第37号:資源探査技術
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中国の海底資源調査・研究の進展

2009年10月22日

初鳳友

初鳳友(Chu Fengyou):
国家海洋局海底科学重点実験室主任、首席研究員

1964年1月生まれ。1992年、中国地質大学(北京)鉱物学・地球化学の理学博士。主な研究分野は海底資源と鉱床成因論。責任者として2001~2006年の中国海底資源調査・研究活動を手配・実施。現在は「大規模な海底資源の鉱床生成メカニズム」等に関する研究を重点的に推進。

1 前書き

 海底には豊かな鉱物資源が眠っており、これは人類の将来の生存・発展にとって必要な資源の宝庫である。国の管轄海域外にある国際海底区域は面積約2.5億km2で、地球表面積の約49%を占める。「国連海洋法条約」の規定によれば、この区域及びここに埋蔵されている資源は人類の共同財産であり、国際海底管理局が人類全体を代表して管理と調整を行う。中国は1983年から多金属団塊(ノジュール)、コバルトリッチクラスト、多金属硫化物等の国際海底資源の調査研究活動を計画的に手配・実施しており、人類が共同で海底資源を開発利用するのに大きく寄与した。

2 中国の海底資源調査・研究の歩み

 中国は1976年から他の海洋調査プロジェクトと結び付け、南太平洋中部で大洋多金属団塊の試験的な調査・研究活動を進め、水深4,214~5,443mの海底でその試料を採取した。80年代に入ると、国家海洋局と旧地質鉱産部(現在の中国地質調査局)の管轄下にある事業所が中部太平洋の東部で多金属団塊の大規模な調査と研究を行うようになり、その調査区域は200万km2に達した。1991年、国家海洋局、地質鉱産部(当時)等の7省庁は「中国大洋鉱産資源研究開発協会」(China Ocean Mineral Resources R&D Association、中国大洋協会と略)を共同で設立した。中国大洋協会は中国の国際海底資源調査・研究活動を調整・手配するとともに、「国連海底管理局」に鉱区の登録申請を行うことに責任を負っている。この時、「大洋多金属団塊資源研究開発第1期(1991~2015年)発展計画」が策定された。

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図1 太平洋コバルトリッチクラスト資源研究区

 前期の9回の大規模な航海調査の結果に基づき、大洋協会は専門家に依頼して30万km2の区域を申請区(138°~157°W、7°~13°N)として選び、「国連海洋法条約」の要求に従い、それを資源量が等しい2つの部分(各15万km2)に分けた。半分は申請者が留保し、もう半分が国連海底準備委員会に提出された。1990年12月10日~14日、国連海底準備委員会の技術専門家チームは会議を開き、中国の鉱区申請を審査し、国家海洋局海底科学重点実験室の金翔竜(Jin Xianglong)院士(アカデミー会員)らの専門家が申請書の技術関連問題について説明を行った。1991年3月、中国は15万km2の多金属団塊開発区(141°~155°W、8°~12°N)の申請を認められ、フランス、日本、ロシア、インドに続く5番目の多金属団塊資源「先行投資者」となった。1991~2000年の度重なる航海による調査結果を踏まえ、2001年5月、中国大洋協会は7.5万km2の鉱区を最終的に獲得し、国際海底管理局と「探査契約」を交わした。中国大洋協会は国際海底開発活動の先行投資者から国際海底資源探査の請負者となったのである。

 国内外の深海環境プロジェクトの成果と経験・教訓を総括し、参考にした上で、中国の科学者は国際海底区域に関する「基線及びその自然的変化(Nature Variability of Baseline,NaVaBa)計画」を打ち出した。この計画は2001年に国際海底管理局の4大国際協力プロジェクトの1つとなることが決まった。現在、多金属団塊探査区の調査活動は環境評価を中心に進められている。

図2 

図2 2008年の「大洋一号」による西南インド洋中央海嶺熱水硫化物調査区

 1998年、大洋協会は「コバルトリッチクラスト資源調査実施可能性論証会」を開き、同年、西北太平洋でこの資源の試験的な調査を行った。中国は2001年からコバルトリッチクラスト資源の大規模調査をスタートさせた。調査区域は中部太平洋海山群、マゼラン海山群、マーカス海嶺等(図1)を含んでおり、詳細調査の面積は30万km2余りに及ぶ。2001年~2008年、国連海底  

 管理局の「深海における多金属硫化物とコバルトリッチクラストの探鉱・探査活動に関する規則」を審議する会議で、中国は実際の調査結果に基づき、規則・プロセス、申請面積、ブロック面積及び開発方式等について建設的意見を出した。中国のコバルトリッチクラスト資源調査は2006年から鉱区の画定段階に入り、現在、上記30万km2の範囲内で5万km2近くを選定し、詳細な地質学、地球物理学、鉱床学調査及び鉱区の環境調査を進めている。2001年~2008年には計8回の航海調査が実施され、その期間は600日を超える。2009年は既に80日間の調査を行った。

 中国の海底熱水硫化物資源調査はスタートしたのが比較的遅い。2003年に東太平洋海膨9~10°Nで40日間の試験的調査を行い、2005年から海底熱水硫化物の大規模な調査を始めた(この年に初の世界一周航海)。調査区域には東太平洋海膨、中部大西洋、西南インド洋、東南インド洋の中央海嶺(図2)が含まれている。2005年~2008年には計3回の航海調査が実施され、その期間は700日間近くとなる。2009年の航海では160日間の調査を行う予定。

3 中国の海底資源調査・研究の主な成果

 中国の海底資源調査は20年余りにわたって続けられ、多金属団塊、コバルトリッチクラスト、熱水硫化物、生物遺伝子等の資源調査及び環境評価等の面で豊かな成果が得られた。東太平洋の7.5万km2の多金属団塊鉱探査区内では約4.2億tの団塊資源(マンガン11,175万t、銅406万t、ニッケル514万t、コバルト98万tを含む)が見つかった。これは年間採掘量300万t、連続採掘期間20年の生産需要を満たすものである。コバルトリッチクラストの資源調査では既に5万km2近くの区域を選び、暗号化の調査を進めており、同資源の申請区(境界指標Co>0.5%、厚さ>4cm)を一応画定した。現在の調査の重点は鉱床学的評価、資源量評価、環境評価である。熱水硫化物の調査でも大きな突破口が開かれ、西南インド洋中央海嶺と赤道の東太平洋海膨で熱水活動域が見つかり、大量の熱水ブラックスモーカー試料、岩石試料及び熱水生物試料を得ることに成功した。

(1) コバルトリッチクラスト

  1. タイプの異なる海山にあるコバルトリッチクラストの鉱床学的特徴を系統的に対比し、探査のターゲット区域を選ぶ時の新たな道筋を示した。マルチビーム観測データに基づき、太平洋海山は形態上、平頂海山(ギヨー)と尖頂海山の2種類のタイプに分けることができる。平頂海山は山頂堆積物がかなり厚く、急斜面が目立ち、一方、尖頂海山は堆積物が発達しておらず、勾配の変化が安定している。また、平頂海山はコバルトリッチクラスト鉱体の多くが深海域に出現し、その板状クラストは厚さの変化が大きく、且つ礫状クラストもしばしば見られる。一方、尖頂海山は浅海域から深海域まで安定・連続した鉱体が見られ、クラストのタイプが単一で、主には中厚層の板状クラストだ。その鉱体は連続しており、存在度、被覆率、発見率等の指標も平頂海山に勝る。尖頂海山のクラストはCo、Ni、Mn等の金属元素の含有量が相対的に多く、水深の比較的浅い場所では高品質の鉱体が形成され、将来の開発利用に有利である。この結果が示しているように、尖頂海山は今後の新たな探鉱目標となる。
    図3

    図3 コバルトリッチクラストの自然成長「境界線」

  2. コバルトリッチクラストの自然成長境界線と後期変成作用を発見し、資源の画定及び評価の質が高まった。ビデオ撮影調査の結果によれば、クラストの境界線(図3)はその形態と伸張の特徴に基づき、貫通型境界線とトラップ型境界線の2種類のタイプに分けることができ、またクラストの分布とタイプに基づき、クラストと堆積物、板状クラストと海山団塊、板状クラストと礫状クラストの3種類のタイプに分けることができる。板状クラストと団塊間の境界線は区域的な環境の差異によるものでなく、それはクラストの初期成長(核形成)パターン及び固結した岩石と未固結堆積物間の核形成ポテンシャル障壁の違いによってもたらされたものである。礫状クラストは破砕帯の支配を受け、これに関係する境界線のタイプも海山の構造と地形に一定程度左右される。クラスト境界線の発見は、クラストには「マイナス成長」現象が存在し、鉱床の変成作用が資源の品質に大きく影響することを物語っている。クラスト境界線の特徴に基づき、堆積物に覆われる板状クラストが存在するかどうかを効果的に判別することができる。この調査はコバルトリッチクラスト資源の形成メカニズムと分布法則に対する認識を深めるものであり、有効な探鉱マーカーが確立され、鉱区画定作業において重要な役割を果たした。

     

  3. 太平洋海山のクラスト資源分布に関する断面調査を系統的に行い、資源評価方法等の面で顕著な進展が得られた。2006年~2008年の期間中、テレビ浅層ボーリング、テレビグラブ、海底ビデオ撮影及び地球物理等の先進的なサンプリング手段を用い、太平洋の8つの海山でクラスト資源の綿密な断面調査を実施した。鉱物学、地球化学、鉱床学及びバイオマーカー化合物の研究と結び付けて、クラスト資源の分布法則と主な制御要素を探究し、太平洋海山クラスト資源の鉱塊サイズ、連続性と安定性の変化の法則を明らかにし、適切かつ実行可能な鉱区画定指標体系と資源量計算方法を打ち出した。上記調査の一部の資料と成果は既に公表され、国際海底管理局の会議でも意見交換が行われており、国際海底管理局がコバルトリッチクラスト資源探査規則を定める過程で「申請面積」、「鉱塊サイズ」、「開発制度」に関する提案をまとめるための直接的な科学的根拠を提供した。

(2) 熱水硫化物

    図4

    図4 2007年に西南インド洋中央海嶺で採取した
    熱水ブラックスモーカー試料

  1. 西南インド洋中央海嶺で重大な発見があった(図2、図4)。2007年3月、西南インド洋の大洋中央海嶺A区で海底熱水活動域(西南インド洋中央海嶺の63.5°E付近、水深3,700m前後)を発見した。西南インド洋中央海嶺と超低速拡大大洋中央海嶺で海底熱水活動域が見つかったのは世界で初めてのことである。2008年には当該区及びその周辺で多くの海底熱水噴出口が発見された。この場所が広範囲にわたる熱水活動域であることを示しており、また、超低速拡大大洋中央海嶺の構造環境の下、多金属硫化物のプールを形成する大きな可能性を秘めていることを物語るものだ。この発見は米AGU年次総会と国連国際海底管理局総会で世界の科学者から広く注目され、超低速拡大大洋中央海嶺の研究を進める上で重要な科学的意義を持つ。西南インド洋の大洋中央海嶺ではこれまでに6カ所で熱水活動が確認され、2カ所で熱水異常が見つかった。そのうち活動していない熱水地点は1カ所、活動していない炭酸塩タイプの熱水地点が1カ所(長さ約17km)あり、新しいタイプのホワイトスモーカーであるとほぼ断定した。この他、西南インド洋C区等でも2カ所の熱水活動地点(西南インド洋中央海嶺の51.7°~53.2°Eと63.9°E付近)が発見された。
  2. 東太平洋海膨の赤道付近で新たな発見があった。2008年、東太平洋海膨の赤道付近で5カ所の熱水活動地点、2カ所の熱水異常地点を発見したのである。この熱水活動域では多様な形態の海底熱水活動が見られ、その分布範囲は22kmを超え、大型熱水活動域の1つに属する。
  3. 初歩的な研究結果が示すように、上記の熱水硫化物はCu、Au、Ag等の多種の元素を豊富に含んでおり、2009年度の調査がまもなく始まる。「超塩基性岩系の熱水硫化物鉱床の特徴」を重点とした研究作業が進行中である。

(3) 環境評価

 中国の多金属団塊開発区内で面積15km2の小区(参照区)を2カ所選び、それぞれの小区に若干の固定観測ポイントを設けて、深海光学システム調査、深海音響システム調査、CTD及びADCP調査、深海係留系による連続観測、乱さない地質試料採取、浮遊・底生生物の試料採取、土工力学特性による原位置測量等を含む調査活動及び環境変化の研究を行った。初歩的な調査と分析の結果が示すように、同一区域の時系列であれ、同一時間の空間分布であれ、深海環境基線の変化は非常にはっきりとしたものである。生物個体群の密度分布は区域によって大きな違いがあり、同一区域であってもこの10年余りの間に一定の変化が見られる。例えば、同一時間において、1つの参照区は小型底生生物(Meiofauna。線虫類、harpacticoids、acarid等)の密度が46個/km2であったのに対し、もう1つの参照区の密度は21個/km2にすぎなかった。また、2つの参照区にそれぞれ設置されて10年近くになる係留系の記録結果から、底層流が時間の経過と共に大きく変化していることがわかる。エルニーニョ等の海洋学的現象も、海底環境の変化の記録に現れている。2008年末現在、中国は当該区で計11回の環境評価(NaVaBa計画)調査活動を既に行っており、深海好圧性細菌1例の全ゲノム配列を解読することに成功した。

4 中国の海底資源調査における技術開発の現状

図5

図5 科学調査船「大洋一号」

 中国の海底資源調査に使われる主な船舶には「大洋一号」、「海洋四号」、「向陽紅9号」等があり、「大洋一号」が主力船である。「大洋一号」船(図5)は以前、ロシアの「地質学者ピョートル・アンドロポフ号」であったが、1994年に船名を「大洋一号」に改めた。中国大洋協会に所属している。「大洋一号」は2002年に近代的な改装が行われ、現在では海洋地質、海洋地球物理、海洋化学、海洋生物、海洋物理、海洋水中音波など多くの学問分野の研究活動条件を備えており、海底地形、重力と磁力、底質と構造、総合海洋環境、海洋エンジニアリング及び深海技術装備など各方面の調査と試験を行うことができる。この船は長さ104.5m、幅16.0m、排水量5,600tで、定員75人(船員25人、調査スタッフ50人)である。

図6

図6 浅層ボーリングマシン(掘削深度70cm)

 主な調査用設備には動的位置決めシステム、マルチビーム測深システム、浅層断面システム、深海曳航音響システム、深海曳航光学システム、超短基線位置決めシステム、自律型水中ロボット(AUV)、観測・試料採取型ROVシステム、ADCP、海洋傾斜磁力計、海洋重力計、マルチチャネル地震システム、CTD、深海係留系、深海ビデオ撮影システム、浅層ボーリングマシン、テレビグラブ、堆積物フィデリティ試料採取器等の先進的設備が含まれている。ネットワークセンター、マルチビーム・浅層断面実験室、重力・ADCP実験室、磁力実験室、地震実験室、ROV・AUV実験室、深海曳航・超短基線実験室、地質実験室、化学・生物実験室、水文実験室、生物遺伝子実験室、X蛍光分析実験室、甲板実験室など13の専門実験室を持つ。また、居住船室、食堂、会議室、フィットネスジム、サウナ室、洗濯室、バスケットボール場、衛星テレビ、オープンネットワークスシステム等の生活施設も充実している。

図7

図7 テレビグラブ

 中国大洋協会は1992年から深海調査用設備の導入と研究開発に力を入れるようになり、深海係留系、深海ビデオ撮影システム、浅層ボーリングマシン(図6)、テレビグラブ(図7)、AUV、ROV、堆積物フィデリティ試料採取器、マルチパラメータ海洋環境調査システム、船舶ネットワークシステム等の先進的設備を開発した。しかし、全体的に言うなら、中国の海底資源調査技術は依然として米国、日本等の先進国と大きな開きがある。中国は深層ボーリングマシン(掘削深度15m)、化学センサ、原位置試験システム、海底作業ステーション、7,000m級有人潜水器等の海底資源調査用設備の研究開発に既に着手しており、近い将来、調査活動に投入される見込みだ。

 同時に、新しい調査船建造の論証作業をスタートさせた。

 1992年、中国は深海採鉱システムの研究開発を開始し、1996年に多金属団塊の「複合式集鉱方法・モデルマシン研究」プロジェクトを完了した。また、2001年にはプロトタイプの湖底試験に成功した。コバルトリッチクラストと熱水硫化物の採掘・製錬に関する技術研究開発も現在進められている。

5 結びの言葉

 1991年、中国有色金属工業総公司は日本に代表団を送り込み、深海採鉱技術・設備の分野における日本の研究の進展状況を視察し、双方の協力関係樹立を検討した。これは中国大洋協会発足後初の海外視察であった。中国はこれまでに米国、ロシア、ドイツ、フランス、英国、日本等の国々、及びIODP、Inter Ridge計画等の国際組織と海底資源調査・研究分野で幅広い協力を進めてきた。

 21世紀を見据え、中国は「深海調査を持続的に進め、深海技術を力強く発展させ、深海産業を適時に確立する」との活動方針を定め、かなり系統的な海底資源調査・開発の技術体系を構築し、少数精鋭の科学技術陣を養成し、中国大洋試料庫等の基盤施設を建設し、「中国大洋調査技術・深海科学研究開発基地」(国家海洋局海底科学重点実験室を拠点とする。中国・杭州)等の支援プラットフォームを築いた。将来の一定期間、中国の海底資源調査の重点は熱水硫化物、コバルトリッチクラスト、生物遺伝子の資源調査及び海底資源開発の環境評価調査に置かれる。同時に、大規模な海底資源の鉱床生成メカニズムの研究活動を積極的に推進し、海底資源の探査技術と開発技術の研究に力を入れ、国際海底区域のガスハイドレート、希土類資源等の新たな海底資源の調査研究を重視していく。