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植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環に対する影響

2009年8月24日

李博

李博(Li Bo):
復旦大学特別招聘教授、生物多様性科学研究所所長

男性、1963年生まれ。現職は復旦大学特別招聘教授、生物多様性科学研究所所長で、主に外来侵入植物生物学、個体群生態学、生態系生態学の研究に従事。1996年1月に英University of East Angliaで博士号を取得。研究分野は植物個体群生物学。1996年~2000年に日本の北海道大学と国立農業研究センターでそれぞれJSPSポスドク、STA研究員。2000年末に帰国し、復旦大学教授。2009年、JSPS Invitation Fellowとして再び北海道大学を訪れ、短期の共同研究。現在、Journal of Systematics and Evolution、Journal of Plant Ecology及び「生物多様性」の副編集長。これまでに国内外の学術刊行物に140編余りの論文を発表、9冊の著書(訳書を含む)を出版。


廖成章

廖成章(Liao Chengzhang):

男性、1972年1月生まれ。2007年に復旦大学生態学科で博士号を取得。
研究分野は生物侵入生態学。現在、国家林業局計画院に勤務し、全国の湿地モニタリング、自然保護区と都市景観の企画設計等に従事。

共著者:廖成章、駱亦其、姜麗芬

要旨:

 植物の侵入は土着生態系の完全性と生物多様性をひどく脅かすだけでなく、侵入地の生態系プロセスとその機能を潜在的に変えることになる。生態系の機能とプロセスにおける炭素・窒素循環の重要性に基づき、本論文は植物の侵入が侵入地の生態系の炭素・窒素フラックス、炭素・窒素ストック及び炭素・窒素循環のその他指標に与える影響を総合的に論じ、且つこの研究分野で探究の待たれる問題について検討を加えた。

1. 前書き

 生物侵入(biological invasion)は地球変動の中で大きなウエートを占める(Vitousek et al. 1997)。それは土着生態系の完全性と生物多様性を脅かすだけでなく、侵入地の生態系プロセスを潜在的に変えることになる(Liao et al. 2007、Liao et al. 2008b、Rout & Callaway 2009)。現在、生物侵入は最も手強い世界の三大環境問題(他の二大問題は気候変動と生息場所断片化)の1つ(Sala et al. 2000)と見なされ、一連の経済的・社会的問題を引き起こしている(Pimentel et al. 2005)。予測によれば、経済・貿易のグローバル化、農業の機械化及び人間の活動の活発化に伴い、今後数十年間は外来種の侵入ペースが著しく速まる可能性がある(Pimentel et al. 2005、Weber & Li 2008)。

 各生物種群(植物、動物、微生物)はいずれも生物侵入を引き起こす可能性があり(Pimentel et al. 2005)、外来植物の侵入はその中で大きなウエートを占めている。グローバル侵入種データベースのウェブサイト(http://www.issg.org/database/welcome/)が公表した資料によれば、強い侵入性を備えた世界の100種のうち、外来侵入植物(invasive alien plants)は37種を数え、分類した幾つかの侵入生物種数の中で最も多い。侵入植物は非常に大きな危害をもたらす。なぜなら、それは新しい生息地で爆発的に増え、土着植物に取って代わり、本来の生態系の構造と機能を変え、環境、経済、社会の各方面で深刻な結果を引き起こすからだ。多くの結果の中で、生態系プロセスに与える影響は最も深刻なものである可能性が高い。このため、生態学者は20年前から多くの関連研究を行い、特に植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環にどう影響するのかについて研究を進めてきた(Liao et al. 2008b)。

 早くも1958年に、Charles & Eltonはその専門書「The Ecology of Invasions by Animals and Plants)の中で、植物の侵入は生態系への潜在的な影響があると指摘した(Elton 1958)。しかし、生態系の炭素・窒素循環の複雑性、及び植物の侵入が生態系プロセスに与える影響の重要性に対する当時の認識不足から、その炭素・窒素循環への影響はかなり長い間、生態学界から重視されることがなく、この分野の研究は遅々として進まなかった。1987年、Vitousek & Walker(1989)はミリカ・ファヤ(Myrica faya)のハワイ火山跡地への侵入について研究した際、ミリカ・ファヤ自身の窒素固定により、その侵入が生態系における窒素の有効性を高め、火山跡地の生態系の遷移と発展を促していることを発見した。この研究は既に侵入植物の生態系プロセスへの影響に関する典型的事例であった。これ以降、侵入植物が生態系の炭素・窒素循環過程をどう変えるのかについての研究が活発に行われるようになり、大量の実験結果が得られた(Ehrenfeld 2003とLiao et al. 2008bを見ること)。本論文では植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環に及ぼす影響を簡潔に概説する。

2. 炭素・窒素循環――重要な生態系プロセス

 炭素・窒素循環は陸地生態系の物質循環とエネルギー流における最も重要な2つの基本的過程である(図1)。生態系の炭素循環を簡潔に説明すると次のようになる。即ち植物が中心となり、緑色植物の光合成により大気中のCO2を有機物として固定し、主に植物、土壌中に貯蔵すると同時に、植物と土壌生物の呼吸により、再び大気中にCO2を放出するのである。一方、生態系の窒素循環は微生物の働きにより、大気中のN2を植物が利用できる無機窒素として固定する。その一部は植物に吸収されて植物窒素ストックとなり、別の一部は微生物による無機化を通じ、最終的に土壌窒素ストックの中の安定した一部となる。さらに再び大気中に戻される部分もある。図1からわかるように、生態系の炭素循環と窒素循環は相互作用し、密接不可分な2つの過程である。

図1

図1 陸地生態系の炭素・窒素循環の概念モデル(McGuire et al. 1995の改正版)

 生態系の炭素・窒素循環の研究内容には炭素ストック(carbon stock)と窒素ストック(nitrogen stock)、炭素フラックス(carbon flux)と窒素フラックス(nitrogen flux)がある。生態系の炭素・窒素ストックは植物、土壌、微生物等の中に貯蔵される炭素・窒素量を指す。炭素・窒素フラックスは生態系の大気、植物、土壌等の各要素間における炭素・窒素の移動量を指す。炭素フラックスの特徴を表す過程には光合成、生態系の純一次生産(NPP)、リター(落葉落枝)の分解、土壌の呼吸等がある。生態系の窒素フラックスの特徴を表す過程には窒素固定、窒素の無機化、アンモニア化等がある。この他、生態系の炭素・窒素循環の特徴を表す指標として、植物の葉面積指数、リター窒素濃度等がある。

3. 植物の侵入が炭素フラックスに与える影響

 植物の光合成と生長速度への影響:光合成は陸地生態系における2つの最も基本的な過程(もう1つは分解)の1つであり(Berg & McClaugherty 2003)、植物が大気中のCO2を固定する重要な過程となっている。植物の侵入現象が人々の注目を引く大きな理由の1つは、それが侵入地で爆発的に生長するからだ。カナダノアキノキリンソウ(Solidago canadensis L.)の中国への侵入、ホテイアオイ(Eichharnia crassipes)のアジアとアフリカへの侵入、耐塩遺伝子型ヨシ(Phragmites australis)の米東海岸への侵入等がその例として挙げられる。侵入植物が爆発的に生長する主な原因は、それが強い光合成能力と高い生長速度を持つことにある。Baruch & Goldstein(1999)はハワイの森林で侵入植物と土着植物の光合成速度の違いを比較した際、侵入植物30種の平均純光合成速度(9.65 μmol CO2 m-2 s-1)が全体として土着植物34種の純光合成速度(6.91 μmol CO2 m-2 s-1)を大きく上回ることを発見した。この他、侵入植物は土着植物に比べて葉面積指数が高い。例えば、中国・長江河口の湿地での実験によれば、侵入種Spartina alterniflora Loiselの生長シーズンにおける平均葉面積指数は土着植物ヨシの約2倍であった(Jiang et al. 2009)。

 生態系の純一次生産への影響:生態系の純一次生産は植物が光合成により大気中のCO2を固定し、生態系炭素として実質的に取り込む量をいう。Wilsey & Polley(2006)は米テキサス州で侵入C4草本3種、土着C4草本4種、土着非イネ科C3草本3種の各地上部分の純一次生産に関する2年間の実験研究を行った。その結果、全体として見ると、侵入植物の純一次生産はいずれも土着植物を上回っていた。Kelly & Hawes(2005)がニュージーランドのWanaka海岸帯湿地に生えているLagarosiphon majorとElodea canadensisの2種の侵入植物を研究したところ、侵入植物の純一次生産は土着植物の約10倍であった。多くの研究が示しているように、植物の侵入はそこの生態系の地上部分の純一次生産を変えることになる。しかし、地下部分の純一次生産に影響を与えるかどうかについてはあまり研究されていない。

 リターの分解過程への影響:生態系プロセスの中でリターの分解は植物と土壌の炭素・窒素循環をつなぐ重要な絆となる(図1)。先人は植物の侵入がリターの分解過程に影響を与えることについて多くの研究を行った。Vitousek & Walker(1989)はミリカ・ファヤのハワイの森林への侵入について研究した際、その落葉リターの地表での分解速度が土着植物のテンニンカ(Metrosideros polymorpha)より高いことを発見した。Witkowski(1991)はオーストラリアから南アフリカ海岸帯の湿地に移入したAcacia saligna、A. cyclopsという2種の侵入低木と土着植物について地表リター分解の比較研究を行った。その結果、Acacia salignaのリター分解速度は土着植物のLeucospermum parileより高く、一方、A. cyclopsは土着植物のPterocelastrus tricuspidatusより低かった。Windham & Ehrenfeld(2003)は米ニュージャージー州の海岸帯のヨシがSpartina patensの塩性湿地に侵入したことについて研究した際、ヨシの地表でのリター分解速度がSpartina patensより低いことを発見した。先人の多くの研究がはっきり示すように、外来の木本植物であれ草本植物であれ、その侵入はいずれも土着生態系の地表でのリター分解速度を変えることになる。

 土壌呼吸への影響:土壌呼吸は根系、微生物の呼吸の総称であり、生態系における炭素喪失の重要な経路となる。Smith & Johnson(2004)は木本植物の北米草原生態系への侵入について研究した際、侵入木本植物と土着草本植物の土壌呼吸速度を測定した。その結果がはっきり示すように、侵入木本植物の下にある土壌の呼吸速度は草地土壌よりも著しく低く、これは外来木本植物の侵入がそこの生態系土壌の炭素喪失を減らしたことを意味している。彼らはその原因を説明した際、侵入木本植物が鬱蒼たる林冠を作り上げて、林内の土壌温度を下げ、土壌呼吸速度の低下がもたらされたとの考えを示した。McCarron et al.(2003)はカンザス州の草原に侵入した低木種について1年にわたる研究を行い、Smith & Johnson(2004)とほぼ同じ結論を得た。また、土壌の呼吸速度が低下した原因についての説明もSmith & Johnson(2004)に近いものであった。しかし、草本植物の草地生態系への侵入又は森林生態系への侵入について言うなら、外来草本植物の侵入がそこの生態系の土壌呼吸速度に影響するのか否かに関する研究はまだ報道されていない。

4. 植物の侵入が窒素フラックスに与える影響

 生態系の窒素フラックスへの影響:植物の侵入が生態系の炭素フラックスに与える影響は窒素フラックスへの影響を伴っている可能性がある。なぜなら、生態系の炭素・窒素循環の間には密接な関係が存在するからだ。生態系の純一次生産に対応する窒素フラックスの過程は主に植物の窒素吸収とリター窒素の固定化(litter nitrogen immobilization)、微生物の窒素固定等である。Windham & Ehrenfeld(2003)はヨシのSpartina patens湿地への侵入について研究した際、ヨシ本体の窒素吸収(15.3 g N m-2 year-1)とリター窒素の固定化(12.0 g N m-2 year-1)がそれぞれSpartina patensの本体(9.5 g N m-2 year-1)とリター(2.0 g N m-2 year-1)より高いことを発見した。その主な原因はヨシの純一次生産とリター生産量がSpartina patensより多いことにある。Vitousek & Walker(1989)はハワイの森林へのミリカ・ファヤ侵入について研究した際、ミリカ・ファヤ林の下にある土壌の微生物の窒素固定能力が土着の森林土壌より著しく高いことを発見した。これはミリカ・ファヤが菌根窒素固定植物に属するからである。

 リター窒素の無機化への影響:リター窒素の無機化はリターの分解を伴いながら同時に進行する。Allison & Vitousek(2004)はハワイの山地で森林中の侵入植物6種と土着植物5種の落葉リターの地表分解速度を比較研究した。その結果、侵入植物は落葉リターの窒素無機化速度が全体として土着植物より高く、落葉リターの養分が分解過程で土壌中により多く放出されていることを発見した。Ashton et al.(2005)は4組の侵入植物と土着植物の落葉リターの分解速度を比較研究した際、うち3組の侵入植物は落葉リターの窒素含有量低下が土着植物より速く、そのリター窒素が土壌中により多く放出されていることを発見した。侵入植物のリターは窒素の無機化速度が速く、これはリターの窒素濃度の高さに関係している可能性がある(Liao et al. 2007、2008b)。Allison & Vitousek(2004)の研究によれば、大多数の侵入植物は葉の窒素濃度が高いだけでなく、落葉リターの窒素濃度も高い。

 土壌の窒素循環過程への影響:土壌の窒素循環は主に土壌窒素の純無機化、アンモニア化、硝化作用等の幾つかの過程を含む。Hibbard et al.(2001)は北米の大草原に侵入した低木林、森林、萌芽林の樹種について土壌窒素の純無機化実験を1年間行った。その研究結果が示しているように、低木林、高木林、萌芽林の土壌窒素の純無機化速度はいずれも土着の草地土壌の3~5倍となる。Ehrenfeld et al.(2001)は米ウォーシングトン森林の2つの地点で侵入植物と土着植物を対象に16カ月にわたる土壌の純アンモニア化・硝化実験を行った。その結果、侵入木本植物のBerberis thunbergii林と侵入草本植物のMicrostegium vimimeum林は土壌の純アンモニア化速度が2地点でいずれもマイナス値を示した。一方、土着植物林の下にある土壌の純アンモニア化速度は1地点でプラス値、もう1つの地点でマイナス値を示した。また、侵入植物林の下にある土壌の純硝化速度は2つの地点でいずれも土着植物を上回った。しかし、植物の侵入が土壌の脱窒素作用等のその他窒素循環過程に影響するのか否かに関する研究はまだ少ない。

5. 植物の侵入が炭素ストックに与える影響

 植物炭素ストックへの影響:土着植物に比べ、侵入植物は急速に生長し、個体が大きく、個体群密度が高い等の特徴を示すことが多く、その生物量は土着植物を上回るケースがほとんどである。Vitousek & Walker(1989)の研究によれば、侵入植物ミリカ・ファヤの茎と根の生物量は土着植物テンニンカより高い。Spartina patens塩性湿地へのヨシの侵入に関するWindham(2001)の研究が示すように、ヨシの地上と地下の生物量はそれぞれSpartina patensの2倍以上となる。しかし、これとは一致しない研究結果もある。例えば、Ehrenfeld et al.(2001)のウォーシングトン森林での研究によれば、侵入木本植物Berberis thunbergiiの地上生物量は土着木本植物Vaccinium pallidumより高いが、侵入草本植物Microstegium vimimeumの地上生物量はVaccinium pallidumより低かった。この研究からは同時に又、侵入植物2種の地下支根生物量がいずれも土着植物より低いことが発見された。他にも逆の研究結果が報道されている。例えば、Christian & Wilson(1999)の研究によれば、カナダの大草原に侵入したクレステッド・ホイートグラス(Agropyron cristatum)の地上と地下の生物量はそれぞれ土着植物より低かったという。先人のこれらの研究結果はEhrenfeld(2003)が総合分析から得た結論と一致している。Ehrenfeld(2003)はその分析の中で、植物の侵入に関する20の事例のうち、侵入植物の生物量が土着植物より著しく高かったのは16例あり、土着植物の生物量より低い事例は4例しかないことを発見した。従って、植物の侵入が生態系の植物炭素ストックに与える影響は全体として見るなら、増大する傾向にある。

 リター炭素ストックへの影響:リターストックの大きさは分解速度の影響を受ける。しかし、植物の侵入は純一次生産とバイオマス生産量に影響を与える一方、リター炭素ストックの大きさにも同様に影響しているようだ。Witkowski(1991)の研究によれば、侵入種の低木Acacia salignaとA. cyclopsがはびこる湿地において、この2種の侵入植物のリター量はいずれも土着植物より150~200%高い。Angeloni et al.(2006)はガマ属植物(Typha×glauca)のCheboygan湿地への侵入について研究した際、侵入植物のリター量が土着植物の10倍以上になることを発見した。しかし、Ehrenfeld(2003)は植物の侵入がリター量に与える影響について整理した際、植物の侵入に関する13の事例のうち、侵入植物のリター量が土着植物より著しく高かったのは6例しかなく、5例は土着植物より著しく低いことを発見した。残りの2例の研究では侵入植物と土着植物の間に明らかな差異が見られなかったという。

 土壌炭素ストックへの影響:現在、植物の侵入が土壌炭素ストックに与える影響については比較的多くのデータが集まっている。例えば、Hibbard et al.(2001)は低木林、森林、萌芽林の草地生態系への侵入について研究した際、低木林、森林、萌芽林の土壌炭素ストックが草地より著しく高いことを発見した。Jackson et al.(2002)は低木種、高木種の草地への侵入を緯度別に研究した際、低木林、高木林の下にある深さ0~3mの土壌炭素ストックが全体として草地より低く、侵入木本植物が生態系の土壌炭素ストックを低下させていることを発見した。Windham & Ehrenfeld(2003)は塩性湿地への植物の侵入を研究した際、侵入植物ヨシの土壌炭素ストックが土着植物Spartina patensより低いことを発見した。しかし、Angeloni et al.(2006)はガマ属植物の湿地への侵入に関する研究の中で、侵入を受けた湿地の土壌有機質含有量が侵入されていない湿地に比べ4倍近く高くなることを発見した。

6. 植物の侵入が窒素ストックに与える影響

 植物窒素ストックへの影響:先人は侵入植物の窒素濃度について大量の研究を行った。その中の大多数の結果は、侵入植物の窒素濃度が土着植物より高いことをはっきり示している(Witkowski 1991、Allison & Vitousek 2004、Ashton et al. 2005)。植物の生産量と窒素濃度を総合して考えるなら、侵入植物の窒素ストックが往々にして土着植物より高いことを発見するだろう。例えば、Windham & Ehrenfeld(2003)は侵入植物ヨシの地上と地下の植物窒素ストックがそれぞれ土着植物Spartina patensより高いことを発見した。低木種の草地への侵入に関するLett et al.(2004)の研究によれば、低木林の地上部分の窒素ストックは草地の地上部分に比べ9倍近く高くなる。しかし、逆の研究結果も報道されている。例えば、Christian & Wilson(1999)の研究では、クレステッド・ホイートグラスの地上部分と地下部分の窒素ストックがそれぞれ土着植物より著しく低かったという。

 土壌窒素ストックへの影響:土壌窒素ストックに対する植物の影響は比較的複雑である。なぜなら、土壌窒素ストックの変化は植物だけでなく、土壌微生物にも関係があるからだ。窒素固定能力を持つ侵入植物は土壌の窒素ストックを増やすことができる。例えば、その能力を持つミリカ・ファヤがハワイの火山跡地に侵入した際、土壌窒素ストックが増えた(Vitousek & Walker 1989)。マメ科植物のAcacia salignaとA. cyclopsが南アフリカの海岸帯湿地に侵入した際も土壌の窒素ストックが増えている(Witkowski 1991)。しかし、土壌窒素ストックの増大は非窒素固定植物の侵入を招く可能性もある。例えば、Hibbard et al.(2001)はその研究で、低木林、森林、萌芽林が侵入した地域の土壌窒素ストックは侵入を受けていない地域より明らかに高くなることを発見した。一方、侵入植物が土壌窒素ストックを減らしたとの研究結果も報道されている。例えば、Windham & Ehrenfeld(2003)の塩性湿地での研究によれば、侵入植物ヨシの土壌窒素ストックは土着植物Spartina patensより低かったという。

7. 解決の待たれる問題

 以上述べた点を総合すれば、先人は植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環過程に与える影響について研究した際、侵入植物の生活型には草本、低木、高木があり、侵入地の生態系のタイプは湿地、草地、森林があり、研究する炭素・窒素循環には植物と土壌の炭素・窒素ストック、炭素・窒素フラックス及びその他の関連指標が含まれるとした。また、生態系が侵入を受ける期間は数年(Cheng et al. 2008)から百年以上(Christian & Wilson 1999)と幅がある。これらの研究を通じ、2種類の異なる見解が示された。1つは植物の侵入が生態系の炭素・窒素ストックを減らし、その炭素・窒素フラックスを低下させるとの考え方である。もう1つは植物の侵入が生態系の炭素・窒素ストックを増やし、炭素・窒素フラックスを加速させるというもの。現在、植物の侵入による生態系の炭素・窒素循環への影響という分野の研究については、一層の探究が待たれる多くの問題がなお存在している。ここにその中の一部の問題点を整理しておこう。

 第1に、植物の侵入が生態系の炭素ストックに与える影響についての論争は主に、侵入を受けた生態系と土着生態系の間における炭素蓄積のメカニズムを先人が深く理解していなかったことに端を発している。先人の多くの研究では生態系の炭素蓄積を決定する植物の生理的、生態的特徴が考慮されていなかった。このため、植物の侵入による生態系の炭素ストックへの影響について言うなら、侵入植物と土着植物の生理的、生態的特徴面での違いにより、純一次生産量とリター分解速度の違いが生じ、侵入地生態系の炭素ストックの変化を招いたのかどうかという問題は、なお一層の検討の余地がある。

 第2に、植物の侵入がリターの分解過程に与える影響の研究では、多くの実験が地表でしか行われておらず、空中と地下のリター分解過程に注目したものは少ない。自然の生態系において、大多数の維管束植物の地上部分は生長シーズン中に全てが動物に捕食されることはなく、老化又は枯死した後も、直ちに全てが地表に倒れる訳ではない。例えばカナダノアキノキリンソウ、ヨシ等がそうである。同時に、大多数の植物は純一次生産のかなりの部分を地下に配分している(Roman & Daiber 1984等)。従って、地下の根系リター量もかなり高くなる。このため、地表のリター分解だけで、植物の侵入がリター分解の全過程に影響するのか否かを全面的に示すことは難しい。

 第3に、植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環に与える影響に関し、全体の方向と幅において定量評価を行ったものが非常に少ない。先人の多くの実験は生態系の炭素・窒素循環の一部の過程に焦点を集めており、生態系の炭素・窒素循環過程が相互作用、密接不可分の特徴を持つことを軽視した(Luo et al. 2006)。従って、実験の結論から、植物の侵入と生態系の炭素・窒素循環の間にフィードバック的な相互のつながりが存在しているのか否かを知ることは難しい。このため、先人の実験研究結果を収集し、Meta-analysis分析法で全体の結果を数量化する必要がある。

 第4に、侵入植物はどのようにして微生物の働きにより、生態系の炭素・窒素循環過程を変えるのかがまだ明らかになっていない。侵入植物は新たな侵入地に到達し、構成種となった後、その土地の微生物との相利共生関係をどう築くのであろうか。また、自然の生態系において、安定した生態系の窒素循環過程は長い年月(幾千幾万年)を経て確立されたものである(Vitousek 2004)。このため、侵入植物はどのようにしてその土地の土壌微生物と関係を築き、このような本来安定した窒素循環過程を壊すのであろうか。目下の所、生態系における侵入植物、微生物と炭素・窒素循環の相互のつながりを明らかにしようとした研究はまだ非常に少ない。

 第5に、植物の侵入が生態系の炭素・窒素循環にどう影響するのかについての理論研究が不足している。先人は侵入植物の炭素・窒素循環への影響に関する大量の実験データを既に集め、その影響についてある程度の認識を持っているが、それを効果的に予測することはまだできない。また、生態系の炭素・窒素循環パラメータにおいて、先人が集めた実験データは分布が不均一なものとなっている。例えば、植物の侵入が地上の植物炭素ストックに与える影響についてのデータは多いが、地下生態系の純一次生産量への影響についてのデータは少ない。このため、どのようにして既存の実験データを利用し、モデルを用い、実験方法では研究するのが難しいその他の炭素・窒素循環過程を予測するのかは、今後研究を進める価値がある。

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