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20年後に生き残る水資源開発を

2009年6月5日

矢部孝(やべたかし):
東京工業大学教授、株式会社エレクトラ代表取締役

 1950年1月生まれ、1972年東京工業大学工学部卒業、1972年東京工業大学助手、1981年大阪大学講師、その後助教授を経て、1995年より東京工業大学教授、1 980年東京工業大学 工学博士(論文博士)。

 大阪大学でレーザー核融合研究に従事し、その時代に考案した計算手法CIP法は世界中に広まり、参照数1200を超えている。この業績により1999年には、英 国王立研究所設立200周年記念講演を行った。

 我々は、株式会社エレクトラを東京工業大学の大学発ベンチャー第38号として2007年1月に設立した。現在の主な事業内容は、太陽光励起レーザーの開発、レーザーによるマグネシウム還元技術の確立、太 陽光エネルギーを利用した淡水化装置の開発である。将来的にはこれらの技術が弊社の提案する再生可能エネルギーサイクル、マグネシウム社会の基幹技術として一つのサイクルを形成することになる(図1参照。参 考文献 日経サイエンス2007年11月号)。これらエレクトラで開発を行っている技術のうち、本稿では、我々が開発し実用化が間近な淡水化装置について説明する。

図1マグネシウムと太陽光励起レーザーを用いたエネルギー循環システム

図1マグネシウムと太陽光励起レーザーを用いたエネルギー循環システム

 水不足の問題は、人類にとって早急に解決しなければならない問題である。2025年には30億人分の水が不足すると報告されている。こ の30億人分の水というのは計算すると年間1.5兆トン(1日当り41億トン)となる。よってこの水不足問題の解決には、20万トン/日の淡水化プラントを20年以内という時間の制約の中で、2 万基新設する必要があるということである。また仮にこのクラスの淡水化プラントが2025年までに完成したとしても、このプラントを稼働させるためには当然エネルギーが必要となる。し かし消費電力が少ないと言われている逆浸透膜淡水化プラントでさえ60気圧の圧力で駆動する必要があるため、20万トン/日クラスのプラントを稼働させるためには、多大な電力が必要となる。3 0億人分の水不足を解消するため、2万基の逆浸透膜淡水化プラントを稼働させると使用電力は年間9兆kW時となる。これは2002年の世界電力使用量16兆kW時の56%に相当する莫大な電力量である。

 比較的低消費電力で稼働するといわれる逆浸透膜法淡水化装置でさえこのような状況なので、現存する淡水化装置で将来の水不足問題を解決するというのは現実的ではないように思われる。水 不足問題の解決のためには、建設が容易かつ低消費エネルギーで稼働可能な全く新しい淡水化装置が必要となる。

 さらには、逆浸透膜法にはいくつかの大きな欠点がある。その1つは海水中のホウ素が除去できないことである。WHOの基準では、1リットルの飲料水中のホウ素の量を0.4mg以下と定めている。こ れ以上では、人間の生殖能力に影響が出るからである。しかし、最新の逆浸透膜でさえ、まだ、1-3mg残存している。

 意外な問題もある。淡水装置の性能が良すぎると塩などが取れすぎて、この塩害をどうするかということも中東では問題となってきている。我々は、こ うした淡水装置から出てくる塩やその他の資源を有効に利用するためのプロジェクトにも取り組んでいる。その1つが、この残存物から得られるマグネシウムの有効利用である。このマグネシウムは、太 陽から直接作られた太陽光励起レーザーによって精製され、石炭の代わりとなって発電所の燃料や自動車の電池に使われる。この点については、多くの新聞や上述の日経サイエンスで紹介されているので、こ こでは省略する。

 それでも結局最も大きな問題は、淡水装置を駆動する電気であることの例をここに紹介しよう。2007年5月25日のAP通信で報じられたドバイの新型淡水装置建設計画である。日 産270万トンの淡水装置に対して、必要発電設備900万キロワットということである。これは、大型火力発電所9基分である。2050年までに、CO2排出を半減させようというが、後、20年後に50%の CO2排出増がありうる、淡水化装置を受け入れることはできないであろう。

 将来は、我々が提案するマグネシウム燃焼によって駆動される淡水化装置がその役割を担うであろうが、その前に、今ある技術で緊急な対策が必要である。この解決に有望なものは、太 陽などの自然エネルギーを利用した淡水装置であるが、現在提案されている装置は逆浸透膜と蒸発式の混合であったり、真空を利用した蒸発方式であったりと、電 気で駆動されている逆浸透膜装置の10倍以上の価格となっている。最も、逆浸透膜が20年間で使用する電力を非石油生産国の電気代で計算すると、逆浸透膜装置の10倍の価格となるので、ど ちらも同じといえば同じであるが。

 この問題解決のため、我々は太陽熱を利用する低消費電力かつ安価な淡水化装置を開発した。この淡水化装置は、逆浸透膜法のように高圧の状態を作り出す必要は無く、常圧で淡水を製造することが可能である。ま た装置を多段化し、排水による熱ロスを少なくする工夫により、低消費電力で稼働する淡水化装置となっている。

 本装置は、太陽エネルギーを利用する装置でありながら、太陽のない夜間を含め24時間運転することができ、現在、日産10トンクラスの装置の試験を行っている。今後の予定では、宮古島との協力により、2 009年8月には、日産600トンのテスト装置を稼動させる予定であり、そのテストプラントと同時にある地域での実用装置を建設してゆくための予算が確保されている。現状では、世界中に早く技術を広めるために、太 陽光を利用しているが、近い将来は、我々が開発した太陽光励起レーザーによって還元されるマグネシウムを石炭の代わりとする燃焼熱で淡水化が可能となるであろう。

 我々が開発中の淡水化装置は、低消費エネルギー、低コストの装置となるが、淡水化装置自体にはなんら難しい技術は必要としておらず、いわゆるローテクの塊である。新しいのはその発想である。東 京工業大学の矢部研究室ではこのようなこれまでにない発想に基づく技術がたくさん存在する。しかしこれらは未だ一般的にはなじみのないものがほとんどである。そこでこれらの技術を世に広めるため、ベ ンチャー企業を設立することになった。これが株式会社エレクトラを立ち上げたきっかけである

 エレクトラの究極の目標はマグネシウムによる循環型社会の構築である。しかし、この目標に対して外部資金を導入するのは不可能であると考えた。我々も何度も国のプロジェクトに応募したが、す べて落選している。その理由は、「太陽電池で水を分解し、水素を作り燃料電池を使えば、もっと簡単で有望である」ということだった。しかし、水素はエネルギー密度が低すぎるので、貯蔵には向かない。1 00万キロワットの発電所のわずか一日分でも、1km四方で高さ10mのタンクが必要である。高圧で大型のタンクが作れないからである。これは、自動車にも言える。確 かに700気圧の小さな自動車用タンクは作れるかもしれないが、それに注入するために、全国に水素タンクを作るとどれくらい大きなタンクが必要かを考えた人がいない。メ タンやメタノールを改質して水素を作るという案もあるが、そのときにCO2が発生するとは誰も言わない。

 こうした無理解な審査員を相手にいくら頑張っても意味がないということで、すべて自己資金でプロジェクトを進めることを決断した。これがエレクトラを設立した理由である。そ の資金で2007年7月に千歳に太陽光励起レーザー施設を建設し、現在、世界最高の効率を実現し、太陽光励起レーザーによってステンレス板を切断できるまでとなっている。資金さえあれば、一年以内に、必 要なレーザー性能を達成できるであろう。しかし、これだけでマグネシウム社会を構築するまでの資金を確保することは困難なので、まずは、短期間で収入を上げる道を模索したのである。そこで生まれたのが、新 型淡水化装置である。これを呼び水にして投資家の外部資金を獲得することに成功し、宮古島プロジェクトが始まろうとしている。

図2 千歳市に建設された4m2レーザー. 一基あたり,1kWのレーザー出力を目指す

図2 千歳市に建設された4m2レーザー。一基あたり1kWのレーザー出力を目指す


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