第36号:資源循環利用技術
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都市廃水・廃棄物からの資源・エネルギー回収システム

2009年9月11日

津野洋

津野 洋(つの ひろし):京都大学大学院工学研究科 教授

1947年4月生まれ。1978年工学博士。1973年 京都大学助手。1975年国立公害研究所・環境庁。1983年京都大学助教授。1997年京都大学教授。
主な研究テーマは、水質汚濁機構の解明と下水・廃棄物処理技術の開発。日本下水道協会有功賞、月刊水賞、日本オゾン協会論文賞、日本水環境学会学術賞などを受賞。


日髙平

日髙 平(ひだか たいら):京都大学大学院工学研究科 助教

1974年9月生まれ。2002年 京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻修了、博士(工学)。2002年 京都大学 助手。2007年 京都大学 助教
主な研究テーマは、下水・廃棄物処理技術の開発。土木学会論文奨励賞、下水道協会誌奨励賞論文賞などを受賞。

1. はじめに

 資源や環境資源を我々の時代に消費し尽くすのではなく、子々孫々が使用しうるようにと持続的発展の理念が提示されている。また、一方で、石油、石炭や天然ガスなどの化石燃料の使用による、大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴う地球規模の温暖化が懸念され、温度変化、異常気象、海面上昇などの問題が議論されている。この温暖化については、平成17年に「京都議定書」が発効され、我が国も率先して対応しなければならない。持続的発展と地球温暖化問題は、別の局面で論じられていることが多いが、この根底に流れているのは共通であり、資源の循環利用である。また、我が国は、国産の化石燃料資源をほとんど有しておらず原子力を除いたエネルギー自給率は4%程度と非常に低い状況である。さらにその50%を輸入される石油に頼っており、それも9割近くを中東に依存している。原油価格の高騰や不安定化がいつも懸念されており、エネルギーの自給率の向上が求められている。我が国では2度の石油ショックを受けて省エネルギー機器の開発が進んできた。個々の機器の省エネギー化は今後も重要で開発されなければならない。しかしながら、より効率化のためには、創エネルギーも含めて社会システム的に考えることも重要である。都市の根幹施設としての下水道は、分散資源の収集システムとしても働き、都市廃水・廃棄物からの資源・エネルギー回収システムの核となりうるものである。

 今までの社会システムは利便性や経済性の追求の価値判断を基に構築されている。この価値判断の下では、バイオマス・ニッポン総合戦略で対象とされている廃棄物系バイオマスや未利用バイオマスは使い物にならず処理しなければならないとされてきた物であり、これを二酸化炭素発生量の削減という新たな価値の目的達成のために利活用することは、それのみが目的であれば、容易には進展しないと考えられる。構想される社会システムは、国民にとって、より利便性を感じ、福祉に富み、新たな希望を膨らますものでなければならない。そうであれば、現在よりも高規格の社会システムが構築され、経済の活性化、国民の幸福感の増進、そして持続的発展が期待される社会の構築に寄与することとなる。下水道の分野においても、地域の健全な水環境を保全し、健全な水循環の保全・創造に寄与し、福祉に富み、かつ資源・エネルギーの回収・循環型である高規格下水道が模索されるべき時代となっている。すなわち、高度処理下水道から高規格下水道への時代である。この目標に向けて、一元化下水道の企画を目指したシステムの検討を行った。

2. 一元化下水道研究の概要

 この研究では、都市で発生する廃水や廃棄物を資源、あるいは資源材料として取り扱い、都市や地域内で資源を循環利用することをコンセプトに、下水道共用区域の中で可能な地域を限り各家庭などからの生ごみを、ディスポーザを用いて下水道に取り込み、下水道システムでのポンプ場などの拠点で浮遊性固形物質を回収し有機物の効率的高温メタン発酵などによりエネルギーを回収し、発電し、その電気や熱の利用を図るとともに、下水から地域の水循環を支える用水を創出するという、都市廃水と廃棄物の一元化システムの確立を目指して、その要素技術の開発を行っている。また、このシステムでは、余剰汚泥減量化・燐資源回収型下水処理技術を開発することにより、終末処理場では、初沈汚泥はエネルギー創出に用い、余剰汚泥生成量の減量と燐の回収も目的としている(図1参照)。

図1 資源回収型の都市廃水・廃棄物処理システムと要素技術

図1 資源回収型の都市廃水・廃棄物処理システムと要素技術

そして、このシステムを支える要素技術は、ディスポーザ粉砕生ごみと下水中浮遊固形物質の下水道管からの回収技術、回収浮遊固形物質および高温高負荷メタン発酵とエネルギー回収技術、効率的・省エネルギー型高度処理技術、ならびに終末処理場での汚泥発生抑制・燐回収型処理技術である。

 このプロジェクトの実施により、生ごみの運搬に伴うエネルギーの削減、枯渇が懸念される燐の肥料としての回収、居住空間からの生ごみの消滅による衛生の向上と福祉の増進、紙などの資源回収率の向上、電気・熱・水資源の回収、地域の水循環の健全化、汚泥発生量の低減による省エネルギー化と処分地問題の解決、新たな産業の創出などの効果が見込まれ、もって二酸化炭素発生量の削減、資源循環型社会の構築および地域環境の向上に大きく貢献するものと考えられる。

3. 要素技術開発

(1) ディスポーザ粉砕生ごみと下水道からの浮遊固形物質回収技術

 ディスポーザ処理液からの回収技術として、沈殿、ろ過、メッシュ分離および浮上分離を試験し、ろ過が最も良好に適用可能であり、回収されたSS濃度は10,000~20,000 mg/Lであることを示し、それらを80,000mg/Lまで簡単に濃縮する方法を開発した(図2参照)。

図2 ろ過実験装置と濃縮・脱水実験結果

図2 ろ過実験装置と濃縮・脱水実験結果

 また、ディスポーザの導入により、下水中の溶解性の有機物は増加するが溶解性の窒素や燐はほとんど上昇せず、生物学的栄養塩除去には好影響であることやディスポーザ破砕液を含む下水汚泥はメタン発酵性がよいことも明らかにした。

(2) 回収浮遊固形物質の高温高負荷メタン発酵とエネルギー回収技術

 回収生ごみの高温・高負荷メタン発酵技術の開発を試み、汚泥を返送させる条件で安定化させることができ、CODcrベースで流入有機物の80%以上をメタンに変換しうる効率的な有機物負荷率として20 kgCODcr/(m3・d)が適切であることを明らかにした。そして生ごみ1 kgCODcr当たり280 Lのメタンガス(乾燥生ごみ1 kg当たり435 Lのメタンガス)が生成されることを明らかにした(図3参照)。また下水生汚泥と生ごみのメタン発酵も良好に行えることを示した。

図3 メタンガスへの回収率とメタンガス容積生成速度(生ごみ)

図3 メタンガスへの回収率とメタンガス容積生成速度(生ごみ)

 より安定的で効率的な処理技術として、都市内の廃熱などを活用することも意図して、高温処理よりも高い温度での超高温処理の検討を行っている。酸発酵槽におけるCODcr、炭水化物、およびタンパク質の可溶化率を比較すると、70℃と55℃の酸発酵槽で大きな違いがあることが分かる(図4参照)。

図4 超高温酸発酵槽の可溶化率(生ごみを主体とした基質)

図4 超高温酸発酵槽の可溶化率(生ごみを主体とした基質)

 70℃においてHRTを6.4日から2.4日に変化させた場合は可溶化率は大きく変化したのに対して、55℃の場合はHRTを6日から2.3日に変化させても大きく変化しなかった。CODcr可溶化率は、70℃においては22~46%、55℃においては21~29%が得られた。同様に、炭水化物およびタンパク質の可溶化率は、70℃でそれぞれ43~69%および34~44%、55℃でそれぞれ30~36%および17~21%であった。これらより、70℃の場合、55℃の場合より、いずれの可溶化率も高く、HRTは3日程度以上とするのがよいことが示された。温度を55~80℃で運転したメタン発酵槽でのCODcr基準メタン転換率、メタン濃度およびVS除去率を比較すると、55℃で運転した高温メタン発酵槽は安定した処理成績を示したのに対して、65℃から80℃の温度で運転した超高温メタン発酵槽の場合はメタン転換率およびメタン濃度が減少する傾向が見られた(図5参照)。65℃でpHを調節した場合、メタン転換率は62.5%、70℃では14.5%であったのに対して、温度を73℃に上げると、メタンガスは生産されなかった。これらの結果より、超高温酸発酵-高温メタン発酵を組み合わせた技術の開発を行っている。

図5 超高温メタン発酵の検討(生ごみ)

図5 超高温メタン発酵の検討(生ごみ)

 メタン発酵ガスを用いた発電では、マイクロタービン発電機(発電容量28kWと排熱回収装置(出力56kW)を一体化したもの)を用いて、生ごみメタン発酵ガスと都市ガスの混焼実証実験を行い、その適用性と必要技術を検討し、発電効率は任意の混合ガス比率で、流量制御弁(SPV)の開度を調節することで、タービンの運転停止をせずに安定して運転可能であることを実証した(図6参照)。また、下水汚泥の消化ガスでの連続運転実証試験により、定格出力で安定して連続運転が可能であることが確認され、シロキサンによる影響部位も確定された。現場での発電により熱を有効に利用できれば、エネルギー利用効率は70%にもなり、二酸化炭素発生の削減に貢献できる。

図6 マイクロタービン発電システムとバイオガス・都市ガス混焼実験結果

図6 マイクロタービン発電システムとバイオガス・都市ガス混焼実験結果

(3) 下水道管の途中の拠点で高度処理水を得るための効率的・省エネルギー型高度処理技術

 自動制御を有し自動運転可能な前凝集・生物ろ床タイプの物理生物化学的処理プロセスを開発した(図7参照)。

図7 高度処理実験装置

図7 高度処理実験装置

 ろ床部での全滞留流時間は3時間程度でBODは5 mg/L程度、全窒素は2 mg/L以下(図8参照)、SSは3 mg/L以下、そして燐は0.2 mg/L以下、透視度は100度以上と、安定して処理しうることを実証した。

図8 窒素の処理特性

図8 窒素の処理特性

 また硝化液を前凝集沈殿池の下部へ循環させることで、凝集生汚泥中の有機物を脱窒の水素供与体として活用することを試みた。その結果、硝化液を脱窒ろ床へ循環させるフローと同程度の処理時間で、同様の処理水質が得られることが示された。沈殿池内では2~5 mg/L程度のDO消費、および1~3 mgN/L程度の脱窒が進行していた。処理水量あたりの逆洗汚泥量および逆洗排水量の処理水量に対する割合も、同程度であった。流入S-CODcr/S-N比が5 mg/mgNの場合、処理水量1 m3あたり必要なメタノール量は20 mlであり、9 ml (31%)削減可能である。この装置の運転に必要なエネルギーは上述のメタン発酵の技術と組み合わせるとかなりまかなえることも明らかにされた。

(4) 終末処理場での汚泥発生抑制・燐回収型処理技術

 燐の濃縮と溶出という生物学的燐除去生物の特性と汚泥の可溶化・基質化というオゾン処理の特性を組み合わせ、燐を結晶の形で回収する技術の開発を行ってきた(図9参照)。これは、生汚泥はメタン発酵しやすいが、余剰汚泥は比較的しにくいことによる。汚泥の可溶化率は30%が適切で、そのときのオゾン消費量は30mgO3/gSSであり、汚泥発生量を90%程度削減でき、70%程度の燐を回収でき、さらにエネルギー消費量を10%程度削減しうることを明らかにした。

図9 燐回収型処理技術

図9 燐回収型処理技術

(5) システム全体でのエネルギー評価

 得られた各要素技術の研究成果を組み合わせた、一元化下水道システムについて、エネルギー、燐資源や地球温暖化の観点からのシステムフローとそれによる効率の試算結果を図10に示す。都市廃水・廃棄物からの資源・エネルギー回収の観点で、大きな効果が期待される。

図10 得られた結果を基にした1つのシステムフローとそれによる効率

図10 得られた結果を基にした1つのシステムフローとそれによる効率(1日あたり)

4. おわりに

 本研究成果が、実際の社会システムに使われ、高規格下水道の促進と福祉の向上に、また省エネルギーで資源循環型社会の構築に寄与できれば幸いである。またそのようになる努力を続ける所存である。これは、我が国の科学技術の発展に寄与し、世界のこの分野でのトップランナーとなり、さらには税金収入の増加にもつながる。将来の安定的な二酸化炭素排出量の削減施策にも重要である。


謝辞

 これらの研究成果は、科学技術振興機構の戦略的基礎研究推進事業(CREST)「資源回収型の都市廃水・廃棄物システム技術の開発」、ならびに(財)鉄鋼業環境保全技術開発基金、(財)関西エネルギー・リサイクル科学研究振興財団、および(財)クリタ水・環境科学振興財団からの助成で行ったものを含んでおり、関連各位に謝意を表します。