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二酸化チタンの光触媒反応に基づく光機能材料の設計と調製

2010年 4月23日

張昕彤

張 昕彤(Zhang Xintong、チャン シントン):
東北師範大学物理学院先進光電子機能材料研究センター 教授

男性、1974年6月生まれ。1998年、吉林大学物理化学専攻を卒業し、理学博士の学位を取得。2001~2007年、日本に留学し、東京大学工学部JSPS外国人特別研究員及び神奈川科学技術アカデミー常勤研究員を務める。2007年10月に帰国し、東北師範大学物理学院教授となる。主な研究内容はTiO2光触媒、ナノ構造太陽エネルギー電池、発光材料、フォトクロミック材料等。これまでに80編余りの研究論文と4編の総説論文を発表。

1.グラフェン-TiO2透明導電薄膜及びパターンの光制御調製

 透明導電薄膜材料はマイクロエレクトロニクス、光電子装置及び太陽エネルギー電池等の分野で応用価値が高く、特にフレキシブル透明導電薄膜材料は有機半導体デバイスの開発にとって非常に重要なものである。グラフェン(graphene)は近年広く注目されている透明導電材料であり、導電率が高く、フレキシブルで、透明性に優れるという長所を持つ。シート状のグラフェン酸化物(graphene oxide)をベースにすれば、化学還元、熱還元等の方法を利用し、グラフェン薄膜を調製することができる。しかし、化学還元は有毒試薬を用いる必要があり、また、熱還元方法はフレキシブルポリマーの基底材料に適さない。この他、これらの方法ではグラフェン導電パターンを直接調製することができない。我々は研究の中で、グラフェン酸化物は二酸化チタン(TiO2)の光触媒によってグラフェンに還元できることを発見した。この還元プロセスは大気の雰囲気の下で行うことができ、穏やかで、素早く、汚染がない等のメリットを持つ。その他、この方法を利用すれば、フレキシブルポリマーの基底においてグラフェン-TiO2透明導電パターンを手軽に調製することができる。

 シート状のグラフェン酸化物は石墨をベースにし、Hummer方法を利用して酸化・調製したものである。横サイズがμレベルのこうしたシート層は共役構造を持つsp2炭素マイクロドメインとヒドロキシル基、エポキシ、カルボニル基、カルボキシル基等の置換群を持つsp3炭素マイクロドメインから成る。そのうち、sp2炭素マイクロドメインはsp3炭素マイクロドメインによって仕切られており、このため、グラフェン酸化物のシート層は電気を伝導しない。適切なpH値と濃度の条件下において、グラフェン酸化物シート層とTiO2ナノ粒子は安定した水相分散系を形成することができ、簡単な濾過方法によりグラフェン酸化物-TiO2複合薄膜が生成される。こうした透明複合薄膜は石英、シリコンチップ及びポリマー基底等の表面に容易に転移させることができる(図1a)。紫外光(300~380nm)を照射すれば、グラフェン酸化物-TiO2の水相分散系及び透明薄膜はいずれも黄色から黒色へと変化する(図1b)。吸収スペクトルを見ると、可視スペクトルの波長域での吸収が全体として強まっていることがわかる(図1c)。色の変化に伴い、薄膜の導電性は最初の絶縁から0.5~2Ωcm-1レベルへと高まる(図1d)。XPS測定試験も、グラフェン酸化物は紫外光照射の後、酸素含有量が急激に低下することをはっきり示していた。これらの結果は、紫外光を照射すると、グラフェン酸化物のsp2炭素マイクロドメインが徐々に拡張し、導電性グラフェンのシート層が最終的に形成されることを示している。

図1

図1:(a)(b)紫外光照射の前と後におけるグラフェン酸化物-TiO2混合ゾル及び、
フレキシブルプラスチックと石英の基底で調製したグラフェン酸化物-TiO2薄膜の写真。
(c)紫外光照射時間を変えた時のグラフェン酸化物-TiO2薄膜の吸収スペクトル。
(d)グラフェン酸化物-TiO2薄膜の抵抗率及び吸光度(500nmの個所)の照射時間の変化に伴う傾向図。

 グラフェン酸化物自体は紫外光の照射に敏感でないため、こうした還元プロセスがTiO2によって誘発されたのは明らかである(図2)。紫外光を照射すると、TiO2ナノ粒子は励起されて電子-正孔対を生成する。光生成正孔は粒子表面の吸着水と反応してO2を生成する。一方、光生成電子はグラフェン酸化物のsp2炭素マイクロドメインによって捕捉され、その境界部にあるsp3炭素マイクロドメインの脱ヒドロキシル基及びエポキシ基との反応が始まり、これによってsp2炭素マイクロドメインが拡張され、導電グラフェンのシート層を最終的に生成することができる。我々は、この反応が大気の雰囲気の下で急速に進行し、また、空気中のO2の光生成電子に対する競争反応にも影響されないことを観察した。これはsp2炭素マイクロドメインが光生成電子に対し、強い束縛能力を持つことを物語っている。

図2

図2:TiO2の光触媒反応を利用してグラフェン酸化物を還元する時のメカニズム概要図

 こうした光触媒反応を利用してグラフェン酸化物を還元する方法は、各種の透明導電パターンを調製するのに便利である。紫外光照射の弱熱効果により、こうした方法はフレキシブルポリマーの基底で透明導電薄膜とパターンを調製するのにも適している。図3に示したのは、フォトマスク(photomask)紫外照射を通じて調製した各種の導電グラフェン-TiO2パターンである。その導電部分は非導電部分より濃い色をしている。パターンは使用したフォトマスクと完全に一致しており、そのうち最も細い線状パターンの線幅は10μとなる。図3cの線状パターンのPO方向に沿って、薄膜は導電性を示し、一方、線状パターンと垂直のOQ方向では、薄膜は絶縁性を示している。線幅がさらに狭いフォトマスクを使用すれば、パターンの線幅を一段と縮小することができる。同様に、紫外レーザー・マスクレス法を用い、透明導電グラフェン-TiO2パターンを直接描くこともできる。現在、こうした方法で調製した導電薄膜は抵抗率(0.5~2Ωcm-1)が高過ぎる。この問題はサイズがより大きく、欠陥密度がより少ないグラフェン酸化物のシート層を用いることで解決できる見込み。

図3

図3:フォトマスク法の紫外光制御で調製した3種類の導電グラフェン-TiO2パターン

2.Ag-TiO2薄膜ホログラム材料

 ナノサイズのAg粒子は可視スペクトルと近赤外スペクトルの波長域において、サイズと形状を左右する表面プラズマ共鳴吸収バンドを持つ。2003年、藤嶋氏らはTiO2薄膜の中に沈積したAgナノ粒子が可視スペクトルの波長域で多色フォトクロミズムを示すことを発表した。立間氏らのその後の研究結果が示しているように、この現象は光の励起で、Agナノ粒子からTiO2に電子が注入され、Ag粒子が融解したことによるものである。我々はAg-TiO2薄膜のこうした現象を利用し、ブロードスペクトルバンド応答の特徴を持つホログラフィック光記憶を実現することを思いついた。実験では、「干渉記録・回折再生」というホログラフィーの基本原理を用い、Ag-TiO2薄膜にμレベルのホログラフィー格子を書き込み、この格子に対する紫外光消去を実現させた。伝統的な有機フォトクロミック記憶材料に比べると、Ag-TiO2薄膜は応答スペクトルのバンド幅が広く、熱安定性が高く、調製しやすい等の長所を備えている。

 Ag-TiO2薄膜の調製は2つの手順を含む。まず、doctor-blade法を用い、厚さ4.5μのTiO2ナノ多孔質薄膜を調製し、燒結後さらに光触媒還元方法を利用し、TiO2薄膜内にAgナノ粒子を沈積させた(図4a、4b)。調製した褐色で透明の薄膜には可視と近赤外の波長域をカバーするブロードバンドの吸収スペクトルが現れている(図4c)。532nmのレーザーを照射すると、薄膜は分光ホールバーニング現象が見られ、532nmのスペクトルの周りで吸収が著しく低下した。この現象はAgナノ粒子が光融解し、Ag+イオンとなったことによってもたらされたものだ(図4d)。633nm赤光さらには808nm近赤外光を用いても同じように類似のホールバーニング現象を発生させることができる。紫外光を照射すれば、Agナノ粒子は再生され、分光ホールバーニング部分の吸収も元に戻る。

図4

図4:(a)Ag-TiO2薄膜の走査型電子顕微鏡写真。
(b)Ag-TiO2薄膜の透過型電子顕微鏡写真であり、矢印が示すのはAgナノ粒子。
(c)Ag-TiO2薄膜とTiO2薄膜の吸収スペクトル。挿入図は吸収差スペクトルがAgナノ粒子の吸収の特徴に対応していることを示す。
(d)532nmのレーザーを照射した時のAg-TiO2薄膜の分光ホールバーニングの性質。

 Ag-TiO2薄膜を図5aに示すホログラム記憶実験装置の中に入れた。干渉性をもつ2本の532nm緑光を薄膜表面で交じり合わせ、情報書き込み光とし、1本の632nm赤光を同一点に照射して情報読み出し光とし、紫外光を消去光とする。光sensorを用い、ホログラフィー格子の赤光に対する1次回折信号の変化をモニタリングした。図5bに示すのはAg-TiO2薄膜表面に形成されたホログラフィー格子の成長・消去曲線である。2本の緑光をオンにした後、格子の赤光に対する回折効率は時間と共に指数が上昇し、1分前後で安定値に達した。これは2本の緑光が薄膜表面に明暗交互の干渉縞を形成することができるからである。明るい縞では銀ナノ粒子が酸化されて大量のAg+イオンを形成し、一方、暗い縞ではAg粒子が変化しない。こうして明暗の縞がある個所では分光吸収、薄膜屈折率等のパラメータに差が現れ、薄膜表面に周期的な格子が生成される。図5cと5dはそれぞれ赤光1次回折スポットとホログラム記憶画像の赤光再生写真である。格子の回折効率値が安定した後、緑光をオフにして紫外光ランプをつけると、二酸化チタンは励起によって光生成電子を発生させ、膜内のAg+イオンを還元する。これに先立ち、2本の緑光が生成した格子は徐々に消去され、その回折効率は下がり始める。こうした書き込みと消去の実験は何度行っても、似たような傾向が現れる。紫外光をAg-TiO2薄膜に照射しなかった場合、生成されたホログラフィー格子は2週間置いた後も75%以上の格子回折強度を保つことができる。有機メルカプトアルコールでAg-TiO2薄膜を処理するなら、ホログラフィー格子をさらに安定させることができ、処理後の格子は赤色又は緑色のレーザーを連続照射してもその回折信号が変わらず、データを永久に記憶することができる。

図5

図5:(a)ホログラム記録実験装置の概要図。
(b)緑光書き込みと紫外消去を繰り返す条件下でのAg-TiO2薄膜読み出し光の1次回折効率時間変化曲線。
(c)矢印が示すのはAg-TiO2薄膜に生成されたホログラフィー格子の回折によって形成された読み出し光の1次回折スポットである。
(d)Ag-TiO2薄膜にまず十字形のパターンを書き込んだ後、赤光が読み出した効果の写真。

 本研究におけるAg-TiO2薄膜は多孔質構造をしており、Ag粒子の光融解で生成されたAg+イオンが膜体内を自由に移動できるため、紫外光は格子を完全に消去することができない(約10%の回折信号が残留)。この他、薄膜の透明度を高めて、暗い縞がある所のAg粒子に対する散乱光の融解効果を弱める必要がある。今後の研究では薄膜構造の設計に力を入れ、Ag+の拡散を抑え、薄膜の透明度を高めることに努める考えだ。

3.TiO2-SnO2ナノ繊維光触媒

 ナノ繊維TiO2は新しい光触媒材料である。伝統的な粉体又は薄膜の光触媒材料に比べ、静電紡糸(electrospinning)技術を利用して調製したTiO2ナノ繊維マット(nanofiber mat)は比表面積が広く、また、分離、回収しやすく、繰り返し使用できる等の長所を備えている。この他、静電紡糸における前駆体の溶液成分と後処理プロセスを調節・制御すれば、ナノ繊維複合光触媒材料を手軽に調製することができる。筆者らが以前発表したナノ繊維TiO2-SnO2の光触媒によるアセトアルデヒドの分解は、組成が同じ薄膜の光触媒速度の15倍以上になる。

図6

図6:TiO2/SnO2異質構造複合ナノ繊維を調製する時の概要図

 我々はTiO2ナノ繊維を鋳型とし、水熱反応を利用してその上にSnO2を成長させ、TiO2/SnO2異質構造ナノ繊維の光触媒を調製することを思いついた(図6)。SnO2と複合すれば、TiO2ナノ繊維での光生成電子と正孔の有効分離を強め、TiO2ナノ繊維の光触媒機能を著しく高めることができる。図7に示すように、SnO2ナノ構造はTiO2ナノ繊維の表面に均一して成長しており、団粒現象も発生していない。これはTiO2ナノ繊維の表面に存在する大量の活性点がSnO2ナノ構造の核形成と成長を助けるからである。水熱反応条件を調節すれば、ナノ粒子又はナノ棒状SnO2に修飾されたTiO2ナノ繊維を調製し、また、TiO2繊維の表面におけるSnO2の被覆度をコントロールすることができる。研究結果がはっきりと示すように、TiO2-SnO2複合ナノ繊維の光触媒はローダミンB(Rodamine B)染料溶液を分解する時の活性がTiO2ナノ繊維より明らかに高く、ナノ棒状SnO2が活性の向上に顕著な働きをしている(図7)。こうした光触媒材料の設計構想を踏まえ、我々はさらにアナターゼ/ルチル同質構造のTiO2複合ナノ繊維光触媒材料を調製することに成功した。関連作業の研究が目下進められている。

図7

図7:(a)TiO2ナノ繊維の走査型電子顕微鏡図。
(b)TiO2ナノ繊維/SnO2ナノ粒子異質構造の電子顕微鏡図。
(c)TiO2ナノ繊維/SnO2ナノ棒異質構造の電子顕微鏡図。
(d)ローダミンB染料に対する各触媒の分解曲線図。

 藤嶋氏らがTiO2の単結晶による水の光分解を発表して以降の40年近くの間、TiO2は光機能材料の研究テーマとして脚光を浴び続け、逞しい生命力を見せている。過去40年近くの研究活動に比べるなら、本論文で紹介した研究は取るに足りないものに思われる。しかし、我々の研究活動はTiO2という単純で古くからの材料が研究者にとって尽きない魅力のあることを示し、同様に又、TiO2が光機能材料としてなお多くのユニークな性質と応用の見通しを持つことを示しており、今後の探究が待たれる。

主要参考文献:

  1. A. Fujishima, K. Honda, Nature, 1972 (238) 38.
  2. A. Fujishima, X. Zhang, D. A. Tryk, Surf. Sci. Rep., 2008 (63) 515.
  3. A. Fujishima, X. Zhang, D. A. Tryk, Int. J. Hydrogen Energy, 2007 (32) 2664.
  4. A. Fujishima, X. Zhang, Proc. Jpn. Acad. Ser. B, 2005 (81) 33.
  5. X. Zhang, O. Sato, M. Taguchi, Y. Einaga, T. Murakami, A. Fujishima, Chem. Mater., 2005 (17) 690.
  6.      X. Zhang, A. Fujishima, M. Jin, A. V. Emeline, T. Murakami, J. Phys. Chem. B, 2006 (110) 25142.
  7. X. Zhang, M. jin, Z. Liu, D. A. Tryk, S. Nishimoto, T. Murakami, A. Fujishima, J. Phys. Chem. C, 2007 (129) 14521.
  8. B. Li, X. Zhang, X. Li, L. Wang, R. Han, B. Liu, W. Zheng, X. Li, Y. Liu, Chem. Commun., 2010 (46) DOI:10.1039/C002200D
  9. W. S. Hummers, R. E. Offeman, J. Am. Chem. Soc., 1958 (80) 1339.
  10. Y. Ohko, T. Tatsuma, T. Fujii, K. Naoi, C. Niwa, Y. Kubota and A. Fujishima, Nat. Mater.,2003 (2) 29.
  11. K. Kawahara, K. Suzuki, Y. Ohko and T. Tatsuma, Phys . Chem. Chem. Phys. 2005 (7) 3851.
  12. Q. Qiao, X. Zhang, Z. Lu, L. Wang, Y. Liu, Appl. Phys. Lett., 2009 (94 ) 074104.
  13. M. Jin, X. Zhang, A. V. Emeline, T. Murakami, A. Fujishima, Chem. Commun., 2006, 4483.
  14. C. Wang, C. Shao, X. Zhang, Y. Liu, Inorg. Chem., 2009 (48) 7261.

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