中国汚水処理技術の研究と発展
2009年6月22日
施漢昌:清華大学環境科学工程学部教授
環境シミュレーション汚染制御国家重点聯合実験室主任
1950年2月生まれ。1982年 清華大学土木環境工程学部卒業。1989-1990年 イギリス 水研究センター訪問学者、1994年 アメリカ ミシガン大学高級訪問学者、2002年と2005年 カナダ アルバータ大学訪問教授、2003年 アメリカ スタンフォード大学訪問教授。
"汚水処理高効率好気生物硫化反応器"、"エバネッセント波利用全光ファイバーバイオセンサー"、"移動式快速水質自動監測システム"などの新技術を発明した。国内で発表した論文は200篇以上、授権国家発明特許は42項目、教育部科学技術進歩奨・教育部技術発明奨・環境保護科学技術奨を獲得し、中国環境科学学会環境科学優秀科学技術者の称号を得ている。
1. 中国水環境汚染の現状
中国の水環境汚染の状況は依然として非常に厳しい。2007年の『中国環境状況公報』で発表されたデータによれば、全国七大水系(長江、黄河、松花江、遼河、海河、淮河、珠江)は全体的に中度の汚染であり、197本の河川の407個の監測断面のうち、I-III類、IV-V類、劣V類の水質断面の比率は、それぞれ49.9%、26.5%、23.6%であった。その中で、珠江と長江の水質は全体的に良好であり、松花江は軽度の汚染、黄河と淮河は中度の汚染、遼河と海河の汚染は重度であった。28ヵ所で重点監測した湖ダムのうち、II類の水質を満たしていたのは全体の7.1%、III類の水質は21.4%、IV類の水質は14.3%、V類の水質は17.9%,劣V類の水質は39.3%であった。主な汚染物は全窒素と全りんである。今後5-10年間は、水環境は依然として中国の主要な環境問題であろう。
都市化の速度は加速するが、生活汚水の処理能力は依然として明らかに不足している。2008年末には中国の大都市と中規模都市のうち、1543都市がすでに汚水処理工場の操業を始め、1873都市が汚水処理工場を建設中である。これらの汚水処理工場により大都市と中規模都市の汚水処理状況は改善されたが、これらの都市以外に全国には2万以上の小規模都市や町、370万以上の村落があり、9億人以上の人々が汚水処理設備のない場所で暮らしている。このような区域では生活汚水の排出が水環境を汚染し続けている。このため、中国における今後の生活汚水の処理技術は、以下3つの分野に主に発展するだろう。大型汚水処理工場を改良する技術、中小規模の都市と町の生活汚水処理(2万トン以下)技術、生活汚水処理の汚泥減量化技術である。
2. 汚水処理技術の研究
図1 膜生物反応器の原理
大規模汚水処理技術の研究が中国で始まったのは1980年代になってからである。水環境の汚染を抑制するため、政府は工業プロジェクトの建設を要請すると同時に、汚水処理施設を建設し、同時設計・同時施工・同時操業することを要求した。当時は、多くの科学研究機関や大学が工業廃水の処理技術の研究を行っていた。先進国の汚水処理技術を参考にすると同時に、中国の国勢に基づいて、工業廃水処理技術の研究開発を行った。これらの技術は化学沈殿・化学酸化・ろ過・抽出・イオン交換などの物理化学の処理技術と活性汚泥法・生物接触酸化法・嫌気生物の処理などの生物化学処理技術を含む。これらの技術は工業廃水の処理に応用され、工業廃水による水環境汚染を軽減した。
1990年代末になると、経済が発展し都市化の速度が加速するにつれて、都市の生活汚水の汚染負荷がすでに工業廃水の汚染負荷を上回り、都市の生活汚水の処理は政府が重視するところとなった。2000年以降、多方面で国による科学研究プロジェクトが制定され、都市の生活汚水処理技術は発展した。一連の汚水処理技術は、研究を通して、すでに実際に応用されている。これらの技術は、酸化溝技術・好気性-無酸素物処理技術(A/O)・嫌気性‐無酸素-好気性生物処理技術(A/A/O)・SBR(逐次バッチ活性汚泥法)・膜生物反応器(MBR)・生物流化床・生物暴気ろ過池などを含む。これらの技術は汚水中の有機物炭素原子を除去するだけでなく、窒素とりんも除去することができる。膜生物反応器(MBR)と生物流化反応器の研究と応用成果について、以下に簡単に紹介する。
1. 膜生物反応器
図2 膜生物反応器の工程
膜生物反応器は膜分離技術と活性汚泥法を統合して形成した汚水処理の新技術の一種である。この技術の特徴は、反応器中の生物量が多く、汚泥の負荷が低く、処理された水質がよいことである。汚水処理後に再利用する必要がある場所にはきわめてメリットがある。中国では1990年代の半ばから、膜生物反応器の研究が行い、試行錯誤のすえ、現在では多くの汚水処理工程に応用されている。膜生物反応器の研究は反応器の構造と負荷運行の研究だけではなく、膜汚染の研究も非常に重要である。長年の研究により、膜汚染を軽減する方法と膜の洗浄技術が生み出され、実際の応用が可能になった。図1と図2は膜生物反応器の原理と実際の工程を示したものである。
現在、国内で運行している膜生物反応器の汚水処理能力は1日あたりの最大汚水処理量は40000m3/dであり、1基の処理能力を100000 m3/dとする膜生物反応器の汚水処理工場が現在建設中である。
2. 生物流化反応器
図3 生物流化反応器の構造原理
生物流化反応器は生物を担体とした流化作用が高効率物質移動と快速反応に達した汚水処理の新技術の一種である。この技術の特徴は、反応器中の生物量が多く、汚泥の負荷が低く、反応時間が短く、使用場所が小さいことである。中小規模の汚水処理や狭い場所にはメリットがある。中国では1990年代の後期から、生物流化反応器の研究が始まり、数々のテストと技術の革新を経て、現在では多くの汚水処理工事に応用されている。生物流化反応器の研究は反応器の構造と内部の流体、負荷運行の研究を含む。長年の研究により、生物流化反応器は汚水中の炭素原子を除去するだけでなく、窒素とりんも取り除くことができ、幅広く応用されている。図3と図4は生物流化反応器の原理と実際の工程を示したものである。
現在、中国には生物流化反応器の汚水処理工程がすでに十数ヵ所にあるが、運行している生物流化反応器の1日あたりの最大汚水処理量は2500m3/dであり、工程全体の最大汚水処理能力は10000 m3/dである。
3. 汚水処理技術の改良と発展
1. 汚水処理技術の改良
近年、都市の汚水処理問題を解決するために、汚水処理工場が数多く建設されたが、窒素とりんを除去する要求が高まるにつれ、一部の大型都市汚水処理工場の処理技術も改良の必要が生じた。すでに設計された脱窒素除りん機能を持つ汚水処理工場は改良運行が必要となり、剰余汚泥の処理も適切に解決しなければならない。汚水工場の臭気と騒音問題、汚水の再利用およびその安全性などの問題も解決が待たれる。これらの主な問題には、以下の研究と開発が必要である。
- 都市の汚水処理工場の運行保障技術:汚水の脱炭技術は同時に脱炭、脱窒、除りん技術までに改良する、基準を満たした省エネ汚水処理工場の改良などを含む。
- 都市の汚水処理工場の剰余汚泥の減量化技術:技術工程中の汚泥減量化、回流汚泥の嫌気減量、汚泥低圧湿式酸化、汚泥乾燥技術などを含む。
- 都市の汚水処理工場の臭気と騒音の抑制技術:生物除臭、低抵抗生物ろ過充填スプレーシステム、除臭剤調和、騒音減少抑制技術などを含む。
- 中小規模の都市と町の汚水処理適応技術:発展および未発展地区の中小規模都市/町の高効率汚水処理技術と設備の特徴に基づいて廉価な汚水処理技術の開発を含む。
- 水の再利用技術:再利用目標が異なる都市の汚水処理工場に焦点を当てた2級処理水の深度処理技術、再利用水の適切な消毒および汚水再利用の安全保障技術などを含む。
2. 汚水処理技術研究の発展
図4 生物流化反応器の汚水処理
20世紀末は、生物技術・情報技術・材料技術の分野でハイテク技術を応用した基礎研究の成果が数多くあげた。これらの技術は水汚染の制御と管理中の難題に有力な解決法を提供した。これらの先進技術を用いて、水汚染制御と管理の研究開発を行えば、今後の汚水処理分野で大きな成果を生み出すだろう。行うべき研究は以下のとおりである。
- 最新生物技術を中心とした汚水処理の最先端技術:水質浄化の機能を持つ微生物を大量生産し、それを汚水処理システムに応用する技術。
- 新材料を中心とした汚水処理最先端技術:各種の膜分離技術、膜分離と生物反応器の結合技術、高効率吸着および吸着剤の調和技術、強酸化技術に用いる新種触媒の調和技術。
- 情報技術を中心とした汚水処理最先端技術:データの無線伝送・GPS・地理情報システムを集成したリアルタイムの情報提供、高速転送、処理後の多次元のフィードバック技術;地理情報システムに基づく水汚染の総合情報分析技術など。
中国では、すでに1500基以上の汚水処理工場が操業しており、目下建設中の工場は1800基以上である。2006年以来、研究者は、汚水処理工場での処理水は安定的に排出基準を満たすという前提で、運行コストをできる限り抑え、汚水処理工場の省エネ技術の研究に着手してきた。汚水処理技術発展の第一の目標は汚染水を浄化し、水環境への汚染を減少することである。第二の目標は汚染処理に使用するエネルギーと薬剤の使用量を減らし、運行コストを抑えることである。第三の目標は汚水処理の資源化と二酸化炭素排出の削減であり、汚水処理で再生した水を再利用すると同時に、炭素・窒素・りんなどの資源を回収利用し、二酸化炭素の排出を削減する。中国の研究者はこの三つの目標を掲げて研究を行っている。国際協力を求め、汚水処理技術を共同で研究開発し、水環境の汚染問題を解決することを望むものである