第43号:光触媒技術
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中国における光触媒材料の研究開発

2010年 4月 5日

劉 興軍

劉 興軍:
厦門大学(アモイ大学)材料学院院長教授

工学博士。中国「国家傑出青年科学基金」受給者。中国国家973、863などプロジェクト責任者、担当者。Scienceなど学術論文130数本発表。

 

周 忠華

周 忠華:
厦門大学(アモイ大学)材料学院教授

工学博士。中国無機化工academic leader。
1998-2007年、コバレントマテリアル(株) (旧名:東芝セラミックス(株))研究所。2005年主任研究員。研究分野:光触媒および応用、合成シリカなど無機材料。

 

前書き

 "Honda - Fujishima Effect"[1]が発表されて以来、光触媒は幅広い分野の研究者に注目され[2]、その基礎および応用研究は世界中で盛んに行われている。現在、主要な光触媒工業化製品はTiO2である[2]。中国にも大学、研究所における光触媒に関する研究は多い。光触媒分野での中国National Engineering Research Centerは福建省福州大学にある。そこで、TiO2に関連する研究を中心に、福州大学における光触媒材料の研究開発状況について紹介する。

1. 基礎研究

(1)TiO2ベース固体超強酸触媒

 TiO2ベースのより高活性光触媒の研究はTiO2の実用にとって重要である。TiO2ベース固体超強酸触媒に関する研究は、福州大学副学長Fu教授およびFu教授を中心に創立された福州大学光触媒研究所で行われている。

 Fu教授等はTiO2ベース固体超強酸触媒を九十年代後半に報告した[3-4]。9wt% SO42-含有の硫酸化TiO2 (TiO2/SO42-)はゾル-ゲル法で得たTiO2凝集体を1M H2SO4に浸漬させ、110℃3h乾燥を経て、最後に500℃3h焼成により作製する[3]。TiO2ベース固体超強酸触媒(TiO2/SO42-)は安定した性能や、吸収端のblue-shiftなどの特徴を持ち、TiO2より高活性である[4]。以来、TiO2ベース固体超強酸触媒を中心に、新型、高活性、可視光反応型光触媒のシリーズの研究開発が行われている。

福州大学光触媒研究所は光触媒分野で中国National Engineering Research Centerになっており、Fu教授は2009年12月に院士(中国工程院)に選ばれた。

(2)TiO2光触媒と基板との界面作用

 TiO2光触媒と基板との界面において、界面の物理化学状態はTiO2の光触媒活性に影響を及ぼす。

 アルミ基板の界面拡散に及ぼすTiO2光触媒活性の影響はアモイ大学材料学院Liu研究室が報告した[5-6]。Tetra-n-butyl titanateを前駆体とし、ゾル-ゲル法でアルミ基板上にTiO2薄膜を作製する。450℃30minの焼成により粒径10-20nmの緻密なTiO2薄膜を得る。TiO2薄膜とアルミ基板との間に、明確な界面拡散があり、TiO2薄膜中のAl3+イオンがアルミ基板からの界面拡散によるものであり、拡散層の厚みは約75nmである。界面拡散はTiO2光触媒活性を低下させる。TiO2光触媒活性に対して、TiO2薄膜厚みの増大はアルミ基板に及ぼす影響を小さくする[5]。

(3)TiO2ナノチューブアレー

 ミクロンオーダーの長さで規則正しく並べたTiO2ナノチューブアレーはアモイ大学化学化工学院のLin研究室が報告した[7]。作製には電気化学陽極酸化法を用いる。NaF 0.5%+ Na2SO4 1mol/Lの中性溶液中で、チタン板を陽極、白金板を陰極とし、印加電圧、反応時間のファクターを変えることで、形状とサイズをコントロールしたTiO2ナノチューブアレーの作製が可能になる。印加電圧20V、陽極酸化時間5hのサンプルは直径100nm、長さ2.6-3.3μTiO2のチューブから構成され、規則良く並べられたナノチューブアレーを得る。陽極酸化電圧は形状とサイズに大いに影響する。500℃の熱処理したサンプルは光触媒活性が最大になる[7]。その他、窒素ドープTiO2ナノチューブアレー、TiO2ナノチューブアレーを用いるフェノール分解試験などの研究も行われている。

(4)TiO2ナノ薄膜の低温作製

TiO2薄膜は結晶がよく形成されるために、通常のゾル-ゲル法において、450-550℃の焼成が必要である。そのため、低温焼成製造方法の探索は常に科学的興味が高い。

 150℃の低温で、単一anatase結晶型、(101)面優先成長、粒径10-50nm、均一かつ緻密なTiO2薄膜の改良ゾル-ゲル作製方法はアモイ大学材料学院のZeng研究室が報告した[8]。自作TiO2分散液にガラス基板dip-coating後、titanium tetraisopropoxide (TTIP) + n-butanolゾルにdip-coatingする。改良ゾル-ゲル法の150℃焼成薄膜と通常ゾルーゲル(TTIP + n-butanolゾル)の450℃焼成薄膜と比較する。改良ゾル-ゲル法で150℃焼成した薄膜は紫外光-可視光でより吸収特性を持ち、より高い光触媒活性を示す。

 TiO2薄膜の修飾において、遷移金属ドープ、非金属ドープなど方法は注目分野である。ゾル-ゲル法で得られた鉄ドープTiO2 (Fe-TiO2)薄膜をアンモニア雰囲気熱処理することで、鉄、窒素共ドープTiO2 (Fe/N-TiO2)薄膜が作製できる。関連研究はZeng研究室が行った[9]。結果として、Fe/N-TiO2 (0.5 mol%Fe)薄膜は良い可視光親水性を示す。鉄のドープは励起電子とホールとの再結合を低下させ、窒素のドープはTiO2薄膜の可視光吸収を増強させる効果をもたらす。鉄、窒素共ドープはシナジー効果を持つ。

(5)TiO2光触媒の失活および再生

 光触媒酸化反応により、NH3などN含有化合物の光触媒酸化最終生成物はNO3-、H2SなどS含有化合物の光触媒酸化最終生成物はSO42-である。NO3-、SO42-のTiO2表面付着することで、TiO2の活性が失活する。そのため、TiO2光触媒環境浄化応用において、TiO2光触媒の寿命予測が解決しなければならない課題になっており、TiO2光触媒失活と表面付着との定量関係を明確にすることが必要である。そこで、アモイ大学材料学院Zhou研究室ではそのシリーズ研究を行っている。

 TiO2光触媒失活再生特性と表面付着NO3-濃度との相関をZhou等は報告した[10]。TiO2粉末を硝酸液に浸漬することで、意図的にTiO2にNO3-を付着させる。表面付着NO3-濃度は硝酸液濃度によってコントロールする。結果として、TiO2の分解能力失活は吸着能力失活により、表面に付着したNO3-による影響を受けしやすく、TiO2の吸着能力および分解能力は、それぞれ50%失活に対応する付着NO3-濃度について10.50wt%と4.24wt%となる[10]。図-1は吸着能力、分解能力の失活と表面付着NO3-との相関を示す。この結果はTiO2光触媒の寿命予測に有効であろう。

図-1 TiO2吸着能力、分解能力の失活と表面付着NO3-との相関

図-1 TiO2吸着能力、分解能力の失活と表面付着NO3-との相関

その他、Ag/TiO2、TiO2ナノチューブなどTiO2関連光触媒高活性化の研究もZhou研究室で行っている。

2. 応用研究

写真―1 2008年光触媒国際展共同出展

写真―1 2008年光触媒国際展共同出展

 TiO2ベース固体超強酸触媒などの光触媒の応用として、光触媒マスクや、光触媒空気浄化器が福州大学光触媒研究所と企業との共同研究により開発された。これらは2003年SARSの流行抑制に貢献した。

フィールドテストはTiO2光触媒応用技術研究において重要なステップである。中国高速鉄道車両の空気浄化にTiO2光触媒を応用するテストはアモイ大学材料学院などが行った。車両のトイレなどの密閉空間ではTiO2光触媒によるアンモニア濃度の低減が確認できた。

3. 中日共同研究

 例として、アモイ大学と昭和セラミックス(株)との光触媒共同研究室が2008年に創設された。昭和セラミックス(株)は大手セラミックメーカより光触媒セラミックフォーム製造技術移管を2007年に受けた。共同研究室ではTiO2光触媒高活性化を中心に研究している。2008年光触媒国際展にも共同出展して、光触媒セラミックフォーム、光触媒脱臭装置などを展示した。写真-1は当時の様子を示す。

総括

 光触媒技術はワールドワイドにますます普及している中で、中国福建省福州大学における光触媒の研究状況をTiO2に関連した中心に紹介した。基礎研究においては、TiO2ベース固定超強酸触媒や、TiO2光触媒と基板との界面、TiO2ナノチューブアレー、TiO2ナノ薄膜、TiO2光触媒失活再生などの関連研究を行っている。応用研究においては、一部の光触媒製品も工業化した。中日間の共同研究の例もある。光触媒技術が更に大いに発展するのを期待している。

主要参考文献:

  1. A. Fujishima and K. Honda. Nature 238 (1972) 37.
  2. K. Hashimoto, H. Irie and A Fujishima. Jap. J. App. Phy. 44 (2005) 8269.
  3. Fu X.Z, Zeltner W.A., Yang Q. and Anderson M.A. J. Catal. 168 (1997) 482
  4. Fu X.Z, Ding Z.X and Su W.Y. Chinese J. Catal. 20 (1999) 321. (in Chinese)
  5. Zhang W., Wang S.L., Ma Y.Q., Wang C.P. and Liu X.J. Acta Phys.-Chim. Sin. 23 (2007) 1347. (in Chinese)
  6. Liu X.J., Zhang W., Wang S.L., Wang C.P., Ma Y.Q. and Zhang J.B. Chinese Patent. ZL200610036598.5
  7. Zhuang H.F., Lai Y.K., Li J., Sun L. and Lin C.J. Acta Chim. Sin. 65 (2007) 2363. (in Chinese)
  8. Li Y.H., Xiao Q.G., Chen C.F. Huang D.S., Cheng Y.B. and Zeng R.J. J. Functional Materials 38 (2007) 1206.(in Chinese)
  9. Huang D.S., Zeng R.J., Chen C.F. and Li Y.H. Acta Phys.-Chim. Sin. 23 (2007) 1037. (in Chinese)