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中国の光触媒技術応用の現状及び展望

2010年 4月26日

付賢智

付賢智(Fu Xianzhi):
福州大学副学長・教授、光触媒研究所所長、
国家環境光触媒エンジニアリング研究センター主任、
中国工程院院士(工学アカデミー会員)

1957年7月生まれ。1991年、北京大学化学学部物理化学学科を卒業し、理学博士の学位を取得。1991~1993年、北京大学で触媒分野のポスドク研究に従事。1993~1997年、米 ウィスコンシン大学マディソン校で光触媒分野のポスドク研究に従事。1997年以降は福州大学に勤務。中国国務院学位委員会化学学科評議グループメンバー、中国再生可能エネルギー学会光化学専門委員会主任委員、中 国化学学会触媒専門委員会委員等を兼任している。

共著者:李旦振(福州大学国家環境光触媒エンジニアリング研究センター)

 1972年、日本の著名な学者である藤嶋と本多は「Nature」に極めて革新的な論文を発表し、半導体TiO2の単結晶電極で水が光分解され、水素と酸素が発生するとの現象が報告された。こ の重要な発見は、人類が太陽エネルギーを開発・利用するための全く新しい道を開くものであり、不均一系光触媒の応用研究がこの時から始まった。

 中国の光触媒研究は1970年代中・後期にスタートしたが、当時は少数の科学研究者が関連の研究に従事するだけであり、その研究内容は光触媒による水の分解と水素製造が主なものであった。1 990年代後期から、中国の政府関係部門は光触媒の基礎・応用技術の研究開発に対する支援を強化するようになり、国家重大科学技術難関攻略プロジェクト、973計画プロジェクト、863計画プロジェクト、国 家自然科学基金重点プロジェクト等を含む多くの科学研究プロジェクトが相次いで手配・実施された。その結果、中国では近年、光触媒の基礎研究と応用技術開発の水準が全体的に著しく向上し、一 連の重要な研究成果が得られ、光触媒技術の幅広い実用化が大いに促され、この技術を基礎とする新興の環境保護産業が初歩的に形成された。

 中国では光触媒の研究規模が拡大し、福州大学北京大学清華大学南京大学吉林大学浙江大学西安交通大学武漢理工大学中国科学技術大学等を含む百校近くの大学及び、中国科学院化学研究所、理 化技術研究所、大連化学物理研究所、上海珪酸塩研究所、プロセス工学研究所等を含む数十の研究機関が光触媒の基礎・応用研究を進めている。また、数百社の企業が光触媒製品の開発と生産に従事しており、光 触媒の工業生産を牽引役とし、空気浄化、水浄化、環境調和型建材等の分野での光触媒技術の応用を導き手とし、製品の研究開発、生産、サービスを一体化したハイテク産業チェーンがほぼ出来上がった。初 歩的な見積もりによれば、現在、光触媒を利用した中国の環境保護技術・製品の市場規模は百億元前後に達する。本論文は中国の光触媒技術応用の現状、存在する問題点及び発展の見通しについて簡単に説明し、そ の展望を示すものである。

1.中国の光触媒技術応用の現状

1.光触媒の工業生産

 光触媒は光触媒技術を応用するための基礎となる。光触媒技術の応用規模の拡大に伴い、光触媒の調製も実験室段階の調製からロット生産へと次第に拡大し、さらには大規模な工業化生産も行われている。大 まかな統計によれば、2009年末現在、光触媒を生産・販売する中国企業は300社近くあり、全国各地に広く及んでいる。現在、生産されている主な光触媒はTiO2をベースとするナノ光触媒である。具 体例は次の通り。福州桑莱斯科技開発有限公司は主にTiO2をベースとするナノ固体超強酸光触媒の生産に従事しており、その生産規模は100t前後に達する。広 州奥因光触媒有限公司は先進水準をいくナノ光触媒材料の自動化生産ラインが既に完成しており、TiO2の粒径は5~10nmの範囲内に抑えられ、年産規模は1,000t以上に達する。広 州市光チタン環保科技有限公司はナノ光触媒材料の研究・生産・応用を進めており、年産規模は1,000tを超える。江 蘇河海ナノ科技股分有限公司はTiO2ナノ酸化物の粉体光触媒を中心とする年産500tの生産ラインを建設し、シリーズ製品を発売している。山東莱陽子西莱環保科技有限公司はナノ二酸化チタンの光触媒粉体、液 相光触媒等の製品を生産している。同公司は年産能力300tのナノTiO2生産ラインを持ち、年産額は5,000万元余りとなる。

2.空気浄化分野における光触媒技術の応用

 現在、空気浄化は中国の光触媒技術の主な応用分野であり、光触媒を利用した空気浄化技術製品には光触媒室内空気浄化器、建物内空気集中浄化光触媒設備、工業廃ガス(トリフェニル廃ガス、有機系廃ガス、悪 臭ガス)光触媒処理設備、特殊密閉キャビン光触媒浄化システム等が含まれる。

 光触媒を利用した空気浄化の分野では、中国の多くの大学や研究所が応用研究に取り組んでいる。そのうち最も代表的な研究は福州大学清華大学北京工業大学華南理工大学、華 東理工大学等によるものであり、実用化のための一連の研究成果が得られた。光触媒技術と他の先進的技術(O3酸化技術、低温プラズマ技術、吸着技術等)を結合した室内空気浄化技術・製 品の研究開発成果は既に関連企業との協力で産業化が実現されている。光触媒室内空気浄化器と建物内空気集中浄化設備を生産している中国の代表的企業には福建漳州万利達光触媒科技有限公司、武 漢玉立奥博科技発展有限公司、北京中西遠大科技有限公司、迪美国際集団環保科技(中国)有限公司、上海華明高技術(集団)有限公司、東莞市宇潔新材料有限公司、江陰嘉頓環保設備有限公司等がある。

3.環境調和型建材分野における光触媒技術の応用

 光触媒膜材料が持つ光酸化還元、超親水性、殺菌等の機能に基づき、セルフクリーニング抗菌塗料、セルフクリーニング抗菌磁器タイル、セ ルフクリーニング防曇ガラス等を含む一連の環境調和型建材が既に開発され、産業化と実用化も進んでいる。光触媒膜機能材料はさらに電力分野の防汚・フ ラッシュオーバー防止高圧碍子及び一部の医療器械等に応用されている。

 光触媒を利用した環境調和型建材の分野では、福州大学、上海復旦大学武漢理工大学中国科学院理化技術研究所等が一連の新しい生産技術・製品を研究開発し、関 連企業との協力で製品の産業化と実用化を進めている。セルフクリーニング抗菌磁器タイルを開発・生産している主要企業には蘇州宏盛陶瓷業有限公司、晋江騰達陶瓷有限公司、広西北流市環球陶瓷有限公司、中 商世紀ナノ公司、明天ナノ科技有限公司等がある。また、セルフクリーニング防曇ガラスを開発・生産している主要企業には中科ナノ技術工学センター有限公司、中国耀華股分有限公司、湖 北三峡新型建材股分有限公司等がある。中科ナノ技術工学センター有限公司が生産しているセルフクリーニングガラスは常温常圧吹付け塗装の方法を採用し、工程が簡単であり、こ の技術の応用に対するハードルが引き下げられた。これにより、ナノセルフクリーニングガラスはコストダウンが実現し、市場のキャパシティーが確保され、メーカー側も十分な利益を得られるようになった。中 国国家大劇院のドームガラスには同社の製品が採用されている。中国耀華股分有限公司は化学気相析出技術を採用し、フロートガラスの生産過程において、二酸化チタンナノ膜をガラス表面に直接メッキしており、ガ ラスにセルフクリーニング機能を持たせた。国家建築材料試験センターが検査測定した結果、その製品の性能は英国ピルキントン社の同類製品の水準に達し、東北、華北、華東等の市場に既に投入されている。湖 北三峡新型建材公司が武漢理工大学と共同開発したTiO2基薄膜セルフクリーニングガラスはかび止め、防曇、殺菌、消毒の機能を備えており、建物のガラスカーテンウォール、ガラス照明器具、自動車ガラス、車 用バックミラー、太陽電池カバープレート、ソーラー温水器ガラス等に用いることができる。これらの製品開発の成功により、中国では光触媒セルフクリーニングガラスの生産への応用が急速に進み、市 場も活発に動き始めている。

4.廃水処理の分野における光触媒技術の応用

 中国の水質汚濁問題は非常に深刻である。特に石油化工、捺染、製紙、製薬、コーキング、農薬等の重度汚染業種の有機系廃水が大量に排出され、広域汚染源となっている。その特徴は有毒の残留性有機汚染物質( POPs)を大量に含んでいることであり、現在の生化学技術、吸着技術等では徹底的に除去することができず、自然界でも分解しにくい。研究結果が示しているように、有 毒の分解しにくい有機汚染物質の多くは光触媒作用により効果的に除去又は分解することができる。このため、光触媒酸化技術及びこの技術と他の技術をミックスした統合技術を採用し、被 汚染水域の高度浄化を進めることは近年、水質汚濁処理におけるホットな研究テーマとなっている。現在、光触媒技術を基礎とする新しい水質汚濁処理技術の研究が大きく前進しており、石油化工、捺染、製紙、製薬、コ ーキング、農薬等の有機系工業廃水の浄化処理及び富栄養化水域の藻類除去、飲用水の消毒等の面で小規模な実証的応用が既に行われている。当面と今後の一時期において、中 国政府が水質汚濁防止の重点対策を強力に推進し、また、光触媒技術を基礎とする新しい水質汚濁処理技術が成熟・向上するのに伴い、この分野における光触媒技術は大規模な実用化が進み、水 質汚濁処理産業の発展を大きく後押しするものと思われる。

2.存在する問題点及び発展の見通しと展望

1.光触媒技術の応用における問題点

 光触媒技術は新しい先進的な環境保護技術として多くのユニークな優位性を備え、空気浄化、環境調和型建材、水質汚濁処理等の環境分野で既に応用が始まっている。しかし、目下の所、二 酸化チタンをベースとする半導体光触媒にはなお幾つかのカギとなる技術的難題があり、工業面での応用がひどく制約されている。特に際立つ問題点は次の通り。

  1. 光触媒及びその反応プロセスの効率が低過ぎ、大量で高濃度の工業廃ガス・廃水を処理することは難しい。
  2. 太陽エネルギーの利用率が低い。可視光に誘導され、且つ高い量子効率を持つ実用的な新型光触媒の開発が待たれる。
  3. 光触媒エンジニアリング化のカギとなる技術・設備で突破口を開く必要がある。これには不均一系反応工学とその制御技術(例:大型・高効率光触媒反応器の設計、反応制御、光 源制御システムの設計及びそのシステム統合)、光触媒の有効負荷と有効分離技術、光触媒不活性化の抑制及び原位置再生技術等が含まれる。

 上記のカギとなる問題を解決すれば、光触媒技術の大規模な実用化が進み、新興の光触媒環境保護産業の飛躍的発展が力強く後押しされることになろう。

2.中国の光触媒技術応用の見通しと展望

 環境汚染問題の解決は今や、中国が国民経済・社会の持続可能な発展を実現し、国民の生活・健康水準を高める上での差し迫った戦略的かつ現実的な要請となっている。中 国政府は環境保護問題を大いに重視しており、環境保護を基本的国策に据え、その技術開発を国の科学技術発展の戦略重点の一つとしてとらえ、環境保護への資金投入を大幅に増やした。政 策と巨額の投資による強力な後押しのお陰で、中国の環境保護産業は近年、飛躍的な発展を遂げた。新しい先進的な環境保護技術に対する大きな市場需要は、中国の光触媒技術の発展と応用を力強く後押しし、また、新 興の光触媒環境保護産業を急速に発展させるためのかつてない歴史的チャンスを与えることになろう。

 同時に又、光触媒の基礎・応用研究が深まるのに伴い、光触媒の基本プロセスを主な特徴とする水分解・水素製造、染料増感太陽電池等のカギとなる技術のネックが解消される見通しである。そうなれば、エ ネルギー分野における光触媒技術の応用及びその関連産業は活発化するに違いない。これは中国がエネルギー不足問題を解決する上で重要な意義を持つ。

 今後、光触媒技術を基礎とするハイテク産業が中国に出現し、これが関連産業の技術の進歩と発展をリードし、顕著な社会的・経済的効果を生むものと予想される。

主要参考文献:

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