第43号:光触媒技術
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中国の光触媒産業の現状および応用

2010年 4月12日

只金芳

只金芳(Zhi Jinfang):中国科学院理化技術研究所教授

中国化工学会化工新材料委員会光触媒材料・応用分会秘書長。1984年、南開大学化学科で学士の学位を取得。1987年、南開大学化学科(有機化学)で修士の学位を取得。1987年~1991年、南 開大学化学科有機化学専攻の助手、講師を務める。1991年、国の公費で日本の東京大学工学部に派遣され、博士号を取るために学ぶ。1995年4月、東大工学部応用化学科で工学博士の学位を取得。光 触媒の発明者である藤嶋昭教授に師事した。1995年~1999年、日本のNOK先端技術研究所で研究員を務める。2000年1月~2003年7月、日本学術振興事業団で「光電・界面材料研究チーム」の 特別研究員(ポスドク研究員)を務める。2005年4月から12月まで早稲田大学の客員研究員となる。2003年7月、中国科学院の人材導入事業に応じて帰国。光触媒、光電機能材料の研究開発に長年従事してきた。< /p>

 中国は資源、エネルギー、環境の大きな圧力を前に、中央から地方政府に至るまで新しい材料と資源、エネルギーと環境の調和の取れた発展を非常に重視し、環境に優しい新型材料の研究と開発に大いに力を入れ、< その普及を図るとともに、政策、資金等の面からこれに力強い支援を与えている。光触媒材料技術は中国ではまだ発展途上の段階にあるが、環境整備面でメリットがあることから、1997年以降、こ の光触媒技術は863、973等の国の重大科学研究計画プロジェクトに何度も組み込まれており、2005年には光触媒産業を国が当面優先的に発展させるハイテク産業化の重点リストに入れた。2009年、初 の国家光触媒重点実験室が福建省に設立され、2010年には国家標準化委員会が光触媒の4つの機能の検査測定に関する国のシリーズ規格を発表した。好 ましい政策環境が光触媒材料業界の速やかな発展を後押ししている。現在、国内の各主要科学研究機関にはいずれも光触媒関連の研究チームがあり、多くの重要な研究分野を切り開いた。

 中国の光触媒材料は建材、環境保護、家電等の各業界で産業化への応用が実現され、その材料を利用して研究開発した製品は多くの分野に及んでおり、製品のタイプは100種に達する。深圳、広東、北京、上 海等では多くの企業が光触媒関連製品を生産・経営し、その中には海爾(ハイアール)、聯想(レノボ)、聖象、吉利のような有名企業も含まれ、この機能を自社製品に次々と取り入れて製品の付加価値を高めている。大 まかな統計によれば、2009年末現在、中国内で光触媒材料を取り扱う企業又はその関連企業は4,000社近くを数え、その中には国際的に有名な企業も少なくない。

図1

 全体として言うなら、中国独自の産業と市場の優位性が業界の発展を引っ張ってきた。しかし、わが国はまさに発展途上の段階にあり、1人当たりのGDP水準はまだ高いものでなく、このため現在、ほ とんどの生産企業の主要業務は単純な加工製品の製造、又は外国ブランド(例えば日本、韓国等)製品の代理販売となっている。それと同時に、光触媒産業に従事する関連企業の製品は品質が不揃いで、企 業規格が十分でなく、権威ある検査・測定認証を欠いている。これらは中国の光触媒業界が改善・解決すべき問題である。

中国の光触媒製品及び産業の概況

 近年、中国市場では光触媒材料の関連製品が急速な発展を遂げた。しかし、結局の所、新興産業であり、現在、中国の市場で多く見られるのは光触媒抗菌、空気浄化製品及び一部の建築材料等である。2 010年に入るまで、わが国にはこの業界を対象とした必要な検査測定基準及び評定基準がなく、一部の企業は目先の利益に突き動かされ、光触媒プロジェクトを次々と立ち上げ、一時期、市 場には光触媒の製品ブランドが溢れ、玉石混交の状態であった。

図2 

 日本の市場に比べるなら、中国は光触媒に対する企業と消費者の普及・認知度を一段と高める必要がある。国が2010年初めに光触媒材料のシリーズ規格を打ち出したことは、企業の市場参入意欲を高め、消 費者の認知度を強め、市場の秩序ある発展を守る上で非常に重要な促進的役割を果たすことになろう。

 中国の光触媒業界における産業化の規模を2009年時点のシェア別ランキングで見ると、空気浄化が約70%、セルフクリーニングが約20%、抗菌及び水浄化が10%を占める。主な応用分野は建築類( 室内浄化、家具リビング、ガラス装飾等)が多数を占めており、これ以外に日用品、家電(空気浄化、セルフクリーニング、抗菌)その他工業、自動車(車内浄化)、廃水水処理、医療衛生等がある。光 触媒の産業化に専門に従事している企業の多くは中小企業である。

 地域分布の状況から言うと、中国の主な光触媒産業分布は次の通り。華南:広州、深圳、福建が30%を占め、原料代理業務と製品加工が中心である。華中:上海、浙江、重慶が20%を占め、主 には製品の生産と原料の代理業務である。華北:北京、天津が30%を占め、産業化が中心である。その他の地域が約20%を占め、これらの地域は主に外国製品の代理業務を扱っている。

 現在、わが国の光触媒産業に存在する主な問題点は、新製品の研究開発が立ち遅れ、応用研究の強化が待たれ、主な参入企業が中小企業だということである。特 にこの産業は本格的にスタートしてから10年前後しか経っておらず、基準的な業界規格がまだなく、一部の光触媒関連製品メーカーは権威ある部門が作成した無毒、滅菌及び汚染処理の検査測定・検 定報告書を手に入れる前から、製品を市場に投入している。この他、品質の低下により、多くの製品は光触媒材料が持つ殺菌、汚染物分解等の機能を十分に生かしておらず、市場に出回る製品は玉石混交で、消 費者の信頼を失いかねない状況にある。

将来の光触媒産業に起こりうる変化と発展動向

 2010年1月1日、中国は光触媒関連の初の国家規格(4項目)を正式に実施し、この分野の関連業界規格の制定も徐々にスケジュールに上っている。規格の充実は光触媒の技術と製品の規範を早急に見直し、業 界構造を調整する上で非常に重要な役割を果たすことになろう。我々はこの国家規格の実施が光触媒材料業界の発展を大きく後押しするものと期待している。今 後の数年で中国の光触媒材料業界は確実に産業化の勢いが強まり、専門化を軸に業界の調整が進むことになろう。

 また、光触媒業界の健全な発展に伴い、これに関連する以下の付帯業種が発展するものと見られる。1.光触媒材料・応用企業向けのサービスを提供する研究開発センター(例:産業パーク、産業拠点)、2.光 触媒材料の各産業段階の技術検査測定を担当する検査測定機関、3.川上企業と川下企業の間にある代理加工(例:生地コーティング)関連の加工企業及び、4.応用企業向けの付帯サービス(例えば建築壁体施工)を 提供する関連施工企業等。

 光触媒の材料応用開発は中国市場で大きな可能性を秘めている。中国は21世紀にオリンピック招致とWTO加盟を成功させた。こうした繁栄の時代において、中 国経済の全面的で急速な発展が促されることは間違いない。国民経済の支柱産業の1つとして、建築装飾業はかつてない好機を迎えている。わが国の権威ある市場調査によれば、1 998年に中国で住宅の内装に用いられた費用は1,000億元に達し、2000年に1,800億元となり、2002年には2,000億元の大台を突破した。向こう10年間、装飾・内 装業界の成長率は建築業の平均ペースを上回るだろうと専門家は予測している。年間成長率を20%として計算するなら、2010年の内装総額は6,000億元以上になる見通しである。経済が着実に成長し、居 住環境に対する人々の要求が次第に高まるのに伴い、大量の新型建築装飾材料が幅広く応用されるようになり、事務用品、家電及び各種の施設から放出される有害ガスが人々の心身の健康を蝕んでいる。近年、室 内汚染による中毒の事例が何度も報告され、苦情申し立ての件数が急速に増えている。中国消費者協会は既に警鐘を鳴らし、内装材には深刻な汚染が存在することを大衆に伝えた。現在、内装契約を結ぶ時、環 境保護条項の追加を求める消費者が増え、住宅を購入する時はデベロッパーに環境保護検査測定証明の提示を求める人が増え、さらには室内空気の質を検査するよう求める人が増えており、環 境汚染問題は今や人々の幅広い関心を集めている。2002年7月1日、「室内装飾・内装人工板及び同製品におけるホルムアルデヒド放出量」の国家規格が正式に実施され、2003年3月1日にはわが国初の「 室内空気の質基準」が正式に発効し、室内空気の汚染問題が改めてクローズアップされた。内装による汚染に注意し、室内空気に関心を寄せることは国民の共通認識となり、汚 染をどう処理するかが市場の注目点となっている。この他、SARS以降、人々は環境問題をより幅広い視点からとらえるようになった。統計によれば、人々は自らの生存環境の改善と生活の質向上を切実に願い、専 門家が効果的な解決案を示すよう強く望んでいる。室内環境問題の解決は既に業界の合言葉となり、しかもこの分野は業界にとって前途洋々だと言える。現在、中 国市場では少数のエアコンが輸入光触媒材料を使用しているのを除き、ほとんど応用例がなく、市場の見通しが非常に明るい未開拓分野となっている。光触媒材料・製品はこの分野で大いに貢献することができ、こ れには疑問の余地がない。例えば、光触媒壁紙、光触媒塗料、光触媒カーテン及び各種の装飾用品等である。日本では既に多くの高層建築に光触媒塗料が使われ、また現在、日本のJRは全ての電車、新 幹線等の交通手段に光触媒塗料を塗る準備を進めている。わが国にはまだこの方面のプロジェクトがない。従って、この市場を開拓し、触媒が国の大型プロジェクトに幾らかでも貢献できるなら、そ れは人類に幸福をもたらす重要な事業となるであろう。