トップ >第41号:環境・エネルギー特集Part 2-低炭素社会実現に向けた新技術の開発> CCS発展の現状と冶金化工における省エネ・排出削減技術

CCS発展の現状と冶金化工における省エネ・排出削減技術

2010年 2月15日

袁章福

袁章福(Yuan Zhangfu):北京大学工学院教授、
博士課程院生指導教官、東京大学客員教授

 1963年7月生まれ。1993年、北京科技大学冶金工程専攻修了、博士。1997年、九州工業大学工学部講師、客員研究員。2001年、中国科学院プロセス工程研究所、教授。2007年、東京大学客員教授。2008年より現職。省エネルギー技術と産業界の低炭社会と資源循環促進の研究に従事。これまでに150編近くの研究論文を発表、そのうち120編余りがSCI、EIに収録。23件の特許。著書出版4冊、省部級以上の奨励賞受賞3回。

1.はじめに

 二酸化炭素の回収と貯留 (CCS:Carbon Capture & Storage) について短期間に世界的な注目が集まっているのは、全世界が気候の変化という課題に直面しているためである。19世紀末以降、地球の平均気温は0.3~0.6℃上昇している。ここ10年間は地球の平均気温の上昇幅が特に大きく、過去110年間で最高となった。国連環境計画と世界気象機関の研究によれば、来世紀地球の表面温度は10年に約0.3℃の速さで上昇し、2100年には地球の平均気温は3℃上がって、過去1万年間の速度を大きく上回ると予想される。人類社会に対する地球温暖化の直接的影響は、天候システム、生態系に対するその間接的影響に比べると小さいが、その影響は根深く、ともすれば取り返しがつかないものでもある。一般的に、気候変化の影響は多方面、全方位、多層にわたり、プラスとマイナスの影響がともにある。しかしそのマイナスの影響が特に注目されており、それは主に生態環境、経済社会、国家安全への影響として現れている。

 世界銀行年刊『リトルグリーンデータブック2007』中のレポートによれば、世界のCO2排出量の現状は、京都議定書で計画された目標にははるかに遠い。レポートによると、1990年以降地球全体でCO2排出量は19%増えており、これは京都議定書の目標より25%多い。議定書で提唱された目標は1990年のレベルより5.2%下げるというものである。この変化は、中国 (73%)、インド (88%)、アメリカ (20%)、日本 (15%) 等各国のCO2排出量が激増したことによる。CO2排出量は中国とインドで上昇傾向にあるが、両国の1人当たり排出量は欧米諸国に比べるとはるかに少ない。中国の1人当たり排出量はアメリカの6分の1に満たないし、インドはアメリカの6%に過ぎない。このような状況の下、中国は2009年11月26日に温室効果ガス排出抑制のための行動目標を対外的に正式発表し、国内総生産単位あたりの二酸化炭素排出量を、2020年までに2005年の水準から40%~45%引き下げると決定した。中国は発展途上国に対する「バリ・ロードマップ」の要求をはるかに超える、明確な数値目標を打ち出した。これは中国がコペンハーゲン環境会議で成功を得た真摯な態度を堅持し、人類のために気候の変化に対応していくという重要な約束を示すものである。

 調査によると、中国では火力発電、セメント、鉄鋼、精油、エチレン、合成アンモニウム、エチレンオキシド、水素製造の8業種の製造工程が主な排出源であり、そのうち火力発電、セメント、鉄鋼企業の総排出量は約91.7%を占めている。鉄鋼冶金工業は国民経済の支柱となる産業で、同時にCO2の主な排出源の一つでもあり、排出量は約10%を占める。このため鉄鋼工業のCO2排出量を減らすことは、中国が温室効果ガス削減目標を達成し、世界経済、社会、環境の持続可能な発展を促していくためにも、非常に重要で現実的な意義がある。本文では、二酸化炭素の回収技術と冶金分野におけるその応用の最新状況について紹介する。

2.CCS技術の概要と展望分析

 CCS技術とは主にCO2の回収、運搬、貯留の3段階[1]のことである。CO2の回収は石油・石油化学企業ではすでに商業応用されており、現在までに発達しているものとしては、圧力スイング式吸着法、溶剤吸収法等の技術があり、最近進歩してきたものには膜分離法、イオン性液体の獲得等[2-4]の技術がある。

 気体膜による分離技術の基本的原理は、混合気体中の各成分が圧力に押されて膜を通過する際の拡散速度が異なるために、分離の目的を果たすことができるというものである。膜材料の化学的性質と膜の構造が膜分離の性能に決定的な影響を持つ。現在、気体分離に用いられる膜材料は主に、高分子ポリマー、無機物、金属の3種類である。膜分離法を採用することで、CO2/CH4を効率的に分離することができる。これは当初、油井ガスからCO2を分離するために用いられ、CO2を利用して採油を強化するためのリインジェクション用のガス源とされた。現在日本の宇部社やアメリカのPermea社等では、CO2膜の材料と装置をすべて備えており、工業応用に投入している。気体膜分離技術には、投資が少額、エネルギーが小さい、操作が便利といった利点がある。現在、中国の気体膜分離に関する研究は主に膜材料に偏重しており、材料、装置、工程改良等の研究は少ない。

 イオン性液体を利用するCO2固定とは、主にイオン性液体を溶剤としてCO2を吸収する、又はイオン性液体を吸着剤としてCO2を吸着して、CO2を固定・分離するというものである。従来のCO2吸着方法と似て、このCO2固定でもやはり溶剤吸着法を採用し、吸着剤はイオン性液体である。イオン性液体には非揮発性と独特の溶解能力があって、ある種のCO2固定変換反応では高効率の触媒作用又は触媒補助作用が現れることも確認されているため、新型のCO2吸着剤として選ばれており、イオン性液体中でのCO2の吸着変換一体化についても研究が行われている。イオン性液体によるCO2固定には以下の特徴がある。(1) CO2を資源化利用し、従来の廃棄法に代える、(2) イオン性液体は性質が安定しており、揮発せず、循環使用できる、(3) 工程では水を用いないため二次汚染を避けるとともに、設備の腐食を防ぐ。

 以上をまとめると、CO2回収技術はこれまでに省エネ、低コスト、高循環性の方向へと発展してきている。

 CO2の貯留地点と方法の違いによって、CO2の貯留方法は地中隔離、海洋隔離、炭酸塩固定、工業利用固定等に分けられる。その貯留方法ごとに具体的な技術内容は異なる。現在研究対象として注目されているのは、地中隔離と海洋隔離だが、貯留技術が未熟、一般に十分に認識されていない、プロジェクトへの投資が多額、技術コストが高い等の特徴により、現段階で単純に地下や海中に貯留する方法は実施が難しい。しかしCO2ガスを利用して油や気体を取り除きガス田の採集率を高めることは、一挙両得の手法だと言える。CO2の工業利用貯留もつまりはCO2の変換である。現在研究が盛んなのは、吸着したCO2ガスをその場でメタノール、炭酸ジエチル、エチレングリコール等の重要な化学工業材料に触媒・変換するというもので、これは、イオン性液体がCO2を吸着した後にイオン性液体の媒介によって原位触媒変換を行うというものである。生物CO2固定方法も近年幅広く研究されている。持続的発展という角度から言うと、生物CO2固定技術とりわけ微小藻によるCO2削減技術は、地球上最も中心的で最も有効な炭素固定方法であり、炭素の循環において決定的な役割をもつ。微小藻は高密度の立体化培養が可能であり、工業面でも実用が容易で、各国研究者から高い注目を集めている。しかし、対応できるCO2濃度が低い、高濃度のCO2のもとでは生長が遅く炭素固定効率が低い等の問題があり、工業面での応用には制限がある[5]。

 地球全体から見ると、CO2排出削減情勢の研究は急を要する。上述の方法はまだ研究段階にとどまっているため、CO2回収方法の工業面での応用は、現段階では比較的発展の進んだ圧力スイング式吸着法と溶剤吸着法に集中している。

3.鉄鋼冶金分野での省エネ・排出削減

 鉄鋼業はエネルギー集中型の業種であり、CO2排出量が多い。当然それに見合う義務を負わなければならない。中国の鉄鋼業界で毎年排出されるCO2の量は10億トン以上になり、全国の約10.44%を占めてCO2の主要排出業の一つになっている。日本の鉄鋼業によるCO2排出量は日本全国の排出量の15%近くを占め、次いで化学工業の6.9%、3位がセメント業の5.3%である。日本のJFEスチールで毎年排出されるCO2は6014万トンに上り、新日鉄と住友金属がそれに次ぐ2位と3位で、それぞれ排出量は5928万トンと2214万トン[6]である。日本の鉄鋼業による鉄鋼1トンあたりのCO2排出量は1800kgだが、ヨーロッパでは電気炉製鋼の割合が高いため、最善のレベルで1300kgになっている。したがって、鉄鋼冶金の工程でのCO2温室効果ガス排出量をどのように下げるか、特にCO2排出削減のための工法や技術を開発していくことは、環境改善と持続可能な発展の実現にとって重要な意義をもつ。

 鉄鋼企業によるCO2排出削減には以下の措置をとることができる。(1) 鉄鋼製造工程を調整する。一部の高炉・転炉工程の代わりにCO2排出量の低い鉄スクラップ・電気炉工程を採用する。一部の高炉製鉄工法の代わりに高炉溶解によらない製鉄工法を採用する。高炉・転炉工程で投入する鉄スクラップを増やす。(2) 炭素エネルギーの代わりに環境負荷の小さいエネルギーを利用する。水素冶金など[7]。(3) 鉄鋼製造工程でのCO2回収・分離を強化する。しかし(2)の措置については、この30年間に今の製鋼工程から完全に転換できていない。(3)の措置だけが現在の世界の製鋼工程学の特徴と結びつき、目的の定まった応用と基礎的な科学研究の対象とすることができる。物質流・エネルギー流構造への留意、製造工程の調整、CO2回収・分離の強化、余熱と余剰エネルギーの回収利用、省エネとエネルギー消費の削減が、現在のCO2排出削減にとって現実的な活路であり、代替エネルギーの使用は補助的、応急的な措置に過ぎない。

 転炉(BOF)・高炉(BF)ガスは製鋼工程で重要な二次エネルギーであり、その成分は表1に示した。転炉・高炉ガスの回収量を増やすことで、製鋼の生産コストを効率的に引き下げて「負のエネルギーによる製鋼」実現のための基礎ができるだけでなく、製鋼過程での汚染物質排出総量を大幅に引き下げ、クリーナープロダクションの実現にもつながる。つまり「転炉・高炉ガスの回収利用」は、現代の製鋼業における重要な技術となっている。筆者は、転炉製鋼でのCO2のスラグ噴射による炉体保護の採用と、転炉・高炉ガスのCO2循環利用という新しい発想と方法を初提唱する[8]。

 転炉製鋼の工法では、MgO含有量が飽和量に達する、又は飽和量を超える転炉製鋼で最終的に出るスラグを出鋼後に利用して、適当なコークス粉、粉炭、添加剤を加え、流動性の高い高温のスラグになるよう調整する。N2ガスを多孔酸素ランスによる超音波流に通過させ、炉の内壁表面にスラグを吹きつけて融点の高いスラグ層を形成し、炉内に粘着、硬化させて反応を起こし、スラグの固体層が炉内を覆うようにして炉内を保護する。ここで従来のN2に代えてCO2を利用しスラグによる炉の保護をすれば、ガスの回収ができるとともにCO2の循環利用が実現できる。従来のN2スラグと比べたとき、CO2ではさらに転炉ガスの組成を調節することもできる。スラグによる炉の保護ではCO2と高温スラグ中の炭素との化学変化によりCOを生成し、転炉ガスの化学吸着用に独自に設計した装置を利用してCO2を回収利用する。転炉ガスから分離させたCO2は、スラグ保護炉のガス源として利用し、廃ガスを転炉製鋼現場で循環利用できるようにして、CO2の排出を下げる。

表1 鉄鋼冶金工業の転炉・高炉ガス組成
種別 化学成分(%)
CO2 CO O2 N2 H2
転炉ガス 18~22 70~90 0.1~0.5 10~20 1~2.5
高炉ガス 15~20 25~30 40~60

 鉄鋼冶金におけるCO2循環利用の主要工法の流れは図1に示した。高炉から出るガスと転炉から出るガスは、それぞれまずガス処理システムに入り、除塵され温度が下げられる。除塵後の高炉と転炉のガスは、加圧された後にそれぞれ吸着塔の最下部から入る。ガスはその中を下から上へと流動し、吸着塔上部から入る吸着液と逆流接触を起こし、CO2を十分に吸着する。CO2を取り除かれた高炉ガスと転炉ガスは、冶金の重要なエネルギーとして熱風炉の空気予熱、コークス炉、ボイラー、圧延加熱炉等に用いられる。CO2を吸収した溶液は加圧されて上部から再生塔に入る。再生塔内には煮沸器が備わっており再生塔内でCO2が脱着される。分離されたCO2と補充された外来CO2は、圧縮機、気体切換弁、三方弁を通過した後、熱風炉、燃料吹付けシステム、転炉酸素ランスシステムに入り、高炉製鋼と転炉スラグ保護炉を循環して用いられ、高炉・転炉ガスが工場内で循環利用できる。

 転炉・高炉ガス中ではCO2の分圧が低いという特性(表1参照)に基づき、この装置では化学吸収法を選択している。この方法によるCO2の脱着は、実質的にはアルカリ性吸着剤溶液を排煙中のCO2と接触させ化学反応を起こし、不安定な塩類を形成するというものである。塩類は一定の条件下(再加熱、瞬間蒸発等)で逆に分解されCO2を放出して再生する。これによってCO2を排煙内から分離させることができる。化学吸収法でCO2を分離するために通常用いられる吸着剤には、アミン溶剤、強アルカリ溶液、熱苛性ソーダ溶液等がある。吸着剤を選ぶ場合は、高い吸収率、高い吸収負荷、低い再生エネルギーという原則を守り、そのほかに吸着剤の抗酸化性と低腐食性についても考慮する必要がある。この装置ではMEA(モノエタノールアミン)を基本とする複合アミン溶液を用いる。これには抗酸化剤と腐食防止剤の働きがあり、吸収が速いというMEAの特長を引き継いでCO2に対する溶液の高吸収能力を保つとともに、溶液の再生エネルギーの消費を減らし設備の腐食を防ぐ。

図1 鉄鋼冶金でのCO2循環利用模式図

図1 鉄鋼冶金でのCO2循環利用模式図

 鉄鋼冶金工程でのCO2の循環利用は、鉄鋼冶金の生産技術向上、鉄鋼企業の省エネと、環境に優しく持続可能な発展の促進にとって重要な意味を持つ。このプロジェクトの応用研究を通じ、転炉ガスの回収利用に限っては、鉄鋼1トンあたり10.5Nm3のCO2が分離・循環利用でき、CO2を分離する転炉ガスの熱量を大幅に高められることが分かっている。

4.まとめ

 CO2排出は地球の気候に甚大な影響を与えており、人類社会の生産、消費、ライフスタイル、生存空間など、社会・経済発展の各分野にまで関わる重大な問題である。長い目で見れば温室効果ガスの問題を根本的に解決する方法は、エネルギー構造を調整し、石炭などの化石燃料に代わる新たなエネルギーを開発することである。排出削減の厳しい現状にとって、CCS技術は温室効果ガス排出緩和のための最新技術であり、最も速く有効な手段であるといえる。その応用規模、コスト分析を総合してみると、単純な地質隔離や海洋隔離は短期間内に幅広く応用することは難しいが、CO2の工業利用固定方法は発達しており、コストが比較的低く、現段階で排出削減のため、最も望ましい方法である。新たなCCS技術を開発すると同時に、異なるCO2ガス供給源と分離される気体の組成について、その工法の技術パラメーターの研究・設計を行うことも、重要な意義のある任務の一つである。

 鉄鋼冶金は工業の中でも排出量が多い部門であり、ガス中のCOとCO2を回収分離し、CO2循環利用のための新技術を開発することで、CO2排出を効果的に削減できる。これは環境負荷を引き下げると同時に大きな経済的利益をもたらすもので、冶金工業の今後の発展にとって非常に深い意味をもつ。


さくらサイエンスプランウェブサイト

さくらサイエンスプランウェブサイト

 

中国関連ニュース 関連リンク

オリジナルコンテンツ

柯隆が読み解く

2014/2/18更新
「中国の歴史問題」

富坂聰が斬る!

2013/12/27更新
「中国賃金事情」

和中清の日中論壇

2014/2/3更新
「失望」に潜む米国のメッセージと日本の「積み木崩し」

田中修の中国経済分析

2014/2/7 新コーナー開設
「中央経済工作会議のポイント」

服部健治の追跡!中国動向

2014/2/27 新コーナー開設 「安倍総理の靖国神社参拝に想う(上)」

川島真の歴史と現在

気鋭の研究者が日中関係を歴史から説き起こす。幅広い視点から新しい時代の関係を探る。

科学技術トピック

New

2014/3/5更新
「赤外線カメラと簡牘資料の日中共同研究」
工藤 元男

取材リポート

New

日中関連、科学技術関連のシンポジウム・講演等を取材し、新鮮なリポートをお伝えします。

中国の法律事情

New

2014/3/7更新
「百度(バイドウ)の著作権侵害をめぐる攻防の結末」朱根全

日中交流の過去・現在・未来

日中交流のこれまでの歩みとこれから

日中の教育最前線

日中の教育現場の今をレポート

中国国家重点大学一覧

 

中国関連書籍紹介

New

2014/3/12 書評追加掲載

文化の交差点

New

2014/3/18更新
「日本における中国古代絵画」朱新林

中国実感

日本人が実感した中国をレポート

印象日本

中国が日本に滞在して感じたことをレポート

CRCC研究会

過去の講演資料、講演レポート

CRCC中国研究サロン

過去の講演資料、講演レポート

最新イベント情報

アクセス数:31043468