線図 (右)図2 銀川平原における地下水面等高線

 銀川平原における地表水は主に黄河から引き込まれている。ほとんどが農業用水であり工業用水はごくわずかである。灌漑農業に供される地表水は37.2167×108m3/a、工 業用に供される地表水は2.4300×108m3/aとなっている。

 2003年に銀川平原の各業種が消費した地下水は合わせて5.8382×108m3であった。このうち工業用に供された地下水は全体の35.8%に当たる2.0925×108m3、農 業に供された地下水は全体の27.1%に当たる1.5804×108m3、都市部の生活用水として供された地下水は全体の32.6%に当たる1.905×108m3、農 村において人畜が消費した地下水は全体の3.9%に当たる0.2321×108m3だった。銀川平原における地下水の汲み上げ量や関連データによると、汲み上げ量は1970年代に1.5088×108m3/a、1 980年代に3.1135×108m3/a、1990年代に4.0140×108m3/a、2000年に4.6418×108m3/a、2002年に4.6552×108m3/a、2 003年に5.8382×108m3/aと年々増加している。

 水資源の利用に関して以下のような問題が存在する。(1)利用効率が低い。特に農業用水の面で黄河からの取水方式があまり適切でなく有効利用率はわずか約0.58である。用 水路の有効利用係数は平均0.43であり、低い。農地に対する灌漑配分が高く水田への配分総量は平均1939m3/ムーである(1ムーは約6.667アール)。最 も配分が多かったのが呉忠市の2239m3/ムーである。灌漑地に対する配分総量は平均1002m3/ムーで最も多い呉忠市で1157m3/ムーだった。(2)配分バランスが悪い。銀 川平原において利用可能な水資源は主に国家が定める黄河からの取水量である。水資源に限りがあるのに農業用水への配分が大部分を占めている。結 果として水資源の乱用や工業や生態分野における水不足が深刻化しており、経済発展や生態環境の改善が制限されている。(3)利用構造が不適切。銀川平原における水の使用総量は47.3442×108m3である。こ のうち地下水の利用量は5.8382×108m3で全体の12.3%を占める。主に黄河からの取水に頼っているが、灌漑水の浸透により生じた浅層地下水の利用が進んでいない。多 くの地下水が蒸発するに任されており水資源が無駄になっている。また排水負荷の増加により地下水位が上昇し、土壌塩化問題の解決が捗らない。

3. 水環境に関する主な問題

 銀川平原における主な水環境問題は土壌塩化、湿地の縮小、地下水の高塩濃度化、局地的な地下水位の円錐状低下などである。以下に各問題に関する分析を記す。

図2

(左)図3 銀川平原における土壌塩性化の程度と分布図 (右)図4 銀川平原における土壌含塩量のエリアマップ

3.1 土壌塩性化

 図3は2004年11月にリモートセンシングに基づき導き出した銀川平原における土壌塩性化の程度や分布状況を示している。図4は2004年に実施した分析により得た土壌含塩量のエリアマップである。こ れらの図から銀川平原における土壌塩性化が主に銀北地区に分布していることが分かる。銀南地区では邵崗東部一帯および霊武東部の秦渠や東干渠付近に土壌塩性化が認められる。総面積は186万ムー( 1ムーは約6.667アール)で耕地面積の43.4%を占める。図3や図4を図1や図2と比較してみると、土壌塩性化が発生している地区の地下水位が2m以内と浅く、勾配も緩く流水条件が悪いことが分かる。

3.2 湿地の縮小

 湿地を沼、湖、河川、河岸湿地、人工湿地(用水路、貯水池、養殖池など)の5種類に分けることができる。リモートセンシングによって1987年、1997年、2 004年における各種湿地に対して分析したところ、銀川平原における湿地総面積が2004年に500.59 km2になったことが分かった。主に平原北部に分布しており、永寧以北、平羅以南に特に集中している。こ のうち河岸湿地は黄河両岸に分布している。3つの年における湿地面積の変化は表2のとおりである。表から1987年、1997年、2004年と年を追うごとに湿地面積が減少していることが分かる。こ のことは近年増加している地下水の汲み上げ量や地下水位の低下と関連している。

表2 各年における湿地面積の統計表 単位:km2
河川 河岸 養殖池 合計
1987年 197.18 154.55 290.39 17.65 22.32 682.09
1997年 115.76 120.42 230.63 25.32 21.77 513.90
2004年 109.14 249.92 61.60 29.73 50.21 500.59

3.3 地下水の高塩濃度化

 図5は銀川平原における地下水のTDSエリアマップである。図から平原全域における地下水のTDS値が西から東に向かって、また南から北に向かって増大していることが分かる。T DS値が大きいほど水質は悪くなる。水の化学成分による分類は南西から北東にかけてHCO3-→HCO3-+SO42-→SO42-+HCO3-→SO42-+Cl- → Cl-+SO42-と変化している。西 部の山麓台地や平原南部では傾斜が強く帯水層の粒子が粗いため地下水の流水条件が良い。水の化学成分による分類は重炭酸や硫酸が主体となる。地下水が北東方向へ流れるにつれ、地 下水位が上昇するため地下水の主な排出類型が水平方向の流水から垂直方向の蒸発へと変化する。水中の溶解性塩分が蓄積し水の化学成分による分類は硫酸や塩素化合物が主体となる。T DS値は概ね3g/L以上であり5g/Lを超える地区も存在する。地下水の水質が著しく塩化していることが分かる。塩化の原因には浸出作用や蒸発作用が関係している。蒸 発によって土壌に塩分が蓄積され大規模な土壌塩性化が引き起こされる。また地下水の塩分濃度も急激に上昇し、水質が悪化するため適用範囲が縮小する。

3.4 一部の地域における地下水の過度の汲み上げ

 工業や農業の発達した銀川市や石嘴山市では、深層地下水の過度な汲み上げが深刻であり、地下水位の円錐状低下が問題化している。円錐状に水位が低下している地区の面積は500 km2を超える(図6)。

 銀川市における生活・工業用水は主に第一被圧地下水を汲み上げることで賄っている。多年にわたって大量に汲み上げたため、第一被圧地下水層における地下水位の円錐状低下が発生した。低 下地区の面積は453.17km2である。地下水位の円錐状低下に関する推移状況を見てみると、1986~1990年における低下地区面積の増加率は30.205km2/a、中 心水位の低下速度は0.884m/aであった。1991~1995年における低下地区面積の増加率は10.10km2/a、中心水位の低下速度は0.7695m/aであり前の5年間より縮小した。1 996~2000年における低下地区面積の増加率は1.73km2/aであり中心水位は1996年よりも回復している。以 上のことから銀川市における地下水位の円錐状低下は比較的安定した状況となっていることが分かる。

 石嘴山市は寧夏を代表する重工業都市である。生活・工業用水のために主に山麓の単一地下水域および第一被圧地下水層から地下水を汲み上げている。汲み上げ量の継続的な増加に伴い、石 嘴山市大武口区に地下水位の円錐状低下が発生した。低下地区の面積は93.78km2である。最近は安定した状況にある。

4. 対策と提案

図3

(左)図5 銀川平原における地下水のTDSエリアマップ (右)図6 銀川平原における第一被圧地下水の水位等高線(2003.7)

(1)水資源に対する管理業務を強化するため、地表水と地下水の相互配分を見直すべきである。銀川市や石嘴山市といった水の使用量が集中している地区では井戸の配置(深度や密度)を調整する必要がある。使 用と涵養のバランスを整え地下水の汲み上げが環境や地質に悪影響を及ぼすことを防止しなければならない。土壌塩性化が深刻な地区では浅層地下水の利用や地表水と地下水の相互利用を推進し、地 下水位を一定の深度に保ち、また、地下水の無駄な蒸発を減少させることによって、土壌塩性化の拡大防止や土壌の二次塩性化が発生した地区における原状回復が見込める。地表水、湖、湿 地を保護するため適切な保護区を設立し、その周辺で地下水の汲み上げを制限し、地下水位の低下を阻止すべきである。

(2)銀川平原における最大の水使用用途は農業用水であり、農業灌漑用水が水の総使用量の80%以上を占めている。1ムー(約6.667アール)当たりの水の平均使用量は828~1070.7m3( 2000年)に達する。水1立方メートル当たりの食糧生産高はわずか0.56kg/m3である。これに対しイスラエルでは2.32kg/m3に達している。以 上のことから銀川平原における水資源の利用効率が低いことが分かる。また農業分野において節水の余地が十分にあることも理解できる。仮 に銀川平原における水の有効利用率を20%向上できるなら毎年7億6000万立方メートルの水を節約できる。

(3)農地工学の応用を進め、用水路の漏水防止を実現すべきである。近年、銀川平原における水利事業に対する投資規模は小さく、灌漑取水プロジェクトや排水プロジェクトの老朽化や不完全さが目立っている。水 を引き込む過程における漏れや流出が深刻である。用水路の浸透防止工事が進んでいないため浸透損失が大きい。また農地工学が十分に応用されていないため、水 を引き込む過程や農地における水の損失が大きくなっている。中国国内の実例によれば、農地工学の十分な応用や用水路の浸透防止工事によって約40%の節水が実現する。

(4)農地灌漑技術を改善する。政府によるずさんな管理や人々の作業習慣によって大雑把で無駄の多い灌漑方式が採用されてきた。排水量が取水量の60%に達しており、水 の浪費となっているだけでなく土壌塩性化といった生態環境の悪化も招いている。農地の平坦化や注意深い作業が求められている。また水田に供給する水の制限、小規模灌漑、フ ィルム孔灌漑なども節水のための重要な措置となる。

(5)銀川平原では第一被圧地下水の汲み上げが主流になっている。同平原における当該帯水層は局地的な円錐状低下が発生しており、大量の地下水が過剰涵養されている。銀 川地区における地下水は多少なりとも汚染の影響を受けており、水質が良いとは言えない。このため地下水の過剰涵養によって第一被圧地下水の水質が脅威にさらされている。こ れは銀川市などにおける飲用水の安全に直接関わる問題だ。同問題に関する研究は目下ほとんど行われていない。重篤な問題を未然に防ぐためにも今後重視する必要がある。ま た汚水排出に対する厳格な管理や汚染防止に加えて、汚水の浄化処理と再利用による汚水の資源化を進めるべきである。

(6)銀川平原における水や塩の移動は自然や人間活動といった要素の影響を受け、複雑に変化する。同平原における水や土に関する環境モニタリング調査を強化し、長 期的なモニタリングや研究を実施すべきである。自然や人間活動が生態環境に与える影響を確実に把握する必要がある。モニタリングは地下水の汲み上げに伴い発生する問題に速やかに対応するための基盤となる。


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