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中国における低炭素社会づくりの取り組み

2010年 1月18日

大野木

大野木 昇司(おのぎ しょうじ):
日中環境協力支援センター有限会社 取締役社長

1972年生まれ。1995年、京都大学工学部衛生工学科卒業。1998年、京都大学大学院エネルギー科学研究科修士課程修了、同年中国留学開始。2002年、北京大学環境学院修士課程修了。天津日中大学院専任講師、国土環境㈱北京事務所技術渉外主任、(社)海外環境協力センター客員研究員を歴任した後、2005年に日中環境協力支援センター㈲を設立し、取締役社長に就任。2008年からは桜美林大学・北東アジア総合研究所の客員研究員や科学技術振興機構・中国総合研究センターの社会科学系ステアリングコミッティ委員、国立奈良先端技術大学院大学産学連携アドバイザーを兼任。その他、立命館サステナビリティ学研究センター客員研究員、中国環境産業協会循環経済委員会の諮問委員、中国エネルギー研究会『中外能源』雑誌編集委員なども兼任。

1.COP15をめぐる国際情勢と課題

 デンマーク・コペンハーゲンで開かれた、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)は、会期を1日延長した12月19日、日米欧中印等主要26カ国がまとめた拘束力を持たない「コペンハーゲン協定」の「留意」決議を採択し閉幕した。米国や一部途上国も同様の目標を定めることを視野に入れた新しい枠組み作りを目指す先進国と、あくまでも先進国が主たる責任を負う現行の延長が望ましいと主張する新興国・途上国との間の激しい衝突が繰り広げられた。中国は、途上国グループのリーダーとして、最後まで「共通だが区別ある責任」の主張を曲げず、削減目標は打ち出すがあくまでも自発的なものであり、第三者による検証は受け入れられないとして、削減目標を明記した政治合意を拒否した。CO2総排出量が世界第1位、経済力でも第2位に躍り出ながらも、途上国のリーダーとしての地位を手放さず、強硬姿勢で同会議を決裂寸前にまで追い込んだ同国への批判の声は強い。

 COP15で留意採択された同協定を基に、ポスト京都枠組み作りへの議論は続き、中国を含む途上国も排出削減行動の報告がなされることになるが、中国に対しては自国だけでなく、そのインパクトから国際社会においても責任を果たすことが強く願われている。

2.中国政府の気候変動対策の基本姿勢と低炭素への関心の高まり

 中国政府は2007年、それまで気候変動対策に消極的だった姿勢を転換し、国際社会で積極的な行動をするようになった。2007年に途上国で初となる「中国気候変動対策国家方案」を国内外に向けて公布し、第11次五カ年計画期間(2006~2010)の気候変動対応の基本原則や政策措置を明確にし、2008年には「中国気候変動対応政策と行動」白書を発表し、中国気候変動活動と実施に関する国家方案による成果を系統的に紹介した。これらは国際社会に向けたものであるが、国内的には、第11次五ヵ年計画で2010年までに単位GDP当たりエネルギー消費の20%削減、再生可能エネルギーの割合を現在の7%未満から10%への引き上げを国家目標にした。2007年に再生可能エネルギー中長期発展計画を発表し、2020年までに再生可能エネルギー割合を15%まで引き上げるという数値目標を打ち出した。2009年に入ってからは、中国の国家指導者も政策策定に当たって「低炭素」を強調するようになるなど、低炭素社会・低炭素経済の概念が広まりつつあり、COP15の報道でその関心はさらに高まった。

3.具体的政策と取り組み

 先の目標達成に向けて、省エネ、新エネ、自動車対策、林業、CCS、国際協調とCDM、低炭素都市プロジェクトといった領域別に、政策、法制、計画、技術開発、優遇、実証事業などの面から、様々な取り組みを進めている。これらについて俯瞰的にまとめた。

3.1. 省エネ分野の政策と取り組み

 第11次五ヵ年計画で、中国は単位GDP当たりエネルギー消費量を20%削減するという強制目標を定めた。報道によれば2009年10月現在、累計13%以上削減したといい、同目標は達成される見通しである。また、国家発展改革委員会は2006年に第11次五ヵ年計画10大重点省エネ事業を発表し、2010年末までに石炭換算2.4億トン分の省エネ目標を定めて各事業を進めている。この対象事業は、石油節約・代替事業、工業用石炭ボイラー改造事業、区域コジェネ事業、余熱余圧利用事業、電機システム省エネ事業、エネルギーシステム改善事業、建築省エネ事業、グリーン照明事業、政府機関ビル省エネ事業、省エネモニタリング事業である。2009年4月までに、10大事業に150億元を投入し目標達成率は62.5%となった。さらに2009~2010年で、4000億元以上の投入を予定している。また同委員会は、2006年より企業1000社省エネアクションプランを打ち出し、鉄鋼、非鉄金属、石炭、電力、石油、化工、建材、紡績、製紙等高エネルギー産業における高エネルギー消費企業を約1000社選び、石炭換算1億トンの省エネ実現に向けて省エネ指導を進めてきたが、現在までに同目標の達成が報じられており、五ヵ年計画の省エネ目標を2年前倒しで達成した。

 更に、エネルギー利用効率を向上させるため、旧式生産能力の淘汰が進められ、中国政府は発展が遅れている地域に対し、2008年中央財政から62億元を投じ整理を行った。通年で発電所325基の小型火力発電ユニット1669万kW分を閉鎖・停止させ、旧式セメント生産能力5300万トン分を淘汰させるなどした。2009年上半期でも、引き続きエネルギー効率の低い小型火力発電ユニット1989万kW分を淘汰し、累計で小型火力発電所5407万kW分を整理した。これにより、第11次5ヵ年計画期間における5000kW閉鎖の目標が1年半前倒しで達成された。

 産業全体に対してだけでなく、製品に対する省エネの取り組みとして、2005年から実施されたエネルギー効率ラベル制度は4年間で家電・工業・照明等の15品目6万製品に適応が広がり、累計で石炭換算3000万トン余の省エネを達成した。このほかに省エネ認証ラベル制度を普及させ、この認証を取得した製品について「省エネ政府調達リスト」に組み入れ、リスト入りした省エネ型製品を優先的に購入する政府調達制度も進められ、省エネ製品の普及を後押ししている。その他、ESCO事業については、中国は立ち遅れてはいるものの、北京や上海等の大都市を中心に支援法制が進んだ。

3.2. 新エネの政策と取り組み

 2006年に施行された再生可能エネルギー法や、2020年までの各電源の計画目標を示した再生可能エネルギー中長期発展計画に基づき、2008年以降、系統連系補助金、モデル事業補助、新エネの建築利用への推進、優遇税制等の政策が定められたほか、技術開発支援の対象にするなど、国内の再生可能エネルギー発展を後押ししている。

中国再生可能エネルギー発電の発展状況
  2008 2007 成長率(%)
水力発電 (億kW) 1.72 1.45 19.6
風力発電 (億kW) 1217 604 101.5
太陽光発電 (万kW) 15 10 50
太陽熱温水器 (億㎡) 1.25 1.1 13.6
バイオマス発電 (万kW) 315 300 5
バイオ燃料エタノール (万トン) 160 120 33.3
出典:「2050中国エネルギーと炭素排出報告」

3.3. 自動車の対策と取り組み

 近年の自動車台数の急増に対し、政府は小排気量自動車の消費税率引き下げによりエコ自動車の購入を奨励する等の産業推進策を打ち出しているほか、北京・上海・重慶等の13都市で公共サービス分野の省エネ・新エネ自動車(ハイブリッド、電動自動車、燃料電池自動車)普及実証事業を進めている。中国の新エネ自動車産業はここ数年で伸びてきており、中国独自で純電動自動車、ハイブリッド自動車、燃料自動車の開発を進めている。2007年には、長安汽車が独自開発した中国初のハイブリッド車が量産開始した。2010年には、一部都市でバイオディーゼル対応自動車の販売が始まる他、新エネ自動車発展計画が公布される予定である。

3.4. 林業によるCO2吸収

 大規模植林によるCO2吸収の取り組みも積極的に行われている。中国の森林面積率は、建国当初10%にも満たなかったがずっと植林を続けてきた。2000年以降、中国の森林面積は大幅に増えてきており、今や砂漠化・土地劣化よりも植林のスピードの方が速くなり、砂漠化面積は減少に転じている。世界的に総森林面積が減少している中で、中国一国がアジア全体の森林面積増加量を押し上げている。特に、1998年の長江大洪水を受けて林業政策を転換し、2000年以降6大林業プロジェクト(①天然林資源保護、②退耕還林(傾斜耕地を森林・草地に戻す)、③三北(東北、華北、西北部)・長江中下流域防護林体系建設、④北京・天津風砂源整備事業、⑤重点地区における早生多収穫用材林基地建設、⑥野生動植物保護及び自然保護区建設)が本格化した。これにより、2010年目標である森林面積率20%を2年前倒しで達成した。このような林業分野の取り組みは、中国のCO2吸収に大きな役割を果たしている。

3.5. CCSの政策と取り組み

 世界的に注目される技術の一つにCO2回収貯留技術(CCS)が挙げられる。IEAの予測によれば、中国のCCS技術は2030年頃までに大きく進展し、2050年には利用が世界最多となるという。現状では、技術の未成熟、新エネやエネルギー代替につながる技術ではないこともあり、取り組みは限定的といえよう。現段階で中国には関連法規や管理体系枠組みがないが、同プロジェクトの影響は後代に渡り続くため、長期有効な枠組みが必要となる。

3.6. 国際協調とCDM

 低炭素社会への取り組みは、もはや中国一国の問題ではない。そのため、中国政府は、国連気候変動サミットやG8、APECなどを始めとした様々な国際的な舞台で国際社会との協調をしている。APECでアジア太平洋森林回復・持続的管理ネットワークを提唱したほか、2国間関係では、中豪、中韓、米中等で共同声明や協力協定等を結んだ。

 中国は、CO2取引量ベースで84%を占める最大のCDMプロジェクトホスト国である。2009年9月までに中国による国連へのCDMプロジェクト申請数は632件に達し、これらプロジェクトの年間予想CO2排出削減量は1.88億トンとなる。全国では省級CDM技術サービスセンターが26ヶ所設置し1万人近くに研修を行うなど、国内CDM活動の開発や能力建設を進めている。国内批准プロジェクト2174件(2009年6月時点)のうち、批准件数トップ3省は、水力・風力資源が豊富で経済的に遅れている雲南、四川、内蒙古である。

3.7. 低炭素都市プロジェクト

 2008年1月、上海市と河北省保定市は第1次「低炭素型都市発展プロジェクト」モデル都市として選ばれ、低炭素都市の実現に向け、WWFによる支援を受けて、建築省エネ、再生可能エネルギー、省エネ製品の生産・利用などの分野で、低炭素発展ソリューションを模索し、実行可能モデルを総括し、全国に波及させていく他、北京で低炭素発展に役立つ政策研究、プロジェクト総括・普及などを行っている。

4.中国都市低炭素発展に向けて

 現在中国では、日米欧等の事例を参考にしながら、選択するべき「低炭素発展」の方向性に関する議論を積極的に進めている。省エネ排出削減、エネルギー利用効率向上、化石燃料低炭素化、再生可能エネルギー開発、炭素・環境税整備、技術開発支援、エネルギー国際協力などを通じた低炭素社会建設をいかにして進めていくかに注目が集まる。

 中国は新興国として、環境問題に配慮しながらも経済発展しなければならないという立場を貫いている。その「低炭素型発展」モデルを作り上げるためには、発展そのものを低炭素化していかねばならない。産業ばかりでなく、市民生活においても、経済発展に伴う都市部の大量消費浪費型生活スタイルが形成されつつあるが、これを早期に低炭素型に切り替えるよう宣伝教育を強化していくことも重要である。増え続ける自動車台数を抑える経済政策を導入し、公共交通を主とする交通体系を整え、省エネ家電・建築・製品を優遇普及させるなどの政策を継続させていく必要がある。

5.まとめ

 気候変動をめぐる中国の立場は、新興国の一代表国であると同時に、温室効果ガス排出量世界一の大国でもあるため、その言動には常に世界の目が光っている。今回のCOP15に先立ち、初めて削減目標を提示したことは、先進国の示す新枠組みへの新興国の歩み寄りの先鞭となるのではないかという点で大きな関心を集めた。

 中国は、低炭素社会実現に向けて、省エネ・新エネ・林業等さまざまな取り組みを進め、具体的な数値目標を達成・改善するなどの成果も上がってきている。しかし省エネ・新エネ技術は目先の効果ばかりが注目されるものの、ライフサイクル全体で見たときの環境効果は意識されないことが多く、果たして本当に地球・地域環境の改善になっているのか、全体として低炭素型社会実現に向かっているのかという、専門的な分析評価はなされないまま、バブル的ブームとして持て囃されている感は否めない。重要な問題として世界が認識を一つにし、注視している現在だからこそ、盲目的な新エネ・省エネバブルから一歩立ち止まり、検証していくことが必要であろう。


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