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低炭素社会実現のためのエネルギーシステムの構築

2010年 1月 6日

山地 憲治

山地 憲治(やまじ けんじ):東京大学・工学系研究科 教授

1950年2月 生まれ。1972年東京大学工学部原子力工学科卒業、1977年同大学院工学系研究科博士課程修了後、(財)電力中央研究所(経済研究所技術経済研究部)入所。1987年(財)電力中央研究所経済研究所エネルギー研究室長、1993年(財)電力中央研究所経済社会研究所研究主幹を歴任。1994年から東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻・教授、新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻・教授へ配置換えを経て、現職。2008年より、東京大学エネルギー工学連携研究センター兼任。この間、1999年6月~国際応用システム分析研究所(IIASA)日本代表理事、2001年9月~グリーン電力認証機構委員長(現在、グリーンエネルギー認証センター・運営委員会委員長)、2005年10月~日本学術会議会員を務める。専門は、エネルギー技術評価・地球温暖化対策評価などのエネルギーシステム工学。日本エネルギー学会副会長。「原子力の過去・現在・未来」(コロナ社)、「エネルギー・環境・経済システム論」(岩波書店)など著書多数。

低炭素社会に向けた最近の日本の動き

 2008年7月に「低炭素社会づくり行動計画」が閣議決定された。この中で、2050年までを視野に、革新的技術開発として21の技術領域を特定し「クールアースエネルギー革新技術計画」を推進していくことを打ち出した。また、既存先進技術の普及として、具体的な目標値もあげられている。一つは、2020年をメドに、原子力と再生可能エネルギーの割合を50%以上にするという、「ゼロエミッション電源」へのアプローチである。さらに、太陽光発電の導入量を、2010年までに現在の10倍、2030年には40倍にするという目標も掲げた。

 わが国のエネルギー供給の変遷を振り返えると、図1に示されているように、第一次オイルショックの1973年には石油が8割ぐらいを占めていた。それが今や、50%を切るようになり、石油シェアの低下分は、天然ガス、原子力で代替し、石炭についても国産から輸入炭に変わり、石油代替に寄与してきた。特に発電エネルギーのシェアでは、図2に示すように、より顕著な変化が生じた。1960年ころは「水主火従」の時代で、水力が半分以上を占めていたが、その後は石油依存の時代になり、1973年に8割近くが石油依存だったものが、急減に原子力とLNG、最近では輸入石炭に置き換えられている。現在の電源構成は、石炭、天然ガス、原子力がそれぞれ同じぐらいで、全部合わせて約80%。残りの10%ずつを石油と水力が供給している。このように、電源には、エネルギー源の選択・転換を短期間で行えるという技術特性がある。そのため、低炭素社会形成ということになると、まず電力部門が注目されることになる。

図1 わが国の一次エネルギー供給シェアの推移

図1 わが国の一次エネルギー供給シェアの推移

図2 わが国の発電電力量シェアの推移

図2 わが国の発電電力量シェアの推移

 その後、2009年4月には麻生首相(当時)が「新たな成長に向けて」の中で、2020年には、太陽光発電の規模を「低炭素社会づくり行動計画」の2倍の水準になる2020年までに現在の20倍(2800万kW)とし、エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を20%まで引き上げるという目標を発表した。また、2009年7月には、革新的技術開発と非化石エネルギーの導入拡大および化石資源の高度化利用を3本柱とする「エネルギー供給構造高度化法」が成立した。この法律の下で、11月からは太陽光発電の余剰電力をkWhあたり48円(住宅用太陽光発電の場合)で買取る制度が導入された。

 2009年9月には民主党の鳩山首相への政権交代が起こり、鳩山首相は2009年9月22日の国連気候変動首脳会合において、地球温暖化対策の中期目標として「1990年比で言えば2020年までに25%削減」を表明した。同時に、「世界のすべての主要国による、公平かつ実効性のある国際枠組みの構築」と「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意」が、この我が国の国際社会への約束の「前提」であることも述べている。これに先立って、麻生前首相は6月10日に2020年の温室効果ガスの排出量を2005年比15%削減するという中期目標を決定していた。新しい中期目標は2005年比では30%減になる大幅なものであるが、麻生前首相の中期目標がわが国の温室効果ガスの排出量だけを対象とした削減目標(いわゆる「真水」)であるのに対し、鳩山首相の新しい中期目標は、森林吸収や排出量取引などを含めたものであるといわれている。わが国の新しい中期目標は、世界の地球温暖化対策をリードするものとして欧州首脳を中心に世界各国から賞賛されているが、現実にこの目標を達成するには極めて厳しい対策が必要である。

温室効果ガス半減への技術シナリオ-電力部門の大きな役割-

 世界全体としては長期的な地球温暖化対策として、G8サミットなど世界の政治指導者の間で、気温上昇を産業革命以前の水準から2℃の上昇に押さえ、そのために2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を半減する目標が表明されている。

 では、世界の温室効果ガス排出半減に向けて、どのような技術シナリオが描けるのだろうか。図3は、IEAが2008年の洞爺湖サミットに合わせて発表した、2050年温室効果ガス半減に向けた技術シナリオを示している。なお、これはエネルギー起源のCO2だけを対象としている。

 このシナリオでは、2005年で280億トン弱だったCO2排出量を、2050年までに半減し、約140億トンにする。この目標を達成する技術シナリオは、現在の努力を継続した場合に想定される2050年の排出水準(これをベースラインという)から現状の半減にまで削減する必要があるということに注意しなければならない。IEAのシナリオの2050年のベースラインの排出量は約620億トンである。これを140億トンに削減するわけだから、2050年半減を実現するには約480億トンという大きな削減を実現しなければならないのである。

 図3にはこの約480億トンの削減の内訳が図示されている。エネルギーの供給サイドでは、とくに電力部門の役割が重要になる。まず、再生可能エネルギーを増やし、原子力を増やし、CO2回収・貯留(CCS)設備を備えた火力発電を増やすことで大きな削減が期待されている。また発電以外でも、セメント生産や石炭利用で同じくCCSを適用することを想定し、発電効率の向上にもかなりの寄与を期待している。一方、デマンドサイドでは、末端での電化や水素使用、照明の効率など電力利用効率を高めること、さらに、自動車の燃費向上など徹底して燃料全体の利用効率を高めることが、非常に重要な役割を果たすことが示されている。

図3 IEA(国際エネルギー機関)によるCO2半減の技術シナリオ

出所:IEA/OECD:”Energy Technology Perspectives 2008” (2008)

図3 IEA(国際エネルギー機関)によるCO2半減の技術シナリオ

 このような低炭素社会形成に組めた技術シナリオにおいて特に注目されるのは、電力部門の大きな役割である。電力は多様なエネルギー源から生産可能だから、低炭素化しやすいという特長をもっている。しかも、いったん電力に変えると、利用時には非常にクリーンで、大気汚染物質も出さず、制御性にも優れるので非常に高効率なエネルギー利用を実現できる。とりわけ空調や給湯など、100℃以下の低温熱供給の場合には、ヒートポンプを使えば空気や水・地中などの環境中にある熱エネルギーを高効率で利用することができる。また、石油製品が独占していて低炭素化の難しい輸送部門でも、電気自動車やプラグインハイブリッド車の導入によって、電気を利用することで低炭素化が実現できる。

省エネルギーへの期待と課題

 このような温室効果ガス排出削減の技術的可能性を実現するには、きめ細かく多様な取組を組み合わせなければならない。CO2排出に価格をつけて温暖化の環境費用を経済システムに取込む(これを環境外部コストの内部化いう)ことは重要ではあるがこれだけでは十分ではない。対策技術の採用においては、技術に関する情報が周知されなければならないし、将来に実現する技術導入の効果を現在の投資コストと比較するために必要となる割引率についても考慮しなければならない。地球温暖化対策のような公益的対策において使用されるべき割引率は、利益を追求する市場で用いられる割引率より小さいが、これを社会各層に伝えるのは大変難しい。割引率が低いほど多くの対策が経済合理性を持つようになるのだが、現実には資金力に乏しい個人や発展途上国ではきわめて高い割引率が適用されている。つまり、長期的には経済合理性があるにも拘らず、至近の投資額が大きいために見送られる対策が多々ある。IPCC報告においても、この問題は経済的可能性と市場的可能性のギャップとして指摘されている。このギャップを解消するには、対策技術の開発だけでなく、情報の普及や技術支援とともに資金的な援助を工夫する必要がある。

 また、家庭や業務など民生部門の省エネルギー分野におけるCO2削減ポテンシャルは大きく、特に経済性に優れた対策が多いことが知られている。この中には全く費用が掛からない、あるいは経済的にはむしろベネフィットがあると評価されるにも拘らず現在実行されていない対策も含まれている。これは、経済的には合理的であっても情報不足や生活文化的要因などの見えないバリアーのために現実にはその削減可能性が実現していないことを示している。省エネルギー分野の対策には種々多様な技術があるが、多くに共通して見られる課題は現実の市場への普及段階におけるバリアーの克服である。

 省エネルギー対策の経済性評価では、省エネ設備への投資がエネルギーコスト節約等によって一定期間内に回収できれば経済的に実現可能と評価する。しかし、民生部門の省エネ投資は家庭など多数の意思決定者によって行われており、人々の行動原理について深い理解が必要である。現実の人々の行動は歴史的に形成された生活文化に根ざしており、家計レベルでの投資の意思決定は必ずしも経済合理的ではなく、また、情報不足のために費用効果の高い省エネ投資が見逃されることも多い。経済合理的な省エネ対策の普及を妨げるバリアーとして、情報不足のほかにも資金不足、設備の投資者と利用者の乖離(オーナー・テナント問題)、投資回収リスクなどが挙げられる。このような通常の経済性評価では捉えきれない普及段階の見えないバリアーを克服するには、ラベリング制度などによる情報提供をはじめ、わが国の「トップランナー基準」のように、消費者の選択に依存せずに高効率機器の普及を図るなど、消費者の行動を理解して、きめ細かい政策を展開することが重要である。

 地球温暖化対策は科学と政治が連携して対応すべき長期課題である。特に対策の長期目標は科学だけでは決められない価値判断を含むものであり、科学と政治の連携の重要性が際立っている。ここで鍵となるのは不確実性の扱いであろう。不確実性には2つのタイプがある。自然の理解に伴う科学上の不確実性と、未来の選択を行う人間社会の不確実性である。このような不確実性に対処しつつ適切な地球温暖化対策を実施するためには、未来に対する長期的なビジョンを皆が共有する必要がある。地球温暖化問題への社会的関心の高まりを絶好の契機とし、人類の持続可能な発展への展望を拓かねばならない。

主要参考文献:

  1. 山地憲治監修:「新・地球温暖化対策教科書」オーム社(2009年)

さくらサイエンスプランウェブサイト

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