第42号:環境・エネルギー特集Part 3-地球環境保護の取り組み
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中国北方の農村における低炭素適合技術の研究とその実用化

2010年 3月10日

鄧小文

鄧小文(Deng Xiawen):
天津市環境保護科学研究院固形廃棄物・環境安全室主任

天津市環境保護科学研究院固形廃棄物・環境安全室主任、高級技師。1976年12月生まれ。2007年、中国科学院瀋陽応用生態研究所を卒業し、理学博士の学位を取得。固形廃棄物の資源化利用、生態系の物質循環、低炭素技術の開発等の研究に主に従事。

共著:馬建立、周濱、袁雪竹

要旨

 「低炭素経済」は低エネルギー消費、低公害を基礎とするグリーン経済であり、これは気候温暖化に対応するための必然的な選択である。農業は温室効果ガスの大きな排出源であり、その排出の抑制は中国の温室効果ガス排出削減における主要な措置の1つとなる。本論文は温室効果ガス排出削減の視点から、中国北方の農村地域で普及と研究開発が進められている多種の低炭素適合技術を紹介する。主には有機廃棄物嫌気性発酵技術、家畜・家禽糞尿好気性堆肥技術、農村太陽エネルギー利用技術、農村有機廃棄物集中処理技術、バイオマスエネルギー利用技術、土壌検定・配合施肥技術等が含まれる。

1 前書き

 現在、地球温暖化は世界的に広く注目される話題となっている。最新の気候変動データによれば、過去100年の間に、世界の年平均地上気温は0.3℃~0.6℃上昇しており、2100年にはその平均気温が1.0℃~3.5℃上昇する見通しである。地球の気候変動を招いた主な原因は人為的な活動で排出されるCO2、CH4、N2O等の温室効果ガスによるものだ。こうした背景の下、温室効果ガスの排出を減らす経済成長モデル--低炭素経済がますます重視されている。

 低炭素経済は低エネルギー消費、低排出、低公害を基礎とする全く新しい経済モデルである。それは技術革新、制度刷新及び発展パターンの転換を進め、再生可能エネルギーを主要なエネルギー源とし、エネルギーの利用効率向上とクリーンエネルギー構造の確立を中心に据えたものである。中国科学院が先頃発表した「2009年中国持続可能な発展戦略報告」には、低炭素経済の発展を図る中国の戦略目標が示されている。即ち2020年末までに、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を50%前後削減するというものである。その中の1つの重要な戦略的措置が低炭素技術システムを徐々に確立・整備することである。

 農業は温室効果ガスの大きな排出源である。IPCC.2007の報道によれば、2005年に世界が人為的に排出した温室効果ガス(GHG)のうち、農業が排出したN2Oは60%、CH4は50%を占めており、農業管理を改善するだけで260MtCO2e/年に上るGHG排出削減の潜在力を引き出すことができるという。中国の農村地域は広大であり、農業生産は温室効果ガス(CO2、CH4、N2Oを含む)排出の中で大きなウエートを占めている。中国政府は農業の温室効果ガス排出抑制を国の温室効果ガス排出削減の重要な措置とし、一連の行動を起こした。本論文は低炭素経済の理念を踏まえ、現在、中国北方の農村地域で普及と研究開発が進められている低炭素適合技術を系統的に紹介する。

2 中国北方の農村地域における低炭素型技術の普及の現状

2.1 家庭用の農村有機廃棄物嫌気性発酵技術

 有機廃棄物の嫌気性消化は有機廃物(例えば人・家畜の糞尿、食品ごみ)を処理するシステムであり、微生物が酸素欠乏の条件下で有機物を分解し、メタン(沼気)及び良質な肥料となる流出液を生成すると同時に、原料中の大部分の病原体を破壊する。家庭用の有機嫌気性発酵技術は、農家を基本的な生産単位とする中国農村の経済成長モデルに基づき、通常の嫌気性発酵システムを小型化、単純化したもので、家畜・家禽の糞尿、作物の茎、台所ごみ等の農村有機廃物を処理する。設計が簡単で、コストが低く、取り扱いやすく、これは現在、中国の農村地域で主に普及している低炭素適合技術の1つとなっている(図1)。この技術をよりよく普及させるため、国は「家庭用メタンガス発生タンク標準図面集」(GB/T4750-2002)、「家庭用メタンガス発生タンク品質検査・検収基準」(GB/T4751-2002)、「家庭用メタンガス発生タンク施工取扱規程」(GB/T4752-2002)、「農村家庭用メタンガス管路設計規範」(GB/T7636-87)、「農村家庭用メタンガス管路施工・据付取扱規程」(GB/T7637-87)等の一連の規格と技術規範を公布し、農民がこの技術を採用するのを指導している。

図1 中国北方の農村における嫌気性発酵反応施設

図1 中国北方の農村における嫌気性発酵反応施設

 この技術が普及すれば、農村の有機廃棄物を処理し、農民に安価でクリーンなエネルギーを提供するという二重の目標を達成することができ、比較的良好な排出削減効果を持つ。天津薊県大巨各荘を例にとると、この村の農家戸数は254、人口1,150人で、分散飼育・繁殖の方式を採用し、豚2,100頭、牛8,000頭、アヒル1,400羽をそれぞれ飼っている。クリーン開発メカニズム(CDM)理事会(EB)が承認した方法論AM0006-糞尿管理システムにおける温室効果ガスの排出削減及び、AM0016-畜舎内での動物飼養における改良型動物糞尿管理システムを利用し、プロジェクト活動による毎年の排出削減量を計算すると、その推定値は1,296.19tCO2eとなる。

2.2 農村の有機廃棄物好気性堆肥技術

 嫌気性消化技術は廃棄物の処理量に制限があることから、家庭用嫌気性発酵技術を採用するだけでは、農村での有機廃棄物処理要求を満たすことが難しい。このため、好気性堆肥技術も農村有機廃棄物のもう1つの管理方法としてかなり広く普及している。好気性堆肥プロセスは実質的に炭素・窒素循環の中で腐植質を形成するプロセスであり、堆肥材料中の炭素物質は主に微生物の活動のための炭素源を提供するのに用いられる。天津寧河県農村の豚糞堆肥を例にとると(図2)、豚糞:稲わら:フライアッシュ=3:1:1の割合である。堆肥化処理の過程で、CO2の発生量は明らかな減少傾向を示し、特に堆肥ができる前の35日間で急速に低下し、その後、緩やかに減少していく。豚糞堆肥が完成すると、水溶性有機炭素含有量は堆肥前に比べて50%~70%減少する。

図2 農村の好気性堆肥プラント概要図

図2 農村の好気性堆肥プラント概要図

 好気性堆肥が完成した後、有機物はかなり安定した腐植質物質となり、分解速度が大幅に低下する。肥料が土に返った後は、土壌炭素の蓄積に有利である。同時に又、有機肥料を使用すれば、化学肥料の使用量を大幅に減らし、化学肥料の生産過程でのCO2排出量を削減することができる。

2.3 農村の太陽エネルギー利用技術

 中国北方は地理的に見て太陽エネルギー資源が非常に豊かである。大部分の地域は年間日照時間数が2,000~3,000時間に達し、太陽エネルギーの放射量は約1,000~1,800kWh/m2となる。特に農村地域は土地が広々とし、基本的に日光を遮る高層建築がなく、太陽光の照射を十分に受けることができる。農村の各家庭には広い庭と比較的大きな屋根があり、小型のソーラー設備を取り付け、自家用とすることができる(図3)。

 現在、農村地域で主に普及しているのはソーラー温水器とソーラー暖房システムである。ソーラー温水器は操作が簡単で、価格が安く、技術が成熟し、多くの農家で使われている。現在の技術水準と価格から計算すると、ソーラー温水器は5年前後でコストを回収することができる(その耐用寿命は15年以上)。天津市寧河県エコ農村モデル基地のデータによれば、1日当たりの生活用温水必要量を100リットルとして計算し、初期水温を10℃、温水温度を40℃に設定すると、ソーラー温水器の使用で1日当たり3.5kWhのエネルギーを節約することができる。年間では1,277.5kWhの節約となり、これは標準炭426kgの燃焼で放出される熱量に相当する。

図3 農村の家庭用ソーラー温水器

図3 農村の家庭用ソーラー温水器

 ソーラー温水器に対し、ソーラー暖房システムの応用は中国の農村ではまだ始まったばかりであり、試みの段階にある。ソーラー暖房システムに必要な集熱面積はソーラー温水システムよりもずっと広く、取付位置に対する要求が比較的高い。このシステムは北京と天津の幾つかの新しい農村建設の中で既に応用されている。ソーラー暖房システムの現在の主な問題点は冬季の暖房保証率が比較的低いことであり、一般にはその他の手段を講じて熱供給を補う必要がある。一方、夏季はソーラーシステムで生成される生活用温水が実際の消費量を大幅に上回っており、ソーラー集熱システムは密閉、遮蔽等の方法により太陽から得る熱を減らさざるを得ないという。このため、冬季と夏季の熱量バランス問題の解決は農村にソーラー暖房システムを普及させる上での重要な技術問題となっている。

2.4 農村の有機廃棄物集中処理技術

 この技術は主に農村の家畜・家禽集中飼育地区で採用されている。集中飼育方式は中国北方地域に広く見られる。一般には村落を単位として共用地に動物飼育・繁殖団地を設け、村民がこの中で豚、アヒル等の家畜・家禽を飼養している。団地は担当責任者を置き、少額の使用料を徴収する。この団地は公衆衛生と公共環境を改善し、専門的管理を実現しており、大規模な農村にとって、集中飼育・繁殖は良い選択だと言える。

 集中飼育・繁殖団地では家畜・家禽の糞尿が大量に発生するため、完全混合式嫌気性反応器(CSTR)を採用するケースが多い。この反応器は通常の嫌気性反応器内に攪拌装置を取り付けており、発酵原料と微生物が完全な混合状態に置かれる(図4を見ること)。通常の嫌気性反応器に比べ、活性ゾーンが反応器全体に広がり、効率が著しく向上する。この反応器は普通、恒温連続原料装入又は半連続原料投入の方法を採用している。反応器の内部では、新しく入った原料が攪拌作用によって発酵器内の発酵液と素早く混合され、その結果、発酵基質濃度は終始低い状態に保たれる。また、排出される原料液も発酵液の基質濃度と等しくなる。成長が遅いメタン生成菌の増殖速度と流出速度のバランスを維持するため、一般的に滞留時間が長く、4~10日間を要する。中温発酵時の負荷は3~4kgCOD/m3・dで、高温発酵は6~10kgCOD/m3・dとなる。

図4 集中式嫌気性発酵反応器

図4 集中式嫌気性発酵反応器

 家庭用の嫌気性発酵システムに比べ、この反応器は規模が大きく、生成されるメタンガスは飼育・繁殖団地と村落に熱源を提供でき、また、小型発電装置を駆動し、同団地の電力供給問題を解決することもできる。

2.5 バイオマスエネルギーの利用技術

 バイオマスエネルギーは植物の光合成により地球上に固定される太陽エネルギーである。光合成で生成される物質は年間1,730億tに達し、その中に含まれるエネルギーは世界のエネルギー総消費量の10~20倍に相当するが、現在の利用率は3%にも満たない。バイオマス燃料の成分の中では硫黄と窒素の含有量が少なく、その燃焼で生じるSOx、NOxの量も少ない。中国の北方地域で既に利用されているバイオマス燃料は農業廃棄物と林業廃棄物の2種類に分かれる。農業廃棄物はトウモロコシ、小麦、大豆の茎が中心となっており、生長周期が短く、再生速度が速く、燃料の燃焼が十分である等の顕著な利点を持つ。林業廃棄物の主なものは森林の伐採木、木材加工の端材及び林木の剪定枝である。

図5 農村の茎ガス化炉

図5 農村の茎ガス化炉

 現在、バイオマスエネルギーの主な利用形態には熱分解ガス化技術、ブリケッティング直接燃焼技術の2種類がある。熱分解ガス化技術はまず農作物の茎等のバイオマス原料をチップにし、酸素欠乏の状態下で不完全燃焼させ、水素、一酸化炭素等の可燃ガスを大量に発生させる。その後、ガスに対し、冷却、不純物除去、タール除去の処理を行い、ガスタンクに送り込み、管路網で農家に供給する。茎ガス化による集中的なガス供給方式は液化ガスを使用するよりも価格がずっと安く、その上、使い勝手がよく、クリーンで衛生的であり、農民に喜ばれている。しかし、この技術は実用の過程でタールが管路を詰まらせるという問題があり、普及の妨げとなっている。ブリケッティング直接燃焼技術は農作物の茎等のバイオマス原料を粉砕、造粒、固形化し、専用ボイラに送って燃焼させ、熱を供給したり発電を行うものであり、バイオマス資源が豊かな地域での応用に適している。しかし、原料の供給、価格、輸送面での影響を受け、広範囲に普及させるにはなお難しい点がある。

2.6 土壌検定・配合施肥技術

 中国農業部は2005年から土壌検定・配合施肥技術の全国的な普及に取り掛かり、2006年に「土壌検定・配合施肥技術規範(試行)(改正稿)」を公布した。この技術は配合施肥技術の原理に従い、土壌検定と肥料の圃場試験を行った後、作物と土壌のタイプ別に配合施肥モデルを確立し、有機肥料の合理的な施用を踏まえ、窒素、リン、カリウム及び中量元素、微量元素等の肥料の施用品種、数量、施肥時期と施用方法を示すというものである。その主な目的は土壌の肥沃度を改善し、化学肥料の施用量を少なくし、農業の面源汚染を減らすことにある。この技術の普及により、化学肥料の利用率が平均8%以上向上し、窒素肥料が10%~15%節約された。客観的に見ると化学肥料の使用量が減少し、化学肥料の生産過程での温室効果ガス排出が削減されたことになる。同時に又、農地特に水田での窒素肥料の施用量が減っており、これは水田からのN2O排出量を減らし、温室効果ガスの排出削減を実現するのに役立つ。

3 結論と展望

 中国は70%を超える人口が農村で生活しており、農業は温室効果ガス排出の中で大きなウエートを占める。経済発展と社会管理の面で立ち遅れているため、都市及び工業部門に比べ、農村での温室効果ガス排出削減は比較的容易であり、幾つかの管理手段と簡単な技術を採用すれば、良好な効果を上げることができる。

 発展途上国として、中国は当面、排出削減の義務を負わない。このため、現在、中国の農村地域における低炭素技術普及の主な目的は衛生環境を改善し、クリーン燃料を獲得し、農業汚染を減らすことにあり、炭素の排出削減は関連技術の応用過程での副産物にすぎない。2009年11月末、中国政府は2020年の単位国内総生産(GDP)当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で40%~45%削減することを、拘束性指標として国民経済・社会発展中長期計画の中に正式に盛り込んだ。これは低炭素経済の発展と低炭素技術の研究開発が今後、政府からより多くの資金と政策支援を得られることを意味しており、炭素排出削減の社会的効果が技術の開発・実用過程で一段と考慮されることになろう。農村の低炭素技術は向こう10~15年間で高度成長期を迎えるものと見られる。