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FADD蛋白質:アポトーシスと細胞増殖

2010年 5月21日

華子春

華子春(Hua Zi Chun):南京大学生命化学・分子生物学教授、医薬生物技術国家重点実験室主任、南京大学生命科学学院副院長

1964年5月生まれ。1994年、南京大学生物化学専攻理学博士。1989年以降、南京大学在籍。1994~1996年、ニューヨーク州厚生局Wadsworth実験・研究センターの訪問学者、2000~2003年、米カリフォルニア大学バークレー校のバークレー学者。
ポリペプチド薬物の蛋白質工学と遺伝子工学、蛋白質の構造と機能の関係、アポトーシスシグナル伝達経路の総合研究に長年従事。業績を収めた中心人物として、1998年に教育部科学技術進歩賞(基礎類)1等賞、2001年に国家自然科学2等賞、2004年に江蘇省科学技術進歩1等賞をそれぞれ受賞。これまでに国家レベル及び省・部レベルの課題40件余りに従事。120編のSCI論文を発表。翻訳を監修した著作1冊、編集に参加した英語の専門書3冊、中国語の著作3冊。中国での発明特許10件、米国での特許登録1件。そのうち5件の特許が実用中。また、2件の特許は既に企業に譲渡され、1類バイオテクノロジー創薬の開発が進行。刊行物7種の編集委員。

 プログラムされた細胞死、即ちアポトーシスは細胞の基本的な生物過程である。発育過程においては、多細胞組織・器官の各種タイプの細胞でもアポトーシスが発生する。アポトーシス調節の異常は癌、免疫障害等の様々な疾病をもたらすことになろう。免疫系において、アポトーシスは潜在的な有害細胞(例えば自己免疫反応のTリンパ球又はBリンパ球等)を消去するのに欠かせないものである。FasはTNF受容体スーパーファミリーの中の死受容体サブファミリーメンバーに属する。Fasリガンド(Fas ligand, Fas L)はその受容体Fasと結合すると、リンパ球の中でアポトーシスを誘発することができ、免疫寛容において重要な作用を及ぼす。Fas受容体又はFasリガンドの点突然変異は深刻なリンパ球増殖性疾患を引き起こす。Fasリガンド三量体の形成はFas受容体の集合をもたらし、その結果、アダプター蛋白質FADDがFas受容体にリクルートされ、FADDはさらにcaspase 8プロトタイプと相互作用を生じ、caspase 8を活性化する。caspase 8はシステインプロテアーゼであり、その活性化は細胞内に既に存在し、休眠状態にある一連のcaspaseプロトタイプ蛋白質の活性化を導く。caspase系プロテアーゼの活性化は細胞内の一部の蛋白質を分解し、アポトーシスを引き起こす。FADD蛋白質(Fas-associated death domain protein)はFas L→Fas→FADD→caspase 8と伝達されるアポトーシスシグナル経路の中のアダプター分子である。

1.FADD蛋白質の構造及びアポトーシス機能

1.FADD蛋白質及びその構造

 ヒトとマウスのFADD遺伝子はFas/CD95の細胞質ドメインをおとり蛋白質とし、酵母ツーハイブリッドシステムを通じて獲得されたものである(Chinnaiyan AM et al. Cell 1995, 81:505;Zhang J et al., Mol Cell Biol 1996, 16:2756)。ヒトのFADD遺伝子は2つのエクソン(286と341bp)及びその間を隔てる2kbイントロンから成り、11q13.3に位置する(Kim PK et al. J Immunol 1996, 157:5461)。この領域は乳癌、頭頸部癌など多くの腫瘍の中で増幅現象が見られると報道されているが、ここは同時に又、糖尿病発症の影響を受けやすい部位でもある。Northernハイブリッド形成と原位置ハイブリッド形成の結果がはっきりと示しているように、ヒトとマウスのFADD/MORT1のmRNAは成年と胎児の大部分の組織の中で比較的高いレベルの発現がある。これは生体が正常な生理的代謝を維持する上で、FADDが重要な作用を持つ可能性のあることを示唆するものだ。

 ヒトのFADD蛋白質全長には208のアミノ酸が含まれ、マウスには205のアミノ酸が含まれている。それらのアミノ酸の68%は完全に同じであり、蛋白質全長の相同性は80%に達する。FADDはマウスの各組織・器官の中で発現が見られる。それは主に2つの構造域から成る。C端に近い約70のアミノ酸は「死ドメイン(Death domain, DD)」と呼ばれる構造域を構成しており、相同Fasの死ドメインと結合し、膜外のアポトーシスシグナルを受け取ることができる。また、N端に近い約76のアミノ酸は「死エフェクタードメイン(Death effector domain, DED)」と呼ばれる構造域を構成しており、相同caspase-8チモーゲンの死エフェクタードメインと結合し、その切断活性化を促進することができる。FADDのDD構造域はFas及びTNF受容体ファミリーのその他受容体におけるDD構造域と結合し、一方、そのDED構造域はcaspase-8チモーゲンの中で線形配列を示す多くのDED構造域との結合を受け持ち、caspase 8とアポトーシスシグナルをリクルートし、活性化している。FADDのDEDとDD、FasのDDはいずれも6つのα螺旋断片の折り畳みにより同様の三次元構造をしており、静電・疎水作用で結合し、非対称の複合体となる。FADDがその2つの構造域を通じて2つの蛋白質(受容体とcaspase-8チモーゲン)をリクルートすることにより形成されたこの複合物はDISC(Death Inducing Signaling Complex)と呼ばれる(Eberstadt M et al. Nature, 1998, 392:941;Jeong EJ et al. J Biol Chem 1999, 274:16337;Berglund H et al. J Mol Biol 2000, 302:171;Paul E et al. Mol Cell 2006, 22:599)。DISCの形成は膜受容体が誘導するアポトーシスに対して不可欠の影響を及ぼす。FADDはリン酸化できる蛋白質の一種であり、そのC末端の20のアミノ酸において1段の連続したセリンを持つ。それはFADDのリン酸化が生じる主な領域と考えられ、そのうちSer194(ヒト)及びSer191(マウス)はFADDの最も重要なリン酸化部位だと同定されており、FADDの機能に対して非常に大きな影響を持つ(Zhang J et al. IUBMB Life 2004, 56:395)。

2.FADDのアポトーシス機能

 Death domain(DD)及びDeath effector domain(DED)は死受容体ファミリーがアポトーシスを誘導するシグナル伝達の中で最も重要な2つの構造域となる。細胞膜上に位置する大部分の死受容体蛋白質が膜内のDDを持ち、一方、細胞質の中のcaspaseファミリー蛋白質はDEDを持っている。この2つの構造域を含有する蛋白質は構造域の間の相同結合を通じ、死シグナルを膜外から細胞質の中に伝達してcaspaseファミリー蛋白質を活性化し、アポトーシスを実現させる。この2つの異なる構造域を持つ蛋白質の間の結合を受け持つ蛋白質があり、それはアダプター蛋白質(adaptor protein)と呼ばれる。FADDは最も早く発見された膜受容体ファミリーのアポトーシスアダプター蛋白質であり、膜受容体のアポトーシスシグナル系の中で不可欠の役割を演じている。

 細胞表面の受容体Fasが死シグナルを受け取った後、その細胞内の死ドメインに三量体が形成され、死シグナルを細胞内に伝達し、アダプター蛋白質FADD/MORT1のC-末端の死ドメインをリクルートする。さらに死受容体Fasの膜内DDに結合して、caspase-8チモーゲンをリクルートし、死誘導シグナル複合体DISCを形成する。caspase-8チモーゲンはオリゴ化して自らの触媒作用を活性化させる。活性化したエフェクターcaspaseはラミン、アクチンといった多種の死基質の分解及びヌクレアーゼ(DNase)の活性化を引き起こし、細胞に一連の形態学上の変化を発生させ、最終的にアポトーシスへと導く。

 FADDの欠失性不活性又は顕性不活性の細胞及びマウスに対する研究の中で、FADD機能の損傷はリンパ球及び胚繊維芽細胞のTNFR1及びC95が誘導するアポトーシスに対し、致命的な影響を持つことを発見した。それらのDISC形成が阻害されると、caspase 8はリクルートし、活性化させることができない(Chinnaiyan AM et al. J Biol Chem 1996, 271:4961;Kuang AA et al. J Biol Chem 2000, 275:25065)。

 FADDがその他のアポトーシス経路にとって必要なものかどうかについては、現在まだ明確な結論が得られていない。FADDの欠失は細胞因子、DNA損傷試薬、Ca2+イオン担体、ホルボールエステル、グルココルチコイドに対する幾つかの培養細胞の感受性に影響しないと報道されている。また、実験で明らかなように、FADDが欠失した場合、胚繊維芽細胞は過酸化水素が誘導するミトコンドリアのアポトーシスに対し、逆に感受性が高まる。しかし、そのメカニズムははっきりとしない(Shen HM et al. Mol Cell Biol 2004, 24:5914)。

 当実験室は酵母ツーハイブリッド形成技術を利用して、FADDと相互作用する多くの蛋白質を得た。その中にNa/K-ATPアーゼのα1サブユニットがある。Na/K-ATPアーゼはFas ligandが誘導するJurkat T細胞のアポトーシスにおいて重要な作用を及ぼす。Na/K-ATPアーゼを抑制すれば、Fas ligandが誘導するアポトーシスシグナルを増幅させ、Jurkat T細胞のアポトーシスを速めることができる。FADDとcaspase 8はNa/K-ATPアーゼに対するFas ligandの抑制作用に参加している。Fas ligandはNa/K-ATPアーゼα1とβ1の分解を速やかに導くことができる。Fas ligandが引き起こす細胞内GSHの急速な低下は、細胞膜のNa/K-ATPアーゼ活性を調節する重要なパターンの1つである。GSHはJurkat T細胞のNa/K-ATPアーゼ活性を高め、Fas ligandが誘導するJurkat T細胞のアポトーシスを抑制することができる。Na/K-ATPアーゼに対するGSHの保護作用は細胞内の活性酸素レベルと直接の関係がなく、GSH自体がその保護作用を果たしているのである。Fas ligandが誘導するJurkat T細胞のアポトーシスではまず細胞膜電位の変化が誘発され、その後がミトコンドリア膜電位の変化であり、且つ細胞膜電位の変化とミトコンドリア膜の間には一定の平衡関係が存在している(Yin Wet al. Leukemia 2007, 21:1669)。

2.FADDの非アポトーシス生理過程への参加

1.FADDの胸腺発育、リンパ球増殖及び先天性免疫への参加

 近年の研究で明らかなように、FADDはFasが誘導するアポトーシスに欠かせないだけでなく、他の受容体(例えばTNFRI)が介在誘導するアポトーシス経路にも必要なものである。FADDはFas/Fasリガンドが介在誘導するアポトーシス経路の中で重要な作用を及ぼすだけでなく、TNF受容体のその他メンバー、例えばTNF-R1、DR3、DR4、DR5が介在誘導するアポトーシス経路の中でもFADD/caspase 8経路を通じ、アポトーシス作用を果たしている。免疫系でFADDが特異的に欠失したマウスに対する研究の中で、FADDの欠失は死受容体が誘導するアポトーシスを抑制することを発見した。FADDが欠乏すると、Fasリガンド及びDR4、DR5が介在誘導するアポトーシス経路は阻害され、細胞はアポトーシスシグナルを感受しなくなる(Zhang J et al. Nature 1998, 392:296)。しかし予想外だったのは、科学者がFADD遺伝子をマウスから取り除く実験を通じ、FADD-/-遺伝子を取り除いたマウスが妊娠9~10日目に心臓の欠陥で死亡したのを発見したことである。しかも免疫組織化学の染色結果によれば、そのマウスの心臓にはアポトーシスの異常シグナルが現れなかった(Yeh WC et al. Science 1998, 279:1954)。さらに驚かされたのは、FADDが欠失しても、Fasの機能的欠陥で誘発されるようなリンパ球数の増加が見られなかったことである。逆に、FADDに欠陥のある胸腺T細胞の中で、その発育と増殖はいずれも強い抑制を受けた。その胸腺の中のT細胞発育はCD4-CD8-~CD4+CD8+のDN3段階で阻害され、最終的に成熟T細胞の数が著しく減少した(Zhang J et al. Nature 1998, 392:296;Kabra NH et al. Proc Natl Acad Sci USA 2001, 98:6307)。FADDが欠失したTリンパ球にはバックグラウンド的な活性化が一部に見られたが、それはCD3抗体とCD8抗体の共同刺激にうまく応答することができなかった。FADD-/-T細胞は抗CD3抗体と抗CD8抗体の共同刺激を受けた後も、大多数の細胞が依然としてG0/G1期に停止し、S期に入れなかった。しかも幾つかの細胞周期制御蛋白質の発現レベル、例えばp21、cyclin D2、cyclin D3、cyclin E、cyclin A、cdc2、CDK2、CDK6等は刺激の前後に顕著な異常を示した(Zhang J et al. J Biol Chem 2001, 276:29815)。これはFADDがFas及びTNFR1の経路に参入する他、別の非アポトーシス経路とも関係のあることを示している。当実験室は最近、胸腺組織の特異性とT細胞発育期間の特異性に関するFADD条件に基づき、マウスのCD4-CD8-~CD4+CD8+発育段階のDN2→DN3段階、DN3→DN4段階でそれぞれFADDの遺伝子ノックアウトを行い、FADDがT細胞の増殖を制御するのはDN3発育段階だけであることを実験によって証明した(Dong XB et al. Molecular Biotechnology 2008, 38:129;データは発表していない)。

 FADD顕性不活性(dominant negative)突然変異体の遺伝子組み換えマウス(FADD-DN)もFADDのT細胞ノックアウトに似た症状を示し、胸腺Tリンパ球の発育欠陥と成熟T細胞増殖の欠陥、抗原等の刺激源はいずれもそのTリンパ球の増殖を活性化することができなかった。また、その細胞内のp38、ERK、NF-κBの活性及びTCR/CD3シグナル経路内のCa2+イオンの流動もほとんど影響を受けなかった。上記の結果はFADDがこれらのシグナル伝達経路の川下にあり、或いはこれと平行する、まだ発見されていない新しいシグナル経路が存在する可能性のあることを物語るものだ(Newton K et al. EMBO J 1998, 17:706;Newton K et al. Curr Biol 2001, 11:273)。

 胸腺の発育及びリンパ球の活性化の他、FADDは先天性免疫にとっても重要な意義を持つことがその後の研究で発見された。現在、ミバエには先天性免疫しか存在しないと考えられており、その主な経路はImd(immnune deficiency)pathwayである。研究の結果、FADDの欠失又は干渉後、ミバエはグラム陰性菌に対する感受性が高まった。これは抗菌ペプチド遺伝子の発現が抑制を受けたためと考えられ、その可能性が高い。このことからわかるように、ミバエという後天性免疫を持たない下等生物の中で、FADDはその先天性免疫機能の正常な行使に対し、代替不能の作用を及ぼしている(Naitza S et al., immunity 2002, 17:575)。その後、FADDは哺乳動物細胞の先天性免疫にとっても重要な意義を持つことが発見された。研究の結果、FADDが欠失すると、哺乳動物細胞のIFNα/β発現が阻害され、ウイルスの感染に対する感受性が高まることがわかった。FADDのこうした影響はPKRとTLR-3に依存しておらず、IRF-3と関係している可能性がある(Balachandran S etal. Nature 2004, 432:401)。この他、FADDはLPS-TLR4のシグナル経路の制御にも参加しているとの報道があった。FADDとインターロイキン1受容体関連キナーゼ1(IRAK1)の複合物が形成され、IRAK1とMyD88の結合を制御し、TLR4の活性化に対する負の制御を実現したのである(Zhande R et al. Mol Cell Biol 2007, 27:7394)。

2.FADDのその他生理過程への参加

 FADDの非アポトーシス機能に対する研究の過程で、それが細胞及び組織レベルの各種生理・病理過程に幅広く参加していることがわかった。FADDノックアウトマウスは胚致死となり、胚発育の10.5日目前後で死亡した。その心臓は発育不全で、且つ異常出血を伴っていた。実験で実証されたように、これは必ずしも全てがアポトーシスの欠陥によって引き起こされたものではない。しかし、その具体的なメカニズムはまだ明らかでない(Yeh WC et al. Science 1998, 279:1954)。

 アポトーシス蛋白質の一種であるFADDは腫瘍組織内の発現が低いと一般に考えられている。しかし、多くの場合、全く逆の状況となり、FADDは肺癌、頭頸部癌、乳癌等の腫瘍組織の中で発現が上昇した。これを示す証拠も沢山ある(Tourneur L et al. Med Immunol 2005, 4:1)。しかし、このように上昇する目的はまだ明らかになっていない。

 当実験室は近年の研究で、FADDが発育、生理、代謝等の幾つかの重要な生理・病理過程に参加していることを発見した。その生物学的機能は我々の現在の理解と認識を遥かに超えるものである。

3.FADDのリン酸化に関する研究の進展

1.FADDのリン酸化

 FADDは発見当初にリン酸化の一種であることが証明されている(Zhang J et al. Mol Cell Biol 1996, 16:2756)。その後の研究で、FADDの主なリン酸化部位が一段と確定された。FADDは2つのセリンクラスターを含んでおり、1つはその蛋白質分子のN端にあり、もう1つはC端にある。ヒトFADDのリン酸化はC末端の位置194セリンで発生し、一方、マウスFADDに対応するのは位置191セリンとなる。

 まとめて言うなら、FADDはアポトーシスを介在誘導する機能と細胞増殖に代表される非アポトーシス機能を同時に備えている。このため、FADD遺伝子ノックアウトマウスが獲得したのは2つの機能が共に欠陥を被った後の混合表現型であり、しかもこのマウスは心臓の発育欠陥により、大部分が胚発育の10.5日目に死亡している。これはその非アポトーシス機能を研究する上で大きな障害をもたらすことになった。また、FADD蛋白質のリン酸化機能の研究という視点から見ると、FADD蛋白質にはリン酸化と非リン酸化の2種類の形式が必ず存在しており、同時に存在するこの2種類の形式を区分することは難しい。この難題を解決するため、我々は2種類のFADD突然変異モデルマウスを作製し、FADDの位置191セリンをアラニン(FADD S191A)とアスパラギン酸(FADD S191D)にそれぞれ変異させた。FADD S191Aは非リン酸化のFADD形式を、FADD S191DはFADDの永久リン酸化形式をそれぞれシミュレーションする方法を通じ、FADDのリン酸化と非リン酸化の2種類の形式を分離したのである(Hua ZC et al. Immunity 2003, 18:513)。変異マウスの出現により、FADD遺伝子ノックアウトマウスに存在する多くの問題をうまくカバーすることができた。FADD S191Aマウスは表現型が正常であり、FADD S191Dマウスは個体が比較的小さい。FADDリン酸化部位の変異はFADDが介在誘導するアポトーシス機能に影響しない。FADD S191Dマウスの胸腺細胞は対照マウスに比べて3倍の低下が見られ、FADD S191Aは正常であった。FADD S191Dの胸腺T細胞の発育には顕著な阻害が現れ、DN~DPのDN3転換期に停滞していた。その原因は増殖中のCD25+CD4-CD8-L細胞が著しく減少したことにあり、これはT細胞の発育が細胞増殖段階で阻害されたことを示している。末梢リンパ器官における成熟T細胞の数もやや減少し、そのB細胞の発育にも阻害が現れ、この阻害も細胞増殖段階で現れた。FADD S191Dマウスは生存できただけでなく、そのT細胞の活性化と増殖、細胞周期、B細胞の発育等にもFADDノックアウトの時のような症状が現れた。このため、FADDの位置191セリンのリン酸化修飾は、FADDがそれぞれの機能を発揮する上で重要な作用を及ぼす。位置191セリンのリン酸化はFADDの欠失で現れる増殖・発育関連の現象をうまくシミュレーションすることができ、これがそのアポトーシス機能の発揮に影響することはない(Hua ZC et al., immunity 2003, 18:513)。この部位がリン酸化変異すると、細胞周期の乱れとp130、p27、p-Rb、CDK2、FoxMl等の細胞周期関連蛋白質の発現及び活性化を引き起こすことができる(Osborn SL et al. J Biol Chem 2007, 282:22786)。

 生物情報学による分析で明らかなように、アポトーシス蛋白質のFADDが持つDDとDEDの2つのアポトーシス関連構造域は大部分の種の中で高度に保存されている。しかし、そのリン酸化部位を含むC末端はゼブラダニオ、ミバエ、マラリア蚊等の下等生物においては失われており(Hua ZC et al., Immunity 2003, 18:513;Zhang J et al. IUBMB Life 2004, 56:395)、保存的なC末端を含有するのは哺乳動物だけである。これはFADDが進化の過程でこのC末端を獲得し、より高次の、より精密な発育・増殖制御を実現した可能性の高いことを示している。哺乳動物において、FADDはアポトーシス機能と細胞増殖に代表される非アポトーシス機能という二重の機能を同時に備えた蛋白質として進化し、それによってアポトーシスと細胞増殖という正反対の運命を持つこの2つの生物機能を同じ1つの分子の中に整合・統一したのである。リン酸化はその中で重要な制御作用を及ぼす。FADDのリン酸化はそのアポトーシス機能に影響しないことを前提に、非アポトーシス機能を効果的に制御することができ、リン酸化はFADDの非アポトーシス機能にとって重要な調節的意義を持つ。FADD S191Dは我々がFADDの非アポトーシス機能を研究するための力強い手段を提供するものであり、このモデルにより、FADDが受け持つアポトーシス機能と非アポトーシス機能が効果的に分離・分割された。

 生理的条件下において細胞がG2/M期に入るのに伴い、FADDのリン酸化形式が著しく増大することを人々は既に発見している(Alappat EC et al. J Biol Chem 2003, 278:41585;Scaffidi C et al. J Immunol 2000, 164:1236)。この他、T細胞が活性化した後でも、FADDのリン酸化形式が増えるという。

2.FADDのリン酸化に関係するキナーゼ

 FADDをリン酸化するキナーゼを探すことは、FADDの非アポトーシス機能を研究する上で非常に重要な手掛かりとなる。マウスFas変異体のGST融合蛋白質をおとりとして利用し、人々はFADDのリン酸化に関係する幾つかのキナーゼ蛋白質を得た。その中の分子量約43kDaの未知キナーゼはFADDをリン酸化することができる(Kennedy NJ et al. J Immunol 1998, 160:4881)。その後の研究でさらにFADDが分子量70kDaのキナーゼによってそのC末端でリン酸化を起こすことが発見された(Scaffidi C et al. J Immunol 2000, 164:1236)。Tschoppチームにも似たような報道があり、彼らはFADDのリン酸化を促進できるFIST/HIPK3(Fas-interacting serine/threonine Kinase/homeodomain-interacting proteinkinase)という名前のキナーゼを発見したのである(Rochat-Steiner V et al. J Exp Med 2000, 192:1165)。また、FADDがKGI細胞の中でPKC-ζとの相互作用によりリン酸化されることを示す証拠も得られた(Thonel Ade et al., Blood 2001, 98:3770)。その他、CKI-αは体内でも体外でもFADDをリン酸化できるとの報道もある(Alappat EC et al. Mol Cell 2005, 19:321)。このリン酸化はFADDの細胞周期への参加にとって重要な意義を持つが、それが他の生理過程に参加することの意義はまだはっきりとしていない。上記のキナーゼは結局の所、FADDのリン酸化及びその機能制御の中で調節作用を果たすのかどうか、また、どのような条件の下で調節機能を発揮するのか、或いはこれらのキナーゼの間におけるFADD調節の違いはどこにあるのか。これらはいずれも未解決の謎である。

3.FADDのリン酸化と腫瘍

 FADDのリン酸化はタクソールが誘導する細胞周期阻害に対する前立腺癌等の腫瘍細胞の感受性を高め、前立腺癌の進行過程と予後に影響を与えることができる(Shimada K et al. J Pathol 2005, 206:423;Yoshiaki Matsumuraa Y et al. Pathobiology 2009, 76:293;Morgan Mj et al. 2001, 8:696)。タクソール自体はFADDの位置194セリンのリン酸化とG2/M期の阻害を促進することができ、一方、細胞内で過剰発現するリン酸化されないFADD蛋白質はこうした効果を抑制することができる(Alappat EC et al. J Biol Chem 2003, 278:41585)。

 FADDのリン酸化はさらに肺癌患者の予後不良、生存率の低さと深い関係がある。実験で明らかなように、FADDのリン酸化とNF-κBの活性向上、細胞周期の乱れは強い協同作用が働いている。永久リン酸化FADDの過剰発現をシミュレーションすれば、NF-κBの活性向上とG2期の細胞数の減少を誘導することができる。肺癌中のリン酸化FADDのレベル上昇は、NF-κBの活性向上と細胞周期の乱れを引き起こすが、これは腫瘍の悪性行為増大に関する潜在的な分子機序を表している可能性がある(Chen G, Proc Natl Acad Sci USA 2005, 102:12507)。

結びの言葉

 研究の過程で、我々はFADDがほぼ全ての組織の中で発現し、発育の初期に発現を始めることを発見した。FADD蛋白質のアポトーシス関連構造域(DD、DED)は下等生物から高等生物に至るまで高度に保存され、また、リン酸化部位を含むFADD蛋白質のC末端は哺乳動物で高度に保存されている。FADD蛋白質はアポトーシス機能の他、細胞増殖を含む非アポトーシス機能も同時に備えており、これらの非アポトーシス機能の生理的、病理的意義が次々と発見されている。上記の現象は、FADDが発育、生理、病理過程で重要な作用を及ぼす蛋白質であることを改めて証明するものだ。しかし、我々が既に得たFADDに関する知識ではこれまでに発見されたFADDの上記の機能と作用をまだ説明することができない。このため、FADD蛋白質の構造と機能の関係について今後研究を深め、掘り起こす必要がある。FADDの構造と機能に対する深い理解は、人類がFADDを病気診断の手段又は病気治療薬のターゲットポイントとして、その健康に寄与するのに役立つであろう。


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